Ⅳ
元同胞を殺した俺はまず自分の位置の把握に努めた。幸いと言うべきか、同じ場所をグルグルと回っていたらしく、荷物を置いた洞窟からそこまで距離が離れていなかったおかげで夜が明ける前に戻ることができた。
と言っても既に丸二日以上経過しているので荷物が無事かどうか心配だったのだが、どうやら誰もここには来なかったらしく、置いた時のままの場所にあった。中身を確認しても無くなったものはなく、取り敢えず水を飲みつつ干し肉を齧る。少々塩辛いが、ここは全部平らげてしまう。
まともな食事をしていなかったので、何でも良いから口に入れた方が良いと思ったからだ。活動するのは夜が明けてからにするとして、どこかに水場はないものか?
狩った動物の血を飲むというのは最終手段にしたい。取り敢えず、夜が明けるまではここで休むことにしよう。そう思ってぼうっとしていたら日が昇ってきた。暇すぎて寝てしまいそうだったので良いタイミングだ。眠ってしまっても良いかとも思ったが、それは腹にもう少し物を入れてからにしたい。というわけで狩りを開始する。
で、獲れた獲物はこちら──鹿になります。血抜きした鹿を魔剣という切れ味抜群の包丁で適当に解体。腕力による解体に比べて実にスムーズである。内臓はどう処理して良いのかわからないので穴を掘って埋める。水を少し使って手を洗い、用意していた鉄板の上に鹿肉を置く。
(あー、これトングが欲しくなるな)
肉を焼くのだからそれを掴むものが必要となることを失念していた。機会があればまたショッピングモールに立ち寄ろう。しかしそうなると他の物も欲しくなりそうだ。「魔法のアイテムで沢山物が持てないかねぇ」とか考えながら焼けた鹿肉をひっくり返す。野生動物だからしっかり火を通さないと食べるのが怖いんだよな。そんなわけで無事完食。
「あー、塩が欲しい」と大きく体を伸ばして横になる。鹿一頭ほぼ丸々食える体だが、この味気なさはどうにかならないものだろうか?
残った水を全て飲み干し、食事休憩を終わらせたところですっかり辺りは明るくなっていた。そろそろ出発するかという段階で問題発生──鉄板が汚い。足りないものが見つかりすぎて辛い。
やはり生活するとなれば水場の近くが便利で良いが、肝心の水場が少ないのが難点である。さて、鉄板の汚れは仕方がないので荷物を背負って移動を開始──する前に、ここで残念なお知らせがあります。
ブルーシート……君はここまでだ。ぶっちゃけ色が目立つので持ち歩くべきではなかった。というわけでブルーシートは洞窟の中に置いていく。それでは予定通りにここから北西にあるグレンダの町を目指すとして、まずは街道へと向かう。そこからは街道沿いに森の中を進んで行く。
道中商隊らしき一団とすれ違ったが、擬態能力を使用して荷物を隠しておけば案外見つからないようだ。そんなこんなで森を抜けると草原地帯へと変化する。ここからは身を隠す場所がない。
なので街道を横切り堂々と北の山を目指す。幸いなことに人に見つかることなく、お昼頃に山の麓に到着。曲がりくねった町道の先には町があり、周囲は山が多く鉱山都市として栄えていた。俺は山を登りつつ川を探す。
一時間ほど登ったところで目的地に到着。ここからならグレンダの町を一望できるだろうと崖の上に立った。立つ必要がなかったので伏せたが、望遠能力を用いて町を一通り見たところで一言言いたい。
(何でこんなに寂れてるんだよ)
かつてはカナン王国の三大都市に名を連ねていた町に一体何があったのか?
答え:銀と希少鉱石が枯れた。
「そりゃ二百年もあれば枯れるわな」と周辺探索で廃坑を見つければ納得もできるというもの。というか記憶違いがなければ「五百年は掘れる大鉱脈だ」とかカナン王国は自慢してたはずなのだが、三百年前から掘っていたなんて話聞いたこともない。
まあ、自国の戦略物資等の埋蔵量を馬鹿正直に語る国なんていないだろうし、これは完全に俺のミスである。やってしまったと思いながら見つけた小さな川で鉄板にこびりついた肉を剥がす。ちなみに拾った枯れ枝をタワシ代わりにしているので、汚れを落とすのに結構手間取った。
水も一応煮沸した物を瓶に入れ、獲った魚を焼いて食べる。食べ終わる頃には日は落ちており、適当な場所に腰掛けてウツラウツラと船を漕ぐ。特に眠気があるというわけではないのだが、精神的に疲れており、もう何もしたくないのだ。場所が場所なので眠るのが少し怖いが、ここ数日の活動から眠らないのも問題がある。俺はいつの間にか意識を手放し、気が付けば辺りは明るくなっていた。
「眠ってしまったかー」と頭をペチリと叩き、恐る恐る瓶の水を飲む。味も臭いもおかしい点はない──大丈夫なはずだ。飯の前に町をもう一度眺める。やはりと言うか人が少ない。正直ここまで廃れていると見るべきものがない。
城壁にいるべき兵士はまばらでその装備にも特徴的なものは見られない。詳細を見ることができないと言えど、塔や城壁に備えられた設備を見るくらいはできるのだが、肝心の防衛のためのものが何一つ見つからない。ここでバリスタなり見つけることができたならば良かったのだが、何もないおかげでこの時代の防衛設備がどの程度か知ることができない。
(いや、無駄足と決まったわけではない。町の様子からどんな新しい物が作られたかくらいの発見はあるはずだ)
一番活気がある昼に最後の確認をしなければ、まだ収穫なしとは言い切れない。魚を獲ったり焼いたりしつつ時間を潰し、もうじき昼になろうという頃に再び町の観察を始める。
(うん、ダメだ。ここはハズレだ)
距離があるので俺の能力でも表情を読み取ることはできないが、それでもわかることがある。ここの町に活気がなく、住民には希望はない。何より子供の数が少ない。恐らくではあるが、ここにはもうまともな産業が残っていないのではなかろうか?
兵士も少ない上にやる気が全く見られず、欠伸をしても咎めるものは誰もなし。士気も低ければ練度も低そうな者ばかりである。
(完全にハズレだ。見事に読み違えたなぁ……)
見るべきものすらない町だ。となると街道ですれ違ったお姉さん方はこの町から逃げ出した人達、ということになるのだろうか?
(まあ、こんな町なら見捨てるわな)
ここにいるくらいなら南部攻略の最前線の町へ行くのも納得である。娼婦のお姉様方の需要も、こことは大違いだろう。となると次はどうするか?
いっそこのまま西に向かいエルフの国へ行くのも良いかもしれない。確かめたいことはある。左手に残る感触を確かめるように拳を握り、そして開く。俺以外にも遺伝子強化兵はいる。ならば他にいないとも限らない。それを確かめるために戻るという選択もある。だが、仮に見つけてどうするのか?
どうしたいのかがわからない。
(と言うか、あの一面森林と化した広大な帝国領で研究施設を探せとか、結構無理難題なんだよなぁ)
第一探すにしてもアテすらない。アテもなく帝国領を隈なく探せと?
(幾ら俺の身体能力でも、現実的じゃないんだよなぁ……)
帝国軍人として恥じないようにと心がけてはいるが、あるかどうかもわからないもののためにそこまでできるかと言えばノーだ。労力に全く見合ってない。できるならやろう。
しかし俺の能力を完全に超えている上に、可能性の話でしかなく、待っているのは森林サバイバル。残念ながら「ご縁がなかったということで」と頭を下げざるを得ない。というわけで次の目的地を設定。
ここから更に西へ西へと移動し、対エルフの最前線「エメリエード」まで向かう。正直行きすぎたとは思うが、最早そこまでしないと安心できない。二百年という歳月は俺が予想した以上に変化を
何故最前線に変化がないと確証を持てるかと言えば、カナン王国がエルフ国家こと「エインヘル共和国」に勝てるはずがないからである。大戦中唯一帝国に辛酸を嘗めさせたエルフがカナン程度に後れを取るはずがなく、またエインヘルは他国の領土を欲しない。
ここまで聞けば、前線に戦力を割く必要がなさそうに思えるが、そうはいかない理由がある。エルフは種族として自然を崇拝しており、最低限度の開拓しかしない。結果、領内はモンスターが生まれやすい環境となる。だが問題にはならない。何故か?
エルフの戦闘力は人間とは比べ物にならないからだ。湧いてくるモンスター如きでは脅威にならず、むしろ周辺国へと逃げ出すため国境に守りが必要となる。放置すればモンスターが群れをなして町を襲うこともあり、適度に間引くことは必須なのだが、国境を越えることをエルフ達は許さない。
このような事情もあり、エルフ国家と隣接する人間国家はエルフと仲が悪い。まあ、こういう事情があるので当然とすら言える。そういった事情とは無関係な国や人は、その優れた容姿故に悪感情を持たない……というより幻想を抱くと新兵時代に教わった。はい、まんま俺のことです。
季節的にそろそろ薄着なので、ついでにエルフも見ておきたい。これにはやましい意味はなく、単純に帝国の脅威となったエルフが二百年でどう変わったかが見たいだけだ。そんなわけで進路は西。身を隠す場所がなければ最悪帝国領を通ればいいだろう。
崖上にある小さな洞窟。その周囲は持ち込まれた木々で隠蔽されており、遠目からではここに洞穴があるとは誰も気づくことができないだろう。ここに拠点を構え既に十六日が経過しており、足りない物は作るなどして補うことでそこそこ快適な暮らしをしている。
エメリエード?
最前線都市?
あったね、そういうのも。でも、もうどうでもよくなった。結論から言うと、あいつら科学を捨ててやがった。もうね、文明レベルが低下してるとかあり得ない。大砲とか銃とかめちゃくちゃ警戒してた俺がマジで馬鹿みたい。
バリスタとかはまあ、設置されていた。俺が知っているやつそのままの物が現役だった。モンスターは進化する場合もあるが、特殊な個体を除き基本的に進歩はしない。それに対する備えだから装備品等が昔と変わらないというのもわからないでもないが、被害を減らすために新しい武器や技術の開発くらいはするものだろう?
いや、結果が出ていないだけという可能性もあるので責めるのは酷かもしれないが、正直言うとがっかりした。後確信とまではいかないのだが、恐らくカナン王国に俺を止める手段はない。俺が本気で攻め込んだら王都くらいまでなら余裕で進める自信があるくらいには、今のカナンの戦力の評価は低い。
正直、カナン王国には少し期待していた部分もあった。帝国に隣接する国家の中では唯一科学を扱い、その技術水準も決して低くはなかった。単に帝国が突出しすぎていただけであって、カナン自体は遅れた文明ではなかった。そのカナンが旧帝国領で見つけた物から自国の技術力を大幅に向上させている可能性が十分あると考えたらこそ、俺はずっと警戒もしていたし自身の行動の制限もしていた。
でも、カナン王国に対しては遠慮する必要が最早なくなったと言っても良い。失望したとかではなく、客観的に見て脅威度が低すぎるから出した結論だ。一応お隣のセイゼリアとの仲が良くなっているのであれば、多少の危機感を覚えなくもないが、国家の領土紛争が科学を捨てた程度で解消されるとはとてもではないが思えない。
魔法技術に関しては間違いなく上がっているであろうことは、飛行船を飛ばしていることからも伺える。もしかしたら年代物を使用した、もしくは未だ技術が残っている可能性もあるにはあるが、あの程度の物ならどの国も作っているし、どこも成果を出していない。エメリエードでのモンスターとの戦闘は見たが、魔術師の数が明らかに増えていたことからもそれが伺える。問題はその質だ。
全員揃って棒立ち詠唱という遠目でわかるお粗末さには、如何に魔法に関して無知な俺でも溜息が出る。つまり魔術師が砲台の代わりというのが、現在のカナンの戦術となっているわけだ。俺なら間違いなく前衛を無視してそこに突っ込む。
言いたいことは色々あるが、恐らく魔法と科学を両立していたが故に、片方を捨てたことで未熟な技術体系が露呈し、発展が遅れていると解釈してやるのが精一杯である。町を見ても、出入りする商隊を見ても、どこを見ても「科学」の姿が見当たらない。完全になくなったわけではないのだが、もうどうでも良くなった。
もうこの国には期待しない。だから共和国へと向かったのだ。そこで俺を待っていたのは、聞きしに勝る「自然崇拝」っぷりだった。最初は「こんな連中に帝国は……」と憤りもしたが、エルフが戦う姿を見てわかった。「ふざけんな、このトンデモ種族が」と言いたくなった。
ゲームなら台パンしてるレベルの理不尽さだった。そもそも魔法というのは詠唱を必要として発動に時間がかかるものである。それだけのリスクを払いながらもその威力が帝国の兵器にも引けを取らなかったからこそ、各国はそれなりに戦えていたのである。
ところがこのエルフどもは詠唱なしで魔法を使う。しかも人間が使うものに比べて威力が高く、使用回数の底が見えない。俺でもすぐにわかった。「あ、こいつらやべぇ」と──。
そんなわけで現在は共和国の国境らしき川の近くの崖上に潜伏している。調査のために何度か川を越えてみたのだが、警戒網を抜けるのが中々厳しそうだったので奥に進むことができないでいる。
それでも集落とでも呼ぶべきものを幾つか発見しており、他にも町と呼べる規模の集団が生活する場所の特定もできている。また十日間に及ぶエルフの行動範囲の観察により、現在の拠点の安全性は確かなものとなった。
具体的に言うと、エルフは川を渡ってこない──つまり、ここが彼らが認識している国境でほぼ間違いない。少なくともエルフが東へ領土を拡張しないのであれば、この隠蔽された拠点に来ることはないだろう。問題があるとすれば、火を使う時は時間と場所を考えなくてはならないことだ。
とは言え、主だった不満は現在のところその程度のものとなっている。何故ならば、ここには楽しみがあるからだ。そろそろ時間なので定位置で伏せると川の方をじっと見る。しばらく待っているとエルフの子供が川に向かって走ってきた。
それに続くように八~十二歳くらいの子供が十人ほど到着すると、少し遅れて大人のエルフがやって来る。毎日決まった時間にやってくるので、川で水泳の授業でもしているのだろう。子供は男子四人に女子六人で、大人はエルフの女性が一人だけ。たまにもう一人いる時もあるが、その時は座学もしているようだ。
川に到着した子供たちが引率の大人が何か言った後、元気良く片手を上げると服を脱ぎだす。脱ぎ終わった者から順に川へと入っていくのだが、こちらには興味なし。男も混じってるしな。本命はこちら──大人のエルフ。
見た目の年齢は二十代前半でストレートのロングヘアの金髪美人。彼女が脱ぐと白い肌着越しに大きな胸が揺れた。俺は彼女のことを「六号さん」と呼称し、毎日この時間にやって来るのでこうやって待機しているのである。ちなみに帝国の女性平均サイズは三号で五号以上は巨乳に分類される。
大人も子供も白くて薄い肌着で川に入っており、水に濡れれば当然透ける。生地が薄いこともあってか、肌に張り付くとバッチリ見える。たまに男子が先生にイタズラするが如く、服を後ろから思い切り上に持ち上げる。
肌着に引っかかって弾けるように弾むたわわな果実には怪物の俺もご満足。「けしからん男子だな、いいぞもっとやれ!」と心の中で声援を送る。この距離ならば望遠能力を使えば十分見えるのだが、俺としてはもっと間近で見たい。
血の涙を流す勢いで願いながら能力を使ったことが幸いしたか、俺の望遠能力は進化を遂げた。要するに「もっとドアップでおっぱい見たい」と歯を食いしばりながら能力の限界に挑み続けたら成功した、と言うわけだ。エロのパワーって凄いよね。
さて、この六号さんはおっとり系なのか、よく子供のイタズラに引っかかっている。と言うより、明らかに男子はそういう目で見ており、常に隙を伺っていると言っても良い。そんなこんなで一時間ほどテレビ番組でも見るかのように、時に声援を送りつつ目の保養をする。