15話 金曜日選択授業、ついにゼフィルス、これに決めた!

金曜日だ。

今日は選択授業の決定日。自分がどの選択授業を受講するかを決める重要な日だ。

とりあえず先週の体験授業を踏まえ、めぼしいものをピックアップ。

今日も色々と体験授業を回って決めたいと思う。

「セレスタンは今日も一緒に回るのか?」

「はい。よろしければお供させていただきたく」

「構わないぞ。じゃあ一緒に行くか」

先週と同じくセレスタンは俺の従者として供に選択授業を回るようだ。

楽しそうな授業にめぐり合えるといいなぁ。授業が多すぎて中々決まらないんだ。

一度クラスへ集まり朝の朝礼を終えると、皆各々おのおの選択授業へと向かう。

何故かサターンたち4人が何かから逃げるように真っ先に出ていったのが印象的だった。どうしたのだろうか?

そういえば〈エデン〉の皆はもうどこを受講するか決めたのか?

今週はサターンたちにかかりきりになってあまりギルドに参加できなかったから聞いていなかった、ちょっと聞いてみようか。

まず中央付近の席に座るラナに話しかける。

「ラナ、ちょっといいか?」

「あ、ゼフィルス! 最近全然ギルドに来てないじゃない! 何してるのよ、皆寂しがってるわよ!」

「あっと、悪かった。明日は朝からダンジョンだからちゃんとギルド行くよ」

ここ数日、というか今週の平日はギルドに行かずにずっとサターンたちを鍛えていた。おかげで大分彼らは強くなったが、その代わりギルドのメンバーを寂しがらせてしまったらしい。

明日は土曜日、1日ダンジョンアタックの日なのでちゃんとギルドを盛り上げようと決める。

「もう、絶対よ?」

「もちろんだ。なんと言っても明日は日曜日の続きだからな」

それを聞いて思い至ったのかラナから満面の笑みがこぼれた。

「楽しみね! 約束よ? 絶対だからね?」

「わかってるって」

俺だって楽しみなんだ。

土曜日は〈エデン〉でダンジョン。これ決定。

サターンたちには自主練を言い渡しておこう。

「話は変わるが、ラナは選択授業どこを受講するのか決めたのか?」

そう聞くと、ラナはふふんと得意げな顔を作った。

「そんなのとっくに決まっているわ」

「お、そうなのか。ちょっと意外。どこにしたんだ?」

「意外ってどういう意味よ! もう。ゼフィルスには教えられないわ」

「えー。じゃあセレスタンに教えてやってくれ。俺は聞こえないフリしてるから」

「フリってことはバッチリ聞いているじゃない、どういうことよ!」

おお。ラナがツッコミを。珍しい。いや、原因は俺がボケたからだけどさ。

どうやらラナは受講先を秘密にしたいらしい。

いつの間にかラナの後ろに控えていたエステルを見るが苦笑しているので本当に教えてもらえないようだ。

俺に教えられない選択授業か。ちょっと気になるな。

まあ、おとなしく諦めよう。

「じゃあ、お互い頑張ろうなぁ」

そう言って2人と別れると、もう教室には少しの人数しか残っていなかった。

皆移動してしまったようだな。しかし幸いにも教室を出て行くシエラとルルが目に付いた。ちょっと追いかけて聞いてみる。

「シエラ、ルルちょっといいか?」

「あら、ゼフィルス、それにセレスタンもどうしたの?」

「ゼフィルスお兄様です。おはようございます!」

「元気があってよろしい。ルル、おはよう。シエラもな」

「おはよう。セレスタンもね」

「おはようございます。シエラ様、ルル様」

ひとまず挨拶を交し合って、歩きながら話し出す。

「いや、まだ受講する選択授業が決まらなくてなぁ。ちょっと受けたい授業が多すぎるんだ。それで参考までにシエラとルルがどこに決めたのか知りたくてな」

「そういうことね。私とルルは〈芸術課〉関係ね。3コマは絵の関係の授業を受けることにしたの」

「あ~、なるほど絵かぁ」

〈ダン活〉にはこういった芸術関係の生産職も当然のごとくあった。〈芸術課〉は主に【絵描き】や【工芸士】、【色変術士】などの職業ジョブが在籍する課だな。

ゲーム時代は、ギルドにいると勝手に換金アイテムを作ってくれたり、ギルド内の壁紙やインテリアなどを生産してくれたりといったサポートをしてくれた。

ただ、換金アイテムを作ってもらわなくてもダンジョンで稼げるし、壁紙やインテリアは攻略に関係ないため完全に趣味、オプション扱いだった。

まあ攻略に熱心なプレイヤーほど使うことの少ない職業ジョブ群だな。

主にあまり時間がなく、ボス周回が満足にできないプレイヤー向けに換金アイテム専門の生産職として利用されていた。

つまり、芸術系換金アイテム生産→商人系職業ジョブで高値で売買→オークションで〈金箱〉産アイテムなどを購入→少ない時間で〈ダン活〉攻略。

こんな感じのプレイスタイルの人がよく使っていたんだ。

絵は主にミールを稼ぐための生産職という扱いだった。

しかし、そんなところに行くということは換金アイテムを生産しよう、ということだろうか?

ちょっと聞いてみる。

「そんなわけないでしょ。趣味程度のものよ」

「ルルも趣味で絵を描くのですよ!」

どうやら売り物ではなく嗜み程度の範疇らしい。

なるほど、攻略とは関係なく趣味に傾倒しても良いわけだ。参考になるなぁ。

俺は今まで、攻略に役に立つという授業ばかり受けていたが、せっかくのリアル〈ダン活〉だ。

少しくらい趣味に走ってもいいかもしれない。

「ありがとう、参考になったよ」

「そう? 役に立てたなら良かったわ」

「ルルのも参考になりましたか?」

「ああ。ルルもありがとうな」

「あい!」

ああ。ルルの言動が可愛い。癒される。

「あとゼフィルス、明日はギルドに参加できるのかしら?」

「おうよ。土日は1日ダンジョンアタックだぜ! 平日参加できなかった分を取り返してやる!」

「了解よ。楽しみにしているわね」

平日はともかく土日は基本的に〈エデン〉に参加する予定だ。

そう言うと一瞬だけシエラが顔をほころばせた。俺は見逃さなかったぞ。

すぐにいつものキリッとしたクールなシエラに戻ってしまったが、どうやら内心は楽しみにしてくれているみたいだ。その一瞬緩んだ表情も見れてちょっと嬉しい。

〈戦闘課〉の学舎を出たところでシエラとルルと別れる。

彼女たちはこれから乗馬の授業に出るらしい。

ルルはあの身体で乗馬するのか?

ちょっと見てみたい気もする。

それに俺も乗馬は興味有る。後で行ってみるとしよう。

まずその前に、今日行く予定だった授業から見て回るかな。


選択授業の体験をさせてもらいながら色々回り、気がついたらもうお昼だった。

昼飯の時間だな。〈ゲーム〉ではカットされていた貴重な時間だ。

リアルだと購買、学食、飲食店、お弁当の4択から選べる。

最近の俺はリアル〈ダン活〉を楽しみつくすべく、学食各メニューを順番に消化中だ。

卒業までに全部コンプリートしてみたい。ちょっと難しいかもしれないが。

何しろメニューが多いのだ。学食毎にその学食限定メニューなどの特色があるくらい多い。学食の建物だって2万人の学生を支えるため何カ所かに設置されているのだ。当然メニュー数も膨大。こんな所まで多くしなくても良いのにと思わなくも無い。

今日は学食の日だったが、移動していたため目的の学食まで遠い。飲食店のほうが近いのでたまにはセレスタンと2人で飲食店で食べることにした。ちなみにイタリアンだ。

「ゼフィルス様。受講の申し込みは本日18時までとなっていますが、お決まりになられましたか?」

「いやぁ、難しい。なんでこう魅力的な授業ばっかりなんだろうな。迷っちまってしょうがない。そういうセレスタンはどうだ?」

「僕ですか? 先週申し上げたとおりゼフィルス様の受講する授業に参加したく思っています」

「そうだったな。でも本当にいいのか? 俺にくっ付いていなくても別に良いんだぞ?」

「いいえ。僕は従者ですので」

セレスタンの意思は固いようだ。

まあ、好きでやっているらしいから別にいいか。嫌になったらやめさせればいいし。

でもそれは少し寂しいので嫌いにさせないよう気をつけておこう。仕事はなるべく嫌なものを避けるべきだというのが俺の持論だ。仕事が楽しければ最高だな。

とりあえず午前中で回りたい授業は回り終えたので、午後はシエラの言っていた芸術系を少し回ることにした。

〈ダン活〉の芸術といえばインテリア。

ゲーム時代、俺がほとんど見向きもしなかった分野である。

攻略にほとんど関係なかったからな。

しかし、ここはリアル世界。もしかしたらゲーム時代には見つけられなかった新しい何かが見つかるかもしれない。新しくギルド部屋やギルドハウスのインテリア魂に火がつくかもしれない。

そんなワクワクを胸に、〈芸術課〉の選択授業を体験した。


結果から言おう。俺には難しかった。

今まで芸術とは無縁に生きてきた俺が急に芸術に関心を示すことなんてできなかったんだ。

一応、絵などに関してもセレスタンから色々説明を受けた。掲示されたレプリカの絵を見て、この絵は何々の本の一シーンを描いた有名な作品であり、こう読むのです。とか言って絵を感性ではなく論理的に読み取る方法を教えてくれたりもした。絵って見るのではなく読むものだなんて初めて知ったよ。

しかし、面白くはあったが楽しいというわけではなかったな。

というかセレスタンって芸術にも明るいのかよ、ってそっちのほうが気になったわ。

「やはり、今まで攻略に傾倒しすぎていた俺が今更芸術インテリアに走っても難易度が無駄に高いだけだったな」

「そのようなことは無いと思いますが。僕の説明も7割方理解しておられたようですし」

「いや、絵を理解できる面白さというのも分かったけどな。要は向いていないんだ、俺に」

向き不向きの問題だ。RPGが得意な人もいれば、シミュレーションが得意な人もいる。つまりはそういうことだ。俺は攻略がメイン、〈エデン〉のギルド部屋の内装は他のメンバーに任せよう。少し女子女子してしまわないか心配だ。最近ギルド部屋にぬいぐるみが増えてきているし。

「もう残り時間が少なくなってきましたね。次が最後になるでしょう。どちらに向かいますか?」

「そうだなぁ」

時間は14時半、思いのほか長くいたようだ。最後のコマが終わるのが15時なのでセレスタンの言うとおり次の体験授業がラストになるだろう。

また、ここから距離的に遠くの授業も受けられない。近場で探すしかないが……。

もうめぼしいものは回り終えてしまったのであまり食指が動かないものが多い。

考える俺にセレスタンがスッと〈学生手帳スマホ〉を見せてくる。

「この付近で行っている授業をピックアップしました。どうぞ」

「さすがセレスタンだな。サンキュー」

恐るべき従者だぜまったく。

というのは冗談で、ありがたく見させてもらう。

しかし、やはりこの近くで面白そうなものは無さそうだ。

「でしたらこれなんていかがですか?」

「上級ダンジョン考察授業か……。それに参加してもなぁ」

それは、未だ踏破したことの無い上級ダンジョンに関する授業だ。まだ未確認のものや未知のモンスターが多く跋扈している上級ダンジョン。それについての情報を集め、考察し、上級ダンジョンをいつか攻略することを目標にしている意識高い系の授業だな。

だけど俺、上級ダンジョンどころか最上級ダンジョンまで全部知っているし。

教わる側よりむしろ教える側に立っていると自負している。

───ん? 今なんか閃きかけたぞ。なんだ?

今一瞬だけ、すごく楽しそうなことを思いつきそうな気がしたんだ。

なんだろうか、今の一考をもう一度よく思い出そう。

俺は全部知っている。教わる側より教える側……。──そうか、これだ!

「セレスタン、予定変更だ。研究所に行くぞ!」

「は? 選択授業はどうするのですか?」

「もう決めたぞ! 俺の6コマは全部決まった。よって体験授業も終わりだ。それよりも重大なことを思いついたんだ。研究所に行くぞ」

「かしこまりました」

考えてみれば授業も終わりなのでセレスタンを連れて行く必要は無かったかもしれないが、まあいい。

俺たちはここから程近い研究所を訪ねることにしたのだった。


「やあやあやあゼフィルス氏! 久しぶりだな! 君のおかげで研究所は大賑わいだぞ!」

「ミストン所長久しぶりです。上手くいったようで何よりですよ」

研究所に入ると前と同じ部屋に即で通された。

突然の訪問だったのにもかかわらず待ち時間ゼロだ。

研究所職員全員が俺の顔を見た瞬間VIPでも扱うかのようにご丁寧に案内してくれた。むしろ案内役を争っていた。俺はこの研究所では中々の人気者らしい。

というか、全員が俺の顔を覚えていることにびっくりだ。前来たのは1ヶ月近く前のことなのにな。

いきなりアポイントも取らず来てすまない、と告げると全員が首が取れるかというくらい横にブンブン振って。いつでもお越しくださいと声を揃えて言うのだ。ガチ度がヤバい。

そんなこんなあったが、無事に前と同じ部屋に通され、ミストン所長とも対面することができた。

ちなみにセレスタンは俺の後ろに控えている。

「実はあれから王国中の研究者たちがここに押しかけてきてな。そりゃあもう大変だったのだよ。国立研究所のお偉いさん方が頭下げて頼み込んできた時は肝が冷えたぞ」

「それだけミストン所長のしたことは素晴らしいということですよ」

「全部ゼフィルス氏の情報だがな! ハハハハ」

まずは世間話に興じる。

最近の研究所は前のくたびれた様子とは一変し、全てが活気づいているらしい。

ミストン所長も以前より男前に見えなくもない。目の下に隈ができているが。

その原因が俺の情報だというのだから鼻が高いぜ。〈ダン活〉プレイヤーの知識の結晶は、リアル〈ダン活〉の世界を大きく彩り、導いたのだ。

ああ、この感動を〈ダン活〉プレイヤーたちと分かち合えないのがとても、非常に残念でならない。

「それで、今日はどうしたのだ? 前に言っていた〈エデン〉の歓待を受けてもらえるという話か?」

そういえば研究所総出で〈エデン〉を歓待したいと以前ミストン所長に言われていたな。

高位職ばかりのギルド〈エデン〉は研究所にとって垂涎すいぜんまとというわけだ。聞くには聞いたが研究所に持っていくのを忘れてたな。

「その話は残念ですが断られましたよ、自分たちは歓待を受ける理由が無いとのことでした。それに今は他にたくさんの候補がいるでしょう?」

研究所が発表した氷山の一角。

学園が総力を挙げて全1年生にそれを受けさせたところ、今年の高位職発現者は約2000人という、今まで聞いたことも無い大記録を打ち立てることになった。

聞いた話では、おそらく先日のことが歴史の教科書に載るだろう、とのことだ。

それだけの高位職が居るのならわざわざ〈エデン〉に拘る必要は無い。

ミストン所長も、残念だなと言いながら身を引いた。

さて、そろそろ本題に入ろう。

「実は今日ここに来たのは新しい情報のリークのため、なんですよ」

俺がそう告げると、ミストン所長がピキリと固まった。

まるで恐れていたことが起きたみたいな反応だ。ほんの少ししてミストン所長が再起動を果たす。

「そうかぁ。いやすまんな。実にありがたい申し出だ。研究所にとってもこの王国にとってもゼフィルス氏の情報は未来を照らす明るい希望となるだろう。しかしな、実はぶっちゃけた話、今の研究所にそれを受け止められるだけのキャパシティが無い」

ミストン所長が珍しく真剣な表情で言う。つまりマジな顔だ。マジで余裕が無いのだろう。

「知っていますよ。だからこそ今の今まで新しい情報は持ってこなかったんですから」

研究所は今や脚光の的だ。学園どころか国中がこの研究所に注目していると言って良い。そのため、ここ数週間はむちゃくちゃ忙しそうにしていた。

俺もそれを知っていたので第二弾のリークを今まで持ってこなかった。

しかし、このままではいけない。

俺は第一弾の情報として職業ジョブの発現条件をリークした。

そして第二弾として、ある程度の職業ジョブの〈育成論〉を用意していたのだ。

職業ジョブとは、発現して終わりではない。

取得は始まりで、そこからどう育てるのかが真の重要ポイントだ。

調べてみたところ、このリアル世界には〈育成論〉というのはあまり馴染みが無い。というか授業が無い。

自分で調べ、自分の好きなようにステを振っていくのが常識だった。

確かに、誰かの育成を参考にすることもある、むしろそのやり方が一般的だ。

誰だって失敗はしたくない。成功者を参考にするのはよくあること。

だが、育成をゲーム的に進めようという試みはまったくと言って良いほど存在していなかったのだ。ここはゲームの世界なのに。

俺が推す〈最強育成論〉は、まず上級職Lv100の時にある最強の姿を決め、そこに向かってスケジュールを組んで進めていくという、ゲームではありふれたやり方だ。当然妥協も一切無い。

しかし、ここはリアルで、しかも対象が自分自身である。

一度振ったら戻せないというリスクの中、自分のステータスをゲーム風に育成することに大きく抵抗があるのだろう。それに上級職Lv100なんて到達できるかも分からない。いや、ほぼ不可能だ。最上級ダンジョンに進出すらしていないのだから。

よって、その職業ジョブの最強の姿を研究するという試みはまったく無かった。

ほとんどの研究は高位職の発現条件の発見や、どんな行動が職業ジョブの発現に良いのかなどに集約され、高位職になった後はほぼ放置状態、自己責任となっていた。

俺はずっとそれにメスを入れたかった。

いくら高位職に就いていようと、下手なステ振りは身を滅ぼす。

ゲーム時代、その場その場でステ振りして、結果役に立たないザコキャラを多く生み出してしまった俺が言うのだ。間違いない。

ステ振りは計画的に。これ重要。

もう5月に入り、1年生たちの職業ジョブは固まった。

本当なら今すぐ〈育成論〉を広めておきたいところなのだ。

しかし、研究所は念願の大望が叶い、今やその研究でてんやわんや。

とても新しい研究に手を出す余裕は無いと聞く。

さてどうしたものかと、ここ最近ずっと考えていた。

その答えがさっき閃いた。

───研究所が使えないのなら、俺が直接教えたら良いじゃない、と。

前に研究所にリークしたのは情報を素早く広めるためだった。

なので別に研究所に拘る必要は無かったのだ。前例とは恐ろしい。

ということでミストン所長にご相談。

ここの研究所は、学園の授業内容を決めることもできるらしいからな。

「ミストン所長、俺を臨時講師にしてみる気はありませんか?」


研究所での話し合いが終わりその帰り道、セレスタンが俺に問う。

「よろしかったのですか? 臨時講師をするということは、楽しみにしていた選択授業を受けられなくなりますが」

「まあ、これもこれで楽しいからな。それにたった1学期だけだ。2学期からは選択授業を受ける側に回るから問題無い」

男2人の帰り道でセレスタンの問いに答える。

あの後、俺の要望はびっくりするほど簡単に通った。

学生が臨時講師なんてして大丈夫なのか? とも思うが特に講師に年齢制限や規則は無く、実力と知識さえあればいいらしい。さすが実力主義の世界だ。

俺の担当するのは選択授業、金曜日のみ俺は臨時講師として学生に〈育成論〉について教えることになった。それ以外の曜日は普通に学生として授業を受ける。

職業ジョブの育成の仕方についての授業なんてこれまで皆無だったので、ミストン所長も興奮した様子で、「絶対受講します!」なんて言っていた。いや、あなた学生じゃないだろう。

期間は1学期、つまり夏休みまでの期間だけだ。

最近では学校は前期後期の2学期制に変わってはいるが、ゲーム〈ダン活〉の世界はまだ3学期制を採用しているためだな。おそらくこの3学期制は開発陣の感性によって作られたのだと思われる。

え? 3学期制の1学期のみって少なくない? と思うかもしれないが、〈育成論〉については最初が何より大事なので、俺が教えるのも最初だけだ。むしろ後半は教えても意味が無い。

Lvが6075カンストになってから受講したいなんて言われてもこちらも困るので、1学期のみとなった。

〈育成論〉とはLvが上がりやすい低Lvの時から道を真っ直ぐ決めて挑むもの。

つまり、俺の授業を受けてほしいターゲットは1年生だ。

ある程度Lvが上がってしまうとLv上げが難しくなってしまい方向修正もできにくくなる。無駄に振ってしまったSPも多いだろうから知らない受講しないほうが幸せだ。上級生には基本的に受けさせない方向である。

これがさっき閃いたこと、研究所がダメなら俺が臨時講師になれば良いじゃない、だ。

そのまんまだな。

とりあえず目指すのは〈エデン〉のメンバーになり得る人材を発掘することだ。

講師なら学生と接する機会も多い。光る人材はスカウトし放題だ。ふはは!

あとは、学園全体のスキルアップのためでもあるな。

現在この世界では上級ダンジョンの攻略で停滞している。

理由は〈上級職〉が少ないというのもあるが、基本的に育成方法を知らなさすぎるので弱いのだ。ステータスが。

ちゃんとしたステ振りさえ出来れば上級ダンジョンでもやっていけるだろうに。

ということでそこら辺も修正していきたい。

このままでは俺たちが上級ダンジョンをクリアしたら一強いっきょうになりかねない。

それはそれで自尊心は満たされるだろうが、ゲームとしてはライバルがいなくてつまらなくなってしまうだろう。

俺たちと張り合うレベルの強いライバルギルドが欲しいのだ。

そんな願望もあるので、今回の臨時講師は少し気合いを入れようと思う。


話が決まってからは職員室に行き、臨時講師の手続きを行なった。

週末の夕方にすまないと思うが、ミストン所長はまったく気にしていなさそうに手続きをしてくれた。むしろ生気に溢れている表情をしていた。目の下の隈がいつの間にか消えているレベル。ちょっとヤバいかもしれない。

俺の初講義は来週の金曜日からだ。

ミストン所長が高位職に就いた学生たちを中心に声を掛けてくれるそうなので、それなりに受講者も増えるだろうとのことだ。

来週が楽しみだなぁ。


明けて土曜日。

今日は学園が休み、つまり1日ダンジョンアタックができる日だ。というわけでダンジョンに行く。

ギルド部屋に全メンバーが集合する。

「これよりミーティングを始めるぜ!」

「テンション高いわねぇ……」

朝からシエラにジト目をいただいてしまった。ラッキー、これは運が来ているかも知れない。

冗談は置いといて、順にメンバーの成果や報告などを聞く。

最初はぎこちなかった新メンバーも、今日はスムーズに報告をくれる、少しずつ慣れてきた様子だ。

この報告は、ゲーム時代とは違いワンタップでメンバーのステータスを確認できないため必要なこととして〈エデン〉のローカルルールとなっている。

誰がどのくらいのLvで、どのダンジョンをクリアしているのか、どのダンジョンを途中まで進めているのかというデータを最低でも1週間に一度は求めることにしていた。

これがわりと好評で、他のメンバーに後れを取らないようにとギルド内でのモチベーションアップに繋がっていたりする。

メンバーの報告は全てサブマスターのシエラが〈『書記』の腕輪〉を装備して書き留めてる。いつもありがとうございます!

またセレスタンから一つ報告を受けた。

「公爵の御一方おひとかたにアポイントが取れました。明日であれば時間が取れるとのことです」

「お、そうか! 助かったぜセレスタン」

先週セレスタンに頼んでいた1年生にいる「公爵」家の子の勧誘についてだ。

確か2人「公爵」のカテゴリー持ちがいるとの話だが、セレスタンの話によれば片方はすでに上級生のギルドに在籍してしまい、勧誘は断られたとのことだ。

もう一方からはしばらく音沙汰が無かったが、昨日の夜にセレスタンのほうに返事が来たらしい。

加入を検討中とのことだ。こりゃ明日は気合い入れないとな。

セレスタンに礼を言って、次に本日のダンジョンアタックのほうに話は進んでいく。

「次にパーティメンバー分けについてだ。今日は先陣メンバーで先週の〈丘陵の恐竜ダンジョン〉の続きを攻略したいんだが、どうだろうか?」

「いいわね! 私は賛成よ!」

「私も良いと思う!」

ラナがまず賛成を示し、ハンナもそれに続く。

エステルはラナが向かうなら付いてくるため、後はシエラだが。

「私も構わないわよ。──異論がある人はいるかしら?」

「ぶーぶー、今日は練習で磨かれたルルの成果をシエラに見せたかったのです」

「悪いなルル。明日はシエラを取らないから今日は貸してくれ」

「冗談なのです。ルルは我慢ができる子なのですよ。どうぞどうぞなのです」

「私を物扱いするのはやめてくれるかしら」

ルルが微妙に唇を突き出す表情で抗議していたが、しかし可愛いとしか思えなかった。もっとやってくれていいぞ。

しかし、シエラは顔が広いしタンクとして優秀なので引っ張りだこだな。

結局俺たち先陣メンバーは中級下位ダンジョンに行くことに決まり、残りのメンバーは5人がダンジョンへ、残り2人が練習場で練習するとのことで決まり、ミーティングは終了となった。

俺たちは楽しみにしていた〈丘陵の恐竜ダンジョン〉攻略の続きだな!