「いい感じなわけだね」

「分かりました。では……クレア、ザックの次のお休みは分かりますか?」

「うんと、ちょっと待ってね」

 クレアが受付の机の中から、何やら紙束を取り出しました。

 ふんふんふーん、と鼻歌を歌いながら、紙束を捲めくります。そのうちの一枚で止まり、指先で一つ一つ確認をして。

 うん、と頷うなずきました。

「お兄ちゃん、とりあえず直近は明後日あさつて非番だね」

「分かりました。では、明後日に準備を整えておきましょう」

「何かやるの?」

「ええ、歌劇にご招待しようと思いまして」

 そして懐から、先程ヴィルヘルム様にいただいたお給金を取り出します。

 歌劇のチケットを購入するにあたって、私が行ってはナタリアに気付かれてしまうかもしれません。そうなってしまうと困ります。

 そこで、チケットを調達するのはクレアにお任せです。

「これで、明後日の歌劇のチケットを二枚」

「うん、任せて。今日中には取っとく」

「お任せします。購入したチケットは、明日にでも私に。私からザックに渡しておきます」

「分かったよ。ばっちりやっとく」

「はい」

 これで準備は万端です。

 あとは明日、ザックのところに顔を出すだけですね。

 私にできる限りの援助はします。ですが、最終的に決めるのは二人ですから。

「では、これで」

「うん。帰り道気をつけてね」

 手を挙げて、クレアに別れを告げます。

 扉を開いて駐屯所から出ると、そちらでナタリアが待ってくれていました。

「お待たせしました」

「いえ、問題ありません。では、屋敷の方に」

「ええ」

 ナタリアとヴィルヘルム様が手配してくださった護衛の騎士様と共に帰ります。

 駐屯所から屋敷までの短い道のりですが、ここでロバートに攫さらわれた事実がありますので、ナタリアの目は真剣に周囲を確認しています。

 少し暗くなってきましたし、周りの人間全てが敵に見えるのかもしれませんね。

「ナタリア」

「はい、お嬢様」

「ナタリアは確か、明日がお休みでしたね?」

「はい。明日は休みをいただいていますが……」

「そちらの休みを、明後日に替えることはできますか?」

「……?」

 私の提案に、不思議そうに眉まゆを寄せます。

 確かに、このように言いだすのは滅多にありません。大体お休みは月の頭に決められて、それから変わることなどないのですから。

 ですが、明後日のザックの休みに合わせなければ。

「はぁ……特に予定はありませんので、大丈夫です。何かあったのですか?」

「ええ」

 確かに理由は気になりますよね。

 でも大丈夫です。ちゃんと考えていますから。

 ちょっと巻き込んで申し訳ないですけど。

「実は今朝、メアリーが少し元気がなかったように見えまして」

「……そう、でしたか?」

「あまり体調が良くないのでしょう。メアリーの休みは明後日だったはずですので、ナタリアと入れ替えで明日、休んでもらう形にします。無理を押して仕事をしてもらっても駄目ですからね」

「はぁ……そうですか……?」

 ナタリアが微妙に、不思議そうです。

 そうですよね。別に、今朝のメアリーは普通でしたし。特に体調が悪いということはないでしょう。

 屋敷に戻ったらひとまず、メアリーにも口裏を合わせておいてもらわないと。

「では、明日はナタリアは出勤で、メアリーが休みという形で」

「は、はい。承知いたしました」

「はい。ではよろしくお願いします」

 うふふ。

 これで、あとやることは一つだけですね。

 ザックの背中を押すだけです。


◇◇◇


 翌日。

 いつも通りにお弁当を抱えて、ナタリアと共に騎士団の駐屯所へ到着しました。本来はナタリアが今日お休みでメアリーが供をする予定だったのですが、メアリーにはちゃんと言い含めておきました。

 ただ、時間はいつもより少しだけ早めです。

 用事がありますからね。

「おはようございます、クレア」

「あ、おはよ。キャロル」

 そして、今日も受付はクレアです。

 ナタリアがいるので下手なことは言えないのですが、目だけで察します。クレアは軽くウインクをして、私に封筒を差し出してくれました。

 さすがはクレア、仕事が速いですね。

「これ、例のね」

「はい。ありがとうございます」

「あと、これお釣りね」

「分かりました」

 封筒と、銀貨を少々受け取ります。思っていたよりも安く買えたみたいですね。

 私とクレアにしか分からない会話ですので、ナタリアが少々首を傾げています。ですけど、特に何も言いません。

 これはナタリアには内緒のことですからね。

 そして、普段はこのままヴィルヘルム様のところに向かっています。

 ですが、今日は少々予定がありますので。そのために少し早めに来たのですから。

「ザックはどちらにいますか?」

「お兄ちゃんは……ええと、この時間なら第一休憩室かな」

「分かりました。案内をしてもらってもいいですか?」

「うん」

 クレアが立ち上がり、私とナタリアの行く先を手で示しました。

 団長室と応接室は分かるのですけど、第一休憩室とやらはどこにあるのか分かりません。呼び出してもらおうとも一瞬思いましたけど、そういうわけにもいきませんよね。

 そして、ナタリアの視線がクレアの背中を向いた瞬間に。

 ひょいっ、とポケットからハンカチを落とします。白い布地に花の刺し繡しゆうのされている、お気に入りのハンカチです。ちなみに、以前にザックが洟はなをかんだので二枚目だったりします。

 うん。

 ナタリアには気付かれていませんね。

 ちょっと冒険したことにどきどきしながら、クレアの後について歩きます。

 第一休憩室とやらは受付から割と近いらしく、程なくして到着しました。

「失礼しまーす……あーっ! 男臭い!」

「お?」

「なんだぁ、クレアちゃんじゃねーか」

「よー。どうしたこんなとこに」

 むわっ、と。

 なんだか、湿気を伴った熱を感じました。

 それもそのはず。第一休憩室の中には、十数人の騎士の皆様が汗をかいた体で、上半身裸でおられました。皆様、一様に鍛え上げたお体です。

 恐らく、訓練を終えて休憩中なのでしょう。

「なんだ、クレア……あれ、キャロルじゃねーか。どうしたんだよ」

 あ、ザックがいました。

 ザックも同じく、上半身裸です。ちゃんと鍛えていますね。

 何故でしょう。相手がザックだというのに、恥ずかしいです。

「おはようございます、ザック」

「珍しいじゃないか、俺を訪ねてくるなんて」

「少し用事がありまして。出てきてもらってもいいですか?」

 さすがに、この中に入ってお話をする度胸はありません。

 他の人には聞かれたくないお話ですし、出てきてもらわないと。

「ああ。ちょっと待ってろ……よ、っと」

 ザックが服を引っ掛けて、軽く羽織りました。ありがたいですね。

 まぁ、上半身裸で廊下に出ることに抵抗があったのかもしれませんけど。

 そのまま休憩室から出てきて、扉を閉めました。中の皆様がひゅーっ、と口笛を鳴らすことに対して、「うるせぇ!」と怒鳴りながらです。

「それじゃ、キャロル。私は戻るね」

「ええ、ありがとうございました、クレア」

「お兄ちゃんもまたね」

「あ、ああ……」

 クレアがそう言って、受付に戻ってゆきます。やはり長くは席を外せないのでしょう。

 さて。

 これでようやく、落ち着いて話ができますね。

「あ」

「ん? どうした?」

「あれ、どこに行ったのでしょうか」

 ポケットを探ります。

 その中には、ちゃんと持ってきていたはずのハンカチがありません。当然ですよね。自分で落としたのですから。

 ナタリアがそれを目だけで察します。これでばっちりです。

「ナタリア、ごめんなさい。ハンカチを落としたみたいです」

「どちらで落とされたかはお分かりですか?」

「駐屯所に入る前まではあったと思うのですが……」

「承知いたしました。捜してまいります」

 一礼して、ナタリアが受付まで小走りで向かいます。

 これでハンカチを取って戻るまで、ナタリアに聞かれずにお話ができますね。手短に済ませなければ。

「ん? ナタリアさん、どうしたんだ?」

「私のハンカチを拾いに行ってくれただけですよ」

「そのくらい自分で行けよ。これだからお嬢様は。あんまりナタリアさんに迷惑かけんなよな」

 ふん、とザックが鼻を鳴らしています。

 おやおや。

 これは随分と、心がナタリアに向いているみたいですね。私にとっては嬉うれしい事実ですけど。

「先日、ナタリアと買い物をご一緒されたそうですね」

「……え、何で知ってんだ?」

「ああ、ナタリアから聞いたわけではありませんよ。別の人から、見かけたと」

「あちゃー……いや、別にまぁ、ちょっと偶然会っただけだけど……」

「いえいえ。そのときに、随分ナタリアが楽しそうだったと聞きまして」

 うふふ、と笑います。

 別に私が怒っているわけではないのですよ。ザックが休日に誰と会おうと私には関係ありませんし。

 そうそう、ちゃんと用件を伝えておかないと。

「ザックは、明日休みだそうですね」

「ん? いや、まぁ、そうだけど。何で知って……」

「ナタリアも、明日休みなんですよ」

「……あー、そうか。だから何……」

「ザック、これを差し上げます」

 ザックが全力で疑問符を浮かべていますが、ひとまず答えずに封筒を差し出します。

 中身は確認していませんが、クレアが選んでくれたものですし大丈夫でしょう。

 ザックはやっぱり不思議そうに、私の差し出した封筒を受け取ります。

「あん? 何だこれ」

「歌劇のチケットが二枚入っています。ちなみに、日付は明日です」

「はぁ!? どういうことだよ!?」

「察しが悪いですね」

 ここまで言えば分かると思うのですけど。

 でも、ちゃんと察してはいるのでしょう。少し顔が赤くなっていますので。

 これはこれは。

 ザックの方も、脈ありということですね。

「明日、ナタリアと歌劇を見に行ってほしいんですよ」

「い、いや、何でだよ! お、お前が……!」

「私、明日は用事がありまして。でも、チケットは明日のものですから。ちゃんとナタリアをエスコートしてくださいね」

「いきなりそう言われても!」

「ああ、ナタリアはちゃんとザックの方から誘ってくださいね。あ、ちゃんとザックからお話があるということは伝えておきますので」

「お、お前っ! 説明しろよ!」

「では、私はヴィルヘルム様のところに向かいますので」

「おいっ!?」

 そそくさと退散です。

 ザックが意味が分からない、とばかりに叫んでいましたが無視です。

 あとはちゃんと、ザックからナタリアを誘ってもらえれば全て解決ですね。

「あ、お嬢様」

「ナタリア、ハンカチはありましたか?」

「はい。受付で落とされていました。お気をつけください」

「ええ。ありがとうございます」

 途中で会ったナタリアから、ハンカチを受け取ります。

 これで準備は万端ですね。

 あとは、どんな風にザックがナタリアを誘うのか見ものです。

「ザックさんに何用だったのですか?」

「いえ、何でもありませんよ」

「はぁ……」

 ええ、ナタリア。

 楽しみにしていてくださいね。


◇◇◇


「では、以上で講義を終わります」

 いつも通りの講義は、恙つつが無なく終了しました。

 アンドリューさんの一件があってから、後ろの方で傍聴する方が最近多くなってきましたね。どの方も、一度は講義を聞いたことがある人たちです。さすがに名前までは覚えていませんけど、顔くらいは覚えていますので。

 今日は少し、三さん角かく巾きんの使い方を教える際に、頭部の保護の部分で説明不足がありました。そのあたりも、屋敷に帰ってから資料の作り直しをしなければいけませんね。メアリーがいないのは残念ですが、なんとかナタリアと二人で頑張りましょう。

 さて、それではヴィルヘルム様にご挨あい拶さつをしなければ。

「お疲れ様です、お嬢様」

「ええ。ヴィルヘルム様のところに行きましょう」

「はい」

 いつも通り、お茶を一杯だけいただいて帰ることにします。本当なら長居したいのですけど、ヴィルヘルム様のお仕事を邪魔してもいけませんからね。あと、屋敷に帰ってから資料の修正をしなければいけませんし。

 いつかは、ヴィルヘルム様のお帰りを待てるような立場に──妻になれたらいいのですけど。

「失礼します」

「おお、キャロル。おや……もうこんな時間か」

「はい。本日の講義も終わりました」

「ご苦労だったな。今日は儂わしが茶を淹いれよう。座ってくれ」

「はい」

 講義の後に、こうしてヴィルヘルム様と二人で過ごすのが何よりの楽しみです。

 勿もち論ろん、昼食をご一緒するのも楽しみですよ。でも、講義の後のこの時間は、なんだか講義を頑張った自分に対するご褒美のような気がするのです。

 手早くヴィルヘルム様が三つのカップを持って、戻られました。

「ナタリア嬢も座るといい」

「では、失礼いたします」

「うむ」

 私のみならず、ナタリアの分も用意してくださったみたいです。

 折角ですので、ナタリアも私の隣に座らせて、一緒にお茶をいただきます。

 あ、忘れていました。

 ちゃんとヴィルヘルム様に伝えておかなければ。

「そういえば、ヴィルヘルム様」

「む?」

「明日も講義があるのですが、明日はナタリアがお休みでして」

「おお、そうか。分かった。なるべく腕の良い騎士を寄越そう」

「いつもありがとうございます」

 ロバートの一件もありましたし、ナタリアが休みの日は護衛の騎士の方を厳選して屋敷まで寄越してくださるのです。その代わりに、ナタリアの出勤日には新人の方や若い方がいらっしゃることが多くなっています。

 大半はザックですけど。いまいち強いのかどうか分かりませんし、ナタリアの拳こぶしで伸のされる姿しか想像できません。

 しかし、それも全てヴィルヘルム様が私を心配してくれてのことだと思うと、嬉しくなってしまいますね。

「今日の講義はどうだった?」

「はい。皆様、真面目に聞いてくださいます」

「そうか。もしも不真面目な者がいれば、儂に言ってくれ。性根を叩たたき直してやろう」

「あはは……今のところは大丈夫です」

「そうか。だがな……」

 そう、和わ気き藹あい々あいと笑いながら話していると。

 唐突に──団長室の扉が、こんこん、と叩かれました。

 おや、お客様でしょうか。

「どうした」

「ヴィルヘルム団長、失礼いたします!」

「入れ……ザックか?」

 明らかにザックの声です。

 なるほど、この機に来たということですか。私は用件が分かっていますけど、ヴィルヘルム様はご存じないので不思議そうに首を傾げておられます。

 扉が開いて、向こうにいたのは当然ながらザックでした。

「何用だ、ザック」

「は、はいっ! 申し訳ありません……ええと、ナタリアさんと、お話をさせてもらってもいいでしょうか!」

「む……? そう言っているが」

 ちらりと、ヴィルヘルム様がナタリアへ目をやります。

 ナタリアの方も、意味が分からないとばかりに眉まゆ根ねを寄せています。そして、私に対して伺いを立てるように視線が来ました。

 勿論私は承諾です。私が仕組んだことですからね。

「ナタリア、御用ということですので、行ってきてください」

「しかし……」

「ここはヴィルヘルム様の執務室です。何の危険もありませんよ」

 きっと世界で一番安全な場所です。

 この場でナタリアが離れたところで、問題はありません。私の前にいる方は、王国最強の騎士団長なのですから。

 ナタリアが小さく嘆息して、立ち上がりました。

「では、少々席を外させていただきます」

「ええ。ごゆっくり」

「はい」

 ザックの招きに応こたえて、ナタリアが団長室の外に出てゆきました。

 だめですね。にやにやしてしまうのを抑えられません。

 どんな風に誘うのでしょうか、ザック。ちょっと聞いてみたい気もしますけど、さすがに野暮ですよね。

「……何があったんだ?」

「さぁ?」

「ふむ……まぁ、いいか。ナタリア嬢は強い。ザックも下手な真似はできぬだろうからな」

「そうですね」

 確かに、ナタリアはすごく強いんですよね。

 一撃でザックが吹き飛ぶくらいに強いです。本当に頼りになります。

 ふふっ、とそこでヴィルヘルム様が微かすかに微笑まれました。

「そういえば、アナスタシアが以前にここへやってきてな」

「アナスタシア団長ですか」

「ああ。どこかに即戦力として戦える者はいないだろうか、と探していた。儂がすぐに思い浮かんだのはナタリア嬢だったのだが……」

「それは私、困ってしまいます」

「そうだろうな。さすがに、キャロルの身辺警護をしてくれるナタリア嬢に、そのような声はかけぬよ」

「ありがとうございます」

 助かります。

 ナタリアは私が幼い頃からずっと従ってくれている侍女ですから。誰よりも信頼する相手です。

 きっとナタリアの強さを見れば、アナスタシア団長が物もの凄すごく勧誘するでしょうね。私、ナタリアと互角に戦える相手ってデボラさん以外に知りませんし。そんなデボラさんは見た目が物凄く筋肉ですし。

 ヴィルヘルム様なら、ナタリアにも勝てるのでしょうか。

「お待たせいたしました、お嬢様」

 と、そこでナタリアが戻ってきました。

 ちょうどお茶も飲みきったところですし、ここでお暇いとましましょう。

「ではヴィルヘルム様、これで失礼いたします」

「ああ。帰り道、気をつけてくれ」

「はい。ではまた明日、よろしくお願いします」

 ナタリアと共に礼をして、そのまま団長室から離れます。

 さぁ、あとは帰るだけですね。

 しかしそんな私の隣で、ナタリアが疲れたように大きく溜ため息いきを吐きました。

「お嬢様……知っていらしたのですね」

「おや、何のことでしょう」

「珍しく、朝からザックさんのところを訪れていると思っていましたけど……全てお嬢様の手引きですね」

「いえいえ」

 完全にばれていますね。

 ここは知らぬ振りで押し通しましょう。

「先程、ザックさんから歌劇に誘われまして」

「良いではありませんか。楽しんできてくださいね」

「明日だそうです。お嬢様が突然変更されて、急きゆう遽きよ休みになった明日だそうです」

「……」

「ザックさんは何故か……今朝、お嬢様が受付のクレアさんから渡された、封筒のようなものをお持ちになっておりまして」

「……」

「中に入っていたのは歌劇のチケットでした。それも、明日一日だけしか使えないものです」

「……」

 てへ。

 まぁ確かに、ここまで外堀を埋められたら気付きますよね。

 これ以上は知らぬ振りも難しそうです。

「嫌でしたか?」

「いえ、まぁ……ザックさんと歌劇に向かうこと自体は、別に嫌ではありません。特に明日は予定もありませんでしたので、承諾しましたけれど」

「そうですか。渡りに船ですね」

「まぁ、それは問題ないのですが……」

 はぁぁ、と大きくナタリアが溜息を吐いています。

 何がそれほど嫌なのでしょうか。ザックと行くことも嫌ではないし、予定があるわけでもないのに。

 でも、ナタリアが遠い目をして。

 なんとなく、気付きました。

「……また、泣きませんかね?」

「……泣くでしょうね」

 何故でしょう。

 ただ一度一緒に行っただけなのに、簡単にザックの泣き顔が想像できてしまいました。