男とも女ともつかない。
なんというか、一次元格が違いそうな雰囲気。
といっても伝わらない。言葉に表現しにくい、しかしはっきり分かるのは〝常人じゃねえ〟という
ふ、と笑った口角は魔界の日輪を背に
ん? ちょいまち?
……黒いコート?
「……おいおいお前さん、その黒コートは嫌な予感しかしねえ訳だが……よければくるっと後ろを見せてはくれませんかねぇ……?」
自分でも驚くほどに
からからになった喉のせいではない。
久々に感じる神域級の重圧に、口を開く具合さえ分からなくなったせいだ。
全く、ふざけろよ情けねえな。
一つ気分を落ち着けるように深呼吸を入れながら、いつもの調子を取り戻すべく天空の敵対者を
と、その挙動に何か気になるところでもあったのか瞳を瞬かせて彼か彼女か分からんがそいつは
しかし相変わらず悠然と続ける。
「なるほど、魔導司書の制服については知っているようだ。デジレやヤタノと何度も出会っていればそれも当然か。心配しなくて良い。
「一番やべえじゃねえか!!」
セミロングに
というよりも、縦筋一本ってこたぁつまり示す数字はIしかねえ。
つまるところ……あの化け物軍団のリーダー。洒落んなってねえぞ。
「魔導司書の、第一席……アスタルテ・ヴェルダナーヴァね、あんた」
すでにカトラス二刀を出現させて身構えながら、第一席──アスタルテを見据えるユリーカ。俺も鬼殺しに手をかけて、彼か彼女か分からんアスタルテに目をやった。
「アスタルテ、ヴェルダナーヴァ」
確認するように俺もその名を口にした。
すると彼は
不敵な笑みを隠さないアスタルテは、少し小高くなった丘の上から、死体を避けつつ歩み寄ってくる。
疲弊した身体がぎしぎしと悲鳴を上げた。
死が歩み寄ってくるような重圧を肌に感じて、思わず頰内の肉を
未来に帰ってくるなりこんな話、聞いてねえぞおい。
「〝車輪〟のほうは
「男? 女?」
「……ほんとうにノータイムで質問が返ってきたのはきみが初めてだよ」
目を丸くしつつも、やたらと
こちとら疲労
いや、どうやってと言われると答えに窮するところではあるのだけれども。
疲れている時特有の無駄思考に気を取られている俺とは違い、お元気なアスタルテは両手を皿のようにして肩を揺らしていた。
高貴な雰囲気をそのままに道化を演じるそのふるまいが妙に
「
「……短い間、ねえ。マジでやり合うのか?」
「〝車輪〟の討伐。それが今回の
「……そうか。そいつぁ……いただけねえな」
車輪の討伐。隣にちらりと目をやれば、ユリーカは既に臨戦態勢を整えていた。
そらそうよな。お前を殺すなんて言われてじっとしてられるかってんだ。
「刃向かうというのなら。魔族であるきみも討伐対象だ」
俺が鬼殺しを背中から引き抜くと、
アスタルテ・ヴェルダナーヴァの
「はっ、ご丁寧に
「然り。それが
「……余裕かましやがって」
舌打ちしながら、身体の調子を確かめた。
一応、戦えるくらいには元気らしい。
元気っつったって空元気の域を出ねえが、それさえないガス欠だったら本格的に奴の言う通りになっちまう。
ついでに言えば、魔導司書の第一席。
俺の知ってる化け物である、グリモワール・ランサーⅠの主人公第二席や、この世界で遭遇した暫定最強のヤタノ・フソウ・アークライトよりも〝格〟としては上の存在。
どんな攻撃を持ってくるか分かったもんじゃないのだから。
警戒する俺の瞳をその虹の目で観察しながら、アスタルテは指輪の
同時、彼を取り巻く渦が魔素の嵐と化し、彼女の魔力が膨れ上がる。
……って。
おい。
ちょっと。なあ、待て。
「……一つ、いいか。第一席さんよ」
「なにかな?」
あっけらかんとした
や、言ってる場合じゃねえんだそんなこと。
マジ、洒落んならん。
「俺ぁよ、三、四人の魔導司書と面ァつきあわせたことがあんだがよ……」
デジレ、グリンドル、ヤタノ。そしてなんかヒイラギさらったオカリナ女。
そいつらを思い出しながら、アスタルテを見据える。否、アスタルテのその先を。
「ヤタノちゃんは番傘、デジレは
「ふむ、よく分析している。それはすべて、魔導司書が持つ魔導書さ。
彼は自らの中指に嵌まった虹色に瞬く指輪をかざす。彼女の魔力は確かにその指輪に集約されているようだった。
なるほど確かに、ヤタノちゃんの番傘やモノクルハゲの大薙刀と同じくらい、いやそれ以上の凄まじい覇気を感じる代物ではあるだろうよ。
だが、俺が聞きたいのは、そんなことじゃねえ。
口元がひきつるのを感じた。
洒落にならないこの事態に。実際問題、やってられねえどころの騒ぎじゃねえんだが。
「じゃあ、聞くがよ……」
「うん?」
分かっていて尚、純粋な風を装って首を傾げるアスタルテ。
思わず舌打ちした。冗談じゃねえ。
ああ、ならいいよ言ってやるよ。聞いてやるよ。
「俺の知ってる魔導司書共の魔導書とやらが……番傘や大薙刀やオカリナが……九つ全部お前さんの背後にある気がすんのは……気のせいか?」
「気のせいではないよ。きみの目は至って、正常だ」
……は、ははは。
おいおいまさか。
「そろそろ、始めようか」
アスタルテが詠唱を口にする。空気を蹂躙するような重圧が、無人の荒谷に
──
アスタルテの
その九つ連なるってのはよ。
二席から十席全部ってことじゃあ……ねえよなぁ!?
まどうししょ の アスタルテ が しょうぶ を しかけてきた !▼
(専用BGM『