オーレリア
助けてもらった事を口実に、オーレリア様を車で送ってお話しする時間を作りたい!
そう思ったけれど、その目論見には致命的に欠陥があった。
空間魔法で広げた車内は見せられない!
ああ、何で私はこんなタイミングで空間魔法を使ったの!?
と、
そっちに荷物は積んでいないし、私の搭乗車両と車種も同じで、ベネットは助手席にいるから後部座席は空いている。事故車両に人を乗せられないと、乗り換える言い訳も立つしね。
さっすが、私のフラン!
「オーレリア様、助けていただいたお礼に、当家の車で送らせていただけませんか?」
「スカーレット様の特別な車なら、私が何かしなくても問題は起きなかったように思えますけど……お言葉には甘えておきますね」
やった。走った方が速いので、とか言われなくて良かった。街中の速度制限だと、普通にあり得るからね。
「失礼します……あら、見た目よりずっと広いんですね」
オーレリア様の感想に、びくりと反応してしまう。
いや、こっちの車両は広げてないよ。ただ、私が少しでも快適に移動できるように、できる限り内部空間を広げた車両を、お父様が用意してくれた。
なのに、空間魔法でさらに拡張してくつろいでた私って……。ごめんね、お父様。
「オーレリア様も学院の学生寮で宜しいですか?」
「ええ、私もちょうど戻るところでしたので」
学院は貴族子女が学習を通じて交流する事を目的としているので、基本的に全寮制。王都住まいの貴族は当然居るし、領地持ち貴族も皆、王都に別邸を構えている。だから、そちらから通う者も一定数いる。王族は必ず城から通うみたいだしね。
「偶然通りかかっていただいて、私は助かりましたけど、オーレリア様は何か用があって町に出られたのではないですか? 私、お邪魔になっていませんか?」
「いえ、町を回るのは日課なのです。
「流石、カロネイア伯爵、ご立派です。それで、その装いなのですね」
「……お恥ずかしいです。でも、普段の服では動きにくいですし、貴族が分かりやすい形で町を歩くと人々を刺激してしまいますから。令嬢らしくないと分かっていますけど、その、お忍びの間だけですので……」
わー、可愛い。
瞬く間に五人倒してたのと、ホントに同じ人? 実際に戦う姿を見てなかったら、噂のオーレリア様とは、絶対に気付けなかったね。
だって、私より頭半分も小さなオーレリア様は小動物みたいで、庇護欲を刺激するんだよ。まとめてある銀髪はサラサラで、瞳が大きくて、顔つきは少し丸みを帯びてて、小首を傾げる仕草が最高に愛らしい。昔大事にしてた、リ〇ちゃん人形にこんな子、いたよ。
その上、いざとなったら勇ましいとか、イケメンヒーローに助けられるより、私的にクリティカルヒットだったかも。
「とってもお似合いですよ。濃紺のレギンスが淡い装いに映えますし、助けていただいた時、デニム地のショートジャケットが鳥の翼のようにはためいて、とても綺麗でしたもの」
「そんな……でも、嬉しいです」
気が付くと、勢い余ってオーレリア様の右手を握りしめてた。落ち着け、私。
オーレリア様、真っ赤になって、消え入りそうに縮こまってしまいました。このままお持ち帰りしたいな。駄目?
いじめてるんじゃないよ。舞うみたいに戦う彼女を見た感動が溢れてるだけ。
「私も強化魔法はそれなりに心得があるのですけど、風魔法も使い方次第であんなに素早く動けるものなのですね。勉強になりました」
「──え!?」
私、何か変なこと言いました? 変なテンションになってる自覚はありますけども。
「いえ、失礼しました。初見で風魔法と指摘された事がなかったもので、つい驚いてしまって」
あー、それは私の変な眼のせいだ。
強化魔法は魔力を己の内に留める技術。使っている間、モヤモヤさんは漏れないけれど、オーレリア様はモヤモヤさんを薄く纏いながら戦っているのが見えた。モヤモヤさんの濃淡で、推力や空気抵抗の軽減、衝撃の分散と、複数の魔法に細かく強弱をつけているのも分かったよ。
「噂で、風のように舞う方と聞いてましたので、その先入観のせいかもしれませんね」
勿論しらばっくれさせてもらうけどね。
「実は、そのように噂になってしまうのは恥ずかしいのです。父が有名ですから、私にまで注目が集まってしまうのも仕方ない事と、諦めてはいるのですが」
今日の戦いぶりを見る限り、理由はそれだけじゃないと思うけどね。
「カロネイア卿は特に強化魔法を高い水準で使いこなして、戦場では鬼神のようなご活躍だったと有名ですものね。つい、オーレリア様にも重ねてしまうのでしょう」
「幼い頃より鍛えられていますが、私は父に一太刀入れるのがやっとですもの、人々の期待に応えられる日は遠そうです」
謙遜してるみたいだけど、戦征伯に一太刀入れられる人間は、国に何人もいないと思う。それに、遠いだけで、できないとも諦めるとも言わないんですね。
オーレリアさん、意外と天然体育会系みたい。
「スカーレット様に綺麗と仰っていただいた事は嬉しいのですが、風魔法はあくまで代用で、身体が小さい事もあって、剣筋が軽いと良く言われてしまいます」
「もしかして、強化魔法は苦手なのですか」
「全く使えない訳ではないのですが、強化割合が低く、実戦に用いられる習熟とはなりませんでした。強化魔法が得意と仰ったスカーレット様が羨ましいです」
「私は無属性で使える魔法の幅が狭いので、強化に偏ってしまうのですよ」
公開できる魔法が少ないとも言うけどさ。
オーレリア様が強化を使えないというのは意外だったけれど、これは私にとって都合がいい。何しろ、私考案の強化魔法練習着がある。
強化魔法を教える事を口実にすれば、彼女と友達になる切っ掛けができる。
練習着の存在を彼女に伝える為にはお父様の許可を得ないといけないけれど、カロネイア伯爵との繋がりを強化できるなら領地への利点も大きい。きっと、否はないと思う。オーレリア様が強化魔法を習得できるなら、練習着の宣伝効果に多大な期待が持てる。それに、今後練習着を広げていこうと思えば、戦征伯は避けて通れない。
うん、公開のタイミングを詰める必要はあるけれど、お父様の説得は問題なさそう。
思い立ったらすぐ行動。
練習着を使わなくても、モヤモヤさんが見える私は、強化魔法の指導ができるからね。モヤモヤさん漏れの有無を見るだけの簡単な指導です。
家の騎士相手に実績はあるし、練習着と違ってこちらの実行は一任されている。誰にも真似できないからね。
「本当ですか!? 是非、お願い致します!」