とある娼婦の証言

なんだい、また話を聞きたい奴が来たのかい?

アタシの名前は……まあ、どうでもいいか。ああ、言っとくけど知ってることとアタシらに起こったことは全部衛兵に話してるからね。新しい情報なんてどこにもないよ。それでも良いなら……って気前が良いね、何が聞きたい?

ああ、あのモンスターのこと?

知ってることなんて何にもないんだがねぇ……まあ、間近で見たってだけなんだけど?

見たこと全部?

んー、アタシらも「灰の棺」に攫われてる真っ最中だったからねぇ、じっくり見る余裕なんてなかったんだよ。だから見たままのこと全部話しても、この銀貨に相応の話はできないかもしれないよ?

まあ、そう言うだろうとは思ったけどさ……モンスターなんかに深入りしても良いことなんてないよ?

はいはい、じゃあどこから話したもんかねー。それだとちょっと長くなるかもしれないけど、良いのかい?

あいよ、銀貨分は語らせてもらいましょうかね。まずアタシはこの町にいたわけじゃなくてね、ここから北西にある「グレンダ」って町にいた。昔は鉱山があって随分栄えていたみたいだけど、アタシが生まれる前に銀が採れなくなってドンドン人が離れていった。

アタシとしても生まれ故郷だからね、そう簡単には捨てることはできなかった。そうやってズルズル引き延ばしていたらもうこの歳さ。まあ、まだまだ仕事はできるとは言え、このままだとまずいこともわかっていた。そんな時に声をかけられたんだ。

「レコールで仕事をしないか?」ってね。こっちとしては渡りに船だ。条件をまとめて何人かで行くことになったんだけど……これが失敗だった。護衛をケチったわけではなかったんだけどねぇ、見事に全滅。ああ、違う違う。護衛をやったのは人攫いの連中。さっき言ってたろ「灰の棺」って──おや、知らないのかい?

十年くらい前に突然現れた人身売買組織さ。言ってしまえば奴隷狩りに遭っちまったんだねー。なんか待ち伏せされてたっぽいこと話したら、衛兵さんらが「嵌められたんじゃないか」って言ってたけど……これがその通りでさ、アタシらにこの話を持ってきた太った商人風の男がグルだった。

いや、あの娘達には怖い思いさせちまった。で、話はここでお前さんの欲しがってる新種のモンスターだっけ?

そいつが出てくる。アタシらは馬車の中にいたから見てなかったんだけど……まー、一方的だったみたいなのはわかったね。騙した男もすぐに馬車の外に呼ばれて大きなクロスボウ抱えて出ていったけど、すぐに声が聞こえなくなったよ。

そ、全滅。最初に何人か逃げてたみたいだけど、その場にいた連中は全員死んだよ。アタシらはただ黙って、声を殺して縮こまってた。「そのまま通り過ぎてくれ!」って神様に必死にお願いしたけどダメだったよ。あっはっは……いやー、神頼みなら普段からもっと信心深くなきゃダメなのかねぇ?

そいつは馬車を覗き込むようにして現れた。馬車を掴む手が見えた時に、思わず前に出ちまったけど……今でもよく動けたと自分でも思ってるよ。

で、そいつはじっとアタシを見た後、馬車の中を見渡した。他の子達も見られたと言ってたし、案外人間の女をそういう目で見ているのかもしれないよ、ゴブリンみたいにさ。とは言え、結局何もされずにアタシらは見逃された。何で襲ったかだって?

そんなもの私が聞きたいね。ま、おかげでアタシらは奴隷にされることもなく、無事にレコールに辿り着けたわけだから、感謝の一つくらいはしてやるさ。待ちなって、まだ続きはあるよ。あいつは何も盗っていかなかったと言えば、そうじゃない。馬車の積荷から酒を探してその場で飲んじまいやがった。

そ、酒。中々いい飲みっぷりだったよ。まあ、あの図体じゃ一本なんてすぐだろうがね。そしたら満足したのかどこかへ行っちまった……と思ったら戻ってきやがった。安心した娘が思わず悲鳴を上げちまったんだけど、もうこちらには興味がないのか無視して行ってくれた……と思ったらもう一回馬車の後ろを通って行ったよ。

もう大丈夫だろうって顔を出そうとしたら目の前を通過したもんだからね、今度はアタシが悲鳴を上げちまったよ!

でもさ、その時見えちまったんだよね。あのモンスター、でっかい背嚢を背負ってた。

中身は何が入っているかはわからなかったけど、何か棒状の青い布みたいなの……って何すんだい!?

ああもう、揺らさないでおくれよ!

あんたほどじゃないが、アタシのものだってそれなりなんだよ。これでメシ食ってるんだから、商売道具は大事にさせとくれ。ええ……流石に見えたのは一瞬だから何を持っていたかなんてわからないよ。あ、でも──ってだから揺するんじゃないよ!

アタシがさっきも言った「青い布のようなもの」──それとスコップに鉄板だね。

何でって……アタシに聞かれてもわかるわけないだろ?

魔剣?

いや、何か手にしてた気はするけど……何を持っていたかまでは見てないね。あー、待ちな待ちな。話はまだ少しだけある。というか、これは多分お前さんにとっては役に立つ話かもしれない。わかったから、話すから手を離しな。

まあ、そんな感じでアタシらは無事な馬車と取り残されたわけなんだけど……当然逃げるわけだ。そこで急いで逃げようとしたんだが、馬が動かない。そもそも誰も御者なんてやったことなかったからね、随分ともたついちまった。

で、ようやく動き出してチンタラ走っていたらあのモンスターがやってきて吠えた。まるでアタシらがここにいるのが不都合って具合に急かされたよ。どうしてそう思ったか、だって?

だってあいつ吠えるだけでこっちが走り出した辺りで追ってこなくなったんだよ。多分だけどあの辺に何かあるんじゃないかい?

この話?

ああ、実は衛兵にはこの話はしていない。あっはっは、タダで話せる内容じゃないからね。まあ、新種のモンスターが出たって時点で、出没した周辺は調べられると思うから、もしもその情報が手に入らなければ、自分で探すのもいいんじゃないかね?

場所は……ああ、既に聞いてるんだね。となると、アタシが言えるのはこれくらいだ。んー、結構前の話だからねぇ……大体三十日くらい前の出来事だよ。ってもう行くのかい?

無理はすんじゃないよ、アンタくらいの美人が死ぬのはアタシでも惜しいと思うんだから。後、傭兵家業を辞める気あるならうちに来な、アンタなら幾らでも稼げる。アタシが保証してやんよ。