ずっと立ったままいられては困るので、気だるい身体に鞭を打ち、俺は扉の外に向かって声をかける。
「そんなところに突っ立って何の用だ?」
「お疲れかと思い、入っていいものか逡巡しておりました」
「余計な気遣いだ」
「では失礼します」
シャロンは小さくお辞儀して、中に入る。閉まっていたカーテンを開くと、ちょうど夕陽が部屋に差し込んで、思わず片目を閉じた。俺が隅にある椅子に腰掛けると、少し離れたところでシャロンは姿勢良く立っていた。
「子爵院はつつがなく終わった。全て予定通りだ」
「大丈夫ですか?」
俺の何を見て、そんな言葉が出てきたのだろうか。お疲れ様です、でも、それは良かったです、でも、安心しました、でもない。
「何も問題はなかった。心配されるまでもない」
「いいえ、違います。私が心配しているのは、殿下自身のことです。殿下は自分がどう見られようと構わないとお思いかもしれません。それが殿下自身の評判を落とすことでも、多くの人にとって益となることなら、きっとためらいなく実行する」
「それこそ買い被りすぎだ。俺は俺のためにやっている。全ては打算の産物だ」
「殿下がそう仰るのは分かってます。私がここで何を言っても、決して立ち止まることはないのでしょう」
そう言いながら、シャロンは俺の手に自分の手を重ねてくる。
「……何の真似だ」
一瞬払い除けようと思ったが、体重がかかっているわけでもないのに、俺の手はピクリとも動かない。母性に溢れるシャロンの振る舞いに、心が鷲掴みされた感覚だった。
「私は殿下の全てを肯定します。理解できずとも、理解者として振る舞いましょう」
「……貴様は」
酔狂、盲信者、どの言葉もその後に続く言葉に相応しいとは思えなかった。シャロンの瞳がただひたすらに真っ直ぐだったから。
「殿下の支えになれれば本望です。後ずさる背中があれば、無理矢理にでも押して差し上げます。如何なる失敗が待ち受けていても、その度に私が慰めて差し上げましょう」
「そんなものは要らない」
否定したのは後半部分だけのつもりだ。シャロンもそれは理解したかもしれない。
俺も自分の策が本当に正しいのか、胸を張って言える自信はなかった。だから一人でも肯定してくれるのなら、地に足をつけて前に進める気がした。
今日の一件を受けてキプレア・ルドワールの息子は思い通り動くか。まずアレオンの賢明な判断が前提にはなるが、いずれにせよ気を引き締めるとしよう。
「殿下はいつも、身体に力を入れすぎです。息の抜きどころを決めないといつか暴発しかねませんよ」
「それこそ余計なお世話だ。気など抜いていては格好の隙になるだけだ」
頑固な俺を見ても、シャロンは温良な笑みを浮かべるばかり。なんだか見透かされているように思えて、余計に身が締まるように感じるばかりだった。