16話 挑め〈丘陵の恐竜ダンジョン〉攻略へ! 迫り来る恐竜ボスたち!

「ねえゼフィルス君、今日は最奥まで行くの?」

「おうよ。今日は最奥のボスを倒して〈丘陵の恐竜ダンジョン〉を攻略するぞ!」

「ついに中級ダンジョンを攻略ね、楽しみだわ!」

ハンナの問いに答えると、ラナもそれを聞いて満面の笑みを浮かべた。

楽しみだよな! 俺も楽しみだ!

中級ダンジョンの攻略は初級ダンジョンの時と比べ、格段に難易度が高い。

何しろ道中が初級上位ショッコーの3倍近く広いからな。

これだけでも相当難易度が上がっているというのがわかる。

俺たちも2日掛けての攻略だ。

最初は中級ダンジョンの感覚を掴んでほしいという気持ちでメンバーを連れて来たが、やっぱりやり始めるとハマってしまうな! そのまま攻略まで突っ走りたい!

なぜ先週日曜日にダンジョンに挑んでしまったのかと若干後悔したくらいだ。

一週間我慢はマジ長かった。

というわけで早速〈中下ダン〉にやって来た。

そのまま〈丘陵の恐竜ダンジョン〉の門へ向かおうとすると、横から影が現れた。

ここの説明役のゼゼールソンさんだ。

「ようギルド〈エデン〉、期待の星たちよ。今日も〈ジュラパ〉か?」

「そうよ! 今日は最奥まで行く予定なの。初の中級攻略よ!」

「おいおい、もう攻略する気か? まだここに来て一週間だろう?」

「正確には2回目ね!」

ラナの答えにゼゼールソンさんは驚愕の表情だ。

とても信じられないといった感じだな。そのリアクションにラナがふふんとドヤ顔をしている。

「ゼゼールソンさん、今日〈ジュラパ〉に入っている組はいますか?」

「ん? 今日はまだ誰も入ってないぞ。やっぱりモンスター自体強いからなあそこは、進みづらくて1日掛けても10層の転移陣までたどり着けず、なんてこともザラだから人気がないんだ。本当に2回で攻略する気なのか? 普通は何度も挑戦し、マッピングして最短ルートを割り出してからやっと攻略に入るものだぞ? 最低でも6回は掛かるが」

おお! ゼゼールソンさんからもっともな感想が出た。

そう、ダンジョンを攻略するには、普通ならそうやってマッピングをするところから始めなければならない。

初級ダンジョンと比べて格段に広い中級ダンジョンではマッピングも一苦労だ。

次の階層へ向かう道が分からないため、手探りでマッピングするのが普通。

ゲーム時代はオートマッピング機能があったため一度通った道は画面の端に勝手に記録されていたが、リアルだと自分たちで描く必要がある。そのためもっと時間が掛かるようだ。

しかし、そうやって描き込んでいくと、マッピングがある程度出来上がる頃にはバッグがいっぱいになったり、消耗しすぎたり、時間的余裕が無くなるなどの理由で一度帰還しなければいけなくなる。ダンジョンゲームあるあるだな。所謂持ち物いっぱいという状態。もしくはリアル時間タイムリミット。

つまり2回目でようやく10層へ攻略する形になるのが普通だ。

そのため普通の攻略では、1回目探索orマッピング、2回目本番攻略、といった感じに10層ずつ進めていくのがベター。

これを1セットとし、中級下位ダンジョンだと最下層が30層なので3セット行って少しずつ攻略を進めていくわけだな。

まさかゼゼールソンさんも俺たちが最初の1回目で20層を攻略しているとは思っていなかったようだ。当たり前だが。

俺が最短ルートを全て網羅しているからこその攻略速度である。

ラナの横で俺もドヤ顔しておこう。

あと、今日はまだ〈丘陵の恐竜ダンジョン〉を攻略しているパーティはいないとのこと。

こりゃラッキーだな。やっぱり貸切のほうがリソースの取り合いをしなくて済むし気持ち的にも楽だからな。

最後まで半信半疑といった表情だったゼゼールソンさんにお礼を言って、その場を後にし、全員で門を潜った。

一瞬の浮遊感の後、俺たちはいつも通りダンジョンの中に立っていた。

しかし、辺りをキョロキョロと見渡したハンナが不思議そうな顔をして聞いてくる。

「あれ? ゼフィルス君、ここ1層だよ? 20層に転移するんじゃなかったの?」

「ああ、ほら、あそこを見てみ?」

「んー? あ! あれって転移陣!?

「そうだ。ここから20層の転移陣に飛ぶ」

地上の門と繋がっているのは全て1層だ。

そして門の近くにはいくつかの転移陣が光っていた。ここにあるのは二つ。

それぞれ10層と20層に繋がっている転移陣だ。

基本的にショートカットするにはまず1層に来てから、各転移陣の置かれた階層にジャンプする形だな。帰ってくる時は門に直行なんだが。

ちなみに、この転移陣は起動した者にしか見えないし利用できない仕様だ。

誰かパーティメンバーの1人がこの階層を攻略していたからってキャリーすることはできない。

俺も最初に来た時に今光っている場所を確認したが、その時はショートカット転移陣なんて見えなかったからな。どういう仕組みになっているのか少し気になる。

ちなみに転移陣の起動方法は守護型フィールドボスが倒されている状態で、ショートカット転移陣を利用するか次の階層の門を潜るか、である。必ずしもフィールドボスを倒す必要は無く、誰かが倒していたらラッキーなことになるな。

「なるほどね。噂には聞いていたけど見るのは初めてね。これがショートカットの転移陣なのね」

シエラが興味深そうにその転移陣を見る。

転移陣に書いてある絵は幾何学模様で俺にはよく分からないが、シエラは何かわかるのだろうか? そう聞いてみると、

「いいえ。ちょっと気になっただけよ。さすがに分からないわ」

との事だった。そりゃそうだ。何しろ複雑怪奇すぎる。

「ねえ、早く行きましょ! まずは復活したフィールドボスに挑むのよ!」

「おっと、そうだった。んじゃ行きますか!」

ラナの声に皆で転移陣に向かう。

まずは10層からだ。

ゼゼールソンさんの話では誰も攻略者は入っていないとのことなのでフィールドボスも復活していることだろう。フィールドボスは毎朝リポップなのだ。1日1回、翌日の朝には復活している。

せっかくなので10層の〈ジュラ・サウガス〉と20層の〈ジュラ・ドルトル〉も狩って行く事にした。行きがけの駄賃ってやつだな。また〈金箱〉でもドロップすれば……ふはは!

ちなみに、ラナは〈ジュラ・ドルトル〉戦で不完全燃焼だったので純粋に再戦したかったらしい。むっちゃ燃えていた。

その後、特に危なげなく2体のフィールドボスを屠り、俺たちはいよいよ21層にコマを進めたのだった。


「気持ちよかったわ! なんかこうスカッとした感じ、胸のつかえが取れた気がするのよ!」

「そいつは良かったなぁ。ラナむっちゃスキル回してたからな」

20フィールドボス〈ジュラ・ドルトル〉を屠った時のラナの感想がこれだった。

大満足だったのだろう。むっちゃムッフーしている。

ラナはボス戦でガンガン攻撃とバフを飛ばし、回復も飛ばし、むちゃくちゃ活躍していた。

ラナ上手くなったぁ。前のようにうっかり違うバフを掛けてしまうなんてことも最近は減ったからな。嬉しいはずなのに、ちょっと寂しく思ってしまうのはなぜだろうか?

「あ! あれは何かしら? 気になるからちょっと見てくるわ!! わ、これ卵? なんだかとても大きな卵があるわ、美味しいのかしら?」

「ラナ様。それはモンスターの卵です。確か食用だったはずですよ。持って帰りましょう」

「そうね! ゼフィルス、いいかしら?」

「もちろんだ。あるだけゲットしようぜ!」

ラナがモンスターの卵採取エリアを見つけていた。

この卵は〈モンスターの卵〉という名称の資源であり、実際にモンスターが生まれることは無かったりする。無精卵とはまた違う、自然に湧く卵だ。さすが〈ダン活〉の世界。卵とは産むのではなく湧くのが常識である。初めて知ったときは度肝を抜かれたものだ。

料理アイテムに使う食材なのであるだけ持って帰ろう。

しかし途中でトラブル発生。

「キャ!」

「ああ!? ラナ様大丈夫ですか!?

卵がラナの腕の中から脱走したのだ。いや、別に足が生えたわけでもない。普通にちゅるんと滑って転がっただけだ。しかし、その転がった先が悪かった。ラナの足に落っこちて盛大に割れ、中身が飛び散ったのだ。

ラナの足は、ねちょねちょになってしまった。ちょっとだけ目に毒だと思ったのは内緒。

「う~。大丈夫だけど足がネチャってするわ」

「ああドンマイだな。ほれ、〈スッキリン〉あげるから使ってみろ」

情けない声を出す王女様に俺がいつも愛用している使い捨てアイテム〈スッキリン〉を渡してフォローする。

これはラノベなんかで出てくる所謂〈清潔クリーン〉の魔法みたいなもので、体が綺麗になり、スッキリ爽快するアイテムだ。ダンジョンのお供にこれ以上のアイテムは無い。

しかし、女性陣はこれよりも実際にシャワーを浴びたいらしく、使用したがらなかった。良い機会なので〈スッキリン〉の使用感を味わってもらおうと思う。

「ありがとうゼフィルス~」

おおう。情けない感じの上目遣い。中々の破壊力が返ってきた。

どうやら相当ヘコんでいたらしい。

声に甘えが混じっていた。足下のネチャも加わってちょっとドキッとしたのは内緒だ。

「えっと、こうかしら? わぁ!」

ラナが〈スッキリン〉を使うと、一瞬光りに包まれた後、ラナの足はピカピカになった。いや足だけではなく身体全体がリフレッシュされていた。相変わらず、すごい効き目だ。

「わぁ~。すっごいスッキリしたわ! これ凄いわね! 足の汚れもピカピカじゃない!」

「そうだろうそうだろう~。汗やベタつきなんかもそうだが、臭い汚れも全てリフレッシュしてくれるからな。結構重宝しているぞ」

俺はラナの感想に大満足しながら腕を組んで頷いたところで、後ろから話しかけられる。

「ゼフィルス、その話、詳しく聞かせてもらえるかしら?」

「うおっ!?

説明していたらいつの間にか後ろにシエラがいた。まったく気配を感じなかったんだがシエラは忍者か? いや忍者はパメラである。シエラではない。

というか目がマジなんだけど。どうしたというのか。

「ゼフィルス君、なんでそんな良い物教えてくれなかったの!」

「ハンナまで目がマジに……。いや、前に説明したじゃん。これ一本でわざわざシャワーを浴びなくても浴びたと同じ効果が出るぞって」

「…………覚えがあるわね」

以前、一応説明はしておいたのだが、どうやら記憶から零れ落ちていたらしい。

女性は風呂好きだからな、もちろん俺も好きだが、そのせいで「風呂に入らなくてもいい」という言葉が彼女たちにはナンセンスに映っていたようである。

なるほど、納得した。ダンジョンから帰ったらシャワーは女性の心理。それを否定する俺の紹介の仕方がダメだったようだな。謎は全て解けた。

「シエラたちも、使うか?」

「……いただけるかしら」

「え、ええと。ありがとうねゼフィルス君」

「ほら、エステルとラナもどうぞ」

「わ、私も貰ってもよろしいのですか? ありがとうございます」

「ありがたくいただくわ! これはとても良い物よ、気に入ったわ!」

とりあえずシエラとハンナ、さらにエステルとラナにもお裾分けして事なきを得る。

女性陣のマジな目って迫力があったよ。

早速女性陣は〈スッキリン〉を使って身体の調子を確かめ始めた。

犬のようにクンクン匂いを確かめている。俺はスッと目を逸らした。

「なるほど、確かにこれは良い物ね。まさかこれほどの物を見落としていただなんて」

「本当ですね。心なしか疲れも取れたように感じます」

シエラとエステルの評価も上々のようだ。どうだ〈スッキリン〉は、良い物だろう?

やっと〈スッキリン〉の重要性を理解してもらえ、俺も嬉しく思う。

「スッキリしたことだし、早速狩りね!」

「スッキリと狩りの関係性が不明な件について」

よく分からないが、狩りと言うのなら俺に否は無い。

俺、狩り、スルヨ!

「違うわよ、あっちにモンスターがいるわ! 21層、初のモンスターよ!」

「そういうことか。よっしゃ、全員戦闘準備!」

毎回のことながらラナが第一発見者だ。どんな嗅覚をしているのだろうか。

身体をチェックしていた女性陣にも声をかけ、戦闘準備を整える。

「というか見えないんだけど、どこにいるんだラナ?」

「あの岩の陰よ。なんだか視線を感じるのよ」

ラナが指さす先には大岩が鎮座していた。

この草原フィールドにあって中々に異物感を放っている。

確かにアレならモンスターの3体や4体簡単に隠れられそうだが、俺の記憶にはそもそも隠れてこちらの様子を窺うようなモンスターに心当たりがない。少なくとも〈ジュラパ〉には。はて?

しかし、注目を集めるのに慣れているラナが視線を感じるというのだから見られているのだろう。

もしかして人かとも思うが、今日はにゅうダンした学生はいないはずだ。いや、俺たちがFボスとやり合っている時に入った人だろうか? うーむ。

いや待てよFボス? そうかFボスだ!

「思い出した! モンスターの正体が分かったぞ。この〈丘陵の恐竜ダンジョン〉の徘徊型フィールドボス、〈ジュラ・レックス〉だ!」

「っ!! フィールドボス!?

ラナがマジ? みたいな声と表情で俺を見上げた直後、ドカーンと岩を粉砕し巨大な影がその姿を現した。

この〈丘陵の恐竜ダンジョン〉の下層21層から29層までの道でランダムに徘徊している徘徊型フィールドボス。力強い二足歩行に巨大な頭を持ち、強い威圧感を放っているそいつこそ、このダンジョンで最奥に行く手を阻む者。名は〈ジュラ・レックス〉。

おいおい、21層に入って初めてのモンスターがまさかの徘徊型かよ。

3連続フィールドボス戦とか予想外だったんだけど!


徘徊型ボスは最奥への行く手を阻む妨害モンスターだ。

大体の場合、下層付近に出現し、プレイヤーたちに試練を与えてくる。

今のように、陰から様子を窺い、突如として襲い掛かってくることもあるのだ。

ゲームの時は中級ボスのことを教えてくれるチュートリアルイベントで、「ちょっとあの木陰が気になるから見てくるよ~、ギャー!?(断末魔)」ということもあった。あのイベントには笑わせてもらったなぁ。

徘徊型ボスはかなり強い。突如として現れればパーティが全滅することも珍しくはない。

しかも徘徊型は階層を移動できるため逃げても追って来るのだ。さすが試練。逃げるが勝ち戦法は使えない。

逃げた先でまた奇襲なんてされたらたまらないので、徘徊型ボスは出会ったら狩るのがセオリーだ。

しかし、徘徊型ボスの厄介なところは奇襲やその強さだけではない。

自身が大きくHPを削られたら逃げようとするのも徘徊型ボスの特徴だ。逃げた先で食事をしたり、睡眠をとったりしてHPの回復を図り、そして再度襲ってくる。

故に逃がさないよう倒しきる戦術が求められる。

今回のボスは〈ジュラ・レックス〉。

タフな防御力に、非常に威力の高い物理攻撃を繰り出すステータスに特化した強力なボスモンスターだ。

物理攻撃に非常に強い反面、魔法攻撃には脆い弱点があるため、タンクがタゲを受け持ち後衛が魔法で倒す戦術がセオリーだな。

「タゲを取るわ! 『オーラポイント』! 『ガードスタンス』!」

「バフを掛けるわね! 『守護の加護』! 『聖魔の加護』!」

シエラがヘイトを稼ぎ、ラナが防御力と魔法力を上げるバフを全体に掛けた。

「ラナ! こいつの攻撃力はかなり高い、シエラのHPをよく気に掛けておいてくれ!」

「了解よ!」

「援護するね! 錬金砲〈筒砲:エアロ〉!」

ハンナが取り出したのは下級魔法レベルの弱いダメージを与える筒砲だった。風の塊のようなものを撃ち出す攻撃アイテムだ。

ダメージが弱い代わりに回数が多く、連射が可能なため牽制などに有効だ。

ハンナはそれを〈ジュラ・レックス〉に向け、パパパン、パパパン、と3点バーストの要領で撃っていく。

しかし、

「ふえっ!? 全然意に介さないよ!」

〈ジュラ・レックス〉はハンナの攻撃なんて痛くも痒くもないようで、まったく気にした様子もなくシエラへの突撃をやめない。むしろ視線すら向けなかった。

ハンナがガーンとショックを受ける。〈ジュラ・レックス〉が固すぎたんだ。

「ハンナ! 〈マホリタンR〉を飲んで魔法攻撃にチェンジしろ」

「うん!」

突然の遭遇にハンナは〈マホリタンR〉をまだ飲んでいなかったのでそう指示を出す。

それと同時に〈ジュラ・レックス〉がシエラに衝突する。

「グギャララララ!」

「『城塞盾』!」

シエラが物理特化型の防御スキルで対応する。

しかし、

「ぐっ」

シエラから苦悶の声が洩れた。HPは防御スキルのおかげでほとんど削られてはいないが、衝撃はかなりのものだったようで、シエラの足が2歩下がる。

しかし、〈ジュラ・レックス〉の足がそこで止まった。チャンス!

「ナイスシエラ! 『ライトニングバースト』!」

「グギャララララ!」

俺は〈天空の剣〉に持ち替えて、三段階目ツリーの強力な魔法を放つ。前にゲットした〈エナジーフォース〉の効力もあって中々のダメージが出たはずだ。

今回の〈ジュラ・レックス〉は防御力が高い。〈滅恐竜剣〉での物理攻撃より〈天空の剣〉による『ライトニングバースト』の方がダメージが入るため、今回は〈天空の剣〉を採用した形だ。

なお、戦闘中何度も換装してその都度使い分ける所存。面白くなってきたぜ!

「グギャララララ!」

〈ジュラ・レックス〉がスキルを使い始めた。〈ジュラ・サウガス〉も使っていた『頭打あたまうち』でシエラをガンガン叩く。

「シエラ! 大丈夫か!」

「任せて。さっきは予想より強かっただけ。来ると思っておけば大丈夫よ」

シエラの言うことに間違いはないようで、『頭打あたまうち』を完全に防ぎきる。

さすがシエラ、最高のタンクだ。

「隙を見て随時攻撃せよ! 『シャインライトニング』!」

「はああ! 『ロングスラスト』!」

「『聖光の宝樹』!」

「『フレアランス』! 『アイスランス』!」

「グギャララララ!」

初めてのボス相手なので様子見しつつ、少しずつダメージを稼いでいく。

〈ジュラ・レックス〉はこれまでのボスよりトップクラスに攻撃力の高いボスだ。

不意の一撃には十分に注意したい。

VITの低い後衛組だと、一撃で戦闘不能になる可能性もある。というかハンナは間違いなく一撃でノックアウトだろう。

幸い〈ジュラ・レックス〉に大きめの範囲攻撃は無いので狙われなければ大丈夫だ。

それがフラグになったのか、戦闘が安定してきて油断ができたのか、それは起こった。

〈ジュラ・レックス〉がバックステップで大きく下がる。この動作は知っている、〈ジュラ・レックス〉が放つ攻撃の中でも最も威力のある『フライング・恐竜・キック』だ。所謂ドロップキック(恐竜風)。一度下がるのは予備動作の証で、続いてくるのはあの巨体から繰り出される重い跳び蹴りだ。

知っている者からすれば避けるのは簡単なものだが、初見だとある間違いを起こしやすい。

そして、それに引っかかった者がいた、エステルだ。

「! エステル戻れ!」

「!」

敵が引くと、思わず追いかけたくなるのが当然の心理。

事前に教えていたし、注意もしていたのだが、エステルがうっかり〈ジュラ・レックス〉を追いかけてしまった。

俺の掛け声に慌ててエステルが止まるが、そりゃ思いっきり悪手だ。

止まっちゃダメだ、避けなくては! しかし、時すでに遅し、シエラの『カバーシールド』も間に合わない。巨体を震わせた〈ジュラ・レックス〉が、跳ぶ。

「グギャラァァァ!」

「きゃあ!」

結果、直撃。

エステルが大きく吹っ飛ばされ、HPが一気に4割以上も減ってダウンした。

〈ジュラ・レックス〉のタゲがダウンしたエステルに向く。

〈ダン活〉ではダウンという特殊状態異常がある。

ダウンすると、起き上がるまでに数秒から十数秒の間、攻撃に無防備になる。さらに、ダウンを取られたキャラはヘイトに関係なく一定の確率でタゲを向けられてしまうため、そうなると戦闘不能に陥りやすい。ダウンは特殊状態異常なのでスキルや魔法で回復することができない。非常に危険な状態異常だ。

そして今、その最も起こってほしくない状態が起こった。

エステルが〈ジュラ・レックス〉の攻撃で吹っ飛ばされ、ダウンする。そして運の悪いことに〈ジュラ・レックス〉のタゲがエステルに置き換わった。

まずい!

パーティに動揺が走る。

「ラナ! 回復を! シエラ『カバー』! エステルの下へ行かせるな!」

「『大回復の祝福』! 『守護の加護』! 『天域の雨』!」

「『カバーシールド』! 『挑発』!」

速攻で指示を出し、ラナが急ぎ大回復とバフを掛け、シエラがエステルと〈ジュラ・レックス〉との間に入って行く手を阻んだ。

「グギャラァァァ!」

「行かせるか! 『勇気ブレイブハート』! 『勇者の剣ブレイブスラッシュ』! 『ライトニングバースト』!」

「『鉄壁』!」

〈ジュラ・レックス〉はスキル『恐竜突進』で突破を図るが俺とシエラで全力で阻む。

エステルのダウン状態が終わるまで、絶対にここは通さない!

シエラが『恐竜突進』を受け止めると、俺は全力で攻撃する。クリティカルダウンを取るためだ。

こちらがダウンしていても、相手もダウンさせてしまえば問題ない。

「『属性剣・雷』! 『ハヤブサストライク』! 『ライトニングスラッシュ』!」

しかし、運悪くクリティカルが出ない。元々クリティカルの発生する確率は低くそう簡単には出ない。

「! ゼフィルス何か来るわ!」

「くっ、範囲攻撃だ! 防御スキルで耐えろ! 『ガードラッシュ』!」

「グギャラァァァ!」

「『城塞盾』!」

〈ジュラ・レックス〉が一瞬ためを作ったかと思うと、その場で一回転した。

尻尾がラリアットのように迫るのを防御スキルでやり過ごす。

「グギャラァァァ!」

「くっ、次は『頭打あたまうち』だ!」

徐々に〈ジュラ・レックス〉の攻撃の回転数が上がっていた。

まさに、そこを通せとでも言うかのようだ。

しかし、ここを通す気は無い!

「『ファイヤーボール』! 『フレアランス』! 『アイスランス』!」

「『回復の願い』! 『回復の祈り』!」

側面に回りこんだハンナの攻撃も加わるが、〈ジュラ・レックス〉に怯む様子は無い。さすがにタフなボスだ。

続いてラナの回復で俺とシエラのHPが全回復する。

これでまだまだ耐えられるぞ。

とその時〈ジュラ・レックス〉の挙動が変わる。

「すみませんでした。復帰します」

エステルがダウンから戻ったようだ。良し。阻みきることができたようだ。

しかしそのせいで〈ジュラ・レックス〉のタゲが俺に向いた。

少し、攻撃しすぎたかもしれない。

「グギャララララ!」

「『オーラポイント』! 『挑発』!」

「『ソニックソード』!」