第三幕 魔王城のある谷『友の契り』



 目を閉じて、一つ深呼吸。

 思い返すのは、二百年も昔の出来事。

 しかし、その記憶が。その記憶だけは、色あせることなどありはしない。

 なぜなら、あの日は決意の日。

 毎年その日を迎えると、シガレットを咥くわえて一人なつかしさに浸り……そして、まだまだ生きなければならないと己の心を激励するほどに。

 戦いが終わったラシェアンから、少し離れた草原で。

『今回のこと……感謝する。友よ』

『俺とお前はダチじゃねえか。ダチの為に俺は怒ったんだ。ダチが他の野郎にひでぇことされてるってことにムカついて、元々変える気なかった歴史を変えたんだ。……そこに、打算も情もありはしねえよ。そういうもんだろ、友達ってのは』

『ならばこそ、余計に言わせてくれ。受け取らなくても構わない。それはそれとして、気が済まないのだから。このボクのね』

 間違いなく、シャノアールは誓った。

 己に、そして親愛なる友人に。

 それを彼が覚えていなくても。

 彼が、自分が生きていることを知らずとも。

『そのうえで、誓おう。これから先、このボクの身が人間である以上はどうしようもない部分もあるだろうけれど。それでも、きみは友だ。このボクのね。友の為に、この力を振るおう。……きみに貰もらった恩は、忘れないよ』

 シャノアール・ヴィエ・アトモスフィア。

 最高の導師にして、二百数十年を生きる人間。

 魂の契約を交わし、その成長を留とどめることに成功してから。

 彼はずっと、友に報いる日を待っていた。

「……バレット展開。第八から第十六攻性魔導、異常なし。よし、今日も絶好調だ。このボクはね」

 シャノアールの周囲に魔素のエネルギーが放出される。

 瑠る璃り色いろに輝くその魔素は、まるで覇気のように彼を包み込む。

 バレット。

 シャノアールが独自に編み出した、常に停滞し遍在する常時発動型の魔導。

 これがある限り、彼が詠唱するまでもなく迎撃魔導が放たれる。

 魔界最強の魔導師と、人類最強の魔導司書。

 その対たい峙じは、今度はアスタルテの疲労を伴ったうえで実現された。

「ふぅ……いくら僕やつかれとはいえ、このレベルの相手を前に魔力消費が激しいのは歓迎しがたい状況と言えるな」

 呆あきれるようにアスタルテは呟く。

 しかし彼女の瞳ひとみから戦いの意志は消えていない。

 虹にじ色いろに輝く瞳が、敵対者を射い貫ぬき続けていた。

 戦いはまさにセカンドステージに移行していると言えた。

 倒れ伏す多くの魔族に加え、疲労でしゃがみ込むユリーカとそれを庇かばうように立つレックルス。

 二人ともが満まん身しん創そう痍い疲労困こん憊ぱいの状況ではあるが、それでも尚その瞳に宿る闘志は無論潰ついえていない。

 すぐに回復して参戦するべく、魔素を体内に溜めることに必死だった。

「本来、車輪の討伐に来ただけで導師……否、シャノアール・ヴィエ・アトモスフィアとことを構えるつもりはなかったのだが。まあ、仕方がない。物量で押し潰してみせよう」

「それはそのまま返そう。このボクがね。友人と、孫娘同然の子をこんなにして、許されると思うなよ魔導司書」

「はっ。許す許さないは現あら人ひと神がみである僕やつかれが決めることだ。きみなどに決定権などあるものか」

 静せい謐ひつにして苛か烈れつな言葉の応酬。

 既に臨戦態勢を整えた両者の間で、ぶつけ合うような純魔力が臨界点ぎりぎりで軋きしむように揺れる。

 その均衡が少しでも崩れれば、すぐさま魔導の打ち合いが始まってもおかしくない状況。

 しかし、シャノアールにとってそれは、実は歓迎出来ないことだった。

 何せ、背後には守るべき相手が居る。殆ほとんど魔素が残っていない魔族など、アスタルテにかかれば散歩気分で踏み潰されることだろう。

 現にその状況から彼はシュテンとユリーカを救ったのだ。

 ましてや、シャノアール相手ならアスタルテの魔導は全力に違いない。

 ユリーカにその一つでもあたってしまえば、無事では済まないだろう。

 と。

「……こういう時、魔素関係ねぇヤツってのは気楽だなぁ」

 ふらり、と。

 対峙するシャノアールとアスタルテの間に現れたのは、一人の妖よう鬼き。

 三さん度ど笠がさを被ったその瞳は、二人からは見えないが。

 それでも鬼殺しを握った男の意志は、背中から感じることが出来る。

 その、ずたずたに引き裂かれた背中から。

「……シュテンくん、大丈夫なのかい?」

 思わず、シャノアールは問いかけた。

 一瞬の無言。大丈夫かと聞かれれば、確かにそんなことはないのだろう。

 だが、それでもシュテンは「はっ」と肺にたまった空気を一気に吐くように己を鼓舞して歯を見せ笑い、振り返らぬままシャノアールに伝える。

「ばっきゃろうが。お前にあれだけカッコつけさせて、俺がのうのうと観戦なんざしてられると思うかよ。なんだよ二百年待つってよ。馬鹿かよ。クソが。ああちくしょう。……それだけカッコつけられちゃあ……身体に鞭むち打ってでも立ち上がるのが……ダチに背中預けて戦うのが……浪漫ってもんだろがよ!」

 吐いた言葉が、今シュテンが立つ全ての理由だ。

 格好悪いところは見せられねえ。

 友が身体を張ってくれるなら、己もそれに応えるまで。

 つくづく二百年前と変わらないその姿に、シャノアールは小さく口元を緩め。

「……そうか。では、二百年培った魔導がすばらしいものであることをお見せしよう。このボクがね!」

「前衛、必要だろ? 最高の露払いになってやるよ。この俺がね!」

 前にシュテン、後ろにシャノアール。

 二百年前には実現し得なかった旧友二人のタッグチームが、今最大の敵を相手に牙を剝むく。

 その瞳に宿る熱は、誰にも吹き消すことなど出来やしない。

 少なくとも、対面するアスタルテはそう思った。

 彼らは四肢をもがれようとも、敗北を認めることはないだろう。

 ならば、アスタルテが取る手段はただ一つ。

「いいだろう」

 ふぅ、と大きく息を吐く。

 シュテンと同じく、肺が空っぽになるほどに深く深く吐き出した息に、己の中の雑念を全て込め尽くした。

 今ここにあるアスタルテ・ヴェルダナーヴァは、ただただ一個の現人神であり、アスタルテ・ヴェルダナーヴァという個でしかない。

 そこに、英雄たらんという意志はない。

「どういう間柄なのかは、僕やつかれには分からない。だが、その関係、その絆きずなこそが、明らかにこの現人神の叡えい智ちをも超えた力を生み出したことだけは理解出来る。認めよう。ただ英雄としてでなく。今から僕やつかれは、きみたちに敬意を表し、全力で潰す」

 虹にじの瞳が、力を孕はらんだ。

「はっ……かかってこいや!!」

「行くよ……このボクがね!!」

 戦闘、開始。

「っ!?」

 その瞬間、アスタルテが跳躍した。

 シュテン、ユリーカ戦では一度も自ら動こうとしなかった彼が、最初に取った行動が移動であった。

 そのことに目を丸くしつつ、シュテンが追跡を仕掛けようと思ったその瞬間。

「第八攻性魔導・改──滅めつ龍りゆう崩ほう牙が」

 文字通り、今の今までアスタルテが居た場所が〝消滅〟した。

「……は?」

 あまりといえばあまりな出来事に、シュテンは思わず呆ほうけた声を出した。

 空を舞うアスタルテが苦々しくその地面を睨にらむのを見て、誰の仕業かを理解する。

「シュテンくん。このボクが道を作ろう、きみには、何も考えず戦って貰いたい」

 振り向けば、何事もなかったかのようにアスタルテを睨み据えながら魔導の力を漂わせるシャノアールの姿。

 開幕の一撃が尋常ではない魔力を秘めていたことすら、シャノアールにとっては造作もないことらしい。

「はは、頼もしい後衛だなオイ!」

「あの日と同じく、きみも随分頼もしいじゃないか」

「ここでそれ言われんのはハードル高ぇな!」

 シャノアールの激励を背に受け、シュテンはただアスタルテを追うことだけに集中する。

 目標を捕ほ捉そく、シュテンが地面を蹴ったその時、アスタルテは面倒そうに手を振った。

「……まさか、僕やつかれが最初に回避をさせられるとはね。さぁ、行こうか」

 その手に輝く指輪が、煌きを増して周囲へ魔素を拡散する。

 ──神蝕現象フエイズスキル【九つ連なる宝ほう燈とうの奏しらべ】──

 その祝詞のりとに従い、現れるは九つの魔導具。

 ──神蝕現象フエイズスキル【四肢五体分かつ暗き刻限】──

 ──神蝕現象フエイズスキル【大文字一面獄炎色】──

 ──神蝕現象フエイズスキル【大いなる三元素】──

 空中に座す、最高の魔導司書が敵対者二人を睨み据える。

 三つの魔導書を展開し、その紅ぐ蓮れんと三つの球体が襲いかかる。

「あぁ、それから」

 ──神蝕現象フエイズスキル【清せい廉れん老ろう驥き振るう頭かぶ椎つちの大た刀ち】──

「これも、復活だ」

 軍刀と大おお薙刀なぎなたの二刀流。

 その猛威を振るう魔力に押されながらも、それでもシュテンは獄炎の中を駆け抜ける。

 虹色の瞳が、シュテンを捉とらえた。

「……閃」

「っ!?」

 どんなに速く動こうとも、その速度は、アスタルテの埒らち外がいにまでは及ばない。

 構えた軍刀から放たれた剣閃が、シュテンを飲み込まんと乱舞して迫る。

 風圧がその身を焦がす、しかしその一歩手前で。声が響きわたる。

「させるわけないじゃないか、このボクが」

 ──第十六攻性魔導・水花名月──

 まるで花弁が開くようにシャノアールの前方に展開された魔法陣から、目ま映ばゆい月光が放たれる。神性を含むその力は、軒並み風の刃を溶かして消した。

「さすが!」

「任せたまえよ、シュテンくん!!」

 ガッツポーズ宜しく叫ぶシュテンに、シャノアールは朗らかに答えた。

 魔導を扱える後衛の頼もしさを実感しつつ、前衛は前衛らしく仕事をせんと大地を駆る。

 日輪属性の炎の大蛇。シャノアールの流水魔導が押し潰す。

 三つの球体による乱舞。デコイによるシャノアールの援護で事なきを得る。

 旋風のような剣閃の嵐。月光の奔流に儚はかなく溶ける。

「つっよ……」

 思わずシュテンが呟つぶやいたのも仕方ない。

 あれほどまでに苦戦した数々の魔導が、次々にシャノアールによって無効化されてしまうのだから。

「……あの日から」

 シュテンには聞こえない程度の小さな声で、シャノアールは小さくこぼす。

 目を伏せることはない。

 むしろ爛らん々らんと輝かせた瞳で、魔導の隙は欠片かけらもなく。

 それでも思いを馳はせるように、今ここにあると叫ぶように。

「魔導の鍛錬を怠った日はたった一日たりともない! 魔導司書にさえ、引けは取らないよ、このボクはね!!」

 ──第十一攻性魔導・氷結爆散──

 氷の礫つぶてがシャノアールの周囲に現れる。それぞれが独特の軌道を描き、アスタルテを追うように放たれた。

 彼はそれを見た瞬間、大薙刀を一いつ閃せん。魔素ごと消滅を図らんとその威容を発揮する。

 しかし。

「魔素の消滅。そんな攻撃をする人間が居ると聞いて開発した魔導だよ」

「つっ!」

 爆散。

 魔素を強引にかき消されるその瞬間、組み込まれた術式が自壊を起こして爆発する。

 黒煙にまみれたアスタルテが、忌々し気にそれぞれを睨みながら、しかし白き球体を駆使して全てを起爆させた。

「一筋縄じゃいかないね」

「いや、これはいける、いけるぜおい!」

 シュテンは叫び、鬼殺しを片手にとうとうアスタルテに追いついた。

 爆風にまみれ、隠れていたシュテンの登場にアスタルテは目を見張る。

「懐にもぐりこんだのは初めてだな! こんにちわぁ!」

「ぐっ」

 アスタルテの軍刀による迎撃は間に合わない。

 それは全て、シャノアールの魔導による妨害があってのこと。

 たまらず大薙刀で鬼殺しを迎撃せんと防御の構えを取るアスタルテに、力ずくで押し潰してやるとシュテンは息まいて、絞るように柄を握りしめる。

 だが。

「……ふぅ」

 一つ、艶なまめかしいため息と共にアスタルテは虹の瞳ひとみをまっすぐにシュテンへ向けた。

「甘く見るなよ、魔や導つ司か書れを」

 シュテンの斧おのが振りかぶられた。

 同時に左腕の大薙刀がその先端にぶち当たる。

 清廉老驥振るう頭椎大刀はがりがりと鬼殺しの刃を削りながら、そのオーラでもってシュテンの身体を食わんと襲いかかる。

「なにっ」

 力ずくの一撃を受けられた驚きに目を見張る。

 それを回避しようと身体をひねったその時だった。

「悪いが──」

 軍刀が、真正面に。

 神蝕現象が放たれるというのなら、まだタイムラグで回避出来る気もした。

 だが、シュテンが防御に大だい斧ふの柄を構えると同時、繰り出された大薙刀と軍刀の重なる連撃。

 アスタルテが、初めて獰どう猛もうな笑みを浮かべた。

「──接近戦は得意なんだ」

「お前本当にどうしようもねえな!?」

 火花を飛ばす、大斧と軍刀、大薙刀の剣舞。

 明らかに押されているシュテン。

 それは単純な膂りよ力りよくではなく、神蝕現象を持つアスタルテとそうでないシュテンの歴然とした差であった。

「確かに──」

 アスタルテは二刀流による連撃を折り重ねながら、シュテンをその虹の瞳で睨んで言う。

「あの導師を呼び覚ましたきみの力は恐ろしい。僕やつかれ自身、運命の糸を弄られるなど初めての経験だ。それは、買おう。だが」

「なん、だってんだっ」

 ぎりぎりとつばぜり合いを演じながら、アスタルテは続けて言った。

「それでも僕やつかれを倒すには今のきみでは荷が重いな!」

「んのっ」

「諦あきらめて引っ込め、鬼神の影を追う者よ!」

 ただ単純な力比べでも、どうなったかは分からない。

 ましてやシュテンは背中と左腕を負傷しているのに対してアスタルテは未だ無傷なのだ。

 明らかに、動きのキレに違いが現れる。

「ぐっ……!」

「吹き飛べ」

 とどめとばかりに放たれた大薙刀の一閃。

 鬼殺しで防ぐことも出来ない。

 左からの猛追に、シュテンの左腕は反応しない。

 あれだけ神蝕現象によってずたぼろに引き裂かれたのだからそれは当然だ。

 だが、それでも。

「っ!?」

「あああああああああああ!!」

 守るべき仲間が居て、

 背中を預けられた女が居て、

 そして何より、

「二百年も頑張ってきたようなダチに、これ以上カッコ悪いとこなんて見せらんねえよなァ!!」

「腕をっ……正気か!?」

 大薙刀の柄部分を見極め、痛みでどうしようもない左腕を差し出す。

 ぶつかった衝撃でひしゃげた腕は、どうしようもないほどにイカレた方向に曲がりきって。

 それでも、そこで一瞬の隙が出来る。

「これでも食らってッ……」

 地面を抉えぐりながら振りあげる、右手一本で腕尽くの無理やりな一撃。

 だがそれは確かにアスタルテの視界の外からの攻撃であった。

「くっ……」

「テメエが吹っ飛べコルァアア!!」

 すかさず軍刀で切っ先を防ぐも、アスタルテの体重は重くない。

 なりふり構わないシュテンの鬼殺しの一撃に、確かにアスタルテの身体は宙に浮く。

「……だが、これでなんだと」

 せっかく出来た隙。

 とどめを刺す為にはたたきつけるのが常道だった。

 確かにアスタルテはそれを警戒して上には注意を払っていたし、それだけに下からの振りあげは予想外だった。

 だが、それでは予想外なだけだ。

 一瞬生じた疑問に顔をしかめ、地面のシュテンを見下ろせば。

「俺が攻撃を加えるよりも──」

「──任せてくれたのさ、このボクにね!!」

「なにっ!?」

 聞こえてくる不敵な笑い声。

 てっきりシュテンのサポートに回るだけかと思って油断していた。

 それこそ、接近戦でも不利な状況だ。

 何かしらの妨害が入るとすれば、シュテンと矛を交えている時だと、そう思っていたのに。

「第十四攻性魔導・冥月乱舞!!」

 その瞬間、一つでも凄すさまじい殺傷力のある混沌冥月ゼーブルフアーが、三十余もの数出現した。

 それぞれが全く別の軌跡を描き、しかし間違いなくアスタルテに向かって迫ってくる。アスタルテの虹にじの瞳が、冥月乱舞で黒く染まり上がった。

「だから──」

 しかし。

 冥月乱舞が直撃する寸前で尚。

 アスタルテの表情は変わらない。

「──魔や導つ司か書れを甘く見るなと言ったはずだ」

 ──神蝕現象フエイズスキル【天照らす摂理の調和】──

「……っ!?」

 その祝詞が響いた瞬間、シュテンもシャノアールも警戒態勢を整える。

 だが、誰も〝偶然〟の森羅万象が敵に回った様子はない。

 だとすれば、いったい。

 思考が追いついたと同時、凄まじい轟ごう音おんが鳴り響く。

 爆ぜるは冥月乱舞。

 ありとあらゆる黒き奔流が、アスタルテが居るであろう場所を中心に弾け飛んだ。

「まさかッ……あの野郎自分に神蝕現象使いやがったのか!?」

 周囲の魔素も大自然のうちの一つ。それがそっぽを向くということは、周囲にあった魔素が暴発してもおかしくはない。

「それよりも!」

「ちっ!!」

 シャノアールは当然のように身を守ったし、シュテンとて冥月乱舞の残ざん骸がいを受けるほどノロマではない。

 だが、峡谷の端で休んでいるユリーカたちは。

 暴発の影響で巻き起こった噴煙によって視界が悪い。

「ユリーカァ!!」

 叫ぶ。

 これで、あの場に居た面々が軒並み瓦が礫れきに埋もれてしまったら今まで頑張っていた理由がないではないか。

 だが。

 シュテンが彼女らの居た方向に目を向けると、どうも無事で居るらしかった。

 崖がけから、冥月乱舞の暴走のせいであった落石からも、守られたらしい。

 だって、そこにはいつの間にか。

「まさかしゃりっ……ユリーカを助けることになるとは思いませんでしたー」

 当たり前のように、そしてのんびりとふわふわ浮かぶ、一人の少女が居たから。

 守られたユリーカの目が見開かれる。

 確かに今その少女は、ユリーカたちを庇かばうようにしてそこに立っているのだから。

「ヴェローチェ……?」

「呼びましたー?」

 くるくると巻かれたツインテールを揺らして、少女はあどけない表情で振り向いた。

 過去に向かう前に別れた時と全く同じ、眠たげな表情を引っ提げて。

「え、や、その」

 守られた。

 それがあまりにも衝撃的過ぎて、ユリーカは言うべき礼の言葉さえ出てこなかった。

 それはそうだ。