マグダレーナ王太后によるごく私的な御茶会

「ようこそいらっしゃいました」

マグダレーナ王太后宮は、フェリス様の宮から、最も遠かった。

「御招き頂き、大変、光栄に存じます」

このあいだ習ったばかりのディアナ風のお辞儀をする。うん。ちゃんとできてる筈!

「フェリス様」

「フェリス様が」

「フェリス様とサリアの姫君が」

ざわめきが広がっていく。この御茶会は午後のガーデンパーティー仕立てらしい。室内よりはまだ気が紛れていいけれど……。

うーん。ごくごく私的な御茶会にしては、かなりの人数の着飾ったお客様がいらっしゃる(……ちょっと話違わない?)。

うう、よかった。フェリス様、一緒に来てくれて……。

さすがに、一人だとこれは心細かった。

「あら可愛らしいお姫様」

「フェリス様と並ぶと愛らしい兄妹のようね」

「あら、あれが、サリアからいらした……ねぇ、サリアって何処にある国……未開の国……?」

そうです。私がサリアの田舎から出て参りました、サリアの小娘ですよ。フローレンスでいちばん豊かな国の麗しの王弟殿下の花嫁には、異論お有りの方がいらっしゃるでしょうけど……。

「レティシア、義母上に紹介する」

フェリス様が手をとってくれる。ううう、安心。

お兄様も弟もいない一人っ子だから、お父様以外のこういうエスコート初めて。

でもフェリス様の手には安心だけど、なんだか凄く周囲から、呪うような殺気を感じる……。

ぎりぎりぎり、なんでこんな小娘がフェリス様の隣に立つの! って感じの!

フェリス様、フェリス様が宮廷では人気ないって思ってるの、もしかして、この世でフェリス様だけなのでは?

「義母上にはご機嫌うるわしう。こちらが僕の妃となるレティシアです」

「王太后陛下、お会いできて光栄に存じます」

「レティシア姫、よくぞ参られた。ディアナはいかがかな? フェリスはたいそう姫を気に入ったそうだが」

王太后様は、前情報をいろいろお聞きしたせいか、どうもラスボス感、感じてしまっていけない。それに、隣から、美しい無表情のフェリス様の緊張がかすかに伝わってくる……。

「はい。お優しい王太后様が、私たちの婚姻を奨めて下さったおかげで、この世でいちばん優しい夫君にめぐり逢うことができ、私はこの上もなく幸福な娘となりました」

若干、マグダレーナ王太后が引くぐらい、レティシアは満面の笑顔で申し上げる。

未開の国から政略結婚で連れて来られた哀れな幼女などと言わせない。

だって本当に、サリアにいたときより幸せなの。いろいろ風変わりなレティシアとフェリス様だけど。

「フェリス様には、私が幼いため、いろいろとご苦労おかけしますが、皆様にいろいろ教えて頂いて、よきディアナの娘として、竜王陛下の祝福を得たいと思っております」

あああ! 今朝ばたばたしてて、竜王陛下の絵姿にご挨拶忘れたー! 既に日課なのに!

フェリス様、私の部屋にも竜王陛下の絵をお早くー!

竜王陛下、どうか、守ってくださいね! 王太后様との初顔合わせ、無事に切り抜けて、フェリス様を安心させられますように!

「ほお、何とも……、姫の幼さに似合わぬ、立派なお言葉よの」

どうしてだろう。褒められたのに、貶されてるようなこの気配。あ、こういうのを、日本語で「扇越しの嘲笑」というのかな。なかなか庶民の生活では使わない言葉ではある。

不思議。レティシアは、マグダレーナ王太后と初めてお逢いするんだけど、なんだか好かれてないみたい。なんでかな……?

マグダレーナ王太后は、すべてを見下ろすように、ゆったりと腰かけていらっしゃる。この婚姻はフェリス様の力を弱める為では、ともこちらに来てからお聞きしたけど、……何だろう? 王太后様にとって、レティシアがどんな娘だったら合格だったんだろう?

レティシアが、おかげで幸福です、と言った途端に、王太后から露骨に眉を顰められたので、もしかして、もっと不幸そうな方がよかったんだろうか?

「幼いのにひどく賢い姫、昔のそなたと似てるかも知れぬの、フェリス」

王太后様、それは違います。

フェリス様は本物の早熟な天才で、レティシアはただのinやまとのむすめ雪です。しかもそこまで賢くもありません。賢かったら、前世も現世も、もう少しいろいろ仕事も人生もうまくやれてると思います。

「ええ。僕とレティシア姫は、何処か似ていると思います」

いえ。それは誤解です、フェリス様……。でも、フェリス様が、僕達は似てる、とせっかく気に入って下さってるので、そこはあえて突っ込みません。……きっと、孤独だったんだろうなあ、かつての天才少年。

「それ故、レティシアといると、僕はとても穏やかな気持ちでいられて、……そう、幸せです」

フェリス様が自分で言いながら、自分で驚いている。

フェリス様も驚いてるけど、周囲もざわめきまくりで、そうとう驚いている。

どういうことなの、ここの人達!

みんな、私たちが、とっても不幸です! とでも言ったら満足なの!?

実際に、フェリス様と私、日々、ほのぼのと幸福なんだけど、これでも私たちは結婚式直前なんだから、たとえ不幸でも、不幸だとは言わないでしょ!

「お互いの年齢が離れているので、この婚姻に少々、不安を抱いておりましたが、いまは義母上に感謝致しております」

キリリ、とお義母上様の眉があがる。

あきらかに、御礼を言われたのが嬉しくはなく、美しい義理の息子がこの奇妙な組み合わせの婚姻に不満ではなく、むしろ何処か幸福そうなのが、随分と御不快の御様子……。

ううう? もっとちゃんとフェリス様と打ち合わせしとくべきだった? 私達、気があわなくて、とても不幸です、のほうが王太后様を喜ばせるんだったら、それでいくべきだったのかも?

でも「王太后様のおかげを持ちましてのこのたびの婚姻……、我ら二人、大変に感謝致しております」はここでは外せないご挨拶よね?

どうしたらよかったの?

「それは何より、どんな美姫にも心を動かさぬと言われた我らが王弟殿下の心を、こんな可愛らしいまだミルクの匂いがしそうな姫が動かそうとはの」

ミルクの匂いは、しないと思うの。だってそこまで、ミルク好きじゃないもの。

紅茶とかいちごとかのほうが、まだ匂うかも。

ああ、なんだか、せっかく綺麗に梳いてもらった金髪が毛羽立ってきそう。

ここ、乾燥してるのかな……、空気が薄い感じ。

「それはそうと、レティシア姫はまだまだ幼い。二人はしばらく白い結婚となろう。フェリスよ、レティシア姫のお眼鏡にかなう側妃を選んでもらってはどうだ? こういうことは、正妃の気に入る者を選んだほうがうまくいくゆえな」

そくひ?

え?

え?

ええええええええー?

何を言ってるの、このお義母さま!

もちろん、我が推しフェリス様が、いつの日か運命の恋に落ちられたら、レティシアとて身を引く心の準備はあるものの、そんなメロンでも選ぶみたいに、レティシアにフェリス様の側妃(二人目の妃)を選べって……。

それはフェリス様と運命のお相手の心が選ぶことで、他の人が決めることじゃないでしょ!

だいたい、本日、結婚の最初の挨拶に来てるのに、王太后からお茶に呼び出しといて、何なのその最悪な嫌がらせ!

いくらレティシアでも、ここに、ちゃぶ台があったら、ひっくり返したいー!

(このサイズのレティシアにひっくり返せるの、せいぜいミニテーブルだけど!)

フェリス様とレティシアと側妃(未定)の人権はどうなってるんだ!

「義母上」

王太后からの側妃を選んではどうか発言に、御茶会のゲストたちのざわめきも最高潮だが(一部きゃあと色めき立ってる令嬢方までいる……)、フェリスの声が地の底までも冷えていく。

「何ぞ、フェリス? そなたの母君ほどの美姫はおらぬが、ディアナの美しき御令嬢たちがここにはおるぞ?」

何もこんな時に、フェリス様のお母様まで引き合いに出さなくても!

(………あ、ダメ……、なんか……ダメ)

フェリス様の心が、遠くに行ってしまう……。

レティシアから遠のくんじゃなくて、なんというか……ダメ……ダメな感じがする……。

レティシアが両親を失って、もう何もかもどうなってもどうでもいい、と思ったときの虚無感のようなものが、隣にいるフェリスから伝わってくる。

無作法だとは思ったけれど、レティシアはフェリスの上着のレースの袖をそっと掴む。

ふと、レティシアは、フェリスと眼があった。

碧い碧い、凍てついた、冬の海のような瞳。さっきまで、春の空みたいな、透き通った碧だったのに。

「いや!」

な、何か言わないと。フェリス様の心が凍ってしまう。

慌てたあまり、いや! だけ言ってしまった。

王太后も、なんだこの小娘は? と言いたげに見下ろしている。

レティシアの人権はこの際もうどうでもいいけど、そもそもお義母様的に、もともとレティシアに人権はなさそう。

早く、こ、このお義母様の毒気を祓いのけないと……、フェリス様の心が死んじゃう。

「私は、いやです! 側妃など選びません! フェリス様の心は、フェリス様のものです!」

ああ。ここは正妃的に、私のものです! と言うところかも知れないが、いま一番思ってることが、口から出てしまった。

やめて、お願い。

フェリス様の心を壊さないで。

震えるちいさな指先で、フェリス様の小指を繋ぐ。

大切な人の心が、何処か遠くへ、行ってしまわない様に。

「おやおや。大人びたご挨拶ができても、サリアのお姫様は、やはり、まだ幼くていらっしゃる」

呆れたように、王太后が言った。

いや、違うでしょ。それは幼いとか、幼くないとかの話じゃないでしょ!

竜王陛下だって浮気しない人だったから、ディアナの女の子はみんな竜王陛下みたいな夫が憧れって、一昨日ちゃんと習ったからね! 騙されない!

そんな側妃はいて当然のていで、お話進めないでもらいたい!

だいたい私は、もしフェリス様が他のお妃迎えるなら、そのときにはお傍は辞したいの!!

名前だけの正妃といっても、同時進行は嫌なの!

「王太后様、レティシア殿下はまだ本当に幼い方ですもの……致し方ありません」

王太后の仲良しなのか、綺麗な令嬢が、場を持たせるように言葉を挟む。

本当に幼い方で悪かったわね! 子供の情操教育に悪い話しないでよ!

「レティシア」

「はい? フェリス様?」

ああもっと、口の達者なレティシアならいいのにー!

いいえ、お義母様の仰ることはおかしくて、礼儀がなってないです! って言いたい。

でも、あんまり王太后に口応えしたら、フェリス様に御迷惑なんだろうか? と悩んでたら、フェリス様が、ちょっといつも宮にいるときみたいに笑いを堪えてた。

あ。よかった。フェリス様、無事だ。死んでなかった。生きてた。

(なんだろう……物理的にじゃなくて、フェリス様の心の何かが、死んじゃう気がしたの)

「そこは、フェリス様の心はフェリス様のもの、じゃなくて、僕の心はレティシアのもの、って言ってくれないの?」

これはいつもの、レティシアの発言の何かがツボに入って、大笑いしてるときのフェリス様だ。ここで大笑いはマズイと思うけど、フェリス様がお元気そうで何より!

「そんな烏滸おこがましいことは申しませんが、ただ……!」

フェリスがレティシアの手を取り、そっとくちづけた。優しい騎士のくちづけ。

「義母上、ご存じの通り、私は不調法な男で、いままでについぞ浮いた話もございません。その私が、義母上の勧めで、ようやくこの可愛い妃を迎えたと思ったら、そのうえ側妃などと、とんでもない冗談にしか聞こえません」

笑っているのに、取り付く島もないような、フェリスの声。

完全な拒否。

「だが、フェリスよ……」

「私は母と義母上を見て育ちました。ゆえに、父上のような恋はしたくありません。恋多き男でもないのに、誰かを傷つけるような恋はしたくない。願わくば、私は、竜王陛下のように」

竜王陛下、とフェリスが口にすると、王太后は息をのんだ。

「たった一人の愛しい妃を、永遠に大切にしたいと思っております」

もう、そう語るフェリス様が、物語の王子様そのままで! いまこの瞬間にスマホのカメラが欲しい! とレティシアは、この状況を忘れて思ってしまった。

そう思ったのはレティシアだけではないらしく、居並ぶ御婦人方から、ほう、と何とも悩まし気な溜息が漏れる。

そうなの。フェリス様って、御本人は恋愛音痴らしいけど、御姿はそれはもう恋の化身みたいな人だから……。

「誰でも若い時はそう思うものよ」

馬鹿馬鹿しい、と言いたげにマグダレーナが吐き捨てる。

「兄上も、ポーラ妃御一人を大切にしておいでです。義母上が、大切に兄上を育てられたからだと思いますが。それに竜王陛下はずっとアリシア妃のみを大切にされました」

たぶんフェリス様は、他ならぬ義母上からだけは、側妃の言葉は聞きたくなかったんだなー、とレティシアは繋いだ手から感じた。

というか、いつまでもこの手を二人で繋いでていいんだろうか……?

「まして私は兄上と違って、御世継をなす身でもありません。ご心配はまるで無用です。私はいま、このレティシアに夢中ですので」

それは主に、話してるとレティシアが変なこと言って、おもしろいからでは……?

「新婚早々、側妃など選んで、一人で遠くからきて心細い思いをしている、可愛いレティシアに嫌われたくありません。義母上、どうぞ、私たちのことは、御放念ください」

フェリスがそう言ったので、王太后様はまだ何か言いたげだったが、側妃の話はそれでおしまいになった。

マグダレーナ王太后の不機嫌もさることながら、あまりにもフェリスが公然と異国から来た妃への愛情を述べたため、レティシアは知らずに、ディアナの独身のみならずの御令嬢方の恨みを買うことになる。

王太后に口応えした小さなレティシアの果敢な心意気は、密かに皆に評価されたのだが、フェリス本人の知らぬフェリス人気が暗然と高いので、フェリス最愛の姫君登場となると、なかなかにその姫が女性人気を勝ち取るまでには遠い道のりがある。


「レティシア、ここで少し待っててくれる?」

「はい、フェリス様」

やっとのことで、王太后の御前を辞して、人気のないほうへとフェリス様と二人で逃れてきた。

黄色とオレンジの花の飾られたテーブルに、レティシアはちょこんと座って、言われた通りにフェリスを待つ。

疲れたー! 一か月分以上は疲れた! そしてごめんなさいフェリス様、可愛いお嫁様作戦大失敗!

「あああ。我慢がたりなかったかなー……」

でも、いつになく、黙ってちゃダメな気がしたの……。

レティシア自身のことならべつに何言われてもいいんだけど。王太后様の言葉に、フェリス様がひどく傷ついてる気がして……。

「……いやもう落ち込んでも、やっちゃったことだし……」

「おまえ、なかなかに勇気のある女子だな」

「……え?」

銀髪のちっちゃい男の子が、何か凄く偉そうに話しかけてきた。

王太后の御茶会のお客様の、貴族の少年……?

「僕は、あのおばあさまに言い返す人間を、この世で初めて見たぞ。母様も父様も、みんな、おばあさまには何も言えないんだ。おばあさまは凄く凄く凄く強いからな。もちろん、僕も無理だぞ」

お、おばあさま? てことは、この子、ディアナの王太子殿下……?

「お、王太子殿下?」

「ルーファスだ。おまえは僕の叔母上になるから、特別に名前で呼ぶのを許してやってもいいぞ」

「お、王太子殿下、こ、こんなところに、御一人で大丈夫ですか?」

「抜け出してきたんだ。女官たちはうるさいからな」

え、えらそうで、可愛い。

フェリス様のお兄様の国王陛下のお子さんだよね。

フェリス様と似てはいないけど、可愛いらしいお顔立ち。

「ちいさいのに叔父上の妃とは生意気だと思ってたけど、そなた、なかなか、見所のある奴だ。僕が、遊んでやってもいいぞ」

ディアナの王太子殿下に、ナンパされてしまった……。というか、たぶん、王太子殿下、退屈してたんだろうね。フェリス様の側妃候補なのか、妙齢の御令嬢のゲストが多くて、同年齢の子なんて、レティシアと王太子殿下のほかにはいなそうだし……。

「何をして遊ぶのですか、殿下?」

「かくれ鬼かな!」

う、嬉しそう。瞳がきらきらしてる。これは、かくれんぼ、してさしあげねば。

「では、私が鬼になりますね」

うーん。鬼と隠れる人、どっちが安全かなあ、と悩むけど、王太子殿下を鬼にするのもね。

「私、探すの下手なので、殿下、遠くに行かないで、近くで隠れてくださいね」

念のため、お願いをしておく。

「わかった。そなたのために、遠くには行かない」

殿下は上から目線の王子様だけど、聞き分けがいいっぽい。いい子ね!

「では、十、数えます。殿下、きっときっと、ちかくに隠れてくださいね」

何度もお願いする。王太子殿下に、危険があっては一大事!

「そなた、なかなかの甘えん坊だな」

それはちょっと違うけど、近くに隠れてね!

「ひとーつ。ふたーつ。みーっつ」

レティシアは大きな樹にもたれて、目を瞑っている。十数えたら、王太子殿下を探しに行く約束だ。

フェリス様が帰って来るまでに、王太子様を捕まえて。王太子つきの女官に届けてあげないと、きっと今頃は涙目だよね、女官の方々。かくれんぼとか久しぶりだな~。

「ななつ……」

「……レティシア、何してるの?」

甘い声がする。もう聞きなれた声。

「フェリス様……!」

いけない。フェリス様もう帰ってきちゃった。まだ、王太子殿下捕獲できてないのに。

「あの、かくれ鬼を」

「ひとりで? それとも僕と?」

フェリス様……まあまあ天然なのでは。

いくらレティシアでも、一人とか、ここにいないフェリス様と、かくれ鬼しませんから!

とはいえ……。

「あの……小さな貴公子様に誘われまして」

どうなのかな? 一人でお散歩してたのバレたら、王太子殿下、怒られちゃうんじゃ……。

「貴公子? ……レティシア、いちご水飲む?」

「あ、はい」

わーい、美味しそう。フルートグラスに入った、赤いいちご水。フェリス様、いつもいつも美味しいものありがとうございます。

「さて、高貴なる迷子の貴公子、でておいで?」

「……叔父上」

バツが悪そうに隠れてた樹の陰からルーファス王太子が出てくる。

わあ。さっきまであんなに偉そうな子だったのに、借りてきた猫みたいになってる。

王太子殿下、フェリス様には弱いんだあ。

「叔父上、ご結婚おめでとうございます」

「うん、ありがとう、ルーファス。そして小さなディアナの騎士として、一人残していった私の婚約者の面倒を見てくれてありがとう」

フェリス様、私が! この可愛い王太子殿下の面倒みてたつもりなのですが! そこは却下なんでしょうか?

「当然のことです。叔父上の花嫁は、私の大切な叔母上ですから」

私、幼くして、叔母さんになってしまった……あはは……。ま、こんなに若くして、政略結婚で既婚者になるのも、現代日本ならありえないから……。

「ルーファスもいちご水飲む? 子供っぽいからいや?」

フェリス様は天使みたいに甥御さんに微笑んでいる。フェリス様ん家の家庭環境はいろいろと複雑だけど、とりあえず叔父と甥はわりと仲良しらしい。

仲良しというか、ルーファス王太子殿下、フェリス様と話してると、真っ赤なんだけど……。

恋する乙女なのか?

ん? もしや、王太子殿下、レティシアと同族のフェリス様推しなのかしら?

それならば、ぜひとも親睦を深めたい。レティシアは、推し友を持って、噂に聞く同担トークというものをしたいのだ!

「いちご水、いただきます、ありがとうございます」

緊張しつつ、フェリス様の白い手から、いちご水をいただく王太子殿下、可愛い。

竜王陛下の守護を感じる、美しい竜王陛下直系の御二人だ……。

「それを飲んだら、ちゃんと帰って、心配してる女官達を安心させてあげなきゃダメだよ? ルーファスはディアナのハートなんだからね。皆を心配させるのではなく、安心させてあげなくては」

「はい。叔父上」

レティシアには我儘放題いってた王太子殿下だが、フェリス様には褒められる振る舞いをしたいらしい。

「レティシア」

「はい」

「ルーファスをみててくれて、ありがとう。大切な王太子の身に何かあったら大変だった」

「……私は、何も」

でも、そうだよね。いくら王太后の宮とはいえ、私達の結婚のご報告のために開かれた王太后の御茶会で、この元気な王太子殿下が転んで怪我でもしたら、目も当てられないよね。ありもしない陰謀を疑われても嫌すぎる。

それにしても、このいちご水美味しい! フェリス様、これを選んでくれてありがとう~。

「叔父上。こんど、遊びに伺ってもいいですか? 魔法の呪文で、教えて頂きたいことがあって」

遠慮気味に、王太子殿下が問う。

「もちろん。でも私に教えられるようなことあるかな? 私のはかなり我流だから……ルーファスは、マーロウ師から、最初はきちんと正統派の呪文を真面目に習わなくてはダメだよ?」

「でも、他の師の魔法は、叔父上の魔法みたいに優雅でもないし、楽しくもないんです。マーロウ先生が言ってました。ディアナで叔父上が一番、四大の原理を操るのがうまいって」

そうなんだ。じゃあ、レティシアもフェリス様から魔法習いたいな。お願いしたら、教えてくれるかな?

「マーロウのお世辞にも程がある。こんどいい果実酒でも差し入れなきゃね。ルーファス、うちのレティシアも、マーロウ師に魔法習い始めたんだよ」

うちのレティシア。うちのレティシア。うちの……。

「叔母上も?」

あれ? 王太子殿下から、おまえとかそなたとか呼ばれてた気がするのに、フェリス様来たら、レティシアは叔母上に格上げされた……なんか身分上がった……。

「はい。初歩の初歩ですが」

レティシアは、初日の授業から倒れて、フェリス様をびっくりさせちゃったけど……。

「レティシア、顔が赤い。そのいちご水、いちご酒じゃないほうを頼んだんだけど、もしかしてアルコール入ってた? ルーファスも平気?」

フェリスの指がレティシアの頬に触れる。

「……いえ」

「僕は何とも。アルコールは入ってないと……」

「あの。あの」

うちのレティシアになんだか嬉しくなったのです、と言うべきか……。

「レティシア、疲れた? さっき僕が気苦労かけたから……」

フェリスがレティシアを気にしている。

うう。

フェリス様、なんというか天然でいい人なんだよね……。

このお貌で、天然って言うのも、始末に負えない気がするけれども……。

「ち、ちがいます! 疲れてないです! あの、うちのって……」

「うちの?」

「うちの?」

金髪のフェリス王弟殿下と銀髪のルーファス王太子、竜王家一族が不思議がっている。

「うちのレティシアが、……なんだか」

顔から火が出そうと思いながら、レティシアがやっと訴える。

「……え? でも、レティシア、うちの子だよね?」

「叔父上の花嫁だから、叔父上の家の方で、さらにいうと我が家の方ですよね?」

ルーファス的に言うと、フェリスのところのレティシアであり、もっと言うと、レティシアはディアナ王家の人となるので、ルーファスのファミリーにもなる。間違えていない。

レーヴェが、レティシアの全く知らないところで、「我が家系にお嫁に来たレティシアは、もううちの子だから、オレの管轄」という程度には間違えていない。

「……はい。でもまだ慣れてなくて」

「そうなの? 具合が悪くないなら、よかった。……うちのレティシア、ダメ? まだ早い?」

「いえ。そんなことはないです……」

ぱああああと、赤くなっているレティシアを、よしよしとフェリスが撫でてくれる。

甥っ子の王太子もいるせいか、フェリスがとてもちゃんとしている。

先刻、心が死んじゃうんじゃないかと、レティシアが心配したフェリスと思えないくらいに、優しい美貌の王弟殿下として立派に復元していた……。