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「殿下、ヘンリック殿下!」
シャロンは明らかに取り乱した様子で、ヘンリックに呼びかける。もはや反応はなく、ただそれでも浅く息をしていることに
シャロンとしても、ヘンリックのことを「クズ」と形容するのに一切の異存はない。母の言いつけによりヘンリックの使用人になった日から、シャロンは精神的な苦痛を味わってきた。日常業務における細かなミスであっても、ことあるごとに
母を亡くして
だからと言って、シャロンが今の今までヘンリックに
それでもシャロンがヘンリックの婿入りに同行したのは、ヘンリックに言い当てられた通り、ゲレオンの束縛から逃れるためだった。これまではヘンリックの使用人として働いてきたこともあり、現皇帝と直接の面識はない。それでもこのまま帝国にいれば、いずれ母と同じ
それにヘンリックに同行すれば、しばらくは暮らしていけるだろうという楽観的な考えもあった。ゆくゆくは母の親戚に身を寄せようと考えていたのも事実だ。
そんなシャロンがヘンリックに対して必死になって治療を施している。死なせたくないと思っている。自分自信でも理解ができない行動であり、心情の変化だった。
しかし、もっと理解できないのはヘンリックの行動であった。
周囲を見下し、
そればかりか、金を手渡して逃げろとすら言われた。誰かと入れ替わったのではないかと
(それに、母がエクドール出身なんて誰にも教えたことがなかったのに)
シャロンが自分の個人的な事情を共有したことなど一度もなかったし、ヘンリックも興味すら持っていない
「爺……。俺は約束を……果たせそうに……ない。帝国の民を救うことが……できなかった……。すまない……。本当に……すまない」
うわ言を
ヘンリックは常に
そんなヘンリックの口から、人を思いやるような言葉が出てくるとは夢にも思わなかった。うわ言で本心でない言葉を述べることなんて、狙ってできるはずもない。
(まさか、殿下は私の行く末を案じて……?)
昨日までの自分なら全力で首を横に振るような結論に至る。
長い
ヘンリックは日々の研鑽を欠かさず、ひたすらに自分を追い込んでいる。シャロンもそれは帝国を背負う人間として当然の責務なのだろうと納得していた。
だがそれは違う。帝国の民を救うために、常に甘さを
(もし殿下が人々を帝国の圧政から救うべく、孤独に戦い続けていたのだとしたら……?)
「……ッ」
シャロンは
(私も母を亡くして孤独だと思っていたけど、殿下はもっと長い孤独の中にいるのね)
しかも立場を考えれば、いつ命を刈り取られるかわからない。シャロンよりも遥かに厳しい世界で戦っているのだ。
シャロンは思わず
今考えるとヘンリックは、自分が一人で生きていくのに困らないよう、
(私が支えてあげないと)
ヘンリックは「民と
だからこそ、自分が理解者としてそばにいなければならない。ヘンリックだって同じ人間だ。
自分が
懸命な治療を続けていたシャロンだったが、内臓をズタズタに傷つけられていたヘンリックは無情にも息絶える。それでも、シャロンの顔に焦りは無かった。
「
残りの敵を片付けたコンラッドが駆けつけてくる。ヘンリックの死に直面し、
「くっ……。殿下が命を
「……コンラッド様、少し下がっていてください」
シャロンは
「な、何をする気だ?」
「今から殿下を復活させます」
「君が
「……簡単ではありません。でも、絶対に
シャロンは大きく深呼吸をする。
「
シャロンは母から教わった
(殿下、絶対に生き返らせます。こんなところで死なせるわけにはいきません!)
そして何より、大魔法の場合は集中力が大切になる。少しでも
『いい、シャロン?』
『なに? お母さん』
『これまで話したことは無かったけれど、
『まほう?』
『分からないわよね。絶対に守らないといけないことがあるわ。まず人前で気軽に使ってはいけないということ』
『どうして?』
『シャロンが魔法を使えると知られたら、悪い人に
『嫌なこと……それはちょっと怖いかも』
『そうでしょう? 魔法には小魔法と大魔法の二種類があって、大魔法は特に危険なの。大切な人にしか使っちゃダメよ』
『……危険?』
『母親としては知らない方が良いと思うわ。貴女のことが
『わたしにしかできないこと?』
『貴女は人を一度だけ生き返らせることができるわ。でも、それはとっても危険なものなの。人を生き返らせるというのは世の理に反するもの。シャロンは大きな
『代償ってなに?』
『それはね――』
脳裏を
(お母さんがこれまでの殿下を見ていたら、私が
確証めいたものが、シャロンの中にあった。自分はきっと、間違っていないと。
復活魔法が使えるのは、死後数分のわずかな間。母親を
シャロンが自身の行動の正当性を言い訳がましくも抱えていたのは、この決断を案じているかもしれない天国の母に、自分の判断が間違っていないと証明するための理由づけだった。
「お願い、成功して!」
シャロンとて、復活魔法は初めての行使だった。成功する確証はどこにもない。それでも、シャロンには成功させる自信と、強い想いがあった。強い想いは魔法の源泉になりうる要素だ。だからシャロンはひたすら