尋問
制圧には三分もかかった。
記憶を削除する工程は余計だったかもしれないね。思わずカッとなってしまったよ。
彼等と会う事は二度とないだろうから、そこまで気にする必要もなかったかもね。
暴力をにおわせたのは致命的。
貴族の世界に未遂はない。
だから、普通はこんなアホな企てに関わらない。
退学は確定。
この国、犯罪に未成年である事は考慮されないから、確実に実刑。
その後は家の対応次第かな。高確率で放り出されるだろうけど、甘やかす親もいるからね。
だからこそ、気になる事がある。
「どうして私を襲う計画に加担したのでしょう、イジュリーン・アートテンプ様」
アートテンプ男爵家と、ツウォルト子爵家、この二家はノースマークの傘下貴族。私への敵対行動なんて、あり得ない筈だった。
後者は当主候補じゃないみたいだし、侯爵家との関係を聞かされていないか、聞いても理解できる頭を持っていなかった可能性がある。
だから今は放っておいて、イジュリーン様に問いかける。
「ヒッ!?」
短い悲鳴を上げて後退ろうとしてるけど、足、折れてるよ?
ちなみに、五年前、傘下貴族を集めた会合に連れて来られていたから、彼とは面識がある。なのにここにいるなんて、私が幼くて覚えていないだろうとでも思ったのかな。彼も紋章付きだから、逃げられる余地は初めから無かったけど。
尋問の為に、顔が二倍くらいに腫れるだけで済ませたんだから、答えてよ。
何なら、続きはフランに代わろうか?
見た目からは分かりにくいけど、私を害そうとしたあなた達に、完全に切れてるから命の保証はできないよ?
「だ、第三王子に婚約拒否されて、立場を無くしたから、何かあっても侯爵様は助けないだろうし、傷物になっても捨てられるだけだろうって……」
何、それ。
お父様が私を見捨てるなんて、ある訳ないじゃない。
そんないい加減な事、誰が言ったの?
「……アルバロ……、ツウォルトが……」
廊下の向こうで縺れてる物体を見ながら答える。あれ、アルバロっていうんだ。
つまり、ソースの信用ゼロって事ね。
「そんな不確かな情報で、侯爵家を敵に回す可能性を考えなかったのですか?」
「普通の方法なら無理でも、傷物になったと噂が立てば、ぼ、僕でも手に入るかもって……」
は!?
私に
妄想
五年前、私七歳だよ?
普通に気持ち悪い。
後で慰める側に回るならまだしも、それで暴行側に回るとかアホでしょ。知らない人に弱みを見せるなんてしないから、どっちにしてもあり得ないけど。
「その不愉快な方法は、貴方が考えたのですか?」
「い、いや違う! トリスの奴が、そうアドバイスしてくれて……」
それってアドバイスなの?
トリス? 伯爵子息のトリス・ドライアかな?
入学歓迎会で挨拶した覚えはあるけど、ここにはいない。
「そのトリス? さんが、貴方の為にこうして人員を集めたのですか?」
「いえ、話を聞いていたアイディオ……ガーベイジ子爵の長子が、知り合いに声を掛けてくれたんです」
ガーベイジ。意外な名前が出て来たよ。
あの時、車から姿を現さなかった息子だよね。車窓越しの顔しか知らなかったけど、ここに姿はない。
「念の為に確認しますが、父君、アートテンプ男爵はこの件をご存じで?」
「いや、父は何も知らない。僕が勝手に動いたんだ。どうしても君が欲しかったから。父は今後の為に侯爵家との関係を築けと言っていたけど、君と一緒になれるなら、きっと家の為にもなると思って……」
計画では、私はお父様に見捨てられている筈なのでは? 万が一、そんな私が手に入ったとして、どうして家への貢献になると?
この人の夢世界、随分都合良くできてるみたいです。
父親の方はまともそうで少し安心した。ツウォルト子爵の長男も普通に見えた。身内にバカがいただけで、傘下の振りして裏で企みがあった可能性は低いかな。
それなら、お父様の心労が少し減る。裏切りじゃないなら、他の貴族まで疑う事態は避けられそうだからね。きっと、でっかい釘は刺すだろうけど。
「僕はただ、貴女の隣に並びたかっただけなんです。アロガント殿下が望まないなら、僕が願います。どうか、僕の手を取ってください。きっと父も喜んでくれます。領民も祝福してくれるでしょう。僕達の幸せな姿を見せれば、侯爵だって、きっと分かってくれる筈です」
はぁ?
何? この独りよがり劇場。
尋問したかっただけなのに、なんで妄想垂れ流されてるの?
この期に及んで、望みが成就する可能性があるとでも?
いや、これ以上付き合っていられない。
尋問対象を完全に間違えたよ。向こうで絡まってるツウォルトを叩き起こせば良かったかな。言葉が通じる様子じゃなかったけど、恐怖で心を折ったら案外素直に喋ってくれたかもだしね。
これ、叩き過ぎておかしくなった──訳じゃないよね、どう見ても。
いや、私だって、誠意をもって告白してくれたなら、誠意で返すよ?
前世があるから、身分差もあまり気にしていない。お父様達にあんまり迷惑はかけたくないから無茶はできないけれど、いよいよとなったら取れる手段もいくつかはある。
政略結婚を受け入れるつもりもあるけど、恋愛に対する憧れだって人並みに残ってる。
だけど、これは論外。
普通の十二歳の女の子だったら、トラウマものだよ。
「それ以上は結構です! 貴方はただの犯罪者。二度とお会いする事もないでしょう」
「そんな、助けていただけないのですか!?」
逆にどうして助けてもらえると思ったの?
「貴方の妄言に付き合うつもりはありません。暴行を企む複数人に囲まれて、その中に傘下貴族の子息が紛れていた。ここで在った事象はそれだけです」
「待ってください! 僕にそんなつもりは──」
「──それ以上
「ヒッ!?」