第二章 山に到着!


 俺が購入したのは、アレルドゥリア山脈という山岳地帯の端の方にある、小さめの山だ。

 ちなみに一応名前はついていたが、忘れてしまった。

 もちろん、小さいと言ってもあくまで普通の山と比べてという話であり、人一人が過ごすには十分すぎるほどに土地は広い。

 俺がこの場所を選んだ理由は、大きく分けて二つある。

 まず一つ目が、この山がめちゃくちゃ僻地にあるということ。

 俺が所属しているアレクサンドリア王国で南部に位置している、エンポルド子爵領。その中でも最南端に位置しているため、とにかく人がいないのだ。

 というか、ぶっちゃけ僻地すぎて住民らしい住民もいない。

 まともに開拓もなされておらず、そのためここら一帯の山岳地帯には結構な量の魔物が棲み着いてしまっている。

 辺境伯もここの開拓や魔物の駆除に関しては完全に匙を投げているため、ほとんど人が手つかずの土地と言っていい。

 ちなみに更に南部に行くとエルフやドワーフ達の暮らす領域へと出ると言われているが……まぁそれは今はいいだろう。

 そして二つ目の理由は、実はかつてその山にはとある偏屈な鍛冶師が住んでいたらしいということ。

 どうやらなんらかのエンチャントがしてあるらしく、小屋自体は今も存在しているようで、山を買うと当然その小屋の所有権もついてくる。

 一応山の中にある小屋には、鍛冶に使える一通りの設備も揃っているということだった。

 そんな小屋付きの山だというのに、値段はめちゃくちゃ安かった。

 もっともそんなところに家がぽつんとあっても誰も買う人間もいないから、当然のことではあるんだが。

 長いこと不良在庫として抱えていた不動産屋も二束三文だったが、買い取ってもらえて喜んでいたくらいだからな。

 しっかし……あの盗賊退治の一件以後も、思っていたよりもハプニング続きだった。

 ジルを捕獲しようとするハンター達を返り討ちにしてやったり、つい手慰みで剣を直してしまったせいで正体に気付かれかけたり……我ながら波瀾万丈だった。

 いろいろと寄り道をしたせいで、思っていたよりずいぶんと時間がかかってしまった。

 リアム達と送別会をしてから、既に一ヶ月半ほどが経っている。

 けどこの間の旅路というのは、案外悪いものではなかった。

 店に詰めている時と比べると鍛冶をしている時間はずいぶんと減ったが、不思議なものだ。

 今までほとんど休みなんて取ってこなかったから、いろいろなハプニングが図らずも良いリフレッシュになってくれたのかもしれない。

「おっ、あれじゃないか?」

「わふっ!」

 しばらく進んでいくうちに、ようやくアレルドゥリア山脈らしきそびえ立つ山々が見えてきた。

 ちなみに今の俺はジルにまたがっている。

 馬車を使おうとすると馬がジルに怯えて動かなくなってしまうため、ここ最近はもっぱらジルに乗りながら移動するようにしているのだ。

「よし、ちょっとペース上げられるか?」

「きゃんっ!」

 ただでさえ速かったジルの速度が更に上がる。

 急速にかかるGに、思わず鞍を掴む手に力が籠った。

 何もない状態ではさすがに安定しないため、振り落とされないよう持ち手のついた特製の鞍を付けている。

 狼は騎乗に向いていないらしく激しく上下に揺さぶられるが、事前に作っていた酔い止めを飲んでいるおかげで昼飯を戻すようなこともない。

 ジルはなかなかの健脚で、必死にしがみ付いているとあっという間に視界が切り替わっていく。

 そこから更に進んでいくと、日が沈む前にようやく俺が購入した山らしき場所にたどり着くことができた。

 山が多すぎるせいで、どれが俺が買ったものなのかわかりづらく少々不安だったが……。

「お、あった。あれだな」

 目印として事前に教えられていた、赤の旗が見えてきたのでその不安も解消される。

 ジルから降りてぐぐっと背筋を伸ばす。

「王都を出てから結構時間がかかったからか……なんか感慨深いな」

 目的の山にようやく到着できたことに、ホッと胸をなで下ろす。

 俺が購入した山には一応、最果ての鍛冶山という名前がついている。

 ただ自分が住む場所にわざわざ最果てという名前もないだろうから、これは改名するつもりだ。そうだな……とりあえずしばらくの間は、ベルト山とでも呼ぶことにしよう。

 ちなみにベルトというのは、王国で端っこという意味だ。隅にあるちっちゃい山だし、なかなかいい名前だと自画自賛しておこうかな。

 ベルト山へやって来てから、説明にあった鍛冶師の小屋を探すことにする。

 歩いていくことしばし、ふもとからさほど距離のないところにぽつねんと建つ小屋があった。

 もう長いこと人は住んでいないらしいが、ほとんど傷んでいる様子はない。

 魔物に荒らされた様子もないのは、恐らくなんらかのエンチャントが施されているからだろう。つまりこの家自体が、一種の魔道具になっているということだ。

 俺はそっと家に触れ、魔法を発動させる。

構造解析アナライズ

 構造解析を使い、家の構造とそこに使われている魔力文字を解析していく。

「ほう……『浄化』・『魔物避け』・『頑健』に『軽量化』……ずいぶんと腕のいい鍛冶師だったみたいだな」

 どうやらこの家には四つもの魔法効果がかけられているらしい。

 使われている材質が上質なトレント材とはいえ、一つの魔道具に対し四つの効果をつけるのはなかなかできることではない。

「それなら次は情報展開インフォームっと……どうやらここの主は、かなり堅物だったみたいだ」

 エンチャントを成り立たせている魔力文字は古めかしく、そしてかなり堅苦しかった。

 ただあくまで現代の魔力文字が使われていることから、建てられてから何百年と経っているようなものではないだろう。

 恐らく職人気質な世捨て人が造った家なんだろう。

 罠のたぐいがないことを確認してから、中へ入る。

 するとそこには、まるで毎日掃除をされているかのように手入れの行き届いたリビングが広がっていた。

『浄化』の効果がかかっていることで、埃を始めとしたゴミが綺麗にされているのだろう。

 間取りを確認するため探索してみると、リビングの隣には小規模ながらもたしかに炉があった。

 俺が以前使っていたものと比べるといくらか劣るが、エンチャントを使って弄ればなんとかなる範囲だ。

『浄化』の機能が付いたトイレもあり、薪もかなりの量が残っている。

 それに一人で入るには十分な大きさの風呂まで付いている。

 一つ一つが一人暮らしに適したサイズのため、家は広すぎるということもない。

「いい家だな……」

 ぐるりと軽く回ってみただけだが、俺はこの家をかなり気に入っていた。

 二束三文でたたき売りされていたのが信じられないような機能的な家だ。

 ここが魔物の出る最果てではなく王都の一等地だったのなら、恐らく金貨何百枚もするようなとてつもない値段になっていたに違いない。

 外を見れば既に日が落ちようとしていた。

「眠くなってきたな……」

 夕飯を済ませると、ひと月近い旅疲れのせいか、驚くほどまぶたが重くなった。

 俺はぐっすりと眠った……。

 次の日。

 とりあえず俺は清掃を始めることにした。

 もちろん『浄化』の効果があるので大部分のところは綺麗になっているが、隅の方までまったく埃がないというわけではない。

 また、まだここに住んでいた鍛冶師が使っていた頃の生活用品なんかも残っている。

 さすがに歯ブラシや靴なんかは使わないので、どんどんしまっていくことにした。

「しっかしこいつがあると、片付けがはかどるな……」

 俺は右の脇に抱えているはいのうに、次々と先住者の物品を入れていく。

 このバッグは、旅の道中暇だったので作った魔道具だ。

『独虎』を弄った時の感覚を忘れないよう、神聖文字・古代魔族文字と一緒に中期文明の魔力文字も使って作り出したこのバッグは『空間拡張』の効果を持っている。ちなみに名前はそのままマジックバッグ。きちんと製作したら、もうちょっといい名前をつけようと思っている。

 簡単に言うとこのバッグには、見た目以上に大量のものが入るようになっている。

 実は原案自体は前からあったんだが、今までは魔道具の素材と触媒の魔力容量的になかなか作ることができなかったからな。

 これもまた、俺がいくつかの魔力文字を使えるようになったから生み出すことができた物品というわけだ。

 手に抱えることのできる背嚢の中には、おおよそこの小屋がまるっと入るくらいのものが入れられる。

 ただまだ作品としては未完成な試作品なので、いろいろと荒削りな部分も多い。

 きちんと中身をソートしたいし、少なくとも手を中に突っ込んだら望んだものを取り出せるくらいにはしておきたいところだ。

 あ、あと今は中に魔道具が入らないようになっているから、いずれはそこらへんの問題も解決してマジックバッグの中にマジックバッグを入れてその中に更に……という感じで無限マジックバッグとかもしてみたい。

「ふぅ……片付け終わりっと」

 昼になる前におおよそ先住者のものは片付け終え、次に生活必需品を取り出していく。

 といっても持ってきているのは最低限のものだ。

 ここから人里まではかなり距離があるため、基本的になんでも自給自足をしながら作っていくつもりだ。

 一通りの準備が終わると、時刻は既に午後二時になっていた。

 手を当ててみると、待ってましたと言わんばかりに腹がぐぅ~と鳴る。

 集中していたので気付かなかったが、かなり空腹のようだ。

 もちろん食料もある程度用意はしてきているが、恐らく使う必要はないだろう。

 ドアを開き小屋の外へ出てみると、一気に血なまぐさい臭いが漂ってきた。

 見ればそこには、ジルが倒してきたのだろう魔物達がずらりと並んでいる。

 中には既にジルが食べてしまい、皮や角だけ残っているものもある。

「ユニコーンの角にデビルオーガの皮、それにこれは……ミノタウロスの肉か? 内臓だけ綺麗に食べられてるな……」

 実はジルは、盗賊団に捕らえられていたとは思えないほどに強い魔物だった。

 Cランクのミノタウロスをこんな風に軽々と倒せているのだから、恐らくBランク程度の実力はあるだろう。

 どうやら足を怪我したのをかばいながら動き、疲れて眠っていたところを捕らえられてしまったらしい。

 ただ俊敏なだけではなく風の魔法も使えるので、本気を出すと目で追えないくらいものすごい速度を出せる。

 ちなみに本気で走られると俺はもれなく戻してしまうため、乗る時はかなり手加減してもらっている。

 検分した素材達を先ほどのものとは別のマジックバッグに入れていると、背中にイノシシを乗せているジルが帰ってきた。

「わふっ!」

『見て見て!』とばかりに尻尾を振りながら駆け寄ってくる。

 上手いこと乗せていたイノシシを落とすと、ドスンと大きな音がした。

「これは……ファイアボアーか」

 ファイアボアーは炎を吐き出す魔物で、強さはCランクだったはずだ。

 ただこんなにゴロゴロと強い魔物が出てくるとなると……かなり危険度も高いみたいだ。

「よくやってくれたな」

 頭を撫でてやると、ジルが犬歯をむき出しにして笑う。

 食べ散らかした肉がこびりついていてちょっとホラーだったので、布を使って綺麗にぬぐってやることにした。

「とりあえず、遅めの昼にするか」

 これだけ大量の魔物の死体があっても魔物がこの家に近付いて来ないのには当然がある。

 ――確実に必要になるだろうと思い、あらかじめ作っておいた『魔物避け』の魔道具を使っているのだ。

 道中でジルが倒してくれたワイバーンの心筋を惜しみなく使って作ったこいつがあれば、かなり広範囲にわたって強力な効果を発揮することができる。

 家に元からついているものも悪くはないが、性能的には俺が作ったものの方がいいからな。

 ただ思っていたより魔物が多そうだから、念のために家の『魔物避け』の方も少し弄っておいた方がいいかもしれない。

 俺は食事のために火を焚きながら、まず何から手をつけるべきかと頭を悩ませるのだった……。


「炉を強化しよう」

 大して悩むこともなく、肉を食べ始めてからすぐにやることは決まった。

 そもそもの目的をはき違えてはいけない。

 俺はここに、雑音なく鍛冶を極めるためにやって来ているのだ。

 だとしたらまず必要なのは、強力であったり凶悪であったりする魔道具や刀剣類を作ったとしても壊れることのない頑丈な炉だ。

 前回と同じ轍を踏まないよう、出力がバグって衝撃波が出ても壊れないような頑丈な炉を作る必要がある。

「ジルはまだ魔物を狩りに行くか?」

「わふっ!」

 ジルは俺が調理をするようになってから、生肉よりも焼いた肉を好むようになった。

 ちなみに焼き加減は表面を軽くあぶっただけのレア(というかほぼ生肉)が一番好きなようだ。

 塩なんかで味付けをするのも嫌いではないらしいが、ジル的にはあじへんくらいの感覚らしい。

「がるっ!」

 ジルが風魔法を使い、布の上にぶつ切りになって置かれているブロック肉を器用に切り分ける。

 そして俺が焚いた火に近づけて、器用に軽く炙ってから口に含んだ。

 ――そう、ジルは火さえあれば既に自分で肉を調理できるのだ。

 お利口というレベルじゃない気がする。

 ゴブリンなんかの人型のやつら以外で、火を利用する魔物なんか聞いたことがない。

「しっかしイノシシ肉も案外いけるな……豚肉に慣れると少々獣臭い気もするけど、なかなか悪くない」

 軽くハーブ塩を振ったグレイトボアーの肉串を頬張ると、豚肉より噛み応えのある肉の脂が口の中で弾けた。

 とりあえずジルがいれば、食料に困ることはなさそうだ。

 ただ肉ばかりだと栄養バランスが偏るから、ゆくゆくは山の中を探索して野草なりフルーツなりを探しに行った方がいいだろうな。

 まぁそれも、炉を改造してからの話だけど。

「それじゃあな、あんまり狩りすぎて森から魔物を絶滅させないように気をつけるんだぞ」

「わふっ!」

 狩人の目をして再び森の中へと分け入っていったジルを見送ってから、炉へやって来る。

 ちなみにその背中には、俺がさっき持たせたマジックバッグが背負われている。

 毎回家と森を往復するのは面倒だろうし、何より家の前が血の臭いでとんでもないことになるからな。

「できれば魔物素材も無駄にしたくないから、ちゃっちゃかいかせてもらおう」

 マジックバッグから、金に飽かせて集めた高い耐熱性を持つ素材の数々を取り出していく。

 中にはかなりスペースを取るものも多いため、小部屋があっという間に素材でいっぱいになった。

「しっかし、我ながら買い込んだもんだな……」

 フェニックスの卵の殻に、レッドドラゴンの鱗、サラマンダーのあごひげにレッドジャイアントの腱……どれが相性がいいかをいちいち試す余裕はなかったので、とりあえず大量に買い込んできている。金に糸目はつけずに買ったため、以前店に置いていたものより上等な素材もたくさんある。

 これだけたくさんの素材があれば、店で使っていたものよりもいい炉が作れるだろう。

 まずは構造解析を使い、この炉の成分を分析する。

 耐火レンガに使われているのは……ファイアリザードの皮膜とワイバーンの火炎袋か。

 これならドラゴン系をメインにした方が良さそうだ。

 魔力文字、魔力情報、魔力容量にはそれぞれ密接な関係がある。

 まず最初に重要になってくるのは魔力容量だ。

 これは文字通り、一つの魔道具の中にどれだけ魔力情報を込めることができるかという容量を示すものだ。

 魔力容量がデカければデカいだけ、大量の魔力文字を書き込むことができるようになる。

 そして大量の魔力文字を使うことができれば、それだけ大量の魔力情報を生み出すことができるようになる。それによってエンチャントが発動し、魔法効果を発動させることができるのだ。

 つまり極論を言えば、魔力容量が大きければ大きいだけ魔道具は強力になる。

 ちなみに魔力容量を超えても魔力文字を書き込み続けると、ものが限界を超えて壊れる。

 ジルを捕らえていた檻を壊したのは、この原理を応用して鉄檻の魔力容量を超える形で魔力素描を続けたからだ。

 そしてそんな魔力容量を増やすために必要なのが、接合コネクティングの魔法だ。

「接合」

 当然ながらこの魔法は、無制限に使えるものではない。

 そんなことが可能なら、大量に素材を接合しまくればいくらでも強力な魔道具が作れることになってしまうから。

 魔道具には『飽和』と呼ばれる状態が存在する。

 簡単に言えば、それ以上素材を接合することができなくなる状態だ。

 いかに『飽和』を防ぎながら魔力容量を増やし、魔力文字を書き込んでいけるかどうかが、鍛冶師としての腕の見せ所になるわけだ。

 ちなみに鍛冶をしまくっているとある日、俺はかなり正確に『飽和』に至るまでの許容量を把握することができるようになった。

 鍛冶用語に適切なものがないため、俺はこれを心の中で『飽和量』と呼ばせてもらっている。

 俺は炉の上に小さく分割した素材を入れ、それぞれを接合させる。

 そして一つ一つを炉と混ぜ合わせた際に増える魔力容量を確認していく。

 やはりドラゴン系の素材と相性が良く、フェニックス系の素材とはいささか相性が悪かった。

 意外なのはジャイアント系の素材は、魔力容量はそれほど増えないが、『飽和量』への圧迫が少なかったことだ。

 この調子だと多少は時間がかかっても、まずはジャイアント系の素材から接合していくべきかもしれない。

 接合には繊細な魔力操作が必要だ。

 細心の注意を払いながらジャイアント系の素材を炉と融合させていく。

 元は暗赤色だった炉の色が徐々に明るくなっていき、更にそこにドラゴン系の素材を掛け合わせ終えると染め物のように綺麗な紅色へと変わっていった。

 このように接合には魔力容量を上げるだけではなく、素材を掛け合わせることによって発揮されるクラフト効果や、魔剣を直した際のようにものを修繕する効果もある。

 わずかにあったすすや、いくつかのレンガにあった欠けは完全に消え、新品同然の状態になっていた。

「もうちょいいけそうだな……せっかくの炉だ、最後まで妥協せずにいこう」

 ただドラゴン系の素材を使い切ってもまだ『飽和』にはわずかに余裕があったので、そのままフェニックス系の素材を入れると、わずかに抵抗を感じるほどになった。

『飽和』まで近づけすぎると魔力が暴発する可能性が上がるため、安全係数を考えてこのあたりでやめておいた方がいいだろう。

「情報展開……ふむふむ、こっちはへブラ式なのか……これなら古代魔族文字だけに絞った方が良さそうだな」

 これは複数の時代の魔力文字を扱うようになってからわかったことなのだが、魔力文字と魔力情報の間には、明確に相性のようなものが存在している。

 炉に使われているヘブラ式は、どちらかと言えば古代魔族文字に近い文脈で構成されている。下手に神聖文字を入れれば互いの効果を打ち消し合うことになりかねない。

 古代魔族文字を魔力素描する時は、いつにも増して集中しなくちゃいけない。

 こいつはかなりのじゃじゃ馬で、文字を書き込む際には常に一つ一つの文脈や全体の文意に気をつけなければならない。

 たとえば魔力情報の最小の構成単位で文意が通っていても、全体で見てが出た場合には暴発してしまうのだ。

 しかも古代魔族文字は一文字一文字の情報量が多いため、検算のように何度もたしかめてから行う必要がある。

 メモ帳に書き込んで問題がないことを確認してから魔力文字を書く。

 またメモ帳を見てから書く。

 ここは古代魔族文字だと出力が上がりすぎる……ヘブラ式とのつながりも意識して、中期文明の魔力文字を繋ぎに書いていくか……。

「――ふぅ、こんなもんだろ」

 長時間の格闘の末、俺はようやく炉の魔力素描を終える。

 瞬間的な加熱や冷却だけでなく、魔力を流すことで中で合金を作ることができる魔法効果を持つ炉が出来上がった。