王城招待

研究は順調に進んでいる。

私の掃除機作りにも進展があった。

解決してみれば、思い込みによる袋小路にはまっていただけで、ヒントは前々から知っていた。

最初の試作から、私は金属で基板を作っていた。これが誤り。

変換炉と違って、回転による発熱は無いから、魔物素材である必要はないのだと思い込んでしまった。金属の方が、高品質のものを用意しやすかったというのもある。

でもよく考えてみれば、物体より生物の方がモヤモヤさんを吸収しやすいのだと、私はずっと前から知っていた。うん、うっかり。

気付いて一回目の試作で、金よりゴブリンの骨の方が吸収効率が良いと知った時は、なんだか悲しくなったね。ゴブリンなんてこっちの世界にはいっぱいいるけど、ファンタジー存在には違いないんだね。金属の王様でも敵わなかったよ。

効き目があると分かっても、骨の成形は大変だなと思っていたら、先生が新しい素材を紹介してくれた。吸収という性質が優秀なのは、動物型魔物より、圧倒的に植物型。つまり、トレント材。

魔物がいる森の、割と奥まで行かないと遭遇しない強力な種族らしいけど、一部の貴族が好んで家具に使うからと、なんと養殖されていた。なんでも、トレント製のタンスに入れておいた服を着ると、若さを保てるって迷信があるんだって。

この素材が大当たりで、足踏みしていた吸収効率は劇的に上がったよ。

養殖業者さん、ありがとう。

迷信はバカバカしいと思ったけど、量産を考えた人、最高です。今度、投資しておくからこれからも宜しくね。


平穏無事な時も万が一に備えて油断はしない……とはよく言ったもので、アゲアゲで掃除機を作っていたら、面倒事が届いたよ。

「──」

王城の職員が私宛に持ってきた、封蝋済みの手紙を見つめる。

盾枠の中に王冠、周囲を太陽で飾った紋章を使える人間は国に何人もいない。

「お嬢様、手紙を睨まれても、王族からの用向きが無くなったりはしません」

だよ、ね。

現実逃避を諦めて中身を確認すると、王城への呼び出しだった。表記上はお茶会への招待となってるけど、こんなの事情聴取と変わらないよね。

差出人は、アドラクシア。

第一王子だね。

この国では王族は姓を使わない。唯一の存在であるから。そして、国名と同じだから。

「タイミング的に考えると、ビーゲール商会との共同研究の話かな?」

「そうですね。ノースマークの御令嬢の顔を見るだけなら、もっと早くお声がけがあったでしょうし、学生と会う時間をわざわざ作ったという話も聞きません」

挨拶くらいなら、入学式か、その後の歓迎パーティーで機会はあった。王立なので、王族が公式行事に現れても不自然はない。

まあ、第三王子がやらかしたので、顔を出せなくなった可能性はあるけれど。

ビーゲール商会は、この国の経済の屋台骨。

いつか招聘もあるだろうとしても、てっきり第二王子が最初だと思っていた。彼は新しい技術や魔法には耳が早いと聞いていたからね。

第一王子は兵器転用の可能性が明らかになるまで静観してると思ってたよ。

「皆は第一王子との面識はある?」

「お父様の立場上、接触は控えるように言われてますので……」

「あたしはそもそもお会いできる身分じゃありませんし」

オーレリアとキャシーは予想通りだね。

「私の…、私の家は第二王子妃、側妃様と遠い親戚なので幼い頃に一度だけ」

「父の仕事の付き添いで、何度かお会いしております」

マーシャはともかく、ウォズもか。ビーゲール商会の影響力が窺えるね。

ちなみに、第一王子妃は元エルグランデ侯爵令嬢だけど、第二妃は元子爵令嬢。マーシャが幼い頃、十年くらい前なら、まだ付き合いがあってもおかしくないね。今はもう子供もいて、側妃と実家の縁も薄いだろうけど。

「アドラクシア殿下って、どんな人?」

「すみません。本当に…、本当に小さな頃なので、赤い髪がカッコよかった……くらいにしか」

あー、うん、それは仕方ない。

私も幼い頃に、近所のお兄ちゃんに憧れた事くらいあるからね。前世の話だけど。

「ウォズは最近も会ってるんだよね」

「はい。私は逆に、最近になってだけですね。……そうですね、戦争賛成派として知られていますが、ご本人からは荒々しい印象を受けませんでした」

カロネイア戦征伯とは折り合いが悪いと聞く。騎士団や軍に顔を出して日頃から鍛えるって訳にはいかないからね。魔塔への出入りは多いと聞くけれど。

「父からも、軍事技術に強い関心を示されると聞いております。国軍への関与はできませんから、近衛騎士の装備について多く注文を付けられるそうです。購入はありませんが、大型の魔導兵器もよく見学されています」

私は勝手にソ〇ー呼びしてたけど、魔道具を扱う以上、兵器産業と関わりは切れない。第一王子が興味を示すのは噂通りみたいだね。

「分割付与の兵器転用について、知られたと思う?」

「商会での情報管理は徹底している筈です。ただ、諜報部を動かされていたなら、絶対とは言い切れません」

「諜報部は軍にあっても、お父様の管轄にありませんから、情報は入りませんね」

情報漏れがあるとするなら、私とペイスロウ工房。あの時点では、並列つなぎの可能性を軽く考えてしまってた私が迂闊だったところだね。

そろそろ基礎研究部分をまとめて、お父様と戦征伯を巻き込もうかと思っていたけど、第一王子の方が一歩上手だったかな?

「もしかしたら、第一王子とレティ様の結婚の打診って可能性もあるんじゃないですか?」

「うえ……」

思わず変な声が漏れたよ。

その可能性は考えたくなかった。

王子は三十歳近くて倍以上違うんだけど、男性が年上の場合は適正年齢に入るんだよね。

これまでは年齢が釣り合った第三王子がいたけど、その話が消えたせいで上の二人が結婚でノースマークと縁を結ぶ手段が可能になった。

政略結婚を受け入れる覚悟はしてたつもりだったけど、お父様と同世代は考えたくないなぁ……。

いや、映写晶で知る限り、鼻筋の通った、シュッとしたイケメンなんだけどね。それでも前世の常識も手伝って、拒否感を拭えない。

希望を挙げるなら、第一、第二王子ともに正王子妃の席が埋まっている事。侯爵令嬢わたしが側妃はあり得ないって、お父様の影響力で断れる──と、いいなぁ……。