19話 あなたには選択肢がある。俺が決めてあげよう。

「〈転職〉……」

俺が取り出した〈下級転職チケット〉を見て目をぱちくりとさせたヘカテリーナさんが呟いた。

彼女はサポート職希望との事なので俺たちが欲しがっている指揮、指導が出来る人材とも合致する。彼女は是非欲しい。

職業ジョブが合わなくても関係ない。合わなければ〈転職〉させてしまえばいい。

本人さえ同意すれば俺はすぐにでもこいつを提供するつもりだ。

ちなみにこの〈下級転職チケット〉は〈サボッテンダー〉から入手したものだ。一応ギルドで保管していたが俺が個人マネーで買い取ったので、誰に使うかは俺に権利がある。

ただ後日、ギルドに加入したら売却分は返してもらうことになるだろう。ギルドメンバーに使うとなるとギルドの予算管理を任しているセレスタンがうるさいのだ。ほら今も視線で「ちゃんと筋は通してくださいね」と告げている。いや、ちゃんと管理してくれている証拠なので文句は無い。

「でも! いえ、ですが。10日前に測定したときは【中尉】と【大尉】しか出ませんでしたわ。今転職したとしても他の職業ジョブが発現しているということはありえません」

ハッと我に返ったヘカテリーナが否定を口にするが、その視線は正直だ、〈下級転職チケット〉をジッと見つめている。目は口ほどにものを言うとはこの光景のことを言うのだろう。

まあ、確かに。

今のままでは無理だろう。彼女は学園の厚意により普通達成が難しい〈モンスター100匹以上倒す〉をクリアしているはずだ。それで発現しないと言うのだからちょっとやそっとの努力じゃ無理だろう。

だが、目の前にいるのは誰だと思う? 俺だぜ? ゼフィルスだぜ? 〈ダン活〉のデータベースと言われたこの俺に知らない職業ジョブは無い。

「じゃあ仮の話をしようか。仮に俺が【司令官】の発現条件を知っていたとしよう。ヘカテリーナさんが転職すれば希望通り【司令官】に就ける。その代わりここ数日努力したLvは0に戻ってしまうけどね。また、希望の職業ジョブに就きたいなら〈エデン〉へ加入し、鋭意努力を続けてSランクギルドに相応しくならなければいけない。それが条件だとしよう。ヘカテリーナさん、もしあなたならこのお誘い、受けるかな?」

仮にとつけているが、まあ俺なら普通に出来ることだ。

ただ、彼女から一言同意が欲しかった。

自信を無くし、将来の人生も暗くなってしまった彼女に自信を取り戻し、羽ばたいてもらいたい。そのためにも希望を声に出して告げてほしい。

ギルド〈エデン〉は将来学園のトップに立つギルドだ。生半可な覚悟ではダメだ。

「君は転職してギルド〈エデン〉に加入し共にトップを目指すか、それともこのまま一生【大尉】で過ごすのか。どっちがいい?」

俺の本気度に彼女が息を呑む。

動揺が顔に表れ、呼吸がやや浅くなる。

しかし、一度目を閉じた彼女はグッと顔を上げた。

その表情には覚悟が表れていた。

「もし仮に、そんな夢のような話があれば、わたくしは即座に〈転職〉させていただきますわ。今までの努力なんてドブに捨てたって構いません! 是非加入させていただきます! Sランク、上等ですわ。わたくしだって公爵家の末席に名を連ねるものです。Sランクにだってなってやりますわ!」

「いい返事だ。じゃ、そういうことで」

「へ?」

ヘカテリーナさんが間の抜けた声を出した。

俺の言葉が良く理解できないと言った顔をしている。

とりあえず進めよう。

「いいやぁ、良い返事が聞けてよかったよ。これで〈エデン〉の地力アップも間違いなしだ!」

「え? えっと。待ってくださいまし、ちょっと待ってくださいまし?」

「ヘカテリーナさん!」

「は、はい!」

「あなたの事情は全て分かった。でも心配は要らない。すべて理解したうえで結論は出た。面接の結果をここに発表します!」

「へ、えええ?」

未だ付いて来られないヘカテリーナさんを置いてきぼりにして話は進む。

俺の中では今ドラムロールが鳴り響き、シンバルがパァンと音を立てた。

結果発表!

「ヘカテリーナさん合格! おめでとうおめでとう! これから〈エデン〉で共に切磋琢磨し、共にSランクを目指そうじゃないか!」

「え、ええぇぇぇぇっ!?

面接の結果に感極まったのだろう。ヘカテリーナさんが悲鳴にも似た大声を上げた。多分これが黄色い声ってやつだろう。(違う)

ラウンジの個室が防音でよかったよ。

続いて俺は時計を確認。

まだ朝の11時前。ふむ、時間はたっぷりあるな。

俺の中ではすでにヘカテリーナさんを今日中に〈転職〉させるプランが成り立っていた。

「あ、あと言い忘れていたが【司令官】は高の中だぞ。確かに悪くないが「姫」持ちにはあまり良いとは言えないな。ここは高の上である【姫軍師】なんてどうだろうか? 【司令官】の上位互換なうえに〈姫職〉だから高の上の職業ジョブより頭一つ抜けて強いぞ。俺のオススメだ。何? それでいいって? よし、じゃあそういうことで。早速〈初心者ダンジョン〉で周回してLv10に成るところから始めようか。今日は忙しくなるぜ。セレスタンは歓迎会の準備をよろしく」

「かしこまりました」

「ちょっと待ってくださいまし!? 今おっしゃったことの半分も理解できませんでしたが今聞き捨てならないことがわたくしの知らぬ間に決定いたしましたわ! わたくしの! わたくしの職業ジョブのことですわよね!?

「え? 【姫軍師】、ダメか?」

「へ? い、いえ。ダメと言うわけでは、それに【姫軍師】? あの選ばれた天才しか就けない【姫軍師】のことですか? あのトップエリートの証の?」

「それは知らないが【姫軍師】は【姫軍師】だ。【司令官】より絶対そっちの方がいいからそっちを目指そうぜ」

あまりの事態にヘカテリーナさんの目がグルグル回っていた。混乱しているみたいだ。

話が進まないのでこういう時は押し切るに限る。

一応『リカバリー』も掛けておこう。ピラリラ~。

「ほら【姫軍師】と【司令官】、仮に就けるとしたらどっちになりたい!」

「ひ、【姫軍師】ですわ。わ、わたくしの憧れですのよ?」

「じゃ、そういうことで」

「ええ、えええ?」

方針は決まった。

ヘカテリーナさんからすれば説明プリーズというところだろうが、悠長に説明している時間はない。〈転職〉には時間と手間が掛かるのだ。俺はこれを1日で片付ける。

今から〈初心者ダンジョン〉でLv10まで育てたのち初級下位ショッカーでパワーレベリングして一気にLv15まで育てる! そして条件を満たして〈転職〉だ!

時間が余ればスラリポマラソンでLv6まで育ててまた〈初心者ダンジョン〉でLv10まで周回だ! 時間はいくらあっても足りない。

ということで説明は道中にでもするとしよう。

セレスタンが優雅に礼をして見送ってくれる中、俺はヘカテリーナさんの手を掴み、〈初心者ダンジョン〉へ向かったのだった。