すぐにシエラがヘイトを稼いでくれたおかげでタゲがシエラに変わり、俺は後ろに回りこんで斬りつけた。
ラナとハンナ、エステルも攻撃に加わり、次第に戦闘が安定しだす。
皆もだいぶ〈ジュラ・レックス〉の挙動に慣れてきたようだ。
再び仕掛けてきた〈フライング・恐竜・キック〉も誰も引っかからずやり過ごし、そのままガンガンHPを削っていった。
「『聖魔の加護』! 『守護の加護』! 『聖光の耀剣』! 『光の刃』!」
「『フレアランス』! 『アイスランス』!」
「『ロングスラスト』! 『プレシャススラスト』!」
「『シャインライトニング』! 『ライトニングバースト』!」
「グギャララララ!?」
〈ジュラ・レックス〉のHPが2割を下回った。
すると、〈ジュラ・レックス〉が新たな挙動を見せた。
「! ボスが逃げるぞ! 絶対に逃がすな!」
「なによ、私から逃げられると思っているの!」
徘徊型のボスはHPが一定以上減ると逃げてHPの回復を図る。
〈ジュラ・レックス〉もHPがレッドゲージに迫り、こちらに背を向けて逃げ始めた。ちなみに足は引きずっていない。
「ギャラ、ギャラ、ギャララララ!」
「ええい、逃がすか! 全員、できるだけ足を狙え! スリップダウンを取るんだ! エステルは尻尾に全力攻撃!」
俺はボスが逃げる動作に入った瞬間から装備を変更、〈天空の剣〉から〈滅恐竜剣〉に切り替える。俺の勇者魔法は今絶賛クールタイム中だからだ。物理ならこっちの方が火力が出る。
俺も狙いは尻尾だ。こっちに背を向けているため簡単に捕捉できる。
「『トリプルシュート』! 『閃光一閃突き』!」
「『ハヤブサストライク』! 『ライトニングスラッシュ』! おっしゃ切れたぞ!」
「グギャラァァァァァ!?」
特定のボスモンスターは部位破壊や尻尾切断ギミックが存在する。
今まで
エステルと俺のスキルを大量に尻尾に浴び、あっという間に尻尾がちょん切れる。
〈ジュラ・レックス〉は切断された衝撃により転げまわった。
状態異常のダウンではないが、ビクンビクンしている今がチャンスだ!
「総攻撃だ! HPを削りきるぞ!」
「私に任せなさい! 『獅子の加護』! 『聖光の宝樹』! 『光の柱』!」
「ラナだけに良いかっこはさせん! 『
「『姫騎士覚醒』!」
「「ああ!?」」
エステルが本気を出した!
その後は争うように攻撃したことで〈ジュラ・レックス〉のHPが0になり、膨大なエフェクトの海に沈んで消えた。
突発的徘徊型ボス、〈ジュラ・レックス〉戦。
──俺たちの勝利だ!
「今回は反省点が多かったわ」
「そうだな。特にエステルがダウンしたときの対応がな。俺も慌てていてうっかり忘れてた」
ボス戦終了後、ちょっと勝ち
確かに今回のボス戦は遭遇戦という事情を加味してもうっかりミスが多かった。
「みなさん、ありがとうございました。ご迷惑をおかけしました」
「いいのよ。ミスは誰にだってあるもの、それを反省して次に生かしましょう」
しゅんとするエステルにシエラが励ます。
エステルがミスったのは仕方が無かった。
もっとちゃんと打ち合わせや情報共有をしていたら防げていたのだろうが、今回は幸か不幸か21層に着いて初のモンスターがいきなり徘徊型ボスだった。
一応軽く〈ジュラ・レックス〉について教えていたし、注意点も伝えていたが、本格的な話は道中にでもするつもりだった。そのせいでメンバーは情報が不足していた
俺もまさかこんなに早く現れるとは思っていなかったんだよ。
徘徊型Fボスが出現するのは下層。〈丘陵の恐竜ダンジョン〉なら21層から29層に出没する。
普通なら大体23層から27層くらいに出ることが多いので完全に油断していた形だ。反省。
「私も〈ユニークスキル〉を使わなかったもの。あの時は使うタイミングだったわ。はぁ」
シエラがため息を吐く。
シエラが言っているのは、〈ジュラ・レックス〉のタゲがダウンして無防備になったエステルに向いた、あの時のことだ。
シエラはあの時、エステルとの間に入って行く手を阻み、エステルが復帰するまでの時間を稼いだ。あれはあれで正解だと思う。結果は出したのだし。
しかし、シエラの〈ユニークスキル〉『完全魅了盾』はタゲ強制固定。
つまり誰にタゲが向いていようと、強制的にシエラにタゲを向かせることが可能なスキルだ。あの時〈ユニークスキル〉を使っていれば、そもそもエステルがピンチになることも無かったのである。
シエラは使うタイミングを
「ダメね。私の〈ユニークスキル〉は使うタイミングがかなり限定的で、まだ慣れないわ」
「ま、仕方ないさ。徐々に慣れるしかない」
当たり障りの無い励まししかできないのが口惜しいが、こればっかりは意識していないととっさには出せない。
シエラの〈ユニークスキル〉を使うタイミングは中々難しい。口で説明されるより自身が慣れるしかないのだ。
それにシエラの『完全魅了盾』が真に輝くのは上級ダンジョンで装備が整ってからなので、それまではあまり出番が無いのも仕方ない。その代わり、上級ダンジョンでは嫌と言うほど使わせてやるから覚悟しておけよと。心の中でそうほくそ笑む。
と、そこへラナがやってきた。腰に手を当てて、私待ちくたびれたわというポーズを取っている。どうかしたのか?
「反省会は後でもできるわ。まずは宝箱を開けましょうよ! ハンナも待ってるわよ」
「おっとそうだな。せっかくダンジョンに来ているんだし、反省会は帰ってからでもできるしな。いいかシエラ?」
「そうね。帰ったら付き合ってくれる?」
「もちろんだ」
シエラとそう約束を交わし、ボス撃破報酬の宝箱を開けることにする。
Fボスは〈公式裏技戦術ボス周回〉が使えない代わりにドロップの種類が少ない。レアボスみたいなものだな。
しかし、Fボスの中でも徘徊型は討伐難易度が格段に高いため、守護型よりドロップのレア度が高い。
最奥のボスで言うなら守護型が通常ボスドロップだとすれば、徘徊型はレアボスドロップ並の価値がある。
何しろ徘徊型は逃げるせいで中々倒せないからな。それに単純に強いし、パーティを全滅させる回数も圧倒的に多いので報酬もその分高いのは妥当なところだろう。
つまり何が言いたいのかというと、今回の報酬が楽しみだってことだな!
さて、目の前にはキラキラに耀く〈銀箱〉が鎮座している。しかも二つも。
徘徊型はいくらレアボス並のドロップを落とすとはいえ、レアボスでは無いため普通は1個しか宝箱を落とさない。つまり2個あるのは〈幸猫様〉のおかげだということだ!
〈幸猫様〉ありがとうございます!
色々悶着があったのを省略し、今回はエステルとハンナが開けることになった。
さあ、レアボス並の〈銀箱〉です。中身は何かな!?
まずハンナから行く。
「良い物ください〈幸猫様〉!」
〈幸猫様〉にお祈りをした勢いでパカッと開く。
この勢いも良い物を当てるには重要だ(?)。ハンナは宝箱をよく分かっている。
「これは、玉?」
「おー、装備強化用の〈装備強化玉〉だな」
ハンナが当てたのは中級ダンジョンからドロップし始める、装備を強化するために必須なアイテムだった。
これを素材にして【鍛冶師】なんかに頼むと武器を強化してくれる。〈天空の剣〉なら〈天空の剣+1〉といった感じだな。まあ、他にも色々と素材は掛かるのだが、強化するために一番必要なのがこの〈強化玉〉だ。これが無いと、いくら他の素材が揃っていても強化できない。
「なんかいっぱい入ってるよゼフィルス君!」
「そりゃ入ってるだろうな。多分ハンナが当てたのは〈装備強化玉×7個〉だ。かなりの当たりだな」
7個となると多いように感じるが、ギルドメンバーを育成しようとすれば速攻で無くなってしまう数でしかない。もっとたくさん欲しいな。
「次は私ですね。ええと、〈幸猫様〉お願いいたします。良い物を授けてください」
続いてエステルの番。俺も〈幸猫様〉に祈る。
「「あ」」
宝箱を開くと、ハンナとエステルの声が重なった。
「あ~。俺の祈りが届いちゃったか、な?」
エステルの〈銀箱〉に入っていたのは、〈装備強化玉×7個〉。
ハンナの時とまったく同じ物だった。つまりダブり。
あれか? 俺がもっとたくさん欲しいって思ったからか? うん。とりあえず〈幸猫様〉ありがとうございます!
たまにはこういうこともあるよな。
〈ジュラ・レックス〉のドロップは〈装備強化玉×14個〉だった。
正直なところ、これは嬉しい。
〈装備強化玉〉はそれなりに貴重な物で、中級以降のボスの〈銀箱〉産でしかドロップしない。
通常ボスや守護型のFボスなら3個しか落とさないので、1回で14個もドロップしたのは相当ラッキーな話だ。
何しろギルドメンバー全員の装備を強化しようとすると、この強化玉がむちゃくちゃ必要だからな。
さらに言えば、強化するためには強化玉が装備の+値と同じ数だけ要求されるのも地味に厳しい。
つまり、装備+1にするのに必要な強化玉は1個、
装備+2にするには装備+1と強化玉2個が必要。合計3個、
装備+3にするには装備+2と強化玉3個が必要。合計6個、
装備+4にするには装備+3と強化玉4個が必要。合計10個、
こんな感じに増えていく。
最高で最上級装備なら+10まで強化可能で、強化玉の必要数は合計55個だ。
一つの装備に55個である。
これをギルドメンバー全員の全装備を強化しようと思ったらいったいどれほどの数が要求されるのか、考えただけで白目になるレベルだ。一応計算してみると、
1人あたり、装備は、右手、左手、頭、体①、体②、腕、足、アクセサリー①、アクセサリー②、計九つの装備枠があり、ギルドメンバーは最高50人まで参加可能。
計算するとフルで揃えるためには(9つ×55個×50人=24750個)の〈装備強化玉〉が必要である。
クラっときた。
ゲーム時代はフル強化された装備を作るのに本当に時間が足りなくて何度も泣きを見たんだ。
開発陣のアホー! 24750個とかやっちゃダメなやつだろうが!
いや〈ダン活〉プレイヤーの中には「フル装備でギルドメンバー揃えました」動画とか普通にあったけどな。俺もやったことある。〈ダン活〉プレイヤーの熱意がヤバい件。
こほん。まあそんなわけで〈強化玉〉はあればあるほど良いんだ。うん。
ちなみに中級クラスの装備だと最大+4前後が限界だ。初級なら+2まで、といった感じで等級によって+の限界値が変わる。
通常の〈装備強化玉〉だと、平均初級+2、中級+4、上級+7、最上級+10、まで強化可能。
それ以上は〈性能限界玉〉が必要。
といった感じだ。
最上級クラスの装備だと最大強化数がわけ分からんリミットブレイクを起こしているのでサッと目を逸らす、決して直視してはいけない。心の平穏のためにも。
さて、ボスドロップを回収し終えた俺たちは、気を取り直して最下層を目指して歩き出した。
「ねえゼフィルス。なんか道中のモンスターがやたら強いのだけど!?」
「そりゃあ強いさ。下層のモンスターは最大Lv50くらいあるからな。それに〈ジュラパ〉のモンスターはステータスが高いから、そう簡単には倒せない」
「それ早く言いなさいよ!」
言ったよ? 多分ラナが聞いていなかっただけだ。
楽しみあるあるだよな。楽しみにしすぎて話を聞き逃しちゃうって。
21層からのモンスターはLv48からLv50のモンスターが出現する。
俺たちのLvはハンナを抜いてLv52なので結構良い勝負だ。
俺たちは高位職なのでステータスは並外れて高いはずだが、〈ジュラパ〉は【筋肉戦士】と同じくステータス特化仕様。HP、STR、VITにビルドが偏っているためかなり
普通の上級生がここに挑まない理由だな。
現にモンスター1体を受け持ったエステルが倒すまでに分単位の時間を取られている。
物理パーティだと非常に難易度が高いダンジョンだな。故に攻略には魔法パーティが推奨されている。
こうして
しかし、今回は徘徊型ボスは
いやぁ、徘徊型を気にしなくて良い攻略は楽で良いぜ。
ラナたちは全然楽じゃなさそうだけどな。
そうして慣れない強ザコモンスターを相手にしつつ、俺たちはゆっくり下層へと降りていった。
さすが〈エデン〉のトップメンバーたちだ。手強くてもしっかりと無理のない範囲で戦闘をこなしている。今までたくさんした練習、経験の成果がここに表れているな。
たまにある隠し扉もちゃんと回って〈銀箱〉をゲットするのも忘れない。中身は装備だったりアイテムだったりと色々だが、使えそうな物は無かった。残念。しかし隠し扉のアイテムはもう二度とゲット出来ないのでこちらは取っておく。
ただ、行き止まりで出た〈銀箱〉はハンナの奉納行きだ。
せっかく初の行き止まりに〈銀箱〉が湧いていたというのに中身はカス装備だったのだ。
本来なら値段も僅かしか付かないような品だが使い道はある。
中級〈銀箱〉産を奉納すればかなり良い物が出来上がるからな。〈MPポーション〉を作る時に使えば〈MPハイポーション〉になるためこういうものはハンナに回す。
「これで〈MPハイポーション〉が20個作れるはずだから
「任せてよ!」
ハンナは快く引き受けてくれた。パーティメンバーに【錬金術師】がいると現地生産ができるのが良いよな。
そんなこんなでお昼頃には俺たちは
「やっと着いたわね。中級ダンジョンって予想以上だったわ!」
「そうね。話には聞いていたけれど実際に戦うとまた別の印象を覚えるわね。もう少し練習したいわ」
ラナの感想にシエラも同意する。
2人にとっても中級ダンジョンはハードだったらしい。お疲れ様だ。
まあ、次はボス戦なのだけど。
「お昼の準備を始めますね、ハンナさん手伝っていただけますか?」
「あ、俺が手伝おう。ハンナには錬金を頼んでおいたんだ。──ハンナ、生産頼むな」
「うん! 早速やっちゃうね」
俺とエステルでお昼の準備、と言っても〈
後は簡易テーブルと椅子、その他諸々をセッティングすればあっと言う間にお昼の準備が完了する。
「はい、ゼフィルス君〈MPハイポーション〉20個、全部高品質で出来たよ~」
ハンナの方もすぐに終わったみたいだ。さすがハンナだな。早い。
「全員昼食が済んだらハンナが作ってくれた〈MPハイポーション〉を自分のバッグにしまっておいてくれ。回復量は155Pだから戦闘中MPがピンチになったら遠慮無く飲んでほしい」
〈MPハイポーション〉の回復量は通常なら100Pだが、ハンナは『薬回復量上昇付与Lv1』を持っているため5%分の5Pが上乗せされるのだ。
高品質になれば5割増しになって150Pとなり、そこに5Pが加算されるので最高で155Pとなる。
「分かったわ。ハンナありがとね。私ってMP凄く持っていかれちゃうから助かるのよ」
「いえいえ~」
ラナの礼にハンナが照れたように答える。
ラナは魔法バフ、回復、アタッカーと3種類の役割を並行して行うためMPを大量に消費しがちだ。ただの〈MPポーション〉では回復量が微々たるものなので、1回で大きく回復出来る高品質の〈MPハイポーション〉はとても嬉しいのだろう。少しテンションが高い。
その後昼食を食べ、休憩して体力を回復する。
そしていよいよ中級ダンジョン、初の最奥のボス戦だ。の前にボスの説明と打ち合わせだな。情報共有はしっかりしておかないと。
「今回のボスは〈キングダイナソー〉。ガチ系と名高いマジで強いボスの一角だな。通称:〈ダイ王〉なんて呼ばれている」
「〈キングダイナソー〉。……なんか名前だけでも強そうだね」
ハンナの言うとおりだな。キングにダイナソーだからな。名前からして強者臭がプンプンする。
「これまでのボスと同じくビルドがHP、STR、VITに特化しているためかなり強力だが、その分属性攻撃や魔法攻撃なんかはしてこない。ただ『地割れ』や『岩蹴り』などの遠距離攻撃も多用してくるから注意してほしい。見た目はさっきの〈ジュラ・レックス〉に似ているな」
「なるほどね、つまり後衛にいても安心出来ないということね?」
「シエラの言うとおり、魔法が無いからと言って油断していると手痛い目に遭うぞ。シエラは後衛の直線上に居ないよう心がけてほしい。後衛組もシエラの後方に居ないようにな」
巻き込まれが怖いのでそこら辺も注意しておく。
「まあ、他はこれまで戦ったFボスと挙動は大きく変わらないから注意点も同じだ」
恐竜型モンスターはどれも似通った攻撃をしてくるので、その辺すぐ慣れるだろう。
これまでFボスとは計5戦を経験しているメンバーたちだ。問題無い。
「なるほどです。では〈キングダイナソー〉も例の『フライング・恐竜・キック』をしてくるのですね?」
「ああ。〈ジュラ・レックス〉の時よりさらに威力が高いぞ。気をつけろ」
「はい。今度は引っかかりはしません」
エステルの目が決意に光る。
うん。大丈夫そうだな。
一通り打ち合わせが済んだらボス戦だ。
「皆、中級最初のボス戦だ。準備はいいか?」
「「「「おー!」」」」
「よっし、行くぞ!」
ボス部屋の門を潜る。
「あれが、〈キングダイナソー〉ですか」
「大きい。ゼフィルス君、凄く大きいよ!? 迫力満点だよ!?」
部屋の奥に居たのは〈ジュラ・レックス〉をさらに大きく、より凶悪そうにした見た目の影。
二足歩行のティラノザウルスのようなフォルムで、歩く度にドシンドシンと重い足音が響いてくる。腹にくる響きだ。
その大きさにエステルとハンナが呆気にとられた声を出す。
やばいな。ゲーム時代に画面で見ていた物より相当迫力あるわ。さすがリアル。
だが、悠長に話している時間は無い。〈ダイ王〉がこちらを目指してズシンズシンと歩いてきているからだ。まだゆっくりだが、すぐに戦闘態勢に移るだろう。
「全員散開! まず『恐竜突進』が来るぞ、側面に展開するんだ! シエラ!」
「任せて──『オーラポイント』! 『ガードスタンス』!」
セオリー通りタンクのシエラがヘイトを取りつつ、前に出る。
まず、〈ダイ王〉は『恐竜突進』で距離を詰めてくるはずなので、俺たちは側面に回り込むように左右へ散開だ。俺とハンナは左側、エステルとラナが右側に展開する。挟み込む形だな。
「ジュガアアアアアッ!!」
予想通り〈ダイ王〉は『恐竜突進』でシエラを狙わんとした。
その巨体を震わせ、ダイナミックに突進する。その巨体は近くで見ると思った以上に大きい。
そのせいだろうか、ラナが進行ルートを見誤った。
「! ラナもっと下がれ! そこだと当たるぞ!」
「ラナ様!」
「え、きゃあ!?」
刹那の判断によりエステルがラナを遠ざけ事なきを得る。あぶねぇ! 尻尾がデカくブンブンと振り回すため、ラナが居た位置ではギリギリ当たりそうになったのだ。
「『城塞盾』!」
「ジュガアアアアアッ!!」
「ぐっ。思ったほどでは無い、わ!」
シエラが防御スキルを使い、あの巨体から繰り出される突進を受け止めた!
シエラと〈ダイ王〉の体格差が凄まじい。あれを受けて無事とかスキル良い仕事してる!
「行くよ錬金杖! 〈炎光線の杖〉と〈炎光線の杖〉!」
「『ライトニングバースト』! 『シャインライトニング』!」
ハンナが魔法攻撃系のアイテム〈炎光線の杖〉をダブルで使い炎の光線をドカンドカン撃ち込んだ。
ヤバい、あれカッコイイ! 俺も今度やらせてもらおう!
俺もハンナに続いて魔法攻撃で追撃する。
「ごめんなさい、不覚を取ったわ! よくもやってくれたわね! 『聖光の耀剣』! 『光の───」
「ラナ! まずバフを頼む!」
「! ああもう! 『守護の加護』! 『聖魔の加護』! 『獅子の加護』!」
ラナが復帰するがいきなり攻撃し始めたのでバフを掛けてもらう。
さっきのが尾を引いているな。大丈夫か?
「ジュガアアアアアッ!!」
「範囲攻撃だ! エステル近づくな!」
「はい!」
〈ダイ王〉の『尻尾大回転』、自身を中心とした周囲範囲攻撃だが、エステルは冷静にその行動を見極めて距離を取っていた。良い集中力だ。尻尾が長いためかなり距離を空けなければ回避は出来ない。それがしっかり見えている。
俺は今のうちに装備していた〈天空の剣〉を仕舞い〈滅恐竜剣〉に換装する。
今から接近戦だ!
「『カウンターバースト』!」
「ジュガ!?」
シエラがタイミングを合わせて『カウンターバースト』を見事に決め〈ダイ王〉が大きくノックバックした。大チャンスだ! ここで逃す俺では無い。
「ナイスシエラ! 『ソニックソード』! 『ハヤブサストライク』!」
「ジュガアアアア!?」
ノックバックが終わる前にスピードのある攻撃を叩き込み、見事〈ダイ王〉がダウンした。
「総攻撃だ!! 『
「ナイスよゼフィルス! 『聖光の宝樹』! 『光の刃』! 『光の柱』!」
「行きます! 『閃光一閃突き』! 『トリプルシュート』! 『プレシャススラスト』!『ロングスラスト』!」
「追加で行くよ! 〈炎光線の杖〉と〈炎光線の杖〉4本目!」
「『インパクトバッシュ』! 『挑発』! 『シールドスマイト』!」
「ジュガアアアア!」
俺たちの全力の総攻撃が突き刺さり〈ダイ王〉のHPをがっつり削る。
しかし、
「何よ! 全然ダメージ受けてないじゃない!」
「いや、ダメージは入っている。こいつのHPがかなり多いんだ」
ラナが〈ダイ王〉のHPを見てびっくりしたように声を上げる。
その通り、これまで初級ダンジョンのボスであれば総攻撃を決めれば目に見えてHPバーが削れるが、中級からはそもそもボスのHPがかなり増える。初級に慣れ浸っているとそのゲージの減りの少なさにびっくりするのだ。
初級ボスと中級ボスではこういうところも全然違う。
「ジュガアアアア!」
ダウンが終わり、〈ダイ王〉が起き上がった。仕切り直しだな。
タゲはシエラに向いたままだ。ダウン中もシエラはヘイトを稼いでくれていたからな。
シエラのタンクは硬く、〈ダイ王〉の攻撃を的確に受け、捌いていく。
しかし、やはり1回に受けるダメージはこれまでとは比べものにならないほど多い。
一撃でHPが50や100と減っていく光景は見ていてドキドキする。
「『大回復の祝福』! 『守護の加護』!」
「『鉄壁』!」
だがラナの回復とシエラの防御が合わされば隙は無い。
【聖女】の〈ユニークスキル〉のおかげでじゃんじゃん回復するのでシエラは戦闘不能までHPを減らすことは無い。
エステルも堅実に攻撃し、たとえ『フライング・恐竜・キック』の予備動作をされても引っかかることは無かった。
戦闘は安定し、10分以上を掛けて少しずつボスのHPを削っていく。
そして、とうとう〈ダイ王〉のHPがレッドゾーンに入った。
ボスが怒りに包まれていき、攻撃力とスピードが5割増しに上がる。
怒りモードだ。
「ジュガガガガガ!!」
「ラナ! 攻撃はしなくていいからバフと回復に集中してくれ! シエラは防御スキルを! カウンターや攻撃スキルは無理に狙わなくていいぞ!」
「分かったわ!」
「了解よ!」
ボスが怒ったことで俺たちは防御の姿勢を取った。
中級最奥ボスの怒りモードは3分間も継続する。
今まで隙あれば全員が攻撃していたが、ラナとシエラには回復とタンクに集中してもらう形だ。
「エステルも深追いはするな! 敵の動きは思っている以上に速いぞ! ハンナは遠距離からどんどん撃ってくれ!」
「了解致しました!」
「任せて!」
事故が怖いためエステルにはヒットアンドアウェイを意識してもらう。
ハンナには遠距離から安全に攻撃してもらう。
俺も武器を〈天空の剣〉に換装し、魔法で遠距離を中心に攻撃する。
この対策でいける。俺はそう思っていた。
しかし、予想外なことが起きた。
「ジュガアアアア!」
「『城塞た──きゃあ!」
「シエラ!」
シエラの防御スキルが間に合わず、〈ダイ王〉のスキル攻撃が直撃したのだ。
ボスの動きの速さにシエラが対応出来なかった。
一気にシエラのHPが200近くも減り、大きくノックバックする。まずい!
「『ソニックソード』!」
「『回復の願い』!」
「ジュガアアアア!」
「やらせるか! 『ディフェンス』!」
俺はすぐに素早い移動からの斬撃スキルを発動。これを俺は移動に使い一気にシエラの前に割り込もうとする。
ラナもすぐにシエラに回復を掛けた。
しかし、〈ダイ王〉が追撃の『岩蹴り』でシエラを狙わんとする。
『岩蹴り』はサッカーボールのごとく岩を蹴り飛ばして攻撃するスキル、ノックバック中のシエラがこれを受けたらダウンすること必至。しかし、ギリギリで俺はシエラとの間に割り込むことに成功し、防御スキル『ディフェンス』で攻撃を防ぐことが出来た。おっしゃあ!
「ジュガアアアア!」
「まだまだ! 『ガードラッシュ』!」
さらに追撃の『
ぐは、威力高ぃ! 防御スキル使っているのに2撃でHP120も持って行かれたぞ!
こんちくしょーとばかりに3撃カウンターをお見舞いする。
とそこへ頼もしい声が響いた。
「ゼフィルス、スイッチして」
「おう、頼むシエラ!」
ノックバックから復帰したシエラだ。
俺は透かさず横に避け、〈ダイ王〉の相手をシエラと代わる。
「今度はミスしないわ。『鉄壁』!」
「ジュガ!? ジュガァァァァ!」
「『城塞盾』!」
「ジュガガ!?」
今度は遅れない完璧なタイミングで防御スキルを発動するシエラ。
あまりに完璧すぎて攻撃が相殺されたぞ。パリィ、防御勝ちだ!
「邪魔な尻尾は斬る! 『
「ジュガァァァッ!?」
防御勝ちの衝撃で運良く目の前に来た長い尻尾に向けて俺の〈ユニークスキル〉を放つと、これまた運良く蓄積していたダメージが限界を迎え、尻尾を切断することに成功する。
これで尻尾の長さは半分以下だ、尻尾攻撃の射程が大きく減少した。これにより、尻尾を警戒して大きく距離を取らなくてはいけなかったエステルが接近出来るようになる。
尻尾を切断された衝撃でビクンビクンしていた〈ダイ王〉にも総攻撃をお見舞いし、HPが残り僅かとなった。
「ジュガガガガ!」
起き上がった〈ダイ王〉が最後の抵抗とばかりに『尻尾大回転』の周囲範囲攻撃で一掃を目論むが、切断されてしまった尻尾では脅威にはならず、エステルが低い体勢から攻撃をくぐり抜け、〈ダイ王〉の懐に入りこんだ。
「エステル、最後だ、トドメを刺せ!」
「はああっ! 『閃光一閃突き』!」