「……すけ、だち……」

 あまりのことに、マナトは我知らず立ち止まっていた。よくわからないけれど、助けてくれる、ということなのか。ハルも足を止めている。

「アラバキアだって……!?

「父親の名だ!」

 ヨリと名乗った女は、ハルにアラバキアと言われてなぜか怒った。

「ルミアリス……!」

 両腕を失った神兵がヨリに飛びつこうとした。

「あぁ!?

 ヨリは一瞬、驚いたようだが、ほんの一瞬だった。すかさずまた剣をしゅっと振って、今度は神兵の首をあっさりねてしまった。

「ずいぶん生きがいいじゃないか。ちょうど山越えで体が冷えきってる。あっためさせてもらう!」

 首を斬られた神兵はさておき、さっき竜に蹴られた神兵長と神兵たちは早くも起き上がっている。竜に蹴られなかった神兵も十人かそこらはいるだろう。いや、もっといるか。

「光よ! 光のもとに! ルミアリスよ、我らに光の加護を……!」

 神官が槍旗の穂先をヨリのほうに向けた。途端に神兵長と神兵たちがどっとヨリに襲いかかった。見た目からして、神官は他の連中と一段違う。神兵長や神兵よりも偉くて、指示を出す立場なのか。

「ちょっ――」

 ハルはヨリに何か声をかけようとしたのだろう。

しき!」

 ヨリは聞いちゃいない。自分めがけて殺到してくる神兵長、神兵たちに立ち向かってゆく。でも、それはどうなのだろう。勇敢というか、無茶というか、無謀というか。マナトは総毛立った。ヨリ。彼女は何者なのか。見当もつかないが、何かすごいことをやってくれそうな気がする。だって、竜に乗って現れた。竜は飛んでいた。ヨリはどこかから飛んできたのだ。その時点でもう十分すごい。

焰熱剣アルヴアーン……!」

 ヨリは剣を高く振り上げた。

 あの剣。赤い。剣身が。たしか、もともと赤かった。それがもっと赤くなった。

 まるで燃えているみたいだ。

 剣が、赤々と燃えている。

「なっ……」

 ハルが絶句した。マナトは声を出すこともできなかった。

「――爆轟デトネラ……!」

 ヨリは燃える剣を地面にたたきつけたのか。わからない。ヨリの剣が地面にふれたのかどうか。その前にそれが起こったような気もする。

 すさまじい音が響き渡って、マナトはひっくり返りそうになった。

「――ぅいっ!?

 一度だけ、ツノミヤでヤクザが古い建物を爆破して壊すところを見物した。野次馬に教えたもらった。爆弾というものがある。それに火をつけると爆発して、あんなことになるのだとか。ツノミヤのヤクザは建物を破壊するような爆弾を持っていた。ひょっとして、ヨリもなのか。今、爆弾を使ったのだろうか。でも、ヨリは何か叫んで剣を振り下ろしただけだ。たったそれだけで爆発するなんて。

 神兵長、神兵たちがぶっ飛んだ。体の一部がちぎれ飛んだりもしているようだ。とにかく、ヨリに攻めかかろうとしていた十人以上が、軒並み爆発で遠ざけられ、すっ転んだり、倒れたり、座りこんだりしている。

「……魔法……なのか?」

 ハルも中腰になっている。

「魔法じゃない」

 ヨリは振り返って、眼鏡のようなものを額の上までずらした。

ろくしきの五熾。焰熱剣アルヴアーン爆轟デトネラ

「ヨリ……!」

 上から声が降ってきた。

 竜だ。また、竜。さっきの竜とは別の竜なのか。マナトたちの上空、といっても、そこまで高くないところを、竜が飛んでいる。

 移動していない。竜は羽を上下動させて、その位置にとどまっている。人が乗っているようだ。ようだ、というか、乗っている。髪が長い。あれも女か。

「まだ終わってない! 気を抜いちゃだめ!」

「わかってる! 誰に向かって言ってるんだ、リヨのくせに――」

 ヨリが怒鳴り返した。その途中で、髪の長い女が竜の背から飛び降りた。飛び降りてしまうのか。そこまで高くないといっても、オルタナの防壁より高いのに。あの高さだと、マナトでもちゆうちよするだろう。たぶん、飛び降りないと思う。

 リヨ、というのが名前なのか。竜に乗っていた女は、体の前面を下に向け、両腕、両脚を広げて落ちてくる。

 マナトはぞわっとして、笑ってしまった。

「やっ……」

 怖い、怖い、怖い。どうするの? あのまま地面に激突したら。どうなってしまうのだろう。とかしない? しないわけなくない? するよね? それも、かすり傷では絶対にすまないはずだ。

 ところが、リヨは難なく着地してしまった。どうやったの、今の? マナトの目には、リヨが着地する間際に体を丸めたように見えた。そして、ころころっと転がった。いやいやいや、無理無理無理。できないできないできない。タイミングよく丸まって転がっただけで、すくっと立ち上がってまるっきり平気そうとか、ありえなくない?

 リヨは立ち上がったと思ったら、もう走りだしていた。

 走る。

 あれは、走っているのか。

 歩いている感じではないし、めちゃくちゃ速いから、走っているのだろう。見たことのない走り方だ。リヨは上背がある。ハルやマナトよりも背が高い。しかも、少しじゃない。だいぶだ。でも、低い。走りだすと、リヨの頭の位置がぐっと低くなった。地べたをうような走りだ。体がものすごくやわらかいのだろう。というか、やわらかすぎないか。人間の関節は、あんなふうに曲がるものだろうか。人間の筋肉はあんな姿勢を支えられるのか。マナトだったら、前か横に倒れてしまう。

 リヨは倒れない。

 かなり傾いてはいる。

 前傾しているだけじゃなくて、横にも。

 リヨはまっすぐ走っていなかった。ぐるっと弧を描いて、ヨリに躍りかかろうとしている神兵に肉薄した。

 リヨは右手と左手で、神兵の頭を挟んだのか。マナトにはそう見えた。リヨは素手じゃない。肘まで保護する頑丈そうな手袋をつけている。あの手袋、硬いのか。だとしても、あんなことになるだろうか。

 ぱぁんっ――と、神兵の頭が破裂した。

 頭蓋骨って、なかなか硬いはずなんだけど。

 リヨはさらに、尋常じゃない大股の一歩か二歩で別の神兵に詰め寄ると、蹴った。いや、蹴った、とは言えないか。右足と左足で、やっぱり神兵の頭を挟んだ。

 リヨが履いている長靴もきっと丈夫なのだろうが、とはいえまたもや、ぱぁんっ――と、神兵の頭が弾け飛んでしまったので、これはもう何か普通じゃないことが行われているとしか思えない。

 そもそも、グリムガルで目覚めてから、だいたいのことは普通じゃないのだが、だからといって驚かずにいられるかというと、そういうものでもないのだ。

「リヨ! 余計なを……!」

 ヨリが怒鳴った。でも、リヨは振り向かない。止まらない。

「――強いな。これならいけるか……?」

 ハルがつぶやいて、仮面をマナトに向けた。

「マナトは下がっていろ! おれは神官をやる!」

「あっ。うん!」

 返事をしてから、下がっていたくなんてない、と思った。一方で、言うとおりにしたほうがいいような気もする。剣もないし。斬られたりもしたし。他にも傷を負っている。痛いのはまあ我慢すればいいのだが、たとえマナトがぴんぴんしていたとしても、役に立つだろうか。微妙なところだ。

 ヨリは最短距離で敵に迫って、赤い剣を鋭く振る。六熾だか五熾だかは奥の手なのか、披露してくれない。相手が何だろうと、一対一なら必要ない、剣をしゅっと一振りするだけでいい、ということなのかもしれない。おそらく、リヨのおかげでもある。リヨが常に先回りして、ヨリに攻め寄せようとする敵を、両手か両足で挟んでやっつけてしまうからだ。文字どおり、リヨは先回りしている。リヨはヨリと違って、直進しない。かいする。軌道が曲線的なのだ。進むルートだけじゃない。両手、両足で敵を挟みこむ際、両腕、両脚を繰りだす、その動かし方まで、まっすぐじゃない。リヨは絶えず体のどこかで、あるいは全身で、大きい円、小さい円を描いている。そして、的確にヨリを援護している。ヨリはリヨのことなんかまるで眼中にないかのようだが、リヨはヨリを見て、ヨリに合わせて、ヨリを先読みして動いている。

 ハルの狙いははたやりを持った神官だ。他の敵はリヨとヨリに任せて、体中が光沢のあるもので覆われた神官に斬りかかってゆく。

 マナトは剣が見つかったので拾い、茂みの中に身を潜めた。ここからならハルと神官が見える。

 神官は背丈の一・五倍はある槍旗を両手で扱っていて、ハルは右手に伸びる短剣、左手に伸びない短剣を持っている。ハルが伸びる短剣で攻め立てても、神官は槍旗で巧みに受け、ときおり反撃した。神官の槍旗がハルを餌食にすることはなさそうだが、間合い、というのだろうか。二人の距離が遠い。いくらハルの短剣が伸びるとはいっても、マナトの剣より少し長くなる程度だ。もっと踏みこまないと、ハルの攻撃は神官に届かない。

 いいや、ハルに踏みこませないように、ハルを近づけないように、神官のほうがうまく立ち回っているのか。

 ハルが右か左に回りこもうとするそぶりを見せると、神官はすぐそっちに槍旗を差し向けてけんせいする。見た目は奇妙を通り越して奇抜だが、手堅い相手だ。

「Lumi, Betectos, Edem'os, Tem'os desiz,――」

 神官。もとは人だった。たしか人間の言葉をしゃべっていたから、マナトのような姿だったのか。ルミアリスとかいう神に帰依するまでは。ハルが言っていた。あれはもう人じゃない。人とは別物なのだと。

「Tem'os redez, Lumi eua shen qu'aix,――」

 ハルの攻撃をさばきながら、神官が何か呟いている。

 不意に槍旗の石突きを地面に突き立てた。

「Fraw'ou qu'betecra'jis lumi.」

「えっ……」

 マナトは目を見張った。神官の頭や体はでこぼこしてこそいないが、凹凸がないわけじゃなくて、模様のようなものが確認できた。その模様が、突如として青くはっきりと浮かび上がったのだ。

 ハルはおそらく、マナトのように驚いてはいない。でも、いきなり跳び下がった。警戒しているのだ。

「Lumi addecza qu'devain.」

 神官がまた何か唱えた。

「――あぁっ!」

 マナトは思わず叫んでしまった。

 光ったのだ。神官が。とにかくまぶしくて、マナトだけじゃなく、ハルもひるんだ。それはそうだろう。ハルはマナトよりずっと神官の近くにいた。あの強烈な光をまともに浴びたはずだ。

「Lumi trough'es duec eskalys.」

 神官がまたもや何か言って、槍旗の穂先を天高く突き上げた。今度はぴかっと光りこそしなかったが、神官が少し大きくなったように見える。あれは何なのか。神官の輪郭が、全体的に青っぽくぼやけている。

「っ……」

 マナトは息をのんだ。

 神官が動きだした。槍旗でハルを突こうとしている。

 違う。もう突いている。一回じゃない。すごい回数だ。神官は連続で突いた。マナトは神官の槍旗が空気を震わせる音を聞いた。ハルはどうなったのか。

 いない。消えた。

 ハルは神官の連続突きをかわした。

 後ろだ。

 神官の真後ろにいる。

 どうやって移動したのか。わからない。マナトにはまったく見えなかった。

 でも、神官が何をしてくるか、おそらくハルは予測していたのだ。さもなければ、滅多突きにされている。とっさの反応では追いつかない。そう考えずにはいられないほど、神官は速かった。輪郭が青っぽくぼやけているせいなのか。急激に速くなった。

 ところが、ハルが神官の背後をとった、とマナトが思ったのもつか、気がついたらそうじゃなくなっていた。神官はいつ回れ右をしたのか。何にせよ、神官はハルと向かい合っていて、槍旗を繰りだそうとしている。

 これもきっと一回じゃない。連続突きだ。

「ハル……ッ――」

「っ――」

 ハルは左方向に倒れかかるようにして神官の連続突きを躱した。あの体勢から一瞬で持ち直し、次の瞬間には神官の後ろに移動している。やっぱりハルはすごい。

 それでも、輪郭が青っぽくぼやけている状態の神官は、ハルの動きについていってしまう。神官がまたたく間に身をひるがえして、ハルに向き直った。神官はまたもや槍旗でハルを突くだろう。ハルはよけるしかない。

 だめだ。きりがない。

 マナトは茂みから飛びだそうとした。自分にも何かできないか。そう思ったのだ。何でもいい。何かしたい。

 もっとも、実際に何かしたのは、マナトじゃなくてリヨだった。

 リヨは地を這うように弧を描いて疾駆し、ハルに連続突きをお見舞いしようとしていた神官に、組みついたのか。リヨは横合いから神官に両腕を絡めて、身をよじった。組みついたのではなかった。リヨは神官を投げたのだ。

 投げられた神官は、けれども、ぐるんっと転がってすぐさま起き上がった。

 リヨは、そしてハルも、神官に追い打ちをかけなかった。

しき――」

 ヨリだ。

 ちょうどリヨが神官を投げ飛ばしたところに、ヨリがすっ飛んでゆく。

黒影剣ダシユラ幻身イルジオ……!」

 ヨリの赤い剣が、赤くない。

 赤かったはずなのに。

 黒い。黒光りしているというのでもない。黒いもやのようなものに覆われている。その黒い靄状のものがばぁっと飛び散ると、マナトは目を疑った。ヨリだ。

 ヨリがいる。

 もう一人のヨリが。

 ヨリが二人になった。

 マナトは仰天して笑ってしまったが、笑っている場合じゃない。神官はためらわずに一人のヨリを槍旗で突いた。ヨリ。ああ。ヨリが。

 消えせた。

 跡形もないかというと、そんなことはない。

 神官の槍旗に貫かれたヨリは、黒い煙と化した。

 一人のヨリが黒煙となったときには、もう一人のヨリは神官に接近していた。

 それどころかヨリの赤い剣が、神官の左肩から右腰まで、斜めに斬り下ろしていた。

 二つに分かたれた神官が地面に崩れ落ちると、ヨリは肩をすくめてみせた。

「こんなものか。ひいおちゃんが帰りたくて、帰れなかったグリムガル……」

 立っているのはマナトとハル、ヨリ、リヨの四人だけだ。真っ二つにされた神官はもちろん、神兵長、神兵たちも、全員、グリムガルの地に伏している。

「まだだ……!」

 ハルが叫んだ。声を発しただけじゃない。飛びかかった。ヨリのあしもとで何かがうごめいている。何かも何も、神官だ。神官はヨリの脚に向かって右手を伸ばそうとしていた。右腕しか動かせないからだ。ヨリに両断されたせいで。そんな状態でも、神官はヨリにつかみかかろうとしていた。そうはさせまいとハルは神官に躍りかかって、うつ伏せにすると、神官の首筋に短剣を突き入れた。あれは伸びないほうの短剣だ。

「神官だと、ろくぼうこうかくが三つはある……!」

 ハルは何をしているのか。ただめったやたらに刺しまくっているわけじゃない。両膝で神官を押さえつけ、まるで獲物をナイフで捌くときのように、切り開いている。骨から肉を切り離そうとしているのか。

「六芒……光核?」

 ヨリがぼうぜんと呟いた。

 リヨはヨリの隣で、あちこちに目を配っている。

「二つ、壊した。最後の一つ――」

 ハルは神官の頭の中に左手を突っこんで、何かを取りだした。ずいぶん小さな物体だ。マナトも駆け寄って、まじまじとそれを眺めた。

 ハルが左手の人差し指と親指でつまんでいるそれは、小指の爪よりもたぶん小さい。無色透明で、丸く、その内部に光が宿っている。単なる光じゃない。よく見ると、その光には突起が六つある。あの形だ。神官の旗に描かれていた。

「六芒光核。これがルミアリスに帰依する者たちの力の源だ」

 ハルは立ち上がって、その六芒光核とやらをぎゅっと握り締めた。かなり力を入れている。でも、手を開いてみせると、きず一つない。手袋をめたハルの左掌の上で、それはまだ光を放っている。

「六芒光核がある限り、帰依者たちの肉体は修復される。昔、試してみたことがあるんだが、六芒光核が埋めこまれた背骨の一部から、だいたい丸二日で五体がそろった状態まで再生した」

「ヨリ」

 リヨがヨリの背中をそっとさわった。ヨリはうるさそうにリヨの手をはねのけた。

「何?」

「死んでない」

「は? 死んでないって――」

 ヨリは自分の目で確かめるよりも先に顔をしかめ、舌打ちをした。

 さっきまで倒れ伏していた神兵長や神兵たちが、身を起こそうとしている。体が損傷していて起き上がれない者は、い進んでいる。

「ぜんぶ始末するのは骨だが……」

 ハルは仮面の奥で一つため息をついた。

「増援はなさそうだし、やっておいたほうがよさそうだ。ヨリとリヨだったか。きみたちが手伝う必要はない。ただ、にんがいるから、すまないがてやってくれないか」

「怪我人?」

 マナトは自分を指さした。

「あぁ。大丈夫だけど」

「大丈夫なわけがないだろう。背中を斬られている。だいぶ出血しているようだし、かすり傷じゃない」

「血は出てるかな? 痛いことは痛いけど、このくらい、ほっとけば治るよ」

「強がるな。ちゃんと手当てしないと、命に関わるかもしれない」

「や、平気だって。ほんとに。何だっけな。ジュンツァが言ってたんだけど。体質? 丈夫なんだよね。怪我とか、すぐ治っちゃうし。生まれつき? なのかな」

「ぁ――」

 後ろに誰かいて、その何者かが小さな声をもらした。

「え?」

 マナトは首だけ振り向かせた。リヨだった。かがんでマナトの背中に顔を近づけている。いつ移動したのか、マナトにはまったくわからない。ハルやヨリは身軽で素早いが、リヨは俊敏なだけじゃなくて、身のこなしが独特だ。何かこう、ぬるっとしている。

 リヨもヨリのような眼鏡をかけていた。それを顎の下にずらした。

 髪の毛がずいぶん長いのに、前髪だけは短く切られている。目に入らないように、だろうか。それしても短すぎる。

「ふさがってきてる……」

 リヨはそう言うと、上目遣いでマナトを見上げた。リヨが屈んでいなかったら、マナトは見下ろされているだろう。本当に背が高い人だ。でも、頭は小さい。

「なぜ?」

「……なぜ? 傷のこと?」

「そう」

 声もだいぶ小さい。戦っている最中はそうでもなかったが、ふだんのリヨはこういうふうに話すのだろう。無理に音を出そうとしないで、そっと息を吐きだすついでに、声を発する。そんな発声の仕方だ。

「なんでかは、わからないけど。父さんと母さんは、こんなじゃなかったし。ジュンツァとかも。あ、ジュンツァっていうのは仲間ね。ここにはいないけど。グリムガルには一人で来たっぽくて。よくわかってないんだけど」

 リヨは眉をひそめた。

「……情報を整理する必要が」

「その前に、あいつら!」

 ヨリが赤い剣の切っ先で神兵長やら神兵やらを指し示した。

「片づけないと、でしょ! その子の怪我がなんともなさそうなら、やるよ、リヨ!」

「はい」

 リヨは屈めていた体をすっと起こした。案の定、マナトより頭一つ分まではいかないとしても、それに近いくらい上背がある。

「やり方教えて!」

 ヨリにかされて、ハルが少し慌てたように近くの神兵めがけて走っていった。

「あ、ああ、六芒光核の位置はおおよそ決まってて――」

「ていうかあなた、どうして仮面なんかつけてるの? 怪しいんだけど」

「……そうか。すまない、ええと……」

「今はいい。そのへんはやることやってから」

「そうだな、うん、で、六芒光核は、脳の一番奥というか中央というか、視床と呼ばれる部位に――」

「脳? 頭の中? それで首をねるだけじゃだめなんだ。神官は三つとか、さっき言ってなかった?」

「脊柱沿いに増殖するらしい。二つ目は、延髄あたりで」

「増えると、見た目が変わる?」

「ああ、そうだ。二つ目の六芒光核は、帰依者にじゆたいをもたらすみたいで――」

「この頭を覆ってるやつが、その受体?」

「のみこみが早くて助かる……」

「六芒光核二つで頭部が受体で覆われて、三つで全身に及ぶってことか。なるほど。リヨ、聞いてる? 覚えた?」

「はい」

「どんどんやっちゃおう。そこの!」

 ヨリが赤い剣で神兵の頭をたたき割るなり、マナトのほうに目を向けた。

「動けるなら、きみも手を貸して。危なそうなやつを見つけて、教えてくれるだけでいいから」

「無理はするな、マナト」

 ハルはそう言ってくれたけれど、ヨリに指示されたことくらいなら、マナトにもできる。傷はそのうち治るとしても、まだ時間がかかるだろうし、それまで痛みは消えない。ただじっと我慢しているのも退屈だ。ふさがりつつある傷が開いてしまうほど激しく動かなければ、おそらく問題ない。

「わかった!」

 マナトはさっそく目を皿にして、すぐにも起き上がってきそうな神兵を探しはじめた。

「……マナト?」

 ヨリがつぶやいた。

 マナトはヨリのほうを見ずにうなずいた。

「うん。何?」

「マナト……」

 ヨリは低い声で繰り返した。べつにマナトを呼んでいるわけじゃないようだ。

「たしか、ひいお祖母ちゃんの話に出てきたような……マナト……」