「古き友の窮地と聞き、参上したよ──」

 たん、と地面に響く革靴の音。

 アスタルテを睨にらみ据え、その膨大な魔力を弾けさせてさわやかに叫ぶ、その闘志。

「──この、ボクがね!!!!」

 アスタルテの瞳が驚きよう愕がくに見開かれ、ユリーカの瞳に涙が溢れる。

 再会は絶望的だと思っていた。

 時が友を引き裂くと思っていた。

 それでもなお、彼は笑って現れた。

「……なぁんで忘れてたんだろうな。ユリーカちゃんとシュテンの顔見たら思い出したんだ。お前らがきたら導師を呼ぶようにって……導師自身から言われてたことをよ」

「れっ……くるす……なんで……生きてたの……!?」

 その背後から、腹に包帯を巻きながらよたよたと現れたのはもう一人。

 先ほど大おお薙刀なぎなたと共に消滅し、死んだかと思われていた現代の友人。

 目を見開くユリーカに笑顔でサムズアップして、シュテンとアスタルテに向き直る。

 レックルス・サリエルゲート。

 アスタルテが油断し、その瞬間にあの男が現れたことに説明をつけるには、レックルスをおいて他にないだろう。

 だが彼の言葉に引っかかるものを感じたシュテンは、生きて戻ってきたレックルスに問いかけた。

「……導師?」

「ああ、とある契約の下……ボクはこうして長い時を生きることができた」

 その問いに応えたのは、レックルスではなく。

 やはり、あの時の、二百年前の友人で。

 すう、と息を吸い込んで、シュテンに笑いかけるように名乗りの声を張り上げる。

「導師シャノアール・ヴィエ・アトモスフィア! 旧友シュテンの危機と聞いて、推参!!」

「は……はは……なんっだ……そりゃぁ……」

 乾いた笑いを抑えきれない。

 気付いていた。

 あの時よりも凄すさまじい、膨大な魔力を秘めている目の前の男に。

 二百年の間、彼が生きていたことの証明。

 導師という二つ名が示す、歴史の変換。

 シュテンとユリーカは、過去改変をやり遂げたのだ。

 そして、やり遂げたからこそ彼が居る。

 シャノアール・ヴィエ・アトモスフィアはここに居る。

「……何故だ。死んだはずでは……運命の糸は、確かに……」

「アスタルテ・ヴェルダナーヴァ。友人と……孫娘同然の子をよくもここまでしてくれたね。ここからは、このボクが相手をしよう。あの日彼らに助けられ、今こうして生きている、このボクがね。必ず、すると決めていたんだ。シュテンくんに、必ず」

 何を、との疑問を発する余裕は、アスタルテにはない。

 死んだはずだ、確かに。そう自らの混乱する脳を抑えながら、それでも目の前の敵が強大であることを理解して。

 アスタルテは、冷静に深く呼吸して。

 思考を放り投げたように、どこか諦あきらめたように、シャノアールを見据えて言った。

「いいだろう、かかってくるといいさ。僕やつかれも、シャノアール・ヴィエ・アトモスフィアなら相手にとって不足はない」

「それは、光栄だ」

 大量の魔導具を背後に控え、アスタルテは豪語する。

 帝国書院書陵部魔導司書第一席は、この程度のことでは動じない。

 相対するシャノアールは、一つ拳こぶしを握りしめて、どこか感慨深そうにぽつりと呟つぶやいた。

「さぁシャノアール、準備はいいか」

 あの日助けられた恩人は、同じ時を生きてはいなかった。

 けれども、友と認めた相手に報いず死ぬなど、男がすたる。

 だから待った。

 だからこの日を待っていた。

 命を繫つなぐすべはあった。であればもう、待つ他ないだろう。

 彼の産声を、彼との出会いを。

 親愛なる友に、報いる瞬間を。

「二百年間待ちわびた──」

 ようやくだ。

 ようやく、その時が来た。

 シャノアールは笑って前を向く。


「──恩返しの時間だ」




 まどうししょ の アスタルテ が しょうぶ を しかけてきた !▼

(専用BGM『二百年越しの友情~BOSS BATTLE ASTERTE 2nd STAGE~』)