粘着ベッドクリーナー

半年くらい過ぎた。

最近は、メイドのお姉さま方とコミュニケーションを楽しんでいる。

視力が上がってきて人の顔も認識できるようになると、使用人の皆さんの服装がメイドのそれだと気が付いた。いいよね、メイドさん。

勿論私はまだ言葉を紡げないけれど、つたない発音と表情で応える事はできる。

お母さんがよく話し掛けてくれるからできる限りで応えていたら、メイドさん達も話し掛けてくれるようになった。お母さんは忙しいみたいでいつもは来られないから、メイドさん達が主な話し相手となる。

私の部屋に出入りするメイドさんは基本的に六人。

声を掛けると、皆何かしら答えを返してくれる。お母さんもメイドさん達も、私に言葉が通じているとは思っていないだろうけれど、少しずつ単語を覚えてきている。

お母さんから声を掛ける時の〝レティ〟はきっと私の愛称。

メイドさん達は名前じゃなくて、〝フロイ〟と呼び掛ける。お嬢様、とかかな。

朝の挨拶あいさつは〝クータック〟、〝クーシュラフ〟でおやすみなさい。

全部の発音は無理だけれど、お母さんに〝くー〟とだけ夜の挨拶をしたらすっごく喜ばれた。滅多に顔を出さないお父さんまでお祝いに来てくれたんだけど、ごめんなさい、今は寝たいの。

滑舌が安定すると同時に喋り始めて神童を演じる事はできそうだけど、成長するとただの子って事になりそうなのが悩ましい。

でも、隠し事するのも面倒なんだよね。

それから、成長に伴って少しずつ動けるようになってきた。

手足バタバタは勿論、寝返りだってできるようになったよ。

私、頑張りました。

いや、私としても、寝返り一つで苦労するとは思っていなかった。

でも、本当に身体が思うように動かないの。

前世の私は随分と高度な動作を、しかも無意識で行っていたのだと感心するばかり。

首が据わって見渡せる範囲がグッと広がった。それを喜んだ頃からずっと仰向けに転がる練習を続けてきた。初めは前世の動作をトレースしようとしたけれど、筋力も関節の可動域も足りなかった。全然真似できない日々が続いた。何より頭が重過ぎる。

それでも、私はどうあっても寝返りができるようになりたかった。

何故なら、モヤモヤさんを掃除したかったから!

手が短くて掃除できないなら、私自身をモップ代わりにすればいい。

この天才的なひらめきを、是非とも実行したかった。

モヤモヤさんが何かは未だに分からないけれど、触れると何故だか消える。

私の知っている汚れとは違うっぽい。

単純に汚れと呼べるものではないのだとしても、黒いモヤモヤが視界に入るだけで不快なんだよね。

あれが何なのか、消えた後どこに行くのか、いつかは解き明かしたいと思ってはいるものの、今は私の生活範囲が綺麗になればそれでいい。

そして、遂にこの日が来た!

私はヘッドボード側に身体を寄せると、両手を頭の上に掲げて全身をピンと伸ばす。

後は、一気にフットボード側へ転がってゆく。

これこそ、快適・便利なお掃除用品の定番──!

思っていたほどスムーズに転がれていないけど、目的は快適な生活空間作りなので問題ない。

想定通り、私が通った場所からモヤモヤさんは消えている。気分はコ○コ○だね。

「──! ──!!

ご機嫌でニ〇ムズごっこを楽しんでいると、メイドさんに悲鳴を上げながら抱き上げられた。

私が寝かされているのはベビーベッドじゃなくてキングサイズみたいな大きさで、天蓋てんがい付きの高級品。赤ん坊には十分過ぎる広さがある為か、落下防止の柵は付いていない。

幼子の世話係に六人ものメイドさんが付いているのは、私の安全確保の為でもあるはずだよね。何しろ、不寝番ふしんばんまで行う徹底振りなんだから。

なのに、私がベッドの端を勢い良く転がっていたら、そりゃ悲鳴も上げるよね。ごめんなさい。

でも、私のベッドは綺麗になった。

今日は気持ちよく眠れそうだね。