試作中

魔導変換炉見学から逃げ帰って、早速掃除機を試作してみた。

失敗しました。

全く動かない訳ではないんだけどね。基板の上にモヤモヤさんを垂らすと、じわじわ吸収されて消えてゆく。遅過ぎるし、少し離れたモヤモヤさんは吸ってくれない。魔力を目視する事は私にもできないから、見えなくなるなら変換自体はできているんだと思う。

でも、これなら手で払った方が早いよね。手で触れるとモヤモヤさんは吸収できるし、体内で魔力に変換されるんだから。

これだけゆっくりなら、私以外には全く成功していないと思われても仕方がない。

いきなりうまくいくなんて思ってなかったけど、あまりのショボさにがっかりだよ。

魔道具の動作は、核となる部分への付与魔法で決定する。

ただ回るだけとかなら、回転の魔法を付与すれば済む。動力として魔石に接続して、ギアで回転を制御すれば様々な製品に利用できる。ギアや回転羽根の構造についての工夫は前世と同じだと思う。

ドライヤーのように熱と風、二種類の機能が必要な場合には火と風の二属性の魔石に接続するか、火属性に接続して基板に発熱と回転の二重付与を行うか。後者の方が装置を簡略化させられるけれど、多重付与にはより高い素材精度が求められる。

私にとって付与魔法は、付与する魔法を想像しながら魔力を押し込むだけ。一歳の頃から無自覚に屋敷への付与を行っていたから、今では二十一くらいは詰め込める。複雑な機械部分は無理だけど、魔道具の基板作りは得意分野だよ。

魔導変換炉は、吸収、変換、平衡抑制、強度変化、安定、放出、回転の七重付与を行った巨大魔道具ではあったけれど、基板に七つもの機能を待たせた分、構造自体はシンプルだった。

それに、魔素変換に必須の付与は回転を除く六つだけ。基板の作製さえ成功すれば何とかなると思ってたんだけどね。

「成功例のない三百年の壁は厚そうですね」

「うーん、やっぱり素材の差かな?」

今回使用した魔石はオーク。

竜と比べればずっと劣るけれど、猿以上の知恵と熊並みの巨体を持つそれなりに強力な魔物なんだよね。虫型とか、小動物型とか、もっと下位の魔物はいっぱいいる。

基板の素材には金を用意した。六重付与を行えるだけの素材としては手頃だからね。

資料を紐解いても、基板の製作まで行った研究者はいっぱいいる。成功者はゼロ。エッケンシュタイン基板との差は誰も埋められていないし、取っ掛かりも見つからない。

構造がシンプルだからこそ、改善案の提起も難しい。

「魔導変換炉の魔石は竜、素材も同じ。……魔石と素材を揃える必要があるとか?」

「……オーク肉なら売ってますけど?」

「肉製の基板は作りたくないなぁ……」

オークは珍しい可食魔物だからね。

肉屋に問い合わせれば骨も手に入るかな?

「そう言えばお嬢様、ノースマークの変換炉の一基は鷲獅子グリフォンの魔石ですが、基板素材は竜ですよ」

「あー! そうだった。隣の変換炉素材の余剰分を使いまわしてるんだった」

「竜素材が必須と言う事でしょうか? 試作用に手配をしてみますか?」

私用に一つ作れるだけでは意味がないんだけどな。

私が目指すのは、魔素掃除機をいくつか設置して、学院中から、贅沢を言うなら王都中からモヤモヤさんを消し去る事だからね。

「永続と不壊を付与したら、素材の格を上げられないかな?」

「どこにも公表できない付与はお止めください。それに、高位魔法の付与は魔素変換の魔法に悪影響が出るかもしれませんよ」

まあ、私が近くにいるだけで魔導変換炉の不具合が起きたくらいだしね。試作基板はそもそも、真っ当に動作するところまで辿り着けていないんだけど。

ちなみに、永続と不壊の性質を持つ金属をオリハルコンと呼ぶらしい。実物は見つかっていなくて、聖書や御伽噺に出てくる神様の剣がこれでできているとか。量産できるどころか、紙にだって付与できますけど何か?

この二属性を付与すると、追加でいくら魔法を足しても対象が崩壊しないから便利なんだよね。フランに怒られるから、自分の持ち物以外への付与は自重しているけども。

「多重付与は言ってみれば〝直列つなぎ〟、出力は魔石の魔力密度と、付与時の魔法圧力で決まる。圧力が高過ぎると物質の崩壊を招くから、素材の質を上げている訳で……〝直列〟に六つをつなげた時点で十分に圧力は高まってるから、どうしても素材の質は高くなって……」

「お嬢様、〝ちょくれつ……?〟とは何でしょう?」

ああ、しまった。

考えが口から洩れてるだけだったから仕方ないけど、日本語でつぶやいていた。電池のないこの世界では直列、並列の概念が無くて伝わらない──うん?

「〝並列〟でつなげば、素材の質を抑えられる?」

勿論、誰も答えなんかくれない。

すぐに金板六枚に、それぞれ六属性を付与してみる。単体ではあまり意味をなさない付与魔法。でもこれをつなぎ合わせれば──

「ああっ! 魔導線の準備なんてしてない!」

基板作るだけの予定だったからね。

「お嬢様、魔道具製作の専門家にお願いしてはどうでしょうか? 私達では道具の準備もままなりませんし、我々にない知見を聞けるかもしれません」

そうだね。

「お嬢様の付与魔法を外部の者に見せるのは不安ですから、しっかり話し合いを行った上で、作業を分担しましょう」

「はい」

その方が私の暴走癖を抑えられるかもだしね。

折角の思い付きが早々に転んで、今日は気分が折れたよ。