僕達が固い握手を交わすと、周りに居た皆から「おぉ」と驚嘆の声が上がる。これで、現グランドーク家を徹底的に潰す大義名分は整ったわけだ。

「リッド殿、少しよろしいですかな」

内心でほくそ笑んでいると、カーティスに声を掛けられた。

「うん。どうしたの」

「バルディア家が決起するアモン殿の後ろ盾となり、現状のグランドーク家を根本から変えていく、というのは賛同できます。しかし、狭間砦に侵攻している数万の大軍はどうお考えなのですかな」

「現地で状況を見ないと何とも言えないけど、考えていることはいくつかあるさ。それに……」

「リッド様!」

言い掛けたところで、可愛らしい声が辺りに響く。振り向けば、こちらに走ってくるファラの姿が目に入った。

「ごめん。また後で」

カーティスに告げて前に出ると、彼女は僕の胸に飛び込んできた。

「ご無事で良かったです」

「ファラ、君も無事で良かった」

抱きしめつつ、背中を優しく叩くと彼女と目を合わせる。

「でも、駄目じゃないか。君が出てきたら、アスナが君に変装した意味がなくなっちゃうよ」

この場に居るもう一人の『ファラ』に目をやったその時、ジェシカがやってきた。

「私達もお止めしたのですが、申し訳ありません」

彼女は、深く頭を下げた。ジェシカは、エルティア母様の元部下らしいから本気で止めたんだろう。ファラは、バツの悪そうな表情を浮かべた。

「すみません。ですが、外から爆音が聞こえてきて、皆のことが心配で居ても立ってもいられなくなったんです。それで外を見たら、リッド様のお姿も見えたので」

「そっか。心配してくれてありがとう。でも、この襲撃の狙いの一つは君と母上だったから、ジェシカやアスナ達の判断は正しかったと思うよ」

「う、申し訳ありません」

此処に来たことが軽率だったと理解したらしく、彼女はしゅんとして耳が下がってしまう。僕は目を細めると、ファラの頭に手を置き優しく撫でた。

「次からは待っていてね。必ず僕が迎えに行くからさ」

「は、はい。畏まりました」

彼女の顔色はさっきよりも明るいし、耳も上がったから大丈夫かな。ちょっと、顔が赤いのが気になるけど。

「リッド殿。失礼ながら、そちらの方はどなたでしょうか」

「あ、そっか。紹介がまだだったね。彼女が僕の妻だよ。ファラ、彼は『アモン・グランドーク』。狐人族の新たな部族長になる、僕の友人さ」

彼女は一瞬きょとんとするが、すぐに意図を察してくれたらしい。威儀を正して彼の前に歩み出た。

「初めまして、アモン・グランドーク様。リッド様にご紹介あずかりました『ファラ・バルディア』でございます。以後、よろしくお願い申し上げます」

「え!? あちらの方が、ファラ殿ではなかったのですか」

彼は目を丸くし、この場にいるもう一人のファラ。もといアスナを凝視した。

僕がアスナ達とした先程のやり取りは、茫然自失ぼうぜんじしつとなっていたアモンの耳には入っていなかったらしい。

「恐れながら、私はファラ様の専属護衛。アスナ・ランマークと申します。以後、お見知りおき下されば幸いです」

畏まったアスナが鬘を外すと、彼女の赤みがかった桃色の髪が宙を舞うようにあらわになった。

「な、なんと……」

アモンは開いた口が塞がらない様子だったが、ハッとして咳払いをする。

「ご挨拶が遅れて申し訳ない。改めて、アモン・グランドークと申します」

三人が自己紹介を終えたのを見計らい、僕はファラの耳元に顔を寄せた。

「ファラ。ところで、母上は大丈夫かな」

「はい。私と一緒に避難室にいましたから。ただ、お母様も心配しておりましたから、後でお顔を見せてあげてください」

「うん。わかった」

僕は、ほっと胸をなで下ろす。彼女が此処にいる以上、母上も無事であることは想像に難くないけど、不安は少しあったからね。

「リッド様! 応答願います」

受信機からサルビアの声が響いた。

周りにいる皆に目配せし、僕は通信魔法を発動する。

「こちら、リッド。どうしたの」

「今し方、団員を通じてライナー様より入電。本屋敷では、狐人族の爆発による重症者多数。また、本屋敷は半壊状態。新屋敷の被害はどうか、と仰せです」

報告を聞き、眉間に力が入る。

やっぱり、という気持ちはあるけど、それ以上の嫌悪感と憤りが体を駆け巡る。ふと横目に見れば、アモンが手を拳にして震わせていた。

本屋敷では気絶させた狐人族の戦士達を拘束し、一カ所に集めるよう父上が指示を出していたはずだ。そのせいで、図らずも爆発の威力が上がってしまったのだろう。

深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、ゆっくり口を開いた。

「こっちでも狐人族の戦士が全員爆死したけど、幸い被害はなかったよ」

「畏まりました。皆様がご無事で良かったです」

サルビアの声が少し明るくなった。

彼女も僕達のことを心配してくれていたのだろう。なお、彼女が居る場所は第二騎士団宿舎に併設へいせつされている情報局だ。本屋敷や新屋敷から離れた場所ではあるけど爆音が聞こえたり、煙が遠巻きに見えたのかもしれない。

「では、ライナー様からの指示をお伝えいたします」

気を取り直したように、彼女は通信を続けた。

「本屋敷は爆発被害による重症者の臨時救護施設とし、今後の活動拠点は一時的に新屋敷に移行するとのことです」

「わかった。こっちもすぐに受け入れ準備に取り掛かるよ。ちなみに、サルビア。一つ尋ねたいことがあるだけど、いいかな」

「はい。何でしょうか」

「本屋敷で生き残った狐人族の戦士は、誰かいるかな」

しんとした静寂が訪れる。

アモンに目を向けると、彼の瞳にはどこか期待の色が宿っていた。少しの間を置き、サルビアの声が重くなる。

「いえ、特にそのような報告は受けておりません。何でも、戦士の方々は生死問わず一斉に爆発したと報告を受けております」

「そうか、ありがとう。こっちも爆発の状況は本屋敷と同じだったと父上に伝えてほしい」

「畏まりました。それでは、失礼します」

通信が終わって息を吐くと、目を伏せて肩を奮わせるアモンの傍に寄った。

「彼等の遺志と覚悟も君が引き継ぐ、そうだろ」

「あぁ、勿論だ。だが、このやりきれない気持ち、どうすればいいのだろうな」

自嘲気味に苦笑する彼に、優しく微笑み掛けた。

「悔しかったら、泣けばいい。泣いて、叫んで、それを次に生かす力に変えればいいのさ」

「そうか、そうだな」

返事に合わせて目配せすると、周りにいた皆は察してこの場から移動を始める。

僕とアモンのだけになると、改めて優しく語りかけた。

「すぐに手に入る理想なんて、理想じゃない。でも、君は必ず理想を実現させる。戦士達同様、僕も君を信じてるよ」

「……リッド殿。恩に着る」

彼は頷くと、大粒の涙を止めどなく流して大声を上げ始める。

アモンが今までの自分自身と決別し、新たな道を踏み出した産声にも聞こえるような、そんな慟哭だった。

「ふむ。では、アモン殿。貴殿はリッドの考えた策略に同意する、本当にそれで良いのだな」

「はい。私は父、兄姉と決別し、部族長の座を勝ち取る所存。どうか、バルディア家の力を私にお貸しください」

父上の問い掛けに、アモンは深々と頭を下げた。

今、僕は新屋敷の来賓室で父上とアモンの三人だけで机を囲み、今後の方針を打ち合わせていた。

狭間砦が侵攻を受けているから悠長ゆうちょうに話している時間はないけど、戦士達襲撃の後始末に加え、出発準備が整うまでには少し時間がかかる。その間に、対グランドーク家の方針を簡単にまとめておこうとなったわけだ。

サルビアから狭間砦に狐人族が侵攻を開始したという報告をもらった時、僕はあることを閃いた。

アモンを御旗に大義名分を掲げ、現状のグランドーク家をバルディア家が壊滅させる。その後、彼を部族長とした新体制のグランドーク家を誕生させるという方法だ。

腐敗した体制を一新するためには、現体制における意思決定の仕組みを根本から変えるしかない。グランドーク家を根本から正して、良い隣人になってもらうためにはアモンが部族長となれるようバルディア家が支援するのが最も効果的だろう。

「良かろう。しかし、条件がある」

重い空気が漂う中、父上は口火を切った。

「どのようなことでしょうか」

顔を上げたアモンが、恐る恐る聞き返す。

「貴殿が部族長となれたあかつきには、当家に従属じゅうぞくするという『密約』をこの場で結んでもらうぞ」

「そ、それは……」

アモンはたじろぐが、父上は眼光を光らせる。

「残念だが、貴殿は断れる立場にはなかろう。こちらとて、この戦にはそれ相応の犠牲を払わねばならん」

部屋に沈黙が流れる中、僕はあえて咳払いをした。

「アモン。君が従属すると約束してくれれば、狐人族の領地にバルディアの新たな生産拠点せいさんきょてんを建設することもできる。それに、領民達の生活水準を向上させることも約束するよ。限りなく同盟に近い、従属関係と言えるかな。ですよね、父上」

「うむ。加えて、これはアモン殿を守る意図もある」

「私を守る、ですか」

「そうだ」

彼が首を捻ると、父上は即座に頷いた。

「仮に、貴殿が部族長になれたとしてだ。ガレス達の支持者であった豪族達が、簡単に貴殿に付き従うわけがあるまい。最悪、暗殺される可能性も考えられる」

厳しく鋭い指摘に、アモンが息を呑んだ。

彼にも心当たりがあるのだろう。

「この戦に勝った暁には、ガレス達を支持していた豪族達の後始末も必要になるはずだ。その点は、我等が引き受ける。だが、その事を成すため、貴殿には従属してもらう必要があるのだ」

父上はそう言うと、凄んでいた顔を少し綻ばせた。

「事が粗方落ち着けば、当家と協力して貴殿の理想を果たせばよかろう。従属と言っても、軍事や外交に関わる重大な意思決定以外の自治権は認めるつもりだ。それでよいかな」

アモンは問い掛けにすぐに答えず、少し間を置いた。やがて、彼は深い深呼吸をして父上を見据えた。

「畏まりました。改めて、よろしくお願いします」

「うむ。こちらこそ、よろしくお願いする」

二人は互いに身を乗り出して固い握手を交わすと、アモンがこちらに振り向いた。

「リッド殿のおかげで覚悟が決まった。改めてお礼を言いたい、ありがとう」

「こちらこそ。君とこうして協力体制を結べたことは、嬉しい限りさ」

僕も彼と握手を交わしていると、父上がそれとなく目配せをしてきたので彼に気付かれないよう、目を細めて頷いた。実はこの打ち合わせ、全て事前に通信魔法を介して行った父上との計画通りに進んでいる。

父上が新屋敷に向かって来る時、通信魔法が使用できる団員を傍に置いてもらい、対グランドーク家の方針を父上と二人である程度決めていたのだ。

勿論、アモンはその事を知らない。彼がそのことに感づいている可能性はあるけど、今の様子だと心配はなさそうだ。

狭間砦に侵攻してきた狐人族、もといグランドーク家。

彼等に勝利できる保証はどこにもない。それでも、ただ勝利するだけでは真の問題解決には至らないというのが、僕と父上の共通認識だった。

今回の侵攻を阻止できたとしても、狐人族の内情が変わらなければ、また新たな侵攻や問題が発生する可能性は高い。

なら、どうすべきか……答えは簡単だ。グランドーク家の内情を変えるしかない。それも、僕達に都合の良いようにできれば最良である。だからこそ、父上は『密約』を彼に提示したのだ。暗殺からアモンを守る意図も嘘ではないけどね。

帝国とズベーラのお偉い方々は、今回の問題を二家で解決するようにとお達しを出している。仮にアモンを立てずに侵攻を退け、バルディア家がグランドーク家を滅ぼしてしまった場合、二家の問題では済まされない。国家間の問題になってしまう。

そうなれば色々とややこしい輩が出しゃばってくる上に、グランドーク家の跡目は誰になるのか、という新たな問題も発生し、やはり問題解決には至らない。

様々な点を考慮すれば、アモンを狐人族の部族長としつつ裏でバルディア家が手綱を握ることこそ、両家両国がより良い関係を保っていける最良の結果に繋がるだろう。

後々のことを考えれば、彼を立てることでバルディア家は『跡目争い』に巻き込まれた、という主張もできる。

あと、通信機器が存在しないという点も忘れてはならない部分だ。僕や第二騎士団の一部の面々は、通信魔法で代用できるけどね。

この世界で一般的な情報伝達方法は、馬や人の足を使った『手紙』だ。つまり、帝国とズベーラの中央は、グランドーク家が国境を越えて侵攻した情報がまだ伝わっていないだろう。従って、短期決戦で全てを終わらせることができれば色々と都合が良い。

その為には……そう考えを巡らせながら、僕はアモンの目を見つめた。

「さぁ、アモン。話がまとまった以上、後は勝つ算段だ。改めて、君が知っているグランドーク家の全てを聞かせてほしい」

「わかった。私の知っていること全てを、お二人にお話しいたします」

彼はそう言って頷くと、グランドーク家の予想される兵力、兵糧、戦略、注意すべき豪族の数など必要な情報を教えてくれた。

話を聞く限り、簡単に勝てる相手ではないと改めて認識させられ、僕は息を呑んだ。何せ、兵力がざっと見てもバルディア家の倍以上である。やっぱり、正面からぶつかって勝てる相手じゃないだろう。

だけど、絶対に負けられない。打ち合わせの途中でカーティス、ダイナス、カペラ達も呼び、僕達は出発準備が整うその時まで、時間の許す限り軍評定いくさひょうじょうを続けるのであった。

狭間砦救援の準備が整い、僕達は新屋敷の玄関に集まっている。母上、ガルン、ファラ達の他、新屋敷で働く皆が見送りに来てくれていた。

第一騎士団と第二騎士団の面々は、ほぼ全員が狭間砦に向かうことになっている。ほぼというのは、新屋敷の警護に第一騎士団の一部の騎士に加え、第二騎士団の情報局員や工房に所属する非戦闘員が一部残るからだ。

とはいえ、工房からもアレックスを主体とした狐人族と猿人族の子達を一部、工兵として一緒に現地へ赴くことになっている。

集まった皆の表情が少し重い中、ファラが微笑んだ。

「リッド様、御父様。お二人とも、そのお姿とてもよくお似合いです」

「そうかな。ありがとう」

僕が照れ隠しに頬を掻くと、父上は満更でもなさそうに「うむ」と相槌を打った。

今僕が身に纏っている服は、赤と白を軸とした父上と同じバルディア騎士団の制服だ。

第一騎士団は、赤と黒色を軸とした制服。

第二騎士団は、白と青色を軸とした制服になっている。

赤と白色を軸とした制服は、バルディア家の血縁者だけが着ることを許されるもので、一目で立場がわかる工夫らしい。なお、騎士達の階級は、バルディア家の家紋が用いられた襟章で判別ができるようになっている。

見送りの皆も服装は正装で、母上も車椅子には乗っているけど、ドレスを身に纏った凜とした姿だ。

「あの、リッド様」

ファラが恐る恐る呟いた。

「どうしたの」

「やっぱり、私の代わりにアスナをリッド様の護衛として連れて行ってくださいませんか」

ファラは僕の目を真っ直ぐに見据えるが、彼女の後ろに控えるアスナとジェシカが首を小さく横に振った。

「姫様、お気持ちはお察しいたします。しかし、その件はもうお伝えしたではありませんか」

「左様でございます。アスナ様は、ファラ様の専属護衛を国から任されているお立場。その任務を放棄することは許されません」

「わかっています。でも、心配なのです」

彼女はそう言うと、目を潤ませて俯いてしまう。

当初、ファラは狭間砦に僕達と一緒に行くと言って聞かなかったのだ。

彼女が敵の標的の一つである可能性が高い上、そもそも危険な戦場に連れて行くなんてことはできない。ファラの希望は当然却下されたけど、同時に彼女へあるお願いもしている。僕は彼女を胸の中に抱きしめると、背中をぽんぽんと優しく叩いた。

「父上達と一緒に行くんだから大丈夫さ。それに、アスナは来れなくても、カーティスやシュタイン達は来てくれるんだ。必ず、皆で帰って来るよ」

「……はい」

胸の中でファラは小さく頷いた。

「それに、お願いした通り、『万が一』の時は皆を守ってほしい。ファラ、君には君にしかできないことがあるんだ。いいね」

「はい」

彼女は再び、小さく頷いた。

『万が一』とは、狭間砦が突破された場合の事を指している。

アモンの情報でグランドーク家の狙いは、バルディア領にある物資や資源の可能性が高いことが判明。また、彼等は奴隷売買によって様々な国の貴族や組織とも繋がりを持っているらしく、ファラや母上も狙われている可能性が高いということを教えてくれた。

そうした状況下、敵は数万の大軍。

バルディア家は、狭間砦に駐在の騎士達とこれから向かう救援の騎士、冒険者ギルドを通じてかき集めた傭兵部隊を入れても一万には届かない。

勝つための策略は色々考えてはいるけど、戦争とは基本的に数が多い方が有利であり、勝てる保証なんて何処にもないのが現実だ。

狭間砦が突破された場合、通信魔法で情報局に残るサルビアへすぐに連絡が入るように手配している。もし、その連絡が入った場合、ファラ達は母上を連れてレナルーテ王国に木炭車で逃げる手筈だ。

帝都のバルディア邸に逃げる方法もあるけど、グランドーク家と帝国貴族が繋がっている可能性がある以上、帝都の方が危険度が高いと判断した。

距離で言えばレナルーテの方が近いし、今後における母上の治療もある。ファラがレナルーテの元王女という点も大きい。

グランドーク家は、帝国と事を構える気は無いから『領地戦』という言い回しをしたのだ。それなら、レナルーテ王国とも事を構えるようなことはしないだろう。

領地戦とは国同士で起こす戦争ではなく、あくまで貴族同士だけで行われる局地的な戦争を指す言葉だ。

帝国貴族内でも、過去には領地の境界線や歴史的背景から『領地戦』が数多く行われていた時期があるらしい。だけど、勝手な領地戦は国から咎められるため、それぞれの貴族が事前に領地戦を行う理由を皇帝に提出。認められれば、行われるのが帝国内の領地戦だったそうだ。さすがに、今の帝国では領地戦が認められる例はほとんどないらしいけどね。

アモン曰く、ズベーラの領地戦も似たようなものらしいけど、部族同士でいざこざが絶えないため、王の許可を事前に取ることはないらしい。大体が事後報告であり、ある程度のところで王や他部族が仲裁に入るのがほとんどだそうだ。

様々得た情報から考察するに、帝国とズベーラは国として戦争をするつもりがなかったんだろう。故に国としては我関せず、二家だけで問題解決を望んでいたんだ。二家の争いに国が介入すれば、二国間の全面戦争になってしまうからね。

それぞれの国の頂点に立つ人達は、グランドーク家が本当にバルディア家へ攻め込むとは考えていなかったのか、もしくは潰し合いさせる目的があったのかもしれない。

少なからず、帝国に君臨する皇帝は攻め込まれるという考えはなかった可能性が高い。その認識があれば、バルディア領の近くに帝国軍を配備するとか、事前に何かしらのやりようはあったはずだ。

現状、皇帝の動きは後手に回っている。万が一にでもバルディア家がグランドーク家に後れを取るようなことがあれば、帝国の威信を揺るがす事態になりかねない。

自らの権威を失墜させるような真似を、あの皇帝はしないだろう。もしくは、皇帝の権威を失墜させようとしている輩が暗躍した結果なのかもしれない。

ズベーラの王は、何を考えているのかわからないけど、エルバが次期獣王と目されているのなら、あわよくば潰し合えとでも考えていた可能性はあるだろう。

僕は胸の中ですすり泣くファラの肩に手を置いて、少し離すと目を細めて笑いかけた。

「名残惜しいけど、そろそろ行かないとね」

「はい、後のことはお任せください。どうか、ご武運をお祈りします」

ファラは畏まってそう言うと、一歩下がった。

彼女の目は少し赤く潤んでいるけど、もう泣いてはいない。ファラ達に任せれば、後顧こうこうれいは気にしなくて大丈夫だろう。

僕は頷くと、母上に振り向いた。

「父上を助け、バルディア家の勤めをしっかりと果たすのですよ」

「勿論です。必ず、無粋な輩を追い払ってみせます」

僕が胸を張ると、母上は嬉しそうに目を細めた。

「では、リッド。こちらにいらっしゃい」

「はい。なんでしょうか」

言われるがままに前に出ると、母上は僕を胸の中に抱き込んだ。