第3話 選択授業の見学へ行こう! まず〈採集課〉から!

〈国立ダンジョン探索支援学園・本校〉通称:迷宮学園・本校。

本校に通う男子学生は基本的にプライドが高い。

〈ダン活〉の世界では16歳になると職業ジョブに就いて学ぶため、学園に3年間通うことが義務づけられている。

つまり、どの学園に通うのか、というのも大事なステータスになってくるのだ。

迷宮学園本校卒業生、その肩書きだけでも一目置かれるのである。つまり学歴が最高峰。

そう言う意味でこの2万人の学生が在籍する迷宮学園・本校は非常に倍率が高い。

シーヤトナ王国でもダントツでダンジョンの数が豊富で、学び舎の質も高く、優秀な卒業生を毎年輩出する国一番の学園と名高い。本校に入学するには何かしらの才能か、コネのようなものが必要になってくる。

当然、そんな場所に入学出来た学生は増長する。俺は選ばれし子どもなのだと。子どもあるあるな勘違いだな。

まあ、そんな増長も大体は1ヶ月でへし折られる。測定とかで。

しかし、挫折を知らず調子に乗りまくってここまで来てしまった学生はプライドと鼻が高ーく育ってしまうことがあるのだ。特に男子学生。

女子学生はそうでもないのだけどな。もしかしたら〈ダン活〉の特性上、女子の方が強力な職業ジョブに就きやすいがために、強ジョブを持つ男子学生の希少性というか需要とかが上がって、本当に自分のことを選ばれた人間と思ってしまうのかもしれない。

クラスの男女の割合も、女子19人、男子11人だったしな。

まあ、そんなこんなで自己紹介の悲劇(?)は起きてしまったのだった。

すまんなサターン。上には上が居るって事で元気を出してくれ。


さて、色々とあったロングホームルームも終わって少々の休憩時間。

早速俺の席に近寄ってきたラナが言う。

「ゼフィルスよく言ったわ! 面白かったわよ」

王女がナチュラルに良い見世物みせものを見たとでもいうような発言をした事で前の席の4人がさらに灰色に近づいた気がしたが、きっと気のせいだろう。

ラナはそれだけ伝えるとエステルとシズの下へ去っていった。今の、多分俺を褒めてくれたんだよな? だから4人の同級生よ、強く生きてほしい。撃沈させたの俺だけど。

「ゼフィルス様、参りましょうか」

「ああ、できるだけ多くの場所を回りたいな」

セレスタンが席に迎えに来たので立ち上がる。これから選択授業の見学に向かうのだ。

ロングホームルームでも説明されたとおり、〈ダン活〉の授業には選択授業がある。

毎週金曜日は選択授業の日だ。全6コマを自分の好きなように授業を組んで、将来の夢へと邁進する。

そして今日は5月3日金曜日。上級生が受けている選択授業を自由に見学して良いとのことなので俺はセレスタンとできるだけ多くの授業を回るつもりだ。やはりリアル〈ダン活〉に来た以上、勉強も全力で楽しまなくてはいけない。

「まずどちらから回られますか?」

「戦闘課の校舎以外の近場からどんどん回ろう。実技、座学共にへだて無く行きたい」

「かしこまりました」

俺はセレスタンを連れて教室を出た。他のメンバーもそれぞれで行きたい場所があるとのことなので別行動だ。時間は有限だしな。俺の場合、多分今日中に回りきれないだろうし。

とりあえず〈戦闘課〉の校舎で行われている選択授業は普通のカリキュラムで習うだろうし後回しにする。

まず来たのは〈ダンジョン攻略専攻・採集課〉のある校舎だった。

ここでは主に採集をメインとした授業を教えている。〈採集〉とは採取、伐採、発掘、釣り、エトセトラと、戦闘せずに持ち帰れる物全般を指す。

〈戦闘課〉でも特産の授業科目で色々と教えてくれるが、どちらかというとモンスタードロップがメインであり、採集で手に入れる素材や資源の類いはこの部門の方がより深く教えてもらえる。採集出来るダンジョンとか、採集品がどのくらいの値になり何に使われ、どの地域に需要があるのかなどなど。

あと〈戦闘課〉とは関わり合いの深い課でもある。〈採集課〉の全学生は学園側から格安で〈『ゲスト』の腕輪〉を使わせてもらえるため〈戦闘課〉のパーティに付いてくる事がままあるのだ。逆に〈戦闘課〉がこの採集素材が欲しいと〈採集課〉に依頼することもある。

〈戦闘課〉が〈採集課〉をダンジョンの奥に連れていき、対価に〈採集課〉が採れた素材や資源の一部を提供する。将来的にも役立つ持ちつ持たれつの関係である。

そんな学科の選択授業を何個か見学してみたが、残念ながら、あまり手応えは無かった。

俺の〈ダン活〉知識が深すぎるせいで、それ全部存じています状態だったのだ。

自分の知識量が憎い。いや別に憎くない。素晴らしいと思っている。

残念ながらここでは俺の〈ダン活〉知識欲を刺激してはくれないようだ。

しかたない、場所を変えるとしよう。

次に近いのは同じ校舎にある〈ダンジョン攻略専攻・調査課〉だが、ちょっと微妙。〈調査課〉は主に斥候職の集まり処、ダンジョンでの調査、異変などを主に調査したり、〈戦闘課〉とパーティを組んだ時に斥候役をしたりする課であるが、俺にとってはダンジョンは調査するまでも無いのでパスである。

となると次に近いのは〈罠外わなはずし課〉だな。こっちは断然興味がある。

「じゃあ次は〈罠外わなはずし課〉の方へ行ってみるか」

「かしこまりました。ゼフィルス様は楽しそうですね」

「お、そうか? そうだろうな。セレスタンも楽しめ。無理に俺と一緒の授業に合わせる必要は無いぞ?」

「いえ、僕は授業を楽しむというのは苦手な性分なので」

「まあ、無理にとは言わないさ。授業が楽しくないという話も分かるしな。だが、どんなことでも楽しんだ者勝ちというのはあるぞ。楽しんだ方が勉強だって早く身につくだろうしな」

「肝に銘じておきましょう」

楽しいと思える授業を見つけるのが今回の選択授業なのだが、セレスタンは堅いなぁ。

まあ、セレスタンが興味を持つ授業が無いか、探してみるのも楽しいかもしれない。

とそこでセレスタンと雑談していると声を掛けてきた人物がいた。

「あ、あの、ちょっとよろしいでしょうか?」

「ん?」

振り返ってみると、ずいぶん小柄な男子学生が目にとまる。いや、男子学生か? 下は俺やセレスタンと同じズボンだが、顔立ちが小顔で若干女の子寄り、正直スカートの方がよく似合いそうな男子だった。ちょっと縮こまり気味で小動物っぽいイメージを抱く。

「今〈罠外わなはずし課〉の方へ行くって聞こえて。もしよかったら一緒に行きませんか? ぼくも〈罠外わなはずし課〉の選択授業に興味があって」

なるほど。どうやら先ほどの会話を聞いて声を掛けてきたらしい。

ここに居るということは〈採集課〉の学生だろうか?

「あ、あの。どう、ですか?」

「ああ。いいぞ別に。セレスタンはどうだ?」

「構いませんよ。ゼフィルス様のお好きにどうぞ」

勇気を出して話しかけてきてくれたのだ。せっかくなので一緒に行くことにした。

しかしセレスタンの呼び方に彼(?)が一瞬でギョッとした顔になる。

「え、様って、あのもしかして御貴族様でいらっしゃいましたか!? ぼく無礼を!」

「ああ違う違う。俺は普通の村人出身だから貴族じゃないぞ。だから普通に話していいから」

土下座でもしそうな勢いだったので手で制する。うーん、ハンナもだったけど、御貴族様ってこういう反応が普通なのか?

「えっと、でも様って、あれ?」

「さ、時間は有限だからちゃっちゃと〈罠外わなはずし課〉に行こうぜ」

「あ、ま、待ってください」

なんか混乱しているようなので無理矢理話題を戻して歩き出すとわんこのように付いてきた。

こうして〈採集課〉で出会った学生とセレスタンと3人で〈罠外わなはずし課〉へ向かうことになった。

その途中の自己紹介で俺が【勇者】だと知り、彼(?)が悲鳴を上げて驚いたのは面白かった。

「あははは! そんなに驚くことないじゃんか」

「い、いや、驚きますよ! 【勇者】って言ったらぼくたちの時代の星じゃないですか! そんな雲の上の存在どころか天空の存在と話すなんて恐れ多いです!?

ほう。【勇者】を天空の存在と例えるか。言い得て妙である。ちなみに俺のダンジョン装備は天空シリーズって言うんだぞ。

俺たち3人は〈罠外わなはずし課〉へ移動を開始。

その途中に自己紹介したら、思いっきり良いリアクションだったので大笑いしてしまった。

どうやら【勇者】という存在は一般人の同級生にとって遙か彼方の存在という認識らしい。

おそらくハンナも昨日似たような扱いを受けたのだろう。その様子、ちょっと俺も見てみたかったなぁ。

「というか、何故〈採集課〉に来ていたのですか? 【勇者】と言えばもっとこう、高貴な者が通う授業とかに出席するものかと思っていました」

「それは思い違いだな。俺は職業ジョブが【勇者】なだけであって仕事が勇者ってわけじゃないぞ? 〈採集課〉に行っていたのはちょっと興味があったからだな。今は無くなってしまったが」

「な、なるほど。確かに職業ジョブと実際の仕事は別物でした。失礼しました」

なんかよく分からないがごまかせてしまった。

素直な子なのだろう。とりあえず落ち着いたようなので自己紹介の続きをする。

「あと、こっちが俺の従者をしている【バトラー】のセレスタンだ」

「セレスタンと申します」

「それで、君は?」

「あ、どうもです。ぼくは【ファーマー】のモナって言います。よく間違われるのですが男です」

あ、気にしているらしい。まあ、声まで中性的だからなぁ。おそらく女装が凄く似合うぞ。

「おう、よろしく。【ファーマー】って事は〈採集課〉か?」

〈ダン活〉の世界では全ての資源がダンジョン素材で賄われている。そのため〈ダン活〉の【ファーマー】は農夫ではなく採集系の職業に分類される。特に〈採取〉に特化しており、採取したドロップの品質上昇や量倍はもちろん、採取ポイントの回復を早めたり、採取ポイントを探知するスキルなどに優れている。また、戦闘職では採取出来ないレア素材が確保出来たり、【ファーマー】でないと採取出来ないポイントなんかもある。ちなみに中位職だ。

あと一応攻略専攻に分類されているため多少はモンスターと戦うすべも持っているな。

「はい。本当は戦闘職になりたかったのですが、ぼくは体格的にも性格的にも戦闘向きではなくて」

「だろうなぁ」

思わずしみじみと言ってしまった。見た目か弱い系だもんな、モナって。

「それで、なんで〈罠外わなはずし課〉の選択授業に?」

「罠外しの技能もあれば採取がより捗ると思って」

罠外わなはずし課〉は主にダンジョンに潜り、罠を解除&ゲットして持ち帰るのが仕事だ。ダンジョンの罠も立派な資源である。しかも普通の資源よりアイテム寄りなので価値が高い。ダンジョンのトラップも解除出来て2度美味しい。それが〈罠外わなはずし課〉だ。

〈ダン活〉ではダメージ床の罠すら持ち帰ることが出来るので、モナはそういった採取系罠を狙っているらしい。

「ですが、ぼくは一昨日職業ジョブに就いたばかりです。まだLv0の新米なので専属も居ませんが、これから頑張る予定です」

ちなみに専属とはギルド間やパーティ間で結ばれる契約で、ギルドの加入とは別扱いになる。

これを結んでいると〈採集課〉の学生は定期的に契約したパーティに同行しダンジョンに付いていく事が出来る。〈採集課〉の学生の安定した収入源であり、ステップアップの機会だ。

まあ専属を結べるのは優秀な学生に限られるが。

専属が結べなければ野良で学園側から依頼クエストのあった採取依頼や、野良募集の一時パーティに参加することになる。こちらはあまり実入りがよろしくなく、競争率も高いらしい。

そのため〈採集課〉の学生は専属を作ることを第一の目標にするのだ。

「そうか。いいなぁモナ」

やる気と目標があってそれを目指して邁進するモナの姿は実に俺の心を刺激してくれる。

俺はこういう目標に向けて頑張っている人、頑張ろうと努力する人が好きだ。なんか手助けしたくなってくるし、報われてほしいと思う。

なので少しだけ手伝ってみようと思う。これも何かの縁だしな。

「そうだな専属はまだ無理だが、モナがこれからも頑張るなら俺の探索に少しくらい連れてってもいいぞ」

「え、本当ですか!?

「おう。真面目に頑張るなら、だがな。いいよなセレスタン?」

「ええ。僕は構いません。ゼフィルス様のお好きにしてよろしいかと」

「わぁ! ありがとうございます! 頑張ります! ぼく凄く頑張りますから! よ、よろしくお願いします!」

俺が誘うとまた土下座する勢いでガバッと頭を下げるモナ。

とりあえずここは往来なので手で制する。

「ああ、ゲザらなくていいから。とりあえず連絡先のIDを教えてくれ」

「はい! ……あ、あの〈学生手帳〉の使い方がまだよく分からなくて、教えてもらっても良いですか?」

「あははは! 前途多難だなぁ」

モナは〈採集課9組〉らしい。それだけ優秀な人物からは遠い位置に居る。

本当に自分なんかで良いのかと再三確認してきたが、うむと頷いておいた。

とりあえず1組に負けないくらい育て上げてやるから覚悟しておけ。

これで優秀な採取人ゲットだぜ。

あとは、伐採の【コリマー】、発掘の【炭鉱夫】、釣りの【フィッシャー】辺りとも契約したいなぁ。

あとでモナに紹介してもらおう。


「ここが〈罠外わなはずし課〉ですかぁ」

「やっぱ最初に見るとビックリするよな。この練習場」

モナが目と口をポカンと開けて見るのは〈ダンジョン攻略専攻・罠外わなはずし課〉の練習場だ。

何と言うか独特な建物で、一言で言えばアスレチック。

〈戦闘課〉のだだっ広いだけの練習場とは違い、様々な模擬的な罠がいくつも試せるようになっている、罠のアスレチック施設である。

景観も独特でサーカスのテントっぽい建物に色とりどりで、統一感の無い模様が書き殴られるようにしてえがかれている。

選択授業では、主にこの中で無数に設置してある罠を発見、解除、そしてお持ち帰りするために腕を磨くのだ。今は上級生がここで腕を磨いている最中のはずだ。中からなにやら悲鳴が聞こえてくるし。それを聞いてモナがビビる。

補足すると、ここの施設には今まで発見された全ての罠が設置されているという噂だ。

「とりあえず入るか」

「な、なんか威圧感があるのですが」

「大丈夫だって。何か罠に引っかかってもHPが全部受け止めてくれるから」

「あの、ぼくHPが初期値……」

そんな会話をしつつセレスタンとビビってるモナを引っ張って中に入場する。

中は体育館以上に広い。

様々な罠が目に入り、その前で四苦八苦解除に勤しむ上級生たちが見える。

基本的に罠はスキルで解除可能だが、お持ち帰りするには相応のDEX値とスキル、技能がいる。あとアイテムとかだな。結構難易度が高いんだ。その分実入りは良い。

現在ここで授業を受けているのは選択授業を受講した上級生たちなので、本業の学生はいない。そのせいか至るところで罠に掛かっている上級生が続出しているな。ちょっと面白い。

俺たちの他にも1年生が見学しており、中には体験学習を受けている者もいる。

あ、罠に掛かった。遠くに見えた1年生男子が棘のついた栗に埋もれているのが見える。あ、無事救出された模様。

「あ、あわわ。すごく難しそうですが!?

「大丈夫だってDEXが高ければ解除なんて余裕だから」

「あの、ぼくDEXも初期値……」

まあ、俺もそんなに高くはない。

【勇者】には『直感』があるので罠は見つけられるのだが、解除スキルはないのでけるか、アイテムを使って破壊するかしかない。

ゲームでは解除できるかはスキルやDEXを始めとするいろんな要素によるパーセンテージだった。所謂「この罠を解除できる確率60%」というやつ。解除も破壊も失敗すれば発動します。

上手く解除できれば持って帰れるので、できればどうやって解除するのか、手順や技術を知っておきたい。リアルならなんかその辺も補正掛かってそうだし。技術があればスキルのLvが低くても解除できます的なやつを期待している。

将来的に俺でもアイテムだけで罠解除出来るのか、その辺も知りたいね。

ちなみに罠は初級上位ダンジョンから現れ始める。

中級ダンジョンではそこそこ出てくるようになり、ダンジョンの難易度が上がるに比例して罠の数がどんどん増えていく仕様だ。

ダンジョンで罠の宝箱が生えてくるのは中級ダンジョンからで、たまーに行き止まりなどに宝箱が生えている場合がある。採取ポイントなんかと一緒の扱いだな。

この生える宝箱はたまに罠が仕掛けられているので罠の破壊か解除が出来るキャラが居ると非常に役立つんだ。

今の所、俺たちが見つけた罠ってほぼ破壊か無視しているからな。

出来ればゲットのやり方は習っておきたいところ。

解除できなかった時は身を犠牲にすることになるのだけど。ドカンッ。

そんな事を考えながら見回っていると、とある男性教師と目が合った。

男性教師がニカッと笑ったかと思うと声を掛けてくる。

「そこの1年生、体験してみるか?」

どうやら〈罠外わなはずし課〉の教師らしい。

ふむ、せっかくのお誘いだし、体験してみたいと思っていたのでちょうど良い。3人で体験させてもらうことにした。

「「「よろしくお願いします」」」

「おう。俺はガイス。ナイスガイなガイス先生と覚えてくれ」

なかなかユーモアのある先生のようだ。ナイスガイかは、ちょっと分からなかったが。

「とりあえずこれを解除してみようか。罠を解除した経験はあるか?」

そう言ってガイス先生が指さすのは典型的な矢が飛び出るブービートラップのようだ。

ロープが張られ、仕掛けに矢が備え付けられている。

簡単な仕掛けっぽいがとりあえず罠を解除したことは無いので首を振る。モナも同様のようだ。セレスタンは何故か首を振らない。え、罠の解除経験有るの?

「罠の解除くらい出来なくては良い執事には成れませんから」

「そんな基準は初めて聞いたぞ」

さすが〈ダン活〉、奥が深い。まあセレスタン個人のこだわりだろうけど。

ちなみにセレスタンは『宮廷作法』にSPを振っている関係でDEXをそこそこ育てている。

アイテムさえ万全なら罠解除も出来るだろう。もしかしたら良い鍵開け師になれるかもしれない。

「では、早速やってみます!」

トップバッターはモナだ。上手く解除出来ればロープと仕掛け、そして矢をゲット出来る罠だ。初歩の初歩らしいがモナにとっては貴重な収入源になり得る事もあって燃えている。

「よし、まずはこれを受け取れ。小道具だ。使い方を説明するな」

ガイス先生から罠外し用のアイテム、〈花の七つ道具〉という花柄の小道具が渡された。

「……あの、ガイス先生。なぜ花柄を?」

「似合いそうだったからだが?」

「……そう、ですか。ありがとうございます」

しかし、先生がまさかの花柄小道具をチョイスした事でモナのテンションは一気に沈下した。女物っぽい小道具を凄く微妙そうに見つめている。女物に何か思うものがあるのかもしれない。

ガイス先生に悪気は無さそうなのでおとなしく礼を言って受け取るモナ。

「よっし、では基本的な事を教えるぞ。そっちの2人もよく聞いておけ」

こうして体験学習が始まった。


「ああ、また失敗してしまいました」

「まあ、モナはまだステが初期値だからな。色々とこれからだろ」

先ほどのブービートラップからいくつかの罠の解除をやらせてもらった。ガイス先生は良い先生だ。あれやりたいと言えばやらせてもらえるし、これやってみたいと言えばやらせてもらえた。罠外しって結構楽しい。

そして現在、モナの手元が滑って罠が発動してしまい頭に鉄球、に似たぬいぐるみがポフっと落ちてきた。幸い模擬的な罠なのでダメージは負わないが、これが本物の鉄球だったらモナは今頃戦闘不能だろう。

とりあえず慰めておく。これからこれから。

「ゼフィルスさんとセレスタンさんは良いですよ、全部成功で。でもぼくは全部失敗じゃないですか。あまり才能が無いのでしょうか」

「いや、最初のブービーは解除出来てたじゃないか」

「いえ、あれは設置された矢を取るだけでしたし。誰でも出来るのでノーカンです」

「意欲あるなぁモナは」

失敗してもへこたれず向上心を見失わないモナ、このまま邁進すればきっと上手くいくだろう。とりあえずLv上げしようぜ。

「出来ました」

「凄いな1年生。こいつは2年生でも出来ない奴は多いってのによ」

セレスタンの方は、なんだか中級中位ダンジョンで出てくる罠を解除しちゃったらしい。

ガイス先生がむっちゃ驚いている。

マジでセレスタンって何者だ? リアル執事って凄い。

ちなみに俺は中級下位ダンジョンで出てくる罠をいくつか解除してみたが、意外と全部出来た。DEXは50にすら届いていないんだが、『直感』の影響か妙に勘が良くって、なんとなくここをこうすれば~的な感じでイケてしまった。俺はいつから天才肌になったのだろうか。リアル能力って素晴らしい!

色々体験させてもらえたので今回はここまでにしておく。いやぁ貴重な体験だった。

モナはもうちょっと〈罠外わなはずし課〉で体験したいというのでここでお別れすることになった。

「じゃ、モナまたな。あ、これ渡しておくから後で読んでな」

「なんですかコレ?」

「俺の【ファーマー】オススメ育成論」

モナに渡したのはいつものメモだ。少し違うのは最強育成論ではなくオススメ育成論であるところ。

ギルドメンバーに渡すような最強の到達点が書かれているものではなく、こういう風に育てる方法がオススメだよという類いのものでしかないが、下手に育てられると取り返しがつかないので渡しておいた。

何しろモナはLv0のまっさらな状態だ。今からちゃんと育成すれば確実に〈採集課1組〉を超えられると思う。

「はえ?」

モナはそれを聞いてとても可愛い声を出して首を傾げた。ちょっと、本当にモナは男子なのか?

それも少し気になるところではあるが、俺はまだまだ回りたい学科がたくさんある。

モナにはまた連絡すると約束して〈罠外わなはずし課〉を出発することにした。

「ゼフィルス様、罠外しの授業はいかがでしたか?」

「大満足だ。早くもここにしようか迷っている! とりあえず候補だな」

選択授業は最高で6コマ分の受講が可能だ。罠外しの授業は2コマ分なので選んでしまうと早くも残り4コマになってしまう。とりあえず候補にだけ入れておき全部見てから決めるとしよう。

「よっし、どんどん行くぞ!」

「お供いたします」

宣言通り、セレスタンとどんどん回った。

〈生産専攻〉に行き、武器、防具、アイテムの作製を体験したり、〈営業専攻〉ではスーツに着替え、窓口業務なんかも体験した。

〈生産専攻〉では、やはりDEX値の差はいかんともしがたくセレスタンに惨敗だった。

とはいえ〈腕輪Lv1〉系の装備で作った初心者装備とアイテムだったのでそんなに差は無いのだが、セレスタンは何故か高品質をいくつかたたき出していた。

ちなみに俺は普通品ばっかりだった。失敗はしなかったので誰か褒めてほしい。

〈営業専攻〉では俺とセレスタンのスーツ姿が何やら脚光きゃっこうを浴びた。

俺とセレスタンが同時に「いらっしゃいませ、お嬢様」と言うとフラフラ吸い寄せられるようにして俺たちの窓口に殺到したのだ、女子が。

というか一緒に体験授業を受けて窓口に居たはずの子も何故か並んでいたりした。

なんだろうこれ、これも勇者の力なのか!?

「ね、ねえあれ。凄くいい」

「うん。カッコイイよねぇ。ダンスとか踊りたい」

「癒やされるわ、あの方々。何者かしら」

「あなた知らないの? 有名な方ですのに」

「え? だ、誰なのかしら」

「装備してなかったら分かりづらいよね、彼らは今をときめく〈エデン〉のギルドマスター【勇者】ゼフィルスと、あの最高の少年執事、〈微笑みの執事〉セレスタンよ!」

「な、なんですって!? はっ、た、確かによく見ると【勇者】君と〈微笑みのセレスタン〉ですわ! ち、違うんですのよ! スーツの魅力に抗えなかったんですの!」

「ふふふ、にわかですわね」

なんか女子たちが妙に騒がしかったのが印象的だった。

うーん。〈営業専攻〉はパスしておこう。なんかその方が良い気がした。

その後も各専攻を順番に回っていき、時にはラナとエステルたち従者メンバーズに出会って一緒に体験授業を受けたり、時にシエラとルルと会って一緒に体験授業を受けたりした。なんか学園祭っぽくて楽しい一日だった。

まだ全部は回り切れていないが、そろそろ放課後なので〈戦闘課〉に戻る。

続きは来週に取っておくとしよう。

そこでふと思い出す。

そういえばハンナとは会わなかったな。結構〈戦闘課〉のメンバーとはばったり会ったりしたのだが、未だにハンナを見かけない。どこ行っ────。

ドゴーンッ!

その時〈練習場〉の方で何やら爆発した音が響いてきた。

巨大な爆発音に思考が一瞬で切り替わる。

「何事でしょうか?」

「あ~、分かった。セレスタンはそんな警戒しなくていいぞ」

一瞬で俺を守れる位置についたセレスタンを手で制する。

この爆発音は聞き覚えがあった。セレスタンを連れて練習場に向かう。

ドゴーンッ! ドゴーンッ! ドドドゴーンッ!

近づくまでに断続的に爆発音が響いてきた。そしてやっと到着する。

「やっぱ音の正体はハンナだったか」

爆発音が響く中、練習場に立つ影は俺のよく知っている人物、ハンナだった。

「ゼフィルス君? わーゼフィルス君やっと会えたー。もうどこ行ってたの? せっかく〈戦闘課〉に来たのにみんな居ないし、寂しかったんだから!」

「いや、〈戦闘課〉の選択授業は対象外だっていうか……」

どうやらハンナは〈戦闘課〉の選択授業を受けていたらしい。周りを見ると何かで破壊された的が散乱していた。ちょっと焦げている。ハンナの新しい武器は着々と磨かれているらしいな。

ちなみに的はダンジョンの壁みたいなものなので時間が経てば再生するぞ。あ、もう再生し終わってる。早い。

なるほど、ハンナは〈戦闘課〉の選択授業を受けていたから会わなかったようだ。

とりあえず、俺は〈戦闘課〉の選択授業を受講する気は無いと伝える。

「え!? 〈戦闘課〉の選択授業受けないの!?

「いや、どうせ普通に習うからな。選択授業で取る意味無いし」

「がーん」

ハンナ痛恨のダメージ。

思わぬ展開にハンナは膝から崩れ落ちたのだった。

最後はなんか、締まらなかったけど、これにて今日の選択授業は終了。