その後、狩りに行って朝食を済ませた後は軽く周囲を探索しつつパトロールをする。実はこの川から然程離れていない場所にゴブリンの巣があった。当然殲滅したが、他にいないとも限らないのでこの時間はこの辺りを嗅ぎ回り、生態系の確認も兼ねて巡回しているというわけだ。

そして太陽が真上になった頃に拠点に戻ると、再び定位置に伏せて待機。今回はタイミングが良く、丁度川に到着したところだったようだ。

(一号、二号、二号、三号に……四号だな)

五人のエルフ達が服を脱ぎ川に入ると水を掛け合ったりして遊び始める。見た目十四~十八歳くらいの美少女達が裸で水浴びをしているこの場所は、何を隠そう「女性用水浴び場」である。

ここは女性用だが他の場所には男性用もあり、決まった時間帯に遊びに来るエルフをこうして眺めることができるのがこの拠点の良いところである。ちなみに夕方前になると大人の女性がやって来る。その中には六号さんもいることがあるので見逃すわけにはいかない。自然に溶け込むように裸になる辺りに「自然崇拝」の真髄を見た気がする。

俺はここに拠点を作り、念入りに川を探索し続けることにより合計五箇所の水浴び場と三箇所の覗きスポットを作成した。また場所によって利用される時間が微妙に異なるので、最大で一日七回の覗きのチャンスがある。時間が被っているのもあるので全部を回ることは不可能なのが残念だ。

なお水浴び場の五箇所のうち二つは男性用で、そのことにはすぐに気づくことができず、時間を大分無駄にした。こうしてここで覗きをしていてわかったことはエルフの胸の大きさだけはなく、この周辺の集落の人口も大体ではあるが把握できた。

その数は二百人前後と推測しており、町のエルフを含めた場合はどこまで増えるかは未だ不明。引き続きこの拠点で観察を続け、エルフに関する情報の収集を継続する。

(おっと、第二スポットがそろそろ時間だ)

こちらの観察はまだ続けたいが、恐らく今日は五号トリオがいるはずなので、彼女達の隔日利用説を確定させるためにも、今回はそちらに行かねばなるまい。新兵とは言え元帝国軍人──職務全うのため、最大の脅威たるエルフをしっかりと隅々まで観察する所存であります。



あれからどれくらい時間が経ったのだろう?

エルフの観察を開始して二十五日目くらいだとは思うのだが、間違っていないと断言はできない。日が傾き、もうじき夕方になろうという時間に、俺は監視用拠点で寝そべりながら水浴びに来たエルフ達を今日も今日とて観察している。

皆楽しげに話しており、時に水を掛け合ったりすると今度は水に浮かび、空を眺めては笑い合っている。彼女達を観察してわかったことが幾つかある。一つはエルフは皆スレンダーというのは思い込みだった。普通に帝国人くらいの胸の大きさだし、太っているのもいる。

ただ腰が細いのが多いのは統計的に正しいと思われる。「全体を通してみるとモデル体形が多めであることは間違いない」と累計百四十七名(子供除く)のエルフの女性の裸をじっくり確認させて頂いた俺が力説する。男は知らん。

そして二つ目なのだが、エルフは日常的に魔法を使っている。例えばちょっと手が届かないところにある物を取る時や、服を乾かす、火を点けるといったことを大体魔法で行っている。

「魔法のエキスパート」とも呼ばれているが、何気ない日常と一体化している様を目の当たりにすると納得せざるを得ない。他にも細かいことがわかったが、まだまだ確証を得るには至らず推測の域を出ない。

それは間違いなくもっとしっかりと観察することで得られるものだと、エルフ達が全裸で戯れる光景を一挙一動見逃さないという姿勢でこの目に焼き付ける。それにしても六号さんは相変わらずよく揺れる。いや、子供達の言動から誘導されている可能性もあるが、だとしたら将来強敵が生まれることになるかもしれない。ますます監視を怠るわけにはいかなくなった。

さて、こんな感じに毎日エルフの話し声を聞いているのだが……相変わらずさっぱり何を言っているのかがわからない。多少の知識があったところで、ネイティブなエルフ語の前では単語すら拾えないようだ。もっとも、俺が知ってるエルフ語なんて「くっ、殺せ!」とか「貴様のような下等種族に!」とかそんなのばかりなので仕方がない。せめて常用する単語くらいは知っておくべきだった。

さて、本日の「ヘナ川から送るエルフ水浴び劇場」が終了したところで夜に備える時間である。川から上がる際、六号さんが躓いてお友達を巻き込んだことで、仕返しとばかりにもみくちゃにされていたが、それ以外は普段と何ら変わらず、魔法で体を乾かし服を着ると森の中へと帰っていく。

彼女達の後ろ姿を見送って、俺はゆっくりと立ち上がると持っていく物をまとめる。まだ夜まで時間はあるので、少し森の奥をブラブラする。そして夜になると拠点に戻って荷物を持って川へと向かう。エルフ達は日が暮れると川には近づかないが、念のためにこうして夜まで待ってから向かうことにしている。

川に到着すると体を洗ったり魚を獲ったり水を確保したりする。朝や昼は遭遇する可能性があるので控えることにしたところ、自然とこのライフスタイルになってしまった。川の用事が済んだので、処理した魚をクーラーボックスに入れ、荷物を担ぐと拠点の裏にある調理場(仮)へと向かう。

夜ならば煙を気にせず肉や魚が焼けるので、ここで明日の朝の分もまとめてやってしまう。食事は相変わらず粗末で味気ないが、これを解消するなら人を襲う必要が出てくる。馬車の積荷とかゴッソリ奪えれば食料事情が良くなるかもしれないが、そう都合よく調味料や食材が豊富なものに出合えるかと思えばそう上手くは行かないだろう。

そんなことを考えながら焼けた魚にかぶりつく。こうして食事をしていると、朝と夜の一日二食が馴染んできたなと思う。今更なのだが、魚を食べていた時に誤って骨を噛んでしまったのだが、そのままバリバリいけた。試しに動物の骨も噛んでみたところシャクシャクいけた。食感的に骨付き肉をそのままいくのもアリなのかもしれない。

食事が終われば川へ行って洗い物。それが終われば拠点に戻って就寝である。鳥の羽毛を熱湯消毒したものを薄く敷き詰め。そこに枯れ葉を加えたベッドと呼ぶにはお粗末なものの上に寝転がる。

「こんなものでもないよりはマシ」

そう思って目を閉じる。だが眠れない。最近はいつもこんな感じだ。眠気はなくとも眠ることはできる。だが、気持ちが晴れない。喉に刺さった小骨のようにやはりどうしても気になるのだ。踏ん切りがつかないとでも言うべきか?

それとも割り切れない?

(やはり一度帝都に行かないとな……)

埃をかぶらせたままにはしておけないものがある。自分を誤魔化して生きるのは案外難しいのかもしれない。翌朝、昨晩作った食事を済ませ、拠点を発つ準備をしていた俺は、気が付けば水場で子供達を引率する六号さんをずっと見ていた。うん、自分を誤魔化すのは苦手なんだ。

そんなわけでどうにかエルフ達の誘惑に耐え、無事に拠点を出発することができた俺は、改造リュックを背負って森の中を駆け足で進んでいる。今はリュックに空きがあるのでクーラーボックスもこの中だ。

(まさかあんな落とし穴があったとは……これだからエルフは油断ならない)

もしやエルフの容姿が優れているのは、他者の目を引きつける意味があるのではなかろうか?

なるほど、それならばエルフの女性が誰の目があるかもわからない川で裸になることに抵抗がないのも頷ける。つまり、彼女達は俺に何らかの暗示、もしくは魔法を行使するために裸を見せつけていたという可能性も存在する。

(何という策士。帝国が辛酸を嘗めさせられたのも納得だ)

茶番はさておき、ただ見ているだけしかできないというのも辛いものがある。相棒も未だ行方知れずという状態だから猶の事で、目の前に食べることができない御馳走をぶら下げられている気分になる。

もしかしたらあの蜘蛛男もそれで狂ってしまったのかもしれない。少しばかり同情を寄せてしまったのは、俺もいずれ「ああなってしまう」可能性が頭を過ぎったからだろう。考えていても仕方がないのでこれ以上は止めておこう。

太陽が真上に来るまで南東に進み続けたところ、軍事基地跡が見つかったのだが……やはりというか徹底的に破壊されており、ほとんど更地という具合で探索をしようという気すら起きない。基地跡を歩きながら見渡すと、一部に明らかに人為的な破壊が見受けられる箇所が幾つも見つかった。

(戦場になった場所はわかりやすいな)

ここにいる意味はない。地理的には恐らくこのまま南東に進み続ければ何らかの痕跡が見つかるはずなので、そこから方角を調整していけば帝都に辿り着くはずである。できれば帝都周辺の町には寄っておきたい。どうせゴブリンの巣になっているだろうが、欲しい物が増えたので排除することもやぶさかではない。

と言うより帝国人のお墓掃除的な意味では積極的にやっても良いかとすら思っている。道中デカイ熊や猪型のモンスターと出くわしたが、適当に痛めつけて格の違いをわからせてやった。日が暮れる頃に崩れた人工物を発見したのでそちらに向かう。

恐らく「アイドレス」の町の跡なのだろうが、建物が軒並み原形を留めておらず、屋根のある建造物が見当たらない。エイルクゥエルやルークディルに比べると人工物の破損具合が酷く、ゴブリンが住み着けるような場所がない。町が幾つか戦場になったことはわかっていたが、いざ目の当たりにするとその爪痕に当時の戦争の凄惨さが見えてしまう。

「ガッ、ハー」

俺は息を一つ吐き、コンクリートの瓦礫の山に腰を下ろす。これをエルフがやったのかと思うと、能天気に覗きなんてやっていたことが恥ずかしくなる。しかし俺もエルフの裸を覗き見ることで辱めている。よし、イーブンだ。

帝国流のジョークを一つ挟みつつ、ここでは収穫の見込みがないことを残念に思いながらアイドレスを発つ。

(アイドレスからほぼ真東に行けば「ジスヴァーヤ」があるが……南東に行った方が帝都に近づくんだよなぁ)

ジスヴァーヤには兵器工場があるので、何かしら収穫がありそうなのだが、ここと同じように更地にされている可能性も捨てきれない。

(ルートを確認しよう。まず帝都まで直進するコースの場合、立ち寄る町は「シュバル」と「アイザ」の二つ。確かアイザには巨大なショッピングモールがあったはずだ。次は一度東に向かいジスヴァーヤを通り町を多く回るルート……この場合、ジスヴァーヤの次に「バナイ」「コザ」「アランヴェイン」を経由し帝都へと入る。少々大回りになるが、兵器工場という目玉がある)

共和国がどの程度侵攻していたかを正確に掴めていれば、ここまで悩むこともなかったかもしれない。やはり情報は重要である。僅かな月明かりでも道なき道を走ることが苦にもならない我が身を案じる必要などなく、ならばいっそのこと「帝都行ってから戻る時に回ればよくね?」という結論に至った。

肉体のスペックが高すぎて活動限界が測りづらいというのは贅沢な悩みである。夜通し走り続けたことでシュバルの象徴とも言うべき鉄塔が見えてきた。夜明けからまだ時間はあまり経っていないので少し薄暗いが、この程度なら問題なくよく見えている。

もっとも、やはりと言うべきかかつては「栄華の象徴」とも呼ばれた鉄塔は、最早見る影もなく錆付き傾いていた。

(いや……むしろ二百年もの間、あの鉄塔が立ち続けていることが、帝国の技術力を示している)

子供の頃に見たあの鉄塔が過去の物になってしまったことは少し悲しいが、思い出にしがみついていても仕方がない。「なにせ今の俺は人間ではないからな」と自嘲気味に笑う。

(家族との思い出がある場所というのは来るものがあるなぁ……)

こんな姿になってしまったが、たまにはセンチメンタルなのも悪くない──そう思ってシュバルの町だった場所に足を踏み入れる。するとやはりと言うべきか奴らがいる。姿は見えなくとも臭いでわかってしまう。つまり、まだここはゴブリンが住めるくらいには原形を留めているのだろう。

(久しぶりに来た懐かしい町だ。掃除くらいはやってやるか)

俺はわかりすい目印となる標識の傍に荷物を地面に起き、スレッジハンマーの具合を確かめる。ようやく使う時が来た。さあ、ゴブリンの駆除を開始しよう。



スレッジハンマーを一振りし、付いた血と肉を払う。俺は屍の大地と化した競技場で最後の一匹である統率個体女王を叩き潰し、生き残りがいないかどうかを確認する。

(動くものはなし……これで全部かね?)

三万人を動員できる競技場をここまで埋めるゴブリンを皆殺しにしたのだから、これは最早重労働と言って差し支えはないだろう。手足が汚れないように導入したスレッジハンマーなのだが、結局は手足どころか尻尾も使って大掃除。

前回のゴブリン駆除の倍はいたであろう数の相手は、流石に疲れを感じさせるくらいには大変だった。ちなみに数が倍でも質が変わらなかったのでやっぱり無傷である。王と女王のセットであったが、ただのデカイゴブリンが俺をどうこうできるはずもなく、スレッジハンマーの一撃で構えた盾ごと頭を粉砕され死亡。

女王を守るべく群がり続けるゴブリンを文字通り千切っては投げ、千切っては投げ……数千の汚物に変えた後、残った肉の塊を叩き潰して終了である。ここの連中は前回と違って悪臭の度合いが軽度であったことが幸いだった。恐らく、屋根が半分くらいなくなっていたことで換気ができていたのだろう。

ゴミ掃除が終わったのでどこかで体を洗い、記憶にある商店街で寝床作りと洒落込もう。アイザのショッピングモールには及ばないが、ここも決して小さな町でない。きっと今の俺に足りなかった物が見つかるに違いない。

まずは体についたゴブリンの血を洗い流すことから始めよう。そのために水を求めて自然公園にやってきたのだが、当然の如く噴水は止まっている。水鳥が住んでいた池はゴブリンが使用していたのが濁っていて汚い。

「やはり今回も下水道か」と思っていたのだが、廃墟になった温室に雨水が良い感じに溜まっていたのでそれを使用する。前回雨が降ったのは四日前だったので問題はないはずだ。

さて、綺麗にとまではいかないが、さっぱりしたので置いた荷物を取りに行って商店街へと向かう。大掃除に時間を随分取られたので、既にお昼を過ぎてしまっている。明るいうちに必要な物を確保し、周辺で狩りをして今日はここで一泊する。最近は毎日睡眠を取っていたが、昨晩は夜通し走っていたので今日はしっかりと眠っておきたい。

というわけで商店街で物色を開始。必要な物を集めつつ、寝床になりそうな場所を探して使えそうな物資を運び込む。体感で二時間ほど商店街を行ったり来たりした結果、やはりというか山ができた。

(……タワシだけで幾つあるんだ? 後布を持ってきすぎた)

布団屋があったのは良いのだが、ほとんどが使えなかったり持ち運ばれていたため妥協しているが、それでもベッドに関してはそこそこ良い物が完成した。実際寝転んでみたが、この体重を受け止められる四層のマットが良い仕事をしている。マットの上にも二重に布団を敷いたこともあって、寝て良し座って良しなのだが、おかげで天井が更に低くなってしまった。

細かいことは寝る前に調整するとして、次は食料だ。森へ行って狩りをする──のだが、ここにいたゴブリンが取りすぎているのか、結構遠くまで出かける羽目になった。本当にゴブリンは害悪だ。戻ってきた時には既に日が沈んでおり、確保した猪を解体して火をおこす。猪一頭分くらいなら問題なく一食で収まった。

空腹感はなくとも、満腹感はある体であることはエルフを監視していた期間に判明しているが、この程度では腹いっぱいにはならない。俺は水を一瓶飲み干して作ったベッドに寝転がる。

(悪くはないな。明日は帝都に着けるだろうか……)

そんなことを考えながら俺は目を閉じると思いの外、早く眠ることができた。どうやら思った以上に出来の良いベッドだったようだ

翌朝、目を覚ました俺は大きく欠伸をすると体を伸ばす。建物が少し壊れてしまったが、家主のいない今となっては咎める者は誰もいない。俺はタワシと布、トングを追加して更に充実した荷物を背負うとシュバルを発つ。進路は南東、目指すはアイザ。

距離はそこまで離れていないので昼前には到着するだろう。この辺りは木の密集具合がそれほどではないため速度が出せる。道中は特に何もなかったが、思ったよりも早くアイザの町が見えてきた。それは良いのだが、思ったよりも荒廃が酷いのが遠目からでもわかる。

(これはショッピングモールに期待できないかもしれないな)

そんな不安は見事に的中。アイザの町は予想以上に荒れており、その原因はすぐにわかった。

(間違いない。焼かれている)

崩れた外壁が焼け跡を残したままの姿で残されており、ゴブリンは疎か他の生き物の気配が少なすぎる。おまけにどういうわけか植物が異様に少ない。これまで見てきた町はどこも自然に侵食されていたが、アイザの町は緑ではなく灰色だ。しばらく探索をしてみたのだが、とてもではないが使える物を探せるという状態ではない。

(戦争とは言え、ここまで念入りに焼く必要がどこにある?)

どこを見渡しても焼け落ちたままの建物がそのままの姿で残されており、その破壊の跡が尋常ではないことを物語っている。しばらくアイザの町だった場所を散策してみたが、当然と言うべきか持っていけるような物が残っているはずもなく、ここでの時間は完全に無駄なものとなった。

こうなると心配なのは帝都であるが、そこまで攻め込まれているということはないと信じたい。

(いや、待て。まさかとは思うが、これって前に見た最終兵器を投入した結果がこれというオチはないだろうな?)

不意に思いついたことについてしばし考える。出した結論は──あり得る。最終兵器を使って自国の町を灰にするとかちょっと自分の国と言えども擁護できない。だが、あくまで可能性である。エルフとの戦争が激化した結果、こうなったということも考えられる。

(そう言えばエルフって三百年くらいは生きることができるんだよな……)

いつの日か、エルフ目線でとは言え何が起こったかくらいは知ることができるかもしれない。まあ、そのためにはエルフ語を学ばなければならないことを考えれば、あまり現実的な話とは言えない。それはさておき、もうここに見るべきものはないので帝都へと向かう。

(二百年ぶりとなる帝都は、今どんな風になっているのやら)

いざ考えてみると、住んでいた家が今どうなっているのかなど、知りたいことや見たいものが意外と多いことに自分でも驚く。そして灰色の町を抜けようとした時、目の前に見慣れない光景があった。

いや、思えばもっと早くに気づいていても良かった。進むべき先に、森がないことに気づかなかったのはどうしてだろうか?

視線の先にあったのは砂漠だった。どこまでも続くような砂の大地が広がっていた。俺はこの環境の変化に首を傾げつつも、砂漠へと足を踏み入れる。砂だ。少々歩き難さはあるが、問題なく歩くことはできるし走ることもできる。

(帝国時代、海に行ったことはないが、砂浜というのはこんな感じなのだろうか?)

砂を蹴って走ってみる。意外と速度が出ないことに驚いた。砂場というのは案外動きが制限されるものなのだと、しばし歩き方や走り方を工夫してみるが成果はなし。その後も俺は砂漠という珍しい環境を満喫するかのように進んでいく。

俺は自然と「何故こうなったのか?」と考えることはなかった。理由はわからない。だが、考えてはいけないような気がした。そして、現実が突きつけられた。心の中ではそうだろうとは思っていても「実はそうじゃない」ということを期待していた。

(これが、帝国が滅んだ理由か……)

俺の前にあったのは、一言で言うならば「爆心地」である。それも一体どれだけの爆薬を使用すればこのような巨大なクレーターが出来上がるのか、俺には到底想像の及ぶものではなかった。帝都を呑み込み、農耕地を焼き尽くし、アイザの町まで巻き込んだ。この砂漠は、そうして出来たものだ。