「レティシア様。苺のデザートはいかがですか?」

「きゃー! 可愛い! 苺が薔薇みたい!」

サキが持ってきてくれたデザートにレティシアは顔を輝かした。

薔薇の花びらが苺でかたどられていて、とても可愛らしい。

「厨房の者がレティシア様にお出しするデザートの試作ばかりしてるんですよ。何がお口にあうのかとそれはもう浮かれてしまって……」

「どれも美味しいわ。いつも。フェリス様は美味しいものばかり食べるから、きっと贅沢になってるのね」

「坊ちゃまは何を食べても美味しい、とてもシェフの健闘を感じるよ、とは仰るんですが、いかんせん、そもそも食事への熱意が薄いんです。でもレティシア様がいらしてわかりましたわ」

「わたし?」

ぱくっ苺のデザートを食べて、可愛いうえに美味しいのー! と幸福に浸りながら、レティシアは不思議そうにサキに尋ねる。

「お食事の内容ではなくて、お食事を一緒に召し上がる可愛い方が必要だったのだと」

サキが愛おし気に、レティシアを見ている。

レティシアは嬉しくて、くすぐったい。

サキは亡くなったレティシアの母様より年上だけど、いかにもお母さんという佇まいで、傍らにいてくれると優しい気持ちになる。

「私もフェリス様と食べてると、一人で食べるよりずっと美味しいの。この苺の薔薇も可愛いから、フェリス様にも食べさせたい。早く帰っていらっしゃらないかな」

父様と母様を失って、ディアナにくるまでのあいだは、レティシアも何を食べても、ちっとも美味しくなかった。

ただ生きる為に、ちゃんとごはんを食べなくては、と思って食べていた。

それは、レティシアは独りぼっちになって、寂しかったからだけど、フェリス様も寂しかったから、ごはん楽しくなかったのかな?

そんなことはない?

「お夕食はレティシア様と共にと仰ってましたから、夕方には御戻りになりますよ。これも私共がレティシア様に感謝していることです」

「……楽しみ! 早く、フェリス様帰っていらっしゃるといいな!」

「……」

「サキ! どうしたの? どうして泣くの? 辛い事があったの?」

サキが涙ぐんでいるので、レティシアは慌てる。

にょ、女官苛めでも?

でも、フェリス宮の女官達みんな、こちらどうしましょう、サキ様? てサキに相談してるから、サキを苛められる人なんて、フェリス様くらいなのでは……。

「フェリス様に何か叱られた? 私が何か……?」

「いえ……いえ、とんでもない。フェリス様が、サリアから花嫁が来るけど、もしかしたら小さな姫君は僕を怖がって嫌うかもしれないから、そうしたら、サキ、心細いだろう姫に優しくしてあげて欲しい……ってレティシア様ご到着前に仰ってて……」

「フェリス様ったら……」

お人好しのあまり、魔法の塔が立っちゃうから、フェリス様。

自分を嫌う小さな花嫁の心配までしてどうするの。

(いやでもフェリス様って、お義母上様の心配もしてるな……報われてない……)

「私は、そんなことありえません、きっと可愛い方がいらして、楽しく二人でお過ごしになれます、と申し上げましたが、密かに心配しておりましたので……レティシア様がいらして、フェリス様と仲のよい御様子を拝見しておりますと、本当に、本当に嬉しくて」

サキは喜んで泣いてるのであって、辛い目にあったわけではないとわかり、レティシアはほっとする。

「……わたしも。変な想像ばかりして怖がってて、フェリス様御本人にお逢いしたら、あんまり綺麗な優しい方で、びっくりしたの」

間違いなく、人生で一番驚いた!

「フェリス様の肖像画などはレティシア様のもとには? ディアナ王家から贈られてるはずでは?」

「私のもとには何も届かなかったの。……いまから思うと、フェリス様があんまり美しくて、誰か持っていってしまったのかしら?」

そのときは、どんな姿でも、どんなお人柄でも、この人と結婚する以外、もはやレティシアには生きる余地がない、と思っていたので、気にしてなかったけど。

私のフェリス様、どこ行ったの?

何処かでひどいめにあってない、フェリス様の肖像画?

……かえして、私のフェリス様を。

「そのような不届き者には、ぜひとも、厳しい御咎めが必要です。初めての婚約に、ご不安な姫様のもとに、これから人生を共に歩むお相手の御姿が届かぬなどと……」

サキが憤慨している。

「ありがとう、サキ。私の為に怒ってくれて。フェリス様の為に心配してくれて」

「まあ、レティシア様。それは、あたりまえのことですわ。御礼を言って頂くようなことでは……」

でも、父様と母様を失ってから、我が事のようにレティシアの身を案じてくれる女官なんていなかった。

サリアでは、レティシアのことを心配してくれた者達はみんな、レティシアの傍から遠ざけられてしまったので。

「私、フェリス様と結婚出来て嬉しい。優しいサキやリタやレイのいるフェリス宮の妃になれるのが嬉しい。ここにいられて幸せ」

「まあまあ、レティシア様、そんなにサキを喜ばせたら、サキの眼が溶けてしまいますわ」

でもフェリス様、いい人すぎて、もっとふさわしいお姫様と結婚させてあげたいなーて思うけど。

それを言うと、フェリス様が、そんなに僕と離婚したいの? て拗ねるから。

いまは少し、フェリス様の婚約者の幸せに浸らせてもらっても、いいかな……。