プロローグ
名も知らぬ森──木々が生い茂る緑溢れる大地を流れる一筋の川に一匹のモンスターがその存在を
ここいら一体を縄張りにしていると思えば、周囲を探るようなその視線にも納得がいく。獲物を求めているのか?
それとも、その力を存分に振るうための相手を探しているのか?
そのどちらであっても構わない。いや、理由などどうでも良い。俺は黙ってその巨大なワニ型モンスターの前に姿を現した。川のすぐ傍を歩き、水面に映るその姿を横目に見る。全身灰色の
その姿は俺が知るどのモンスターとも違った。身長の半分はある尻尾を揺らし歩く。真っすぐに大きなワニと向かい合いながらも歩みを止めることなく近づいていく。明らかに大きさでは負けているが、それが何だというのか?
俺はこの肉体がどれほどの力を秘めているのかを知っている。しかし、その力がどこまで通用するのかは知らない。だから相手が必要だった。言ってしまえば目の前の巨大なワニである必要はなく、ただそこにいたからという理由でこのモンスターは標的となった。
「不運を恨め」などと言うつもりはないが、俺の目に留まったことは不幸であることは間違いない。向かい合う二匹のモンスターは動かない。先に動いた方が負けるという状況ではないのだが、こちらは相手の行動パターンが予測できているので、それに合わせて動くつもりでいる。実験とは言え手を抜くつもりはない。
そうして両腕を広げ待つこと十数秒──動かぬ俺に痺れを切らしたか、大きなワニ型モンスターが口を広げ
「がっかりだ」と──俺としては
俺は落胆し、肩を落として息を吐く。だがやることは変わらない。構えることもせず、自然体のまま大きなワニに向かって歩く。距離が縮まるにつれ、気が引き締まっていく。無意識に固く握られた拳が、これほど頼もしいと思えるのも不思議なものだと少し笑ってしまう。そんな俺の落ち着きようが気に食わないのか、威嚇の体勢を解いたモンスターがこちらに向けて突進してくる。
「ゴアァァァァァッ!」
体を左右に振りながら全力で向かってくるのだが、あまり速くはない。巨体故に機敏に動けないだけで十分速いのだが、想定をかなり下回る。口を広げ、噛みつかんばかりの勢いで俺に向かい、飛びかかって来たところを右フックで迎撃。下顎をぶち抜く勢いでカウンター気味にぶん殴る。
自分でも会心の一撃だと思った。だが、ワニの下顎部分が無くなったのは想定外だ。どうやら俺の一撃は威力がありすぎたらしく、ぶち抜く勢いどころか本当にぶち抜いて肉と骨を持っていってしまったようだ。巻き散らかされた肉片が川へと落ち、そこに魚たちが群がり始める。
一方、下顎を吹き飛ばされたワニはというと、尻尾を巻いて全力で逃げ出した。このまま放置して血を撒き散らかされるのもどうかと思い、トドメを刺すべく一気に距離を詰める。その直後、ワニの尻尾が鞭のようにしなり、俺の横っ腹を強打した……のだが、少しよろけた程度で大した痛みはない。どうも戦闘力に差がありすぎるようだ。
完全に怯えてしまったワニを前に、俺は選択を迫られる。こいつを生かすか、それとも殺すか──答えは初めから決まっている。どう見ても最早生存不可能であるこいつを逃したところで、すぐに死ぬ未来しかない。
ならばここでトドメを刺してやるのがせめてもの情けというやつだ。逃げるワニを追いかけ跳躍して一気に距離を縮め、着地と同時に頭部に一撃を叩き込むとピクピクとしばし
(こんな簡単に狩れるものなのか……)
二度三度と拳を閉じたり開いたりを繰り返し、先ほどの感触を思い出す。
(こんなものは闘いとは呼べない)
しかし自分の力を確かめるという目的は果たした。圧倒的なパワーは他の能力にかかわらず「俺」という存在が生存するには十分なものであると確信できるものだった。ただ一つ予想外だったことがある。
(どうやら俺は、結構……いや、かなり強い部類に入るようだ)