好奇心が爆発

私がお見舞いを敢行すると、何故だかフランが元気になって戻ってきた。めでたし、めでたし──と、片付けられるなら良かったんだけど、お母さんやテトラの目の前で何やらやらかして、何もなかった事にできる訳がなかった。

何が起きたかは置いておいて、とりあえず他のメイドも見舞ってほしいと頼まれた。しかも今回は両親揃っての参観付きで。

私、見世物じゃないよ?

見守られながらお見舞いを繰り返すなんて精神的な疲労が酷いけど、土気色した私のメイドを目の前にすると、それどころではなくなった。

「フレンダ、元気になってね……」

フランの時と同じように、手を握って快方かいほうを願うと、やっぱりモヤモヤさんがごっそり流れて行った。

でもって途端に安静になるのもフランと同じ。

ベネットなんて、その場で飛び起きて平伏したよ。そのくらい体調の変化が瞭然だったらしい。感動を抑えられなかったんだとか。

勿論、どう返すのが正解か、まるで分からなかったよ。

ここまで来ると、当然他の家人にもって話が出た。

私も、これでモヤモヤさんと快方の因果関係が分からないほど馬鹿じゃない。原理は分からないけど、モヤモヤさんには病気を遠ざける効果があるらしい。

「シモン、早く元気になってね」

ちょっと凄い事をしてる気分になって、ご機嫌で騎士団長を見舞うと、何故だかモヤモヤさんが流れて行かなかった。

少し増長したとは言え、手順を変えているつもりはない。手をぎゅっと握っても、モヤモヤさんが動く気配を感じられない。私は首を傾げる他なかった。

「レティは魔法を使っているのかもしれないね」

続けて三人ほど見舞って、効果が無い事を確認したお父さんはそう結論付けた。

「きちんと習った訳でもないから、おそらく無意識なのだろう。そのせいで不安定なのだと思う」

「それって誰が教えてくれるの?」

「その時が来たなら、きちんとした教師を雇った方が良いだろうね。……というか、レティは驚かないのかい?」

モヤモヤさんのお掃除をしてた時から、他にあの現象を説明する言葉がなかったからね。ぎゅっと握ったらビー玉ができるとか、物理法則を超越してるのにも程がある。

なるほどって納得の気持ちが大きい。

もっとも、驚きが少ないからって何も感じていない訳じゃない。

むしろ、テンションがぐいぐい上がって興奮してる。

魔法だよ? 魔法!

これ以上ないファンタジー!

フレンダ達が時々掃除に使っているそれと、私のモヤモヤさんが同じものかは分からないけれど、何やら特殊な事象を起こせる事は判明した。

少なくともフラン達は元気になったし、身体能力は上がってる。私は魔法、或いは魔法に近い現象を扱える。

魔法なのかな?

魔法でないとしたら、一体何なんだろう?

どちらにしても、興味が尽きない。

魔法なんて前世には無かったものだからこそ、何処までも可能性を追ってみたい。モヤモヤさんなんて私以外には不可視なものがあるなら尚更だね。

今の私は魔法について知りたい。モヤモヤさんについて解き明かしたい。私が何をしたのか解明したい。魔法が存在する事で、この世界で何ができるか試したい!

それにチラッと聞いたけど、この世界って魔物とかいるんだよね。魔法が使えるようになったら討伐にも行けるかな。魔石や精霊由来の不思議アイテムとか拾えるのかも。それで何か新しいものを作ったりしてみたい。

ワクワクが抑えられない。

好奇心が次から次へと湧いてくる。

だって、こんなに面白い事って他にある?

たった今、モヤモヤさんは物理法則を超越した。なるほど、触れると染み込むものだから、人体に作用するのは何となく分かる。

しかも、お父さん達が驚いているくらいだから、これは普通の現象じゃないんだと思う。

なら、他に何ができるかな?

何処まで可能性が広がっているの?

今の私は答えを持っていない。でも、それを探し続ける研究対象は私と共にある。一生だって付き合って行ける。

夢が広がる。期待が膨らむ。

ああ──転生して良かった。

現状確認と成長前の不自由に四苦八苦して、モヤモヤさん掃除で場当たり的に過ごしてきた私が、今初めて転生した事実に感謝した。

この世界で生きたいと、本気で思った。

私はこの不思議な世界を、目一杯に楽しみたい!

「レティが八歳になったら、魔法を学ぶための最高の環境を整えてあげるからね」

うん?

興奮が最高潮のところで、氷水へ突き落とされた気がした。

「八歳!? 何で?」

「身体が小さい間は体内の魔力が安定しないんだ。魔法を使うには自分の属性を知らないといけないんだけど、それまでは測定ができないんだよ」

「そ、そんな……」

「現に、レティの魔法は安定していないだろう? この時点で魔法が発現するのは凄い事だけど、先に魔法について知らないといけない。文字を勉強して、本を読めるようになって、魔法がどんなものか知っていこう」

あまりの衝撃に視界が滲む。

折角楽しみを見つけたのに、おあずけが遠い。

私、まだ三歳だよ!?

今世の倍以上有るんだけど?

大人の五年はあっという間でも、子供にとっては長いんだよ?

「ホントに、駄目?」

「う……そんなに可愛くお願いしても変わらないよ。そんなに急がなくても、レティは才能に溢れてる。お父さんはその才能を伸ばす為に協力は惜しまない。きっとレティは凄い魔法使いになれるよ」

涙が浮かんだのを利用して、上目遣いに渾身のおねだりをしてみたのだけれど、敢え無く敗北した。

少しだけ揺らいだけど、お母さんの視線に気付いて立て直したよ。お母さんがいるのに、お父さんの甘さを引き出そうって作戦自体が間違っていたよね。タイミングが悪い。

いつかじゃなくて、今魔法使いになりたいって我儘は通らないみたい。

でも、これ以上ない楽しみができました。早く大きくなりたいな。