「いつもはなんとか抑えるのですが、昨日は……」

「連戦の後だったからな。疲れも溜まっていたのだろう。それに──」

「それに?」

「昨日のあら汁はうまかった」

「ぷっ……。なんですか、それは!」

 メトラは噴き出した。

 ヴァロウはメトラの笑った姿を見て、リントリッドの王女であった頃を思い出す。

……」

「え──?」

「戦いに巻き込んで申し訳ありません」

「良いのです、ヴァロウ。私が望んだことなのですから。それにあなたの側に、何の気兼ねもなくいることができるのです。むしろ王宮にいる時よりも、私は幸せですよ」

「姫……」

 ヴァロウは薄く笑みを浮かべると、同時にメトラも微笑む。

 宮廷の中庭でこうして肩を寄せ合い、紅茶を楽しんでいた時を思い出した。

 再び二人はキスを交わす。優しく、互いをいつくしむように……。

「今日は随分と素直ですね、ヴァロウ。……ところで、何か私にお話があったのではないですか?」

「ああ……。そうだったな、メトラ

 ヴァロウはベッドから立ち上がり、メトラもまた同様に立って寝間着を着用する。

 ボタンを留めているメトラに、ヴァロウはしたためておいた手紙を差し出した。

「今すぐ、魔王城ドライゼルに向かってほしい」

「今すぐですか?」

「ああ……。お前の迅速な動きが、次の戦いの勝敗を決する。良いか?」

 メトラはすぐに手紙を受け取らなかった。

 今から魔王城に行くということは、ヴァロウから離れるということだ。

 その間、彼に危険がない保証は全くない。もしかしたら自分を危険から遠ざけるためなのかと、邪推してみたが、軍師ヴァロウの心理を読み解くことはついぞできなかった。

 片時も離れたくない。それがメトラの本音である。だが、ヴァロウが自分を指名し、こうして命令していることには、必ず何か深い意味があるはずだ。

 もう自分は王女ではない。

 ヴァロウの補佐役──サキュバスのメトラなのだから。

「かしこまりました。つつしんでご命令をはいじゅさせていただきます」

 メトラはヴァロウから差し出された手紙を受け取るのだった。

《了》