はこぶねのすぐそばにあるはいきよが旧オルタナ。旧オルタナの南には天竜山脈がそびえていて、その向こうにヨリとリヨの故郷、連合王国がある。連合王国の一番偉い人がルーデン・アラバキアで、この王様がヨリとリヨの父親なのだという。二人は王様の娘なのだ。まごうことなきお姫様で、王女という身分なのだとか。

 それはそれとして、旧オルタナの北に広がっている森を抜けると、緑が少なく起伏のある荒れ地の中に、別の廃墟がたたずんでいる。

 マナトたちはまさに今、その廃墟を遠目に眺めていた。

「オルタナより、ずっと小さいね」

 マナトは剣と短剣だけ持ってきた。弓矢は狩りなら有用だが、ルミアリスの帰依者にはまるで効果がなかった。弓と矢筒のセットはそれなりにかさばるし、狩猟が目的じゃなければないほうが身軽でいい。何か見つけたら持ち帰りたくなるかもしれないので、リュックを背負ってきた。

「かつてはとりでだった」

 ハルは仮面をかぶってマントをつけている。もう何十年もそのかつこうらしい。

「デッドヘッド監視砦。もともとはオークという種族が築いたものだとか」

「そういえば――」

 マナトは軽く身をよじって、ツナギの縫われているところをさわってみせた。

「ここ直してくれたのって、ハル?」

「ああ」

「針と糸で、チクチクやってたよ」

 ヨリが言った。

「マナトが眠ってる間、ハルヒロの部屋でひいおちゃんの話とか聞いてたんだけど。話しながら、作業してた。器用なんだね」

「慣れているだけだ」

 ハルはぶっきらぼうに答えた。

 ちなみに、ヨリはコートを羽織っているけれど、中はかなり薄着だ。上着は胸の部分だけを覆う薄手のもので、ズボンはやけにぴったりしている。首にぶら下げたひもきの眼鏡は、翼竜に乗るときに使うのだろう。赤い剣のさやを背中に斜めがけして、ナイフを帯びている他には、何も持っていない。

 リヨは革のツナギに、例の手袋と長靴、クドゥスとハドゥマを手足に装着している。肩紐を腕に通して背負っている物入れは、リュックのような、でも、厚みがなくて、何と呼ぶのかわからない、とにかくかばんだ。ポケットがたくさんついていて、刃物とおぼしきものもしまわれている。オドラッドではとうてきする刀剣を使うと言っていたような気がするし、きっとそれなのだろう。紐付き眼鏡は鞄の中らしい。

「なんか、ジュンツァが言ってたんだけど、ええと、いっしゃくいっぱんの……?」

「一宿一飯」

 すかさずリヨが訂正してくれた。

「それだ、一食一飯! ご飯をもらったら恩を返せってことだよね」

「一食一飯じゃなくて一宿一飯」

 リヨはマナトに視線を向けてはいるものの、まったく表情が変わらない。

「意味するところは、一晩泊めてもらい、一度食事をふるまわれること。これを大きな恩義と考え、必ず恩返しをしなければならないとする種族や文化が、赤の大陸各地に複数存在している」

「へぇ。そうなんだ」

「そう」

「リヨは物知りだね。ジュンツァみたいだ」

「わたしは物知りじゃない。むしろ、知らないことのほうが圧倒的に多い」

「えぇ。こっちなんて、多いとか少ないとかじゃなくて、知らないことしかないよ」

「それで?」

 ヨリが肩をすくめた。ちょっとあきれているみたいだ。

「一宿一飯がどうしたの?」

「あぁ、それそれ。ハルには一宿一飯だなって。あれ? 言い方が変か。一宿一飯の恩があるなって。や? もっとか。服とか剣とか貸してくれて、破れたのも直してくれたし。ご飯は二回だから、えっと、一宿、二飯、服、剣……うわ」

 数えてみたら、笑えてきた。

「いっぱいだ。これ、返さないとね」

「そんなことは考えなくていい」

 ハルは仮面を廃墟のほうに向けたまま言った。

「返さないとっていうか、返したいっていうか」

 マナトはうなずいた。

「うん。返そっと」

「……やめてくれ」

「だめかな?」

「おれが止める筋合いでもないんだが……」

「何かやることあったほうがいいかな、と思って。ニホンではやっと家を見つけて、あとは死ぬまで生きようって感じだったけど。そういうのがないと、何だろ、ううん……」

「張りあい?」

 ヨリが言った。

「あぁ。それかな? 張りあい。張りあい?」

「もしくは

 今度はリヨが言った。

「生き甲斐!」

 マナトはリヨに顔を向けた。

「それだ! 生き甲斐! 仲間が言ってた。こうやってみんなといるのが生き甲斐だって。その仲間は、家が見つかる前に死んじゃったけど」

「……死んじゃったんだ」

 ヨリがつぶやくように言った。

「うん」

 マナトは笑った。べつにおかしいわけじゃないが、あの小さなカナリヤのことを思いだすと、やっぱり笑ってしまう。

「よく笑うやつで。ちっちゃくてさ。軽くて。病気で、熱があって、せきとかしてて。自分で歩けなくなったから、おぶったりしてて、それでも笑ってて。そのうち元気になればいいなと思ってたけど、死んじゃった。ずっと雨降ってたし、埋めるの大変だったな」

「マナト」

 不意にリヨがマナトの左肩に右手を置いた。

「ん?」

 見ると、リヨは少しうつむいている。肩をさわっておいて、マナトと目を合わせようとしない。

「ご愁傷様です」

「ごしゅーしょーさま? 何それ? 誰? 様? 偉いの?」

「気の毒にって意味」

 ヨリがリヨの代わりに教えてくれたが、マナトはぴんとこなかった。

「気の毒? なんで?」

「……マナトたちは家を探してたんでしょ。その子は志半ばで死んじゃったってことだよね。それが気の毒ってことでもあるし、マナトも仲間を亡くして悲しかったよねっていう。リヨが言いたいのは、そういうこと」

「あぁ。そっか。どうせなら、家が見つかるまで生きてられたらよかったよね。だけど、死ぬ直前まで楽しかったって言ってたし、笑ってたから。気の毒ってこともないよ」

 マナトは左肩にのっているリヨの右手をそっと摑んだ。リヨはクドゥスをつけているので、感触は硬かった。

「でも、ありがと。リヨは気遣ってくれたってことでしょ。やさしいんだね、リヨは」

「……いいえ」

 リヨは小刻みに首を振った。というか、震わせた。

「わたしは……やさしくは……ない。そのような人間では……」

「そう? やさしいと思うけどな。ヨリも、リヨの気持ちをわかりやすく説明してくれて、やさしいし、すごいね」

「あぁぁったりまえでしょ?」

 ヨリはそっぽを向いて、腕組みをした。

「……ヨリは人格も才能もぜんぶ完璧なんだから。あのひいおちゃんのまごだし。ヨリはヨリなんだから、それくらい。ていうか……」

「ていうか?」

「何でもない。……えらいもてもてくんだったって、ひいお祖母ちゃんが言ってたけど。あれはマナトのことじゃないし――」

「ハルの仲間だった人? 偶然、同じ名前の」

「まあ……」

 ハルは仮面をさわった。

「人目を引く、一目置かれる男だったな。人当たりがよくて、いつも笑ってた」

「そういうのって、何だっけ。笑い上戸?」

「何とか上戸というのは、飲酒した際に出る癖のこと。泣き上戸や怒り上戸など」

 リヨがぼそぼそっと言った。まだ下を向いている。

「じゃ、違うか。よく笑う人? 何か他に言い方あるのかな。ま、いっか。どうでも」

「て……」

 リヨが右手をぴくぴくさせた。

「手を」

「手?」

「放して欲しいです」

「あぁ、ごめん」

 マナトが手を放すと、リヨは右手を引っこめた。右手を左手でぎゅっと握っている。痛かったのだろうか。そんなことはないだろう。マナトはそんなに力を入れていないし、リヨの手はクドゥスで保護されている。

「あの砦跡には誰かいるの?」

 ヨリがくと、ハルは首を横に振った。

「おれが知る限りでは、いなかった。この方向から見ると、かなり防壁が残っているが、実際は三分の二近く崩れている。砦本体も、中に入れる状態じゃなかった」

「ろくに使えないわけね」

「ああ。ただ、ルミアリスの帰依者たちがオルタナにやってきたのが、どうも気になっていてな」

 ハルは西を指さした。

「ここから四キロほど西に進めば、ダムローという都市がある。百年以上前はゴブリン族が占拠していた。今は暗黒神スカルヘルの隷属たちが根城にしている」

「つまり――」

 ヨリは顎をつまんだ。

「このへん一帯は、スカルヘルの縄張りってこと?」

「そうだ。ルミアリス陣営とスカルヘル陣営はグリムガル中で勢力争いを繰り広げているが、彼らにとってかざはやこう以南はへきらしい。いち早くダムロー、それから、もう少し北西にあるサイリン鉱山跡に根を張ったのがスカルヘル陣営で、ルミアリス陣営の攻撃を何度か撃退してきた。最近は静かだったんだが……」

「またルミアリスの帰依者たちがダムローをうかがってるんじゃないか。ハルヒロはそうにらんでるんだね」

「その可能性はある」

「ヨリたちがやっつけたのは、帰依者たちの先遣隊」

「かもしれない」

「本隊、もしくはその一部があのとりであとかどこかにいて、先遣隊はオルタナを偵察するために派遣された?」

「確証はないから、調べておきたい。おれ一人なら、はこぶねに閉じこもって嵐が過ぎるのを待ってもいいけどな」

「じゃ、さっと行って見てくる?」

 マナトが片手を上げてそう言うと、ヨリが渋い顔をした。

「……いかにも見張りとかに気づかれて、しっちゃかめっちゃかになりそう」

「えぇ。誰かいても見つからないように注意して、何だろ……偵察? そうだ、偵察。してくればいいんでしょ? ハンターやってたし、そういうのわりと得意だよ。人間よりも獣のほうが敏感だし。あと、ほら、しても治るから。ヨリとリヨは、そんなに治らないんだよね?」

「マナトみたいにはね。内氣プラーナを練って、治癒力を高めることはできるけど。正直、常人よりは数段上ってレベル」

「わかった」

 ハルが手招きをした。

「おれとマナトで行ってくる。ヨリとリヨはここで待機していてくれ」



 マナトはほとんど爪先だけを使ってあまり足音を立てずに歩けるが、まったく無音というわけにはいかない。不可能じゃないとしても、音を出さずに少し進むだけでとんでもなく時間がかかる。ハルは静かで、速い。すいすいと足の置き場を決めてゆく。いちいち考えて決めているとは思えないほどだ。

 ハルとマナトはあっという間に砦に接近して、防壁を背にした。

 ここからだと、ヨリとリヨは見えない。二人は小高い丘に身を隠している。

 ハルが東のほうを指で示した。マナトがうなずいてみせると、ハルはふたたび歩きだした。マナトはハルについていった。

 防壁沿いに角まで進んだ。曲がると、すぐ先が崩れ落ちてれきの山になっていた。ハルが掌をマナトに向けた。ここで待て、という合図だろう。マナトはうなずいた。

 ハルが瓦礫の山をよじ登った。ハルやマナトの背丈より少々高い程度の山だから、すぐだった。ハルは山のてっぺんからちょっと顔を出した。すぐには引っこめずに、中を観察している。やがて下りてきた。

「案の定だ。神兵がたむろしている」

 ハルがマナトに耳打ちした。

「神官が少なくとも一人はいるし、数十人、もしかしたら百人を超えるかもしれない」

「それって多い?」

 マナトはほぼ声を出さず、口をはっきり動かして訊いた。このやり方なら、ハルはちゃんと聞きとってくれるだろう。

「ダムローの隷属は数百じゃきかない。あの数でダムローを攻め落とすのは無理だ」

「もっといそう?」

「そうだな。数もだが……もし帰依者の中に聖者がいたら、厄介だ」

「聖者って?」

「神官はわかるな」

「あの、全身がなんかこう、銀色っぽいやつで覆われてる……じゅ? じゅらい?」

「受体だ。ルミアリスの力が、ろくぼうこうかくを通して帰依者に与える、物体、物質というより、一種の生命体らしい」

「うぉ。受体。難しいね」

「その神官よりも、力が強い――受体が一部変容した、神官長という帰依者がいる」

「へんよう……」

「だいたいの場合、受体の一部が武器のように変わっている」

「それじゃ、見た目でわかる?」

「ああ。聖者は、さらにその上だ」

「へぇ……」

 神官は体内に六芒光核とやらをいくつか持っていて、受体は硬い。身体能力も高かった。それに、何か変な言葉をつぶやくと光りだして、パワーアップした。

 神官長はあの神官よりも強い。

 聖者はもっと強い。

「ふっ……」

 マナトは噴きだしそうになった。声を出して笑うとまずいので、とっさに我慢したのだ。ハルがわずかに首をかしげた。

「……何だ?」

「ううん」

 マナトは首を振ってみせた。

「怖いなぁって。怖いと、なんか楽しくなってこない?」

「楽しくはないな。おれの場合。ただ、きみが言わんとしていることはわかる。まれにいるんだ。リスクを冒すことに喜びを感じる性質の持ち主が。……そういえば、ランタはわりとそっち寄りだったな」

「ヨリとリヨのひいおちゃんだね」

「あの二人も、どこかそんなところがある。じゃないと、天竜山脈を越えてきたりはしないだろう」

「ハルは違う?」

「おれは臆病者だからな。もう少し探ろう」

 二人は頭を低くして防壁の崩れた箇所を通過した。また防壁がいくらか残っていて、その向こうは瓦礫の山すら残っていないほど破損していた。

 ハルが防壁の崩れ際から身を乗りだした。すぐにもとの体勢になった。ハルが軽く手招きしたので、マナトは身を寄せた。

「何かいた?」

「近い。神官を囲んで、神兵たちが座っている。四十人はいた」

「わぁ……」

「ここは登れそうだな」

 ハルは背にしている石組みの防壁を見上げた。高さはハルやマナトの三人分もないだろう。指や足先を引っかけられそうなところがいくらでもある。たしかに登れそうだ。登れると思うと、登りたくなる。

「きみはここで待っていろ」

 ハルにそう言われて、抗議したくなったが、恩返しをするつもりの相手に逆らうのはどうなのか。仕方ない。マナトは頰をぱんぱんに膨らませつつ、親指を立ててみせた。

「……おれが指示するまで動くなよ」

「大丈夫。ハルの言うことは聞くよ。たぶん。だいたいはね。がんばる。うん」

 ハルが防壁をよじ登りだした。これまた速かった。体重をかけたらきしんだり、ずれてしまったりする石もありそうなのに、ハルはそういった外れを一度も引かなかった。

 すっかり登ってしまうのではなくて、ハルは防壁にしがみついたまま、頭を半分だけ出した。じっとしている。

「……ん?」

 何か聞こえる。

「E'Lumiaris, Oss'lumi, Edemm'lumi, E'Lumiaris,――」

 声だろうか。

 そうだ。

 これはきっと、声だ。

「Lumi na oss'desiz, Lumi na oss'redez,――」

 一人じゃない。

 何人もが、ただしゃべっているのではなくて、歌っているのか。

「Lumi eua shen qu'aix, Lumi na qu'aix, E'Lumiaris,――」

 歌はニホンにもあった。両親がときどき歌っていたし、マナトもいくつか覚えている。ツノミヤやカリザでも歌声を聞いた。仲間たちもそれぞれ歌を知っていた。

「Enshen lumi, Miras lumi, Lumi na parri,――」

 声を張り上げて、楽しげに歌っているという感じではない。大勢が歌っているのは間違いないが、声を合わせて合唱しているのでもない。たぶん、それぞれ下を向き、独り言を言うのと大差ないような調子で、ぶつぶつ、ぼそぼそと歌っている。

「E'Lumiaris, Me'lumi, E'Lumiaris.――」

 一人一人の声量はおそらく小さめだ。でも、歌声はだんだんと高まっている。砦の中のあちこちに神兵がいて、一斉にではなくばらばらと歌いはじめ、歌声の総量が次第に増しているのだ。

 なんだか気味が悪い。どの歌声も砦の中から聞こえてくる。それなのに、まるで歌声に取り囲まれているかのようだ。

 ハルがやっと下りてきた。

「戻ろう」

 それしか言わずに、ハルはもと来た道を引き返しはじめた。何かただならぬ様子だし、黙ってハルに従ったほうがよさそうだ。

 小高い丘まで戻ると、ヨリとリヨが姿勢を低くして待っていた。

「どう?」

 ヨリが尋ねると、ハルは仮面の奥で小さく息をついた。

「悪いしらせだ。砦には最低でも三百の神兵がいる。聖者までいた」

「聖者?」

 ハルがマナトにしたのと同じ説明をすると、ヨリは思案顔になった。

「これから戦争が始まりそうってこと? ヨリたちが旧オルタナで帰依者たちの一団をせんめつしたのは、どう影響するか。まあ、手間だったけど、全員きっちり処理しておいて正解だったね。一人でも逃がしたら、砦の帰依者たちがヨリたちの正体をつかんでたかもしれない。方舟は大丈夫なの?」

「どちらの陣営にも攻められたことはない」

「だったら、最悪、避難所はある。ハルヒロはどう思う?」

「……そうだな」

 ハルはどうにも歯切れが悪い。マナトの思いすごしだろうか。防壁に登って下りてきてから、ちょっと変だ。あの歌声のせいだろうか。どうだろう。他に何かないか。

「聖者?」

 マナトが呟くと、ハルが仮面をこちらに向けた。

「……聖者がどうかしたか」

「や、見たんだよね。ハルは、その? 聖者?」

とりで本体の、いくらか残っている最上部に座っていた。一瞬、おれに気づいたんじゃないかと思ったが、ゆうだったようだ」

「ええ、と……」

 マナトは自分の片頰をぺちぺちたたいた。何か引っかかっている。けれども、これという言葉が出てこない。

「ううん。あぁ。そうだ。ハルは今までも聖者に会ったことあるの?」

「何度かな。百年は短くない。聖者は一人だけじゃなく、何人もいるし――会った、か。会ったというか……」

「見た?」

「いや」

「戦ったの?」

「まともにやり合ったわけじゃない。追われて、なんとかいた」

「ハルヒロが知ってる聖者なの?」

 ヨリの質問を耳にして、そういうことか、とマナトは思った。きっとそれだ。ハルは砦にいた聖者を知っているのかもしれない。なんとなくそう感じていたのだ。

「……どう言えばいいか」

 ハルはうつむいた。

「聖者は、もとから聖者だったわけじゃない。ルミアリスに仕える神官や聖騎士だった。人間だったんだ。スカルヘルの隷属にも、ルミアリス陣営でいえば聖者にあたる、鬼神という上位者がいて、彼らもそうなんだが」

「元人間……」

 ヨリが呟いた。

「帰依者は、死なない」

 リヨがぽつりと言った。

 マナトは腕組みをして空を仰いだ。

「ハルはその聖者を知ってる。元人間。死なない。てことは……聖者が人間だったころを、知ってる?」

「そうだ」

 ハルは手で仮面を押さえた。

「砦にいたのは、乱震の聖者タイダリエル。おれは彼が人間だったころを知っている。肩を並べて、何度も共に戦った――」