撃退

「何か御用ですか、ラミナ様」

前方組の中心らしい男性に、一応、用向きを聞いてあげると、何人かが明らかに狼狽うろたえ始めた。話が違うと顔に書いてある。

もしかして、紋章を堂々と晒しながら素性を隠してるつもりでいた? 胸に紋章を入れるのを、ただのファッションとでも思ってるのかな? 容姿や身体的特徴以上に証拠能力高いんだよ?

彼等と挨拶した覚えはないから、白を切れば逃げ果せるとでも考えてたのかもしれない。だけど、伯爵家二人、子爵家五人、男爵家四人、もう全員覚えたよ。

「侯爵令嬢様に家名を知られているなんて光栄だね。流石、博識でいらっしゃる」

「入学早々、講師試験まで受けるくらいだ、出来の悪い我々なんて視界に入ってないと思ってましたよ」

後方の中心はツウォルト子爵令息。長男とは先日挨拶したから、次男か三男かな。朴訥そうだったお兄さんとはまるで似てないね。

現在進行形で、視界に入れたくないとは思ってるよ。

「私が誰か知らないという訳ではないようですけれど、こうして大人数で囲むだけで、こちらは恫喝されたと見做せるのはご存じですか?」

恫喝罪に当たる例として、きちんと規定されている。

「アンタが侯爵様や学院に報告すれば、そうなるかもしれませんが、ね」

「そんなふうに口先はご立派な御令嬢でも、ちょっと痛い目に遭ってもらうと大人しく口を閉ざしてくれるんですよ」

ニタニタ笑いながら暴力を仄めかす。

全員がそこまで覚悟を決めてる訳じゃないだろうけど、少なくとも中心の二人は素性を知られても被害者の口を封じて凌ぐ気らしい。

まあ、丸太のような太い腕、見上げるような体躯でもって、獰猛どうもうな獣っぽい顔で睨まれたら、普通の女性なら何も言えなくなってしまうかもしれないね。

「淑女としてはこういう時、悲鳴くらい上げた方がいいのかな?」

「向こうを付け上がらせるだけかと。それに、お嬢様にか弱い振る舞いは似合いません」

それもそうかな。

さっきのラミナ伯爵令息の口振りからすると、こうして令嬢を脅すのも初めてじゃないみたい。そんな奴に弱さを見せるなんて、無いよね。

大体さっきから視線が気に入らない。

嗜虐的な目で私を見下しているのに、フランの胸を見る時はだらしなく緩んでる。イラッとするよね。

フランが汚れるから、見ないでよ。

「いやいやご立派、強がるね。それとも、助けが来るとでも思ってます?」

「カロネイア嬢が講義に出ていて、来られないのは確認済みですよ」

「折角の護衛と離れて行動するなんて、危機感なさ過ぎでしょう。学院なら大丈夫とでも?」

え?

今、何と言いました?

護衛?

もしかして、オーレリアが?

友達と行動してたら、私の護衛だと思われてたの?

吃驚だよ。

思わず後方のフランを確認したら、彼女もきょとんとしてた。普通に友人付き合いしてたつもりだからね。

この件は、後で状況を確認した方が良さそう。

侯爵令嬢わたしが伯爵令嬢を護衛として使っているなんて誤解が広まったら、どんな弱みを握られたのかとカロネイアの名前に傷がつく。私としても、友人を護衛だなんて思われたくないしね。

意外にも、盲点に気付かせてもらった訳だけど、もういいかな。

いい加減、不快だし。

知らない男十一人に囲まれる。

前世だったら、こんなに怖い事もなかったと思う。男達に悪意がなかったとしても、震えて顔も上げられなかったかもしれない。

従者にお世話されるのが当たり前で、ペンより重い物を持つ事が少ない私の腕は前世より細いくらい。

でも、この細腕を頼りなく思った事なんて一度もないんだよ。

「死なないように、気を付けてくださいね。手加減とか、考えた事ないので」

警告だけしてあげて、前へグッと踏み込んだ。

不意を突いたつもりはなかったけれど、フラン以外は誰も反応していない。構わず伯爵令息の二重顎を突き上げた。

──ところで、実は私、強化魔法を習得していない。

私のラバースーツ魔法は、あくまでもモヤモヤさんを漏らさない為の独自の工夫。魔力を体の内に留めて活性化させる強化魔法とは、似ているだけで実際のところ細かい点が違う。

ラバースーツ魔法でも身体機能が強化されるのは、使う私のイメージに影響を受けた副次的な作用なのだと最近知った。

魔法の事を何も知らないまま作ったオリジナルなので、イメージはSFに登場するパイロットスーツやヒーロースーツ。体を覆うだけで良かったのに、余分な要素が追加されている。

だからこの魔法、本気で使うと私を超人に変える。

打ち上げられたラミナ氏は天井に激突、逆V字軌道を描いて廊下に墜落した。

「へ!?

驚いてる暇、ないよ。

続けてツウォルト氏を攻撃するべく、距離を詰めたつもりの私だったのだけれど、目測を誤って体当たりになった。カッコ悪……。

私とぶつかった子爵令息は、周囲にいた二人を巻き込んで廊下の端まですっ飛んで行ったよ。知恵の輪みたいに縺れ合ってて、ちょっと引く。

オーレリアみたいに華麗に舞うのは難しいね。

どうしても、イメージと実際の動きが乖離してしまう。彼女みたいに、毎日鍛錬積んでる訳じゃないから仕方ない。私の場合、最低限の自衛で十分だからね。

「ば、化け物!?

失礼な事言って二人ほど逃げた。

逃がすと思う?

フワリと跳躍して回りこむ。

ラバースーツ魔法発動中なので、周りからは矢のように跳んで見えたかもだけど。

「お嬢様、あまり無防備に跳び上がられると、スカートの中が見えますよ」

あ、しまった。

私は少年漫画の主人公じゃない。貴族令嬢は気品が大事。

でも、まあ、記憶が無くなるくらい殴れば、問題ないよね。