「気に入ったと……?」
ディアナ王国、王太后マグダレーナは、不愉快そうに尋ね返した。
「はい。母上、フェリスは花嫁を大変気に入ったそうです」
穏やかに笑って、彼女の息子であり、ディアナ国王であるマリウスは言った。
「五歳の幼女の花嫁をか? 何とまあ、美貌の王弟殿下と言えども、男というものは若い娘が好きなのかえ?」
不機嫌を隠さず、マグダレーナはふんっと鼻を鳴らした。
何も悪いことをした訳でもない傍に控えていた若い女官が縮み上がる。
「若いというか、母上、まだほんの子供です。まだまだ暫くは、新しく小さな妹ができたようなものでしょうが……、賢い娘だそうで、フェリスは話をしていて楽しいそうです」
彼女の息子のマリウスは、相変わらずのお人好しだ。
いつも無駄に目立つ弟のフェリスのせいで、皆に比べられて、嫌な思いをしてきたにも拘らず、昔から彼はずっと賢い美しい弟を愛してやまない。
何なら、最愛の母より妻よりも、あの弟を愛してるのではないか? と疑いたいくらいだ。
母の意思には何一つ逆らわぬ気の弱いマリウスが、いつもあの弟のことだけ、彼女の意思に添わない。
今回、彼女が奨めたフェリスの婚姻についても、年齢があわない、あまりにもレティシア姫が幼すぎる、それではフェリスが可哀想だ、幸せな結婚になると思えない、と抵抗し続けていた。
いったい、なんで、フェリスに幸せになってもらいたいと思っているのか、我が息子ながらおおいに理解に苦しむ。
勝手な国民や、口さがない宮廷人が何と言っているのか、マリウスとて、知らぬわけではあるまいに。
(どうして、あんなに、竜王陛下にそっくりな、世にも神々しいフェリス様が、このディアナの国王じゃないんだろう? ちょっくら、天の采配違いで、生まれる順番を間違えちまったんだろうねぇ。マリウス陛下は悪い方じゃあないけど、まあなんていうか凡庸な方だよなあ)
何の悪気もない、庶民たちのあいさつ代わりの軽口。
だけど、こんな忌々しい話があるだろうか。
国王の愛を奪って彼女を苦しめた美しいあの女の息子が、十七年後にはあろうことか創始の竜王陛下レーヴェ様そっくりに育って、彼女を不機嫌にし続けるのだ。
いったい何の呪いなのだ。
しかも、フェリス本人には、何の悪気もないことはわかりきってるのが、これまた余計に腹が立つ。
いっそ王家簒奪でも狙うような男なら、もっと清々しく憎めるものを。
「子供の頃から神童と言われて、教師の手に余った王弟殿下が話があうと? それはまた、随分、賢い娘なのでしょうね」
羽扇で顔を隠しながら、温厚な息子に体裁を繕って、彼女は言った。
「そう思います。私も早くレティシア姫に会いたい」
フェリスの婚姻を案じていたマリウスは、少し安心した様子でそう言った。
「そうね。どんな姫なのでしょうね、レティシア姫」
子守りに苦労でもするがいい、国に帰りたがる少女に、散々嫌われて泣かれるがいい、とフェリスに与えたサリアからの花嫁は、いったいどんな娘なのか。
噂に聞いていた、扱いづらい、おかしなことばかり言う、得体の知れない不気味な王女、の筈ではないのか? 可愛くてフェリスと気の合う嫁なぞ、迎えたつもりはないのだが?