18話 人種カテゴリー「公爵」との面談。公爵令嬢は劣等生。

初の中級ダンジョン攻略を遂げた翌日、今日は日曜日だ。

本来ならワクワク楽しみな1日ダンジョンアタックの日ではあるが、今日の俺には予定があった。

セレスタンが纏めてくれた「人種」カテゴリー「公爵」との面談の日である。

そのため今日は俺とセレスタンを抜かした10人の女子たちで女の子パーティを作ってダンジョンに挑むらしい。女の子パーティとか響きがいいね。

また、昨日はあの後ボス周回に励んだ。

5時間近くボス周回しまくったが周回数はたったの20周だ。さすが中級ダンジョンボス、初級ボスと比べてかなりの時間を要した。

まあ〈ダイ王〉が特別硬いモンスターで俺たちが基本物理アタッカーという相性の問題もある。とはいえ俺たちのLvが上がればもう少しタイムは縮まるだろう。

最後の方はメンバー全員のLvも上がって10分を切るタイムをたたき出したしな。

ちなみに俺たちのLvも全員が55に上がった。少しずつLvが上がるスピードが落ちてきているのを感じる。

〈上級転職チケット〉についてはLvカンストまで保留とし、俺が預かることになった。

どうも近くにあると魔が差さないとも限らないからというのが理由らしい。シエラが真剣な表情で渡してきたのが妙に印象に残った。

この世界ではそれほど〈上級転職チケット〉は希少である、ということだな。

俺はカンストまでLv上げてからチケットを使うのが当たり前だったので分からない感覚だ。

成長値Lvをロストしたら勿体無いではすまない、〈ダン活〉にはリセットはあっても戻るは無いのだ。貴重な〈上級転職チケット〉を使うなら万全の体制にして挑むのが当然だと思う。

そんな俺に預けておけば安心だとのことだ。シエラは見る目あるなぁ。

ちなみに20周では〈上級転職チケット〉は出なかった。というより〈金箱〉すら出なかったよ。やっぱり最初のあれはビギナーズラック的なものだったのかね。

まあ20周程度でチケットがゲットできるとは俺も思っていない。今後も周回頑張るぞ!

そんな意気込みを改めてしていると、件の待ち合わせ場所に到着した。

「ゼフィルス様、こちらでございます」

「ご苦労、セレスタン」

俺も執事のご主人様が板についてきた。嘘だ。それっぽく振る舞っているだけだ。

何しろ相手は「公爵」子息。あれ、息女だっけ? そういえば性別どころか相手のことを何も聞いていないことを思い出す。

…………まあいい。とにかく威厳を保ちたいという話だ。

俺は今や1年生トップギルド〈エデン〉のギルドマスターだ。

威厳とても大事。

待ち合わせ場所はとあるラウンジの個室だった、ここで面接をすることになっている。

待ち合わせ時間は20分後、相手はまだ来ていないのでここで準備しながら待つ形だ。

さすがセレスタン、良い時間配分だ。あとで改めてお礼を言っておこう。

しばらくするとコンコンコンとノックの音が響いた、どうやら件の方が来たようだ。

「どうぞ」

「失礼いたしますわ」

聞こえたのは鈴を転がすような透き通った声、女子のようだ。

壁一枚挟んでもとても耳に残る聞き取りやすい声だった。

ふむ。求めているのは指導役としての素質。聞き取りやすい声というのは重要な要素だ。

第一印象は高評価だな。

ガチャリと扉を開けてまず飛び込んできたのは淡く美しいラベンダー色の髪。

フワッとした柔らかさで艶めいていて見ていて引き込まれるようだ。さらに彼女はその一部を縦ロールにして背中側に流している。それがなんとも似合っていた。

次に印象深いのは目、やや釣り目で髪と同じ色合いで綺麗な瞳をしていた。顔も非常に整っており、〈エデン〉で美少女慣れをしている俺でなければうっかりときめいてしまうほどだった。

そしてよく見れば髪飾りに〈地図のラバーキーホルダー〉が付いている。あれが「人種」カテゴリー「公爵」の〈シンボルマーク〉だ。男なら胸かベルト辺りに着けているが、女子だと髪飾りに着けている事が多い。

「御初にお目にかかります。わたくし、へカテリーナと申します。本日はよろしくお願いいたしますわ」

「ギルド〈エデン〉のギルドマスターをしているゼフィルスだ。まずこちらのスカウトに耳を傾けてもらい感謝する」

お互いがまだ堅さの残る挨拶を交わす。

へカテリーナさんか、なんというか、いいところのお嬢様という雰囲気だ。

なんか緊張してきたな。

いや、俺だけじゃなくてへカテリーナさんも緊張しているみたいだ。堅くなりすぎてもなんなのでまずは空気を柔らかくするか。

「あ、楽にしてくれていい。所詮は学生の顔合わせだからね」

「そうでしょうか? 分かりましたわ」

「それでまず聞いておきたいのだけど、へカテリーナさんはギルド〈エデン〉に加入してもいいということで、問題ないかな? できれば理由も聞いておきたいのだけど」

これはしっかり聞いておきたい。へカテリーナさんがどんな心持で〈エデン〉に入ろうとしているのか。

分不相応のギルドは身を滅ぼす。生半可な気持ち程度なら加入しない方がお互いのためだ。

「い、いえ。その、加入しても良いだなんてそんな偉ぶったこと申し上げられません。わたくしはその、あまりできがよくありませんので、むしろお声をかけられたこと自体信じられなくて1週間も悩みぬいてしまいましたの」

うん?

どうやら、ヘカテリーナさんは何故自分にスカウトが掛かったのか、分からなくてビックリしたらしい……。なぜ?

あー、うん? この人「公爵」息女だよな? 優秀な「人種」カテゴリーだぞ? スカウトするのは当たり前だと思うのだが、なんか話の食い違いを感じる。

「ゼフィルス様。差し出がましいようですが彼女がまだギルド未所属ということを念頭に置いていただければと」

「あ」

そこでセレスタンがアドバイスをくれたことでようやく俺は察した。

へカテリーナさんも察したのだろう、顔が真っ赤になる。

優秀な人材のはずの「公爵」息女、優秀な人材はどこのギルドも引っ張りだこのはずだ。

にもかかわらず、学園が本格的にスタートして早10日。未だにどこのギルドにも所属していないということは……、どこからもスカウトが来ていない? え、それってつまり……。

「えーと、へカテリーナさん、一つ聞いてもいいか?」

「は、はい……」

「へカテリーナさんって、何組?」

「!」

俺のストレートな質問にピシッと固まるヘカテリーナさん。

どうやら触れてほしくなかったところに触れてしまったようだ。しかし、これは面接をするうえで非常に大切な事項。避けることはできない。

少しして再起動したヘカテリーナさんは観念したのか、小さい声で震えるように告げた。

「──し、知らなかったのですね。……はい。わたくしは、せ、〈戦闘課51組〉。公爵家の落ちこぼれなのですわ……」


ヤバい。

〈戦闘職〉に高位職が溢れすぎて「公爵」息女様がまさかの51組に落っこちていてヤバい。

俺らが所属する〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉、通称〈戦闘課〉は現在、1組から127組まで、大体3800人が在籍している。

その中で高位職に就いている学生は約1500人。

1クラスにつき大体30人が在籍するため〈戦闘課50組〉まではほぼ全て高位職で占められている。(筋肉は例外)

つまり、51組のヘカテリーナさんは高位職になれなかった中位職、ということになる。

それでも51組という中位職の中でトップのクラスにいるのだから落ちこぼれと言うほどではないと思うが……。

「ゼフィルス様、中位職に就いた方々はほぼ全てLv0でございます」

セレスタンが俺の心を読んだかのように小声で助言してくれた。

ああ、なるほどと納得する。

学生は5月1日の運命の日まで高位職に就くために奮起する。

つまり5月1日まで中位職の戦闘職はほぼいなかったわけだ。今中位職に就いている人たちはみな5月1日に高位職に就けなかったから中位職になっただけ。

つまり、51組という中位職のトップクラスになったのはLv成績のおかげでは無いということ。

当然ヘカテリーナさんのLvも、

「はい。お察しの通り5月2日、クラス決め時点でLv0でした。あの、今はLv8です。授業で〈初心者ダンジョン〉に行きましたので……」

まあそういうことだ。

それで落ちこぼれか。でも納得はできないな。

「いや、別に高位職に就けなかったからと言ってそこまで卑下する必要は無いと思うが」

「いいえ。公爵家として、高位職に至れなかったのは恥です。特に今年は高位職の条件が発見され多くの人たちが高位職に就いたというのに、公爵家のわたくしが就けなかっただなんて、もう恥ずかしくて表を歩けませんわ……」

「そこまでか」

ヘカテリーナさんが両手で顔を覆い首を振る。

マジで? そこまで気にすること? 「公爵」って〈標準職〉でも中の中レベルの職業ジョブに就けるんだぞ?

「ゼフィルス様、普通はそうでもありません。しかし、今年は特別な年でした。特にヘカテリーナ様は公爵家息女、人の上に立つ立場のお方であり、ここまでクラス落ちするのは確かに体裁が悪いかと思われます」

「マジで……?」

そういえば俺も職業ジョブではなく、まず何組かを聞いてしまったことを思い出す。

51組という数字は、人の上に立つ公爵家の息女にはかなりキツいらしい。

「はい。補足いたしますと───」

セレスタンの話では、今まで高位職が少なかったため、たとえ中位職であっても5組や6組くらいにはなれていたらしい、それが突然の51組だ。その衝撃は相当なものだった。実力主義のこの世界ではなおさらだ。

まさか学園の組数にそんな影響があったなんて、初めて知ったぞ。

そして、今の状況の半分以上は俺が招いたこと。

うーむ。中位職と高位職の格差が縮まるどころか広がった気がする。

努力の差と言えばそれまでだが、俺も一端を担っている、何とかしてあげたい。

とりあえず来年までにもう少し情報をリークしておこう。研究所の人たちには馬車馬のごとく働いてもらおうと決める。……研究所の人たちの悲鳴が聞こえたような気がしたが、きっと幻聴だろう。

それはそれとして、目下の問題はヘカテリーナさんだ。

「ちなみになんだが、ヘカテリーナさんは何の職業ジョブなんだ? 〈戦闘課〉の中位職というからには【中尉】か【大尉】辺りか?」

ちなみに「公爵」の標準職は【中尉】だ。なんで最初っから【中尉】なんだと聞かれると困るのだが、「公爵」だからじゃないかとしか言えない。

ちなみに【大尉】は中位職、中の上の職業ジョブだ。

「えと、はい。【大尉】に就きました。本当は【司令官】を目指していたのですが」

「ああ~、そりゃ難儀だな」

【司令官】はサポート職だ。ダンジョンでは主に仲間のバフを担当するが、その真価を発揮する場はギルドバトルである。『ギルドコネクト』というスキルで遠距離から指示を出し、仲間の動きを良くする事が可能なのだ。

【司令官】はずっと本拠地で指示を出して、バフのフォローで味方を有利にする。本拠地から出ないので対人戦で退場することも無い、そのため敵にいると厄介な職業ジョブだった。もちろん高位職である。

それに比べ、【大尉】はバリバリの戦闘職である。味方のバフもできるが、メインは近接戦闘、アタッカーだ。剣、斧系を主に使用する。

ヘカテリーナさんの見た目からして、とても似合わない。いや、見た目で判断してはいけない。もしかしたら戦闘は得意かもしれないし。

「ちなみに近接戦闘は?」

「そ、その。からっきしですの」

まあ、うん。そうだろうな。見た目完全にお嬢様だし、争いとか全然イメージ出来ない。

「なんで【大尉】を選んじゃったんだ? 普通の一般職とかにすればよかったんじゃないか?」

「う、家のしがらみで、一般職はその……」

あ、察し。

おそらく公爵家が「公爵」のカテゴリーで取得出来る職業ジョブ以外を禁止しているとかだろう。

本当に難儀である。

なんだかヘカテリーナさんが可哀想になってきた。

この1週間アポイントに返事が無かったのは、単純に自信喪失で自分に自信が無かったからのようだ。

そりゃあ、どう考えても使いこなせない職業ジョブに就いてしまったのだから自信喪失も納得だ。〈エデン〉という1年生のトップギルドにスカウトを持ちかけられてもそりゃ信じられないよな。

後から聞いた話では、セレスタンが何度もヘカテリーナさんを説得し、ようやく重い腰を上げて来てくれた様だ。何にも知らなくてごめんな。

「あの、こんな私ではやっぱりダメですよね。何故私に声を掛けてくれたのか疑問でしたが単純に知らなかっただけのようですし、今日はこれでお暇させていただきますね」

「待て待て待て。まだ何も始まって無いし終わってもないぞ。まだ状況確認しただけじゃないか」

「ですが、こんな私に価値があるでしょうか! もう結果は決まったようなものではないですか! ……あっ」

ヘカテリーナさんが悲痛に叫び、思わずと言った様子で口を押さえた。どんより顔が暗くなり涙まで溜め始める。

相当溜まっていたのだろう。人生が懸かった職業ジョブの測定で、まったく自分に適性の無い職業ジョブしか選べない苦痛に彼女がどれほど苦しんだか、今の悲痛な叫びに籠められた感情を聞いて、察するに余りあった。

俺は一息吐いた。

まあ、今のままじゃ絶対に〈エデン〉には入れないだろうな。

影の差す表情のヘカテリーナさんを見てそう思う。これではダンジョンを楽しむどころではない。俺のモットーはダンジョンを楽しめだ。楽しめないなら〈エデン〉に入れることは出来ない。

では、この面接を続ける意味はヘカテリーナさんの言うとおり無いとなるが、それは「このまま」では、だ。

ダメなら変えればいい。

嫌なら、〈転職〉すればいい。

この世界の人たちは何故か〈転職〉を嫌がる。「もし転職して人生詰んだらどうする!? Lv0になるんだぞ!?」、そんな感情がこの世界の人たちには強く根付いているのだ。故に〈転職〉するなんて発想すら浮かばないという人は多い。学園を出ればダンジョンに入れる機会は大幅に減るらしいのでその感情もわからなくは無い。

30歳になってようやく希望の職業ジョブが発現した、家庭もあるし今の仕事もできなくなるけど関係ない、心機一転〈転職〉しよう!』そんなことを考える人は確かに少数派かもしれない。

じゃあ、最初から人生が真っ暗な人はどうだろうか?

〈転職〉を嫌がるだろうか? 相性最悪ながらもせっかく〈転職〉の条件であるLv15まで育てた職業ジョブがLv0からやり直しになる。まあ、ある意味地獄だろう。

しかし、ヘカテリーナさんはまだ16歳だ。しかも入学ほやほや。職業ジョブに就いてほやほや状態だ。今〈転職〉しても余裕で俺たちに追いつけるだろうと思う。

だからこそ俺は迷わず提案する。

「ヘカテリーナさん、ここに〈下級転職チケット〉がある。俺はあなたを〈転職〉させ、理想の職業ジョブに就かせる用意がある。君にその気があるのなら俺の手を取ってほしい。〈エデン〉にはあなたの新しい力が必要だ」

俺はそう言って〈下級転職チケット〉を取り出してテーブルに置いた。