盗賊掃討

盗賊の襲撃がまたあるかどうかは分からないけれど、可能性がある以上、警戒はしないといけない。

私達は宿を引き払って、車内で寝泊まりする事になった。空間魔法を使う訳にはいかなくて多少手狭だけれど、貴族用車両なのでそこそこのスペースはあるからね。私の防御付与なしでも防弾対策はしてあるので、いざという場合にはそのまま脱出する予定。

キャシー達の護衛騎士とフラン達従者、そしてウォズを含む商会関係者も不寝番を買って出てくれた。

村からも協力を申し出てくれた人はいたのだけれど、村長の失態で信用をなくしてる為、私達に近付く許可は下りなかった。代わりに村の外の見張りを強化してもらう。そもそもお貴族様の傍に居続けられる胆力はないだろうから、丁度いいよね。

烏木の牙帰還は予定通りなら二日後。それまで持ち堪えればいい。

こちらの銃器は、短機関銃五丁、ライフル銃二丁。それと、防衛、狩猟用として村にあった短機関銃一丁、ライフル銃二丁、散弾銃二丁。過去二回と同規模の襲撃なら足りると思う。

でも、向こうが私達の滞在を知っているなら増員はあるだろうね。堂々車列を率いてここまで来たし。

オーレリアは想定していたけれど、キャシーもマーシャも落ち着いている。突然盗賊に備えなければならなかった事への戸惑いはあったものの、襲撃に対する不安は見えない。現実味を実感できてないだけかもしれないけども。

彼女達を傷つけさせるつもりは無いから、私もこっそり動いた。

聞いたところ、最初の襲撃は無警戒だった村へバイクで侵入して、駆け抜けながら銃弾をばら撒いたらしい。住人は混乱しながら逃げ惑い、戦意を喪失して言われるままにお金を差し出したと言う。

二度目は崖の両側からバイクで乗り付けて逃げ場を塞いだ。村を封鎖してから端側の民家へ機関銃を撃ち散らかしたとか。

この情報から、連中の移動手段が明らかになったので、車止めを用意する事にした。

ただし、脆くて、車やバイクが突っ込めば容易く壊れそうに見えるのがポイント。スチール製の強固な奴じゃなくて、廃タイヤ材の頼りなさそうなのを見繕ったよ。

通行する車は普通にいるから、簡単に設置撤去できないとね。村に入る際にはスピードを落とすのが原則だから、一般の車からするとちょっとした通行規制にしか見えない。

でも、私がしっかりモヤモヤさんを込めたから、何も考えずに突撃したらただでは済まないだろうね。

温泉を我慢しなきゃいけなくなったんだから、これくらいの嫌がらせは許される筈。


準備はしたけど、襲撃なんて無いに越したことはない。そんな希望的観測は、日が暮れてすぐに鳴り響いた騒音に打ち砕かれた。

轟音の源は村の南側。

崖上に沿った道路上に三十を超える点灯が見える。忍ぶつもりは無いみたいで、エンジン音を響かせ、大声で笑いながら警笛をけたたましく掻き鳴らしている。

群れて気が大きくなっているのか、承認欲求がよっぽど強いのか、あの手の連中はどうしてあんなにも騒がしいんだろう。道理から外れた連中を受け入れてあげようなんて特異な人、いる筈ないのにね。

側でマーシャが震えているのが分かった。あれだけの暴漢が迫っているのだから無理もない。

友達を怖がらせている奴等に腹が立つ。

「レティの車止めを越えたら殲滅に入る……でしたよね」

オーレリアの視線なんて氷点下だよ。

ヴァンデル王国の剣、カロネイアの一員として、彼女は打って出ると決まっている。立場的に指揮を預かった私が許可すれば、あっという間にすっ飛んで行きそうです。

強化魔法を少しずつ習得して、ますます手が付けられなくなってきてるからね。

「オラオラ! 今日も取り立てに来てやったぞ田舎者共!!

「金だけじゃ物足りねえ。女だ、女を寄越せ! 世間知らずのお嬢様とか、最高だ!」

「金に換える前に、たっぷり可愛がってやるからよ!」

「死にたくなかったら逃げろよ。轢いちまうぞ、撃っちまうぞ。俺等を楽しませろ!!

盗賊達は威勢よく村へと突撃して──車止めに激突して、盛大に転倒した。

私の付与で固めた車止めは、どんな速度でぶつかったところで微動だにしないからね。

交通法なんて順守するつもりは無かったみたいだから、何人かは宙を舞って崖下へ落ちたし、もう何人かは路面を滑って赤い塊になったよ。

これで十人以上が脱落。

「なんだこりゃあ!?

異変に気付いて慌ててブレーキをかけたみたいだけど、半分以上は転倒を免れなかった。後続の車体に轢かれた人もいたよ。

スピードの出し過ぎって怖いね。同情しないけど。

うまくいけば少しくらいは数が減らせるかもと作った車止めだったけど、思ったより考え無しに飛び込んできたから効果抜群過ぎたね。仕掛けた私が吃驚だよ。

げぇとか、うわぁとか、味方側もドン引いてます。

「ヒッ──」

平静を保とうとしてたキャシーからも、短い悲鳴が漏れた。

ごめんね。

ちょっと惨劇が想像以上で、女の子には刺激が強過ぎたかな。

オーレリアは少し溜飲下がって微笑んでるけど、あの子は武闘派女子枠だからね。

私?

前世のままなら、とても見ていられなかっただろうけど、非常時に感情を切り離せるよう訓練してある。状況を客観視して、情動を立ち入らせない。

今回は敵側の被害のみだけど、同胞に犠牲を強いる時もあるかもしれない。そんな時でも感情が邪魔しないよう、心が壊れないよう、スイッチの切り替えを身に付けた。

──ぱんっ ぱんっ ぱんっ

想定より遥かに気勢を削いで、討伐組に攻撃指示を出そうとした時、乾いた音が三回響いた。

橋の向こうで音の数だけ男が倒れる。

「そ、狙撃だ!! 隠れろっ!」

状況把握は盗賊達の方が早かった。

道の向こうの岩陰に、車止めに激突して引っ掛かったバイクの陰に、その身を隠す。しかし、その場所決めの判断が彼らの運命を分ける。

「──残念っスけど、ここはもう占有済みっス」

ゆらり、と。

丸い身体が岩陰から染み出てくる。

!?

グラーさん? いつからそこに居たの?

俯瞰して戦況を捉えていた筈なのに、まるで気付かなかったよ?

離れていたから私の視界に辛うじて入っただけで、間近にいる盗賊達は背後から忍び寄る存在に気付いてもいない。

逃げ込んだ筈の先で、襲われたと気付く前に首を斬られてゆく。

グラーさんを視認して、漸くさっきの狙撃音の主に思い至った。どこにいるのか全く分からないけど、ヴァイオレットさんだ。

今も銃声がする度に一人、また一人と倒れていってる。

「申し訳ねーです、スカーレット様。帰ってきたら賊共が向かってるのが見えたんで、自分達の判断で介入させてもらいました」

!!

クラリックさん?

突然、後ろから声を掛けられて驚いたよ。

と言うか貴方達、ニュースナカの南側、現在盗賊達と交戦中の向こうの山へ行ったよね? なんで後ろに回り込んでるの?

「すんません。戻った事を伝える為に、俺だけ先行しました」

「え? でも、何処から?」

「連中が邪魔で道は通れなかったんで、崖を越えてきました」

崖? 幅一キロくらいあるけど?

一旦下りたの?

川は泳いで渡ったの?

「クラリックさんは強化魔法、特に脚力や跳躍力の強化が得意なのですよ」

オーレリアの補足が上手く頭に染み込んでくれない。

まさか、跳び越えたの?

それ、跳躍と言うより飛行って領域じゃないの? 手と足の間に皮膜とかあったりしない?

とりあえず、烏木の牙の皆さんが常識で測れないって事は分かったよ。

これが高ランク冒険者の水準なの?

私が驚いてる間に、戦闘はほとんど終わってた。

姿を晒せば狙撃されて、身を隠す先には正確に急所を切り裂くグラーさん。残った盗賊に取れる手段は二つしかなかった。

一つは逃げる事。

ヴァイオレットさんでも間を置かずに狙撃は行えない。犠牲は出るかもしれないけれど、何人かは抜けられる。それに彼等はまだバイクに跨っているから、ライフルの射程さえ出れば追いつけない。

その先にニュードさんが控えてなければ、だけどね。

狙撃を免れたのは三人。全開でアクセルを回していたのに、バイクごと崖下へ投げ捨てられました。走るバイクを掴む腕力ってどんなだろうね。

もう一つの手段は橋を渡って村に入る事。

バイクを乗り捨てたなら車止めは障害にならない。村人を人質にでも取れば交渉できるとでも思ったのかも。

私が迎撃を指示するより先に、グリットさんの刃が追い付いたけどね。

一縷いちるの望みをかけて突撃してきた四人は、たった一振りでまとめて上下に分割された。

奇襲があんまり上手く決まったから、ヴァイオレットさんの狙撃を除けば、一度の銃声もなかったよ。彼等がいてくれたなら、車止めの小細工も必要なかったかもね。

本当に凄過ぎて言葉もない。

ただの面白い人達かも、とか考えててごめんなさい。