嬉しさのあまり、赤ちゃんらしさが迷子になってる気がする。
お父さんから贈られたのは、黒漆塗で黒光りする柄の両端を金で縁取りし、先端には宝玉を装飾した、箒の概念を超えた代物だった。少なくとも、おもちゃの域は大きく逸脱してる。
宝玉は私の瞳と同じ青。どう見てもガラス玉じゃないよね。
穂なんて真っ赤なんだけど、どうも染めた訳じゃないみたい。こんな色の動物、私は知らない。異世界特有種なのは間違いないけど、特殊な獣じゃないよね?
お父さん、頑張り過ぎだよ。
「ふえんだ、どえす! どえす、だして!」
嬉しかったのは間違いないから、お礼を言いに行かなくちゃ!
興奮したまま、私はクローゼットをビッと指す。
片言でもキチンと伝わったみたいで、メイドのフレンダは誕生日に貰ったドレスをすぐに出してくれた。
うん、お父さんに会いに行くなら、フリフリドレスのサービスが必要だよね。
お母さんに抱かれて向かったのは執務室。
ここに来たのは初めてだった。
お父さんの私室や食堂でいつも会ってるけれど、プライベートは分ける人なので、執務中に私が訪れる機会はなかった。
今日はお母さんが一緒なので、きっと大丈夫なんだと思う。
テトラのノックに応えて迎えてくれたのは執事のハイドロ。彼はテトラの旦那さんで、フランの父親。一家揃って仕えているというか、親類含めて代々我が家を支えてくれているらしい。
私としては、お父さんの後ろにいる人って認識で、あまり話した事はない。私と遊んでくれるお世話係のメイドさん達と違って、テトラ同様、一歩引いた姿勢の人だね。フラン曰く、表情のレパートリーが少なくて、褒めているのか、怒っているのか、分からない事があるらしい。
「旦那様。奥様とお嬢様がおいでになりました」
取り次ぎに下がったハイドロの先、一瞬見えた父の姿に驚いた。
普段は恵比須様みたいなお父さんが、すっごい険しい顔をしていた。
あんな顔もできるんだ…って言うか、私の思ってた以上に大変な事態なのかもしれない。本気で私を心配して散歩の自粛を決めたなら、拗ねてる場合じゃなかったかも。
「おや、あんまり綺麗だから、天使様が降りて来たのかと思ったら、うちのお姫様じゃないか。今日はどうしたんだい?」
険しかったのは本当に僅かの間だけで、すぐに知ってるお父さんになった。
ちなみにこれ、お世辞じゃなくて、割と本気で言ってるみたい。よくこんな感じでお母さんとイチャイチャしてる。
「あら、今日、綺麗なのはレティだけなの?」
「いやいや、女神様に抱かれていたから、レティが天使に見えたんじゃないか。勿論、君はいつだって美しいよ、私のアウローラ」
ほらね。
「おとーしゃ、ほーき、あーあと、ごじゃます!」
お母さんに降ろしてもらって、スカートの端をちょこんと摘まみながらお辞儀をすると、お父さんの顔はふにゃふにゃになった。さっきの顔は見間違いだったかな?
「ああ! やっぱりレティは天使で正解だった。だって、こんなにも私を幸せにしてくれる!!」
箒を貰って歓喜した私と反応が同じで、笑ってしまった。前世の記憶があっても、親子なんだね。
お仕事が大変なのは間違いないだろうから、私が癒しになれてるといいな。