日も落ち始めた頃、無事仮拠点に到着。道中何事もないのは良かったが、特に何も見つからなかったのは注意力不足か、はたまた本当に何もなかったか?

行きと帰りで少々道を替えた程度ではやはり駄目なのかもしれない。置いていた荷物も木箱の上にトカゲがいたくらいで変化はなし。消費期限のわからぬ乾パンをポリポリと齧りながら、水を飲みつつ干し肉の塩加減に文句を言う。適量がわからないので図体を考えれば少量程度に抑えた食事をし、手に入れた用途不明のステッキもどきを指で摘んでマジマジと眺める。

(材質は木製。長さ二十五センチメートル前後で細い先端部分には見たことのない鉱石らしき物がはめ込まれている。スイッチは……なし、と)

取り敢えず振ってみるが何も起こらない。強く振ってみても変化はなし。キーワードに反応するとかの場合、俺の声では無理がある。その場合この棒が無用の長物と化す。俺は「がーがー」言いながらカチカチとステッキで石を叩きながらどうしたもんかと考える。

(これが予想通り魔法関連の品物であった場合、俺が魔力か何か使用する必要があった場合もゴミとなる。後はどういうケースが考えられる?)

あれこれ使用法を考えていたら気が付けばステッキの先が赤く光っていた。そっと指を近づけてみると熱い。枯れ葉に押し付けると燃えたので、どうやら着火用の魔法道具だと思われる。ハンターがよく持っているのも納得の道具である。

使い方を検証したところ、三回杖の先を叩くとスイッチが入り徐々に温度が上がっていくようだ。「電気コンロみたいな感じか」とありきたりな感想を抱きながら、問題としていた着火関連が解決されたことを素直に喜ぶ。

火は文明の始まりを告げる。「文明的モンスター生活の始まりだ!」なんて言ってみたところで「がおがお」やかましいし、肉を焼くくらいしか今はまだやることがない。文化的な暮らしは遠い──今日はもう寝よう。

(まあ、眠くはないし眠れないから起きているんだけどね)

それならばいっそのこそ、夜間での行動がどのようなものかを知っておくために、明日の予定であった北上を今から行うのはどうだろうか?

しばし考えてみたところ、結論は「アリ」である。俺は荷物を全て大きな箱に詰め込むと、それを両手で持って移動を始めた……のは良いのだが、思いの外、箱が邪魔だ。仕方がないので箱は廃棄、二つのリュックに入る分だけ物を入れて荷物整理を開始。

整理が終わると布で包んだ魔剣を紐を使って背嚢に縛りつける。それを腕に通して走行に問題がないことを確かめる。こうなると俺のサイズに合うリュックか鞄が欲しくなるが、そんなものが一体どこで作られているというのか?

無い物ねだりをしても仕方がないと、早々に諦める。人間だろうとモンスターだろうと時には諦めが肝心だ。

(よし、これなら走れるな。空き瓶は一本あれば大丈夫だろうし、取り出した乾パンも早く食べれば問題ない)

意外と乾パンの容器がかさばっていたので全て取り出し、別の袋にまとめて入れる。明日の昼にはなくなる予定なので、少々雑でも問題はない。では出発──仮拠点に別れを告げて、夜間移動の開始である。

施設内部にいた時を除けば夜に活動するのはこれが初めてとなるわけだが、思いの外、問題がない。夜目が利く上、視覚や聴覚、おまけに嗅覚でも周囲を探ることができるので、少し意識をするだけで問題なく行動ができることは判明した。

昼間は見かけなかった夜行性の動物や昆虫がチラホラと見受けられ、中々に新鮮である。やたら深い森の中を突っ切っているので少々怖くはあるが、その辺はすぐに収まったので支障はない。

野生動物の鳴き声を聞きながら軽く走る程度の速度で北上するのだが、月がちょくちょく雲に隠れるせいで何度か方向修正を必要とするが、概ね北へと進むことができた。多少の観察を挟みつつも真っ直ぐ北へ北へと移動を続け、気が付けば夜明けが近づいている。

(流石にあれだけ走り続ければ息も少し切れるか)

呼吸を整えるよう深呼吸をすると空を見上げる。まだまだこの辺りの加減がわかっていない。周囲の木々が邪魔ではあるが、見えないわけでもない空はもうじき日の出となる。一度荷物を降ろし、少し早い朝食を摂る。乾パンと干し肉を適度に食らい、空き瓶に入れた水を飲む。

川の水はそこそこ飲んだが、未だ体に変化はないので恐らく飲料水としては合格ということで良いだろう。そのまま日の出まで体を休めていると木々の合間に漏れる光が少しずつ増えていき、暗い森が徐々に明るくなっていく。

朝日が昇る。同時に俺の視界に大きなものが映った。

(でっかいな……何の木だ?)

二十メートルはあろう大木を見つけた。実際はもっと大きいかもしれないが、見える範囲からの予測でその大きさだ。丁度良い位置なのでそちらに登って周囲を見ることにすると、その大木に向かい歩いていく。

木登りは得意ではないが、この体のスペックなら問題はないだろう。木の太さも十分あり、俺が掴まったところで折れる心配はなさそうだ。近づくとわかるのだが、本当にでかい。

俺が両手を広げたくらいの太さなのだから「何故この木だけこんなに大きいのか」という疑問も湧いてくる。念のためにおかしなところはないか調べてみたが、特に何かを見つけることはできなかったので木登り開始。この体重を支えることくらいは難なくできる肉体能力ならば容易なことだ。

そして周囲の木々を抜けるほどの高さまで来たところで振り返ると、ようやく見つけたかったものが目に飛び込んできた。それはかつてコンクリートの森だった場所──今や緑に覆われた廃墟。そう、旧帝国の町の廃墟で間違いない。俺はようやく自分の正確な位置情報を掴むために必要なものを見つけることができた。

町の廃墟──長い年月放置されたが故に自然の侵食を受け、至るところに植物が生い茂っているこの都市の残骸は、モニター越しに見たことがある風景とよく似ている。原形を留めるビルの姿はほとんどなく、どの建物も一様に外壁が崩れてしまっており、大小の違いはあれど内部までしっかりと緑に覆われている。

(さて、まずはこの町がどこなのかを調べることから始めますか)

外壁の跡がないことからここはまだ内側の都市であるのは間違いない。帝国では空を飛ぶ脅威に対抗すべく、国境に近い都市には城壁の如く高い外壁が何層にもわたって存在しており、その全てに高射砲を始めとする対空兵器が大量に用意されていた。国土を守るという戦略の下、配備された兵器で飛行型のモンスターの侵入を阻むことに尽力した。

なぜ帝国が最大の版図を得るに至ったかと言えば、この対空政策に拠るところが少なからずある。何せ「空の脅威の排除」というどの国も諦めていたことをやり出したのだから、帝国臣民からの支持は大幅に増大。周辺国からの移民も増えたことで外交問題にまで発展した。

最大の脅威である竜こそ除くことはできなかったが、大きな成果を上げたことで国力が増強したのは間違いない。結果、周辺国からの難癖が始まった。その言い分を要約すると「お前のとこが飛行型のモンスターを追っ払うからその皺寄せがこっち来てんぞ。どうしてくれるんだ?」である。思えばこれが切っ掛けで戦争に発展したのではなかろうか?

昔からカナンは帝国と折り合いが悪かったが、一応これには納得の行く理由がある。北は海で西は難攻不落のエルフの森。東への侵攻はドデカイ山脈のせいで難しいので、勢力を伸ばすには南の帝国とやり合う他ないという状況だった。消去法の結果、帝国と事を構えたのは仕方がない話と言える。

さて、じっくりと調べてみたが、やはり外壁と呼べるほどの大きさの壁はなく、この廃墟が内側の都市であった事が確定した。次はこの都市の名前だが……数こそ少なく原形を留めているものはないとは言え、ビルがあるならば田舎ではない。

「知らない都市名でした」ということは恐らくないだろうし、一応ここがどこなのかについては幾つか候補が俺の中で上がっている。無事な標識か何かを目当てに大通りの道路を探し、至るところがヒビ割れた足場の悪い道路をのっしのっしと歩く。

周囲に何かないかを確認しながらなので速度は遅いが、ここは見落としがないくらいしっかりと探すくらいが丁度良い。最初に見つけた標識は形こそ無事だが書かれていたはずの文字に読めるものはなく、手掛かりとなりそうなものは何もなかった。そして二つ目の発見でここがどこなのかが判明。

「エイルクゥエル」──俺が予想した中で最も可能性が高い町。旧帝国領では北東部に位置する前線となった都市を支えた町である。となればここから北北西に向かえば、カナンとの国境に最も近い町「ルークディル」に辿り着くことになり、東に行けば「旧カーナッシュ砦」の前線基地があるはずだ。

自分の現在位置が把握できたので今後の進路に心配はなくなった。これで行こうと思えばいつでも旧帝都へと向かうことができる。ちなみに俺は帝都住みの富裕層であり、能力さえあればエリートコースに進めていた可能性があった。

「まあ、可能性だけなんですけどね」と心の中で付け加え、最初の目的を果たしたので次は探索のお時間です。体がデカイせいで入ることができる建物は限られるが、大半が壊れているので多少壊したところで問題はない。

そんなわけで探索を開始したのだが、廃墟だからやっぱりアレがいるわけである。本当にこいつらはどこにでも湧くから困ったものだ。もしかしたら旧帝国の都市全部にこいつらが住み着いている可能性がある。その場合一体どれほどの数になっているか考えたくもない。

こいつら繁殖力は帝国の学者ですら「何こいつら、やべぇ」と言わせるほどなのだからどうなっているのか想像すらできない。というわけでお掃除も兼ねて嗅覚訓練と洒落込もう。流石にこれだけ臭いと場所が丸わかりで訓練にすらならないが、他の生物をゴブリン臭の中から嗅ぎ分けるともなれば話は別だ。

そんなわけで開始したこの訓練。一言で言ってしまえば「難しすぎる」である。そもそも臭いという情報は人間にとってそこまで重要なものではないのだ。そして「嗅ぎ分ける」という行為を日常的に行うような人物像を想像してみて欲しい。珍しい職業に就いているか、もしくは特殊な性癖を持っているか──恐らくこの二択ではないだろうか?

当然俺はそのどちらでもないので、臭いについては無頓着の部類に属していたと思われる。なので突然嗅覚が上がったところで、性能をフルに発揮することなど到底無理な話なのだ。

(うん、これは無理だ。時間をかけてちょっとずつ慣らしていくしかない)

俺は早々に訓練を諦めてゴブリン退治に精を出す。のっしのっしと道を行き、建物を壊してゴブリンを狩る。そのついでに何かないかと見て回るが、目ぼしいものは何もなし。隠れていようが臭いでわかるが、たまに間違えるのはご愛嬌あいきょう

野生動物の逃げる姿をちょくちょく見かけるが、やはりゴブリンの臭いがきつすぎてそこにいたことさえわからなかった。そんな風に三十匹ほど処分したところであることに気が付いた。

(逃げ出す方向が決まって北か……この町の北側には何があったか?)


記憶の中のエイルクゥエルの町を掘り起こすも、残念ながら該当はなし。じっくりとこの町を探索するためにも、大雑把で良いから掃除が必要だ。そこに何があるか……もしくは何がいるかはわからないが、行ってみることにしよう。擬態能力も使わず草だらけとなった道路を堂々と歩く。

俺を見つけたゴブリンは皆一様に北へと逃げていく。わざわざこちらに見つかるように逃げているのだからまるで誘っているようだ。こちらを誘導しようとしているのであれば、何か秘策でもあるか──それとも俺に勝てる自信がある何かがいる、ということだろうか?

見るだけならば問題ないだろうとそのままゴブリンの逃げる方向へと歩いていく。道中も周囲を見ながら進んでいたのだが、やはりというか無事な店は勿論、原形を保っている家が一つもない。

ここのゴブリンが使用しているのか、崩れたものを建材として利用しているのか色々な場所から剥ぎ取られた跡まである。町の状態を確認しつつ、進んだ先にあったのはかつて俺が通っていた場所とよく似た建物。

(学校か……あー、体育館とか広いもんな)

状態は比較的良く、天井がまだしっかりと残っている部分が多く、確かにこれならゴブリンが籠もるのも頷ける。そしているいる──校門の先にわちゃわちゃと緑のアレがひしめいている。この分だと校舎の中や体育館にもたっぷりと詰まっていそうだ。

崩れた壁を補強したような跡があり、ゴブリンの群がここを根城にしているのは間違いなさそうである。取り敢えず修繕したとは言い難い壁をワンパンで破壊し、ゴブリンを薙ぎ倒しながら敷居に入ると連中の動きを観察。

どうやらここのボスは体育館にいると思われるので、そちらに向かってのっしのっし。やはりというか立ち塞がるゴブリンが増えてきた。「だから何?」と言わんばかりに殴って蹴って、尻尾で打ってガンガン進むが、臭いがヤバい。

はっきり言って臭すぎて吐きそうなレベルで目的地からは異臭が発生している。このままでは中に入ったら窒息死してしまうかもしれないので、まずは換気も込めて入り口を作成。拳一発でできた穴の周囲を蹴りを入れて壁を崩し、俺が通れるサイズまで拡張する。

この悪臭の元凶は一目でわかった。大きさだけなら俺よりも大きい肥大した緑の怪物が、そのでっぷりとした体を敷き詰められたマットや布団の上で横たえている。

(この数……まさかと思っていたが、やっぱり女王がいたか)

ゴブリンが他種族を繁殖に使うことは確かにあるが、基本的には「女王」と呼ばれる個体が産むのが一般的だ。栄養さえ足りていれば一日に三、四匹は生み出せるというのだから帝国の学者が驚くのも無理はない。しかも生まれたゴブリンは僅か二日で自分の足で歩けるようになり、二十日で狩りを行うようになるのだから驚きだ。

どう考えても科学ではなく魔法の分野である。そしてクイーンやキングと呼ばれる「統率個体」に分類される上位種がいた時にはある現象が起こる。

(こいつらはゴブリンクイーンがいたから逃げずに俺に向かってきたわけか)

そう、統率個体がいる群は逃げ出すことがない。大抵のゴブリンの群は状況が不利になると即座に散開して逃げるのだが、統率個体がいた場合は相手の強さや状況で逃走はしない。頭が潰されない限りは抵抗を試みる。俺が姿を見せると女王が耳に障る甲高い声で鳴く。

するとわらわらとあちこちが崩れた校舎の中からゴブリンどもが溢れてくる。見える範囲でも三~四百は軽くいそうな集団だが、全く負ける気がしない。ゴブリンの武装を見れば、その脅威というものもある程度把握できる。目の前の連中が重火器で武装しているならともかく、石の槍や弓を手にしている時点でもうそれは戦いですらない。ただの駆除である。

俺はまず外にいるゴブリンの集団に突っ込んだ。一斉に放たれた矢は突き刺さることはなく弾かれ、投げられた石は当たって砕けるばかりで妨害にすらならない。突き出された石の槍は折れ、叩きつけたれた石の斧はあっさりと壊れた。

対して、拳を振るえば数匹のゴブリンが一度に死亡し、尻尾を振るえばまた即死。歩を進める度、邪魔なゴブリンを蹴り飛ばせばまとめて何匹も吹き飛ばされる。完全に無双状態である。そもそもゴブリンの腕力で投石したところで通用するはずがないし、石器の武器で鉄より硬い俺の体を傷つけられるはずもない。

ゲーム風に言えば、こちらの防御力が相手の攻撃力よりも遥かに高いため、一切ダメージが通らないという状況──視覚化すればきっと「0ダメージ」の表記で俺の姿が見えなくなっているはずだ。先程から打ち込まれている魔法にしても、ゴブリンが使えるものは低級に分類されるものだけだったと記憶しており、ダメージどころか痛みすらない。

炎は確かに熱いのだが、すぐに消えるので火傷の心配もなく、耐熱能力まである可能性が出てくる始末。よって、マジックアイテムを使った強力なものでもない限り痛みすらない。当然そんなものをゴブリンが作れるはずもなく、また人間の領域から離れたこの場所でそんなものがあるはずもない。

もっと言えばここは帝国領で、魔法道具を見つけることさえほぼ不可能だ。つまり、こいつらが俺に対して採れる有効な手段は一つ──毒だけだ。もっとも、毒でさえ今の俺の肉体には効果がない可能性がある。

これに関しては俺もよくわかっていないが、これだけ強靭な肉体ともなればそれだけ効きにくくなるのもあり得る話だ。加えて帝国領内で採れる自然物の中で危険度の高い毒物というのは、ほとんどがゴブリンに扱える代物ではない。流石に食べたら死ぬような物はあるが、それをどうやって俺に食わせるのか?

成分を抽出する?

それこそゴブリンにはできないことだ。

薬局や病院跡で毒でも見つける?

できるもんならやってみろ。二百年間電力なしの状態で保管できるものの中に、俺に通用する毒物がピンポイントに残っている可能性を考えるのは慎重がすぎるというものだ。「むしろお前らの体臭の方が化学兵器なんだよ」とゴブリンの塊を吹き飛ばしながら毒づく。

(まったく、こいつらが生物兵器だと言われても否定できんぞ)

群がるゴブリンを蹴り飛ばしながら心の中でさらに悪態をつくと、また女王が鳴き声を上げゴブリンがわらわらと集まってくる。どうやら女王が呼び寄せているようだが、折角なので全部呼んでもらえば駆除が楽になる。俺はゴブリンの増援がなくなるまで運動場でゴブリンを狩り続けた。

時間にすれば三~四時間と言ったところだろうか?

ついに増援が途切れた。幾ら鳴こうが喚こうが、女王の呼びかけに応える者はいなかった。最後に女王を守るのは親衛隊と言ったところか?

明らかに他とは武装の質が高い集団が俺に向かい手にした槍を向ける。金属製ではあるが、町で拾った物を研いで作ったような粗末な代物なので何の脅威にもならない。魔法を使う奴もいたが、撃ってきた石の塊を殴り飛ばすと、跳ね返った破片の当たりどころが悪かったのかあっさり死んだ。

向かってきた十五匹の親衛隊は僅か十秒で全滅、後には自力では動けぬほどに肥大した女王が残った。最後に女王をどうやって殺すか、だが……流石に臭すぎてこれ以上は近づきたくはない。そこで使うものがこちら、瓦礫がれきである。

要するに「投擲とうてきで殺す」ということだ。何せ的がデカイのだ。練習にももってこいである。「何球目に死ぬかな?」と言っても「がっががっがが」という声しか出ず、まずは一投目──狙いを大きく外して横たわる女王の頭の上を通過。

二投目の準備をするが緑の物体が煩い。そして今度はしっかりと狙いを定めて投げられた瓦礫は女王の肩を撃ち抜いた。叫び声を上げる女王を無視して三投目──命中したのは腹。ゴボゴボと血を吐き散らかす様を見て「ありゃもう助からんな」と思ったが、気にせず四投目。

ようやく頭に当たって俺も満足の行く結果に終わった。後は女王が産んだ子供も処分すればお掃除完了である。そして予想通りというべきか、ゴブリンの子供は校舎の中にいた。教室がたくさんあるからそこにいるだろうと思ったが、やはりゴブリンは考えが浅い。

壁を壊して射線を確保し、手にした瓦礫で先程の続きをする。子供を隠そうとして扉を締めたのが仇となったのだろう、壊れた扉を開けることができず、窓から逃げようとしたものがその死骸で塞いだおかげで逃げ場を失った子ゴブリンがよたよたと教室を逃げ回る。

それをゲーム感覚で一匹ずつ丁寧に撃ち殺し、弾がなくなれば壁を壊して補充する。結果、二部屋で合計三十三匹の子ゴブリンを駆除。周囲の音に気を配るが、聞こえる範囲で動くものの気配はなし。これにて町のお掃除は完了だ。

こうして掃除を終えた俺は学校からさっさと移動する。臭いがきつすぎるのと、体のあちこちに付いてしまった血を洗い流したいからだ。学校なら貯水槽くらいあるだろうが、ゴブリンが日常的に使っていたであろうものなぞ使いたくもない。

贅沢は言っていられないのはわかっているが、他を探すくらいはさせてくれ。というわけで見つけたのがこちらの雨水が溜まってできたであろう元ゴミ箱。虫が湧いてるから論外だ。

結局は下水道の水を使うことになったのだが、長年汚水が流れずに雨水だけを流し続けたおかげか、思いの外、臭いも少なく外で見つけた水に比べて綺麗だった。崩壊した道路のあちこちに隙間が出てきていたことで換気もできていたのだろう。自然の力は偉大である。

まあ、文明の方が好きなんですがね、とさっぱりした体で荷物を取りに戻って探索を開始。やはりまだあちこちにゴブリンの残り臭があるのが気になるが、それでも一つ一つの家や店を調べていくと、太陽はすっかり真上まで来ていた。荷物を少なくするために残った乾パンを全て食べ、少し干し肉も齧る。

人間の一口サイズなのでやはりというか食べごたえがない。酒瓶の中の水も半分ほど消費し探索を再開。まだ読めそうな本や新聞の残骸を集めつつ、手に入れたのはこの登山用のリュック。

なんと俺の腕に通せるほど大きく、これ単体で背負うことはできなくとも紐などを使えば十分可能。そしてこの容量に目的故に十分な耐久性は確実であり、俺の求める条件を見事に満たす優れものである。

おまけに各種登山用品を取り付けたり持ち運んだりするための仕組みも存在しており、これを改造すれば更に利便性は増すことは間違いない。ワクワクしながら使えそうな道具を探し、ついでに情報になりそうなものも見つけていく。

結果、登山用リュックはベルトを使って俺が背負えるようになり、そのサイドには布で巻かれた魔剣が装着され、反対側には保存状態の良いスコップが取り付けられた。

「ガッ、ハー!」

この満足感に思わずポーズを取って吠える。容量が増大したことで新たに綺麗な瓶を幾つか確保。まだ使えそうな布やシーツ、鍋やフライパンと言った調理器具も手に入れホクホクである。

(情報? 後回しだ)

他にもまだ何かあるだろうと血眼になって店を探す。そして見つけたショッピングモール。中は吹き抜けとなっており、俺でも入れる親切設計。これには俺も狂喜乱舞。店頭に並んだ物は流石に使える物はまずない。狙うはバックヤード──開封されていない在庫品だ。

(倉庫が通れない? なら入り口を壊せばいいじゃない!)

そんな感じでテンションが上がりに上がった俺は、日暮れまでショッピングモールでヒャッハーしていた。そして溜まりに溜まった戦利品の山を見て思う。「持っていけるわけないだろ」と……要反省である。

ともあれ、最早自分が何を獲ってきたかも把握できていないこの山の中から必要な物だけを取り出さなくてはならない。早速品物を厳選するのだが「アレも欲しい、コレも欲しい」でさっぱり決まらない。

冷静になれば持っていく物も決まると思ったのだが……案外踏ん切りがつかないものだ。取り敢えず鍋は必要である。水を煮沸するにも料理をするにも使えるのでここは確保だ。刃物は魔剣があるから、持ってきた鉈や包丁は除外して良い。

(あ、でも十徳包丁とかは……いや、サイズ的に扱いが難しい。ここは切るべきだな。他には……)

時に涙を呑んで採用を見送りつつも選別は続く。気づけば夜になっていた。結局持っていく物は、綺麗な布とブルーシートに鍋が二つ、瓶五本。後はスレッジハンマーにバーベキュー用の鉄板となった。金網も欲しかったのだが、残念なことに無事な物はなく持ってきていない。

未開封のブルーシートは巻かれた状態で背負ったリュックに取り付け、鉄板は吊るせば良いだろう。スレッジハンマーはそのまま右手で持てば完成。リュックの容量は半分以上残っているが、こちらは食料用に残しておく。

(そうなると食料を入れる何かが欲しいな……ああ、あったあった)

追加の大容量クーラーボックスを左の肩に下げる。今度こそ完成である。

(……何この格好)

どう見ても不審者ってレベルじゃない。ショッピングモールの鏡に映った自分の姿を見て冷静さを取り戻す。子供の頃に作った「ぼくのかんがえたさいきょうのプラモデル」感が半端ないこの取ってつけた感には思わず苦笑い。だが不格好と侮るなかれ、趣味と実用だけを考えたこの装備に無駄などあるはずがない──と自信を持つことができないこのスレッジハンマー。

多分俺が素手で殴った方が強い。だってスレッジハンマー格好良いんだから、持って行くくらい良いだろう。ちなみに片手でブンブン振り回せるのでお手軽にゴブリンを潰すことができる。手を汚さないためのものと思えば無駄ではないはずだ。

さて、時間が時間なのでもう探索は効率が悪い。大人しくここで寝泊まりすることにして、安全に眠れそうな場所を探す。一応目星は付けており、略奪中に見つけた家具屋に現在は向かっている。店の中は基本天井が高いので、俺でもちゃんと屈めば入ることはできる。

リュックを降ろし、ベッドやマットを集めてこの体でも横になれる寝床を作るとボロボロの家具で入り口にバリケードを作る。俺は作った即席のベッドに体を横たえると静かに目を閉じた。



ショッピングモールからおはよう。気が付けば明け方なので、間違いなく眠っていたと思われる。暗くなってそれほど時間は経っていなかったので結構な時間眠っていたことになる。このことからある仮説が浮上した。

(まさかとは思うがこの体、眠気も空腹も喉の渇きも感じないだけなんじゃないだろうな?)

だとしたら徹底した自己管理が必要という何とも面倒な体となる。可能性としては考えてはいた。だが本当にそうであった場合、この体の適量などわからないので本当に面倒くさいことになる。取り敢えず当面は少し食事の量と水の量を増やすことにして、現在の手持ちを確認する。


干し肉:多分後三百グラムくらい

水:なし


探索よりも狩りの必要性が出てきた。水は下水道の水を煮沸するとしても、できれば飲みたくない。

(いっそ昨日集めた物から情報を得て川に向かう方が良いかもしれない)

時間に余裕がないとは思えない。そもそも集めた雑誌や新聞紙は逃げないのだから焦る必要はない。ならばここは一度補給である。一部の嵩張る荷物を置いて東へ向かって走る。改造リュックの具合を確かめるにも速度を少しずつ上げていくが、何事もなく川へと到着。

これで帰りも問題ないならば大丈夫だろう。川に入って体を洗い、水を飲んで魚を獲る。適当に絞めて今食べない分をクーラーボックスに入れ、火をおこし魚を焼きつつ鍋に入れた水を煮沸する。川の水は飲料水として使用できるので、そのまま瓶に入れるが念のために煮沸した水を一つ用意しておく。