第一章 ラックという男


 俺の父さんは、直情径行な性格の人間が多く、現場で鉄拳制裁もまま起こる鍛冶師の中では珍しいくらい、難しいことを言う人だった。

『人のために生きることこそ、鍛冶師の本懐ほんがいだ』

 そう口酸っぱく言っていたくせに、またある時は、

『自分のために生きることこそが、鍛冶を何より色づけてくれる』

 とも口にしていた。

「わあぁ……」

 当時の俺は難しいことはわからなかったが、とにかく父さんが鍛冶をしている姿を見るのは好きだった。

 噴き出す玉のような汗、力強いつちの動きに、魔力文字をマイクロ単位で動かしエンチャントを行う繊細な鍛冶魔法。

 父さんが生み出した魔道具や武器・防具はその無骨な手から生み出されたとは思えないほどに美しく、そして何よりも実用的だった。

 そんな父親の仕事っぷりを言葉を覚えるよりも前からずっと見ていれば、自分も鍛冶師になりたいと思うのは当然のことだ。

 俺は十五で成人してからすぐ、父さんから鍛冶師としてのイロハを叩き込まれた。

 いつかは父さんを超える鍛冶師になる。それは俺の夢だった。

 けれどその願いはついぞ叶うことはなかった。

 ――俺に免許皆伝を言い渡した父さんは、まるで俺が一人前になるのを待っていたかのように、俺が十七になった時にぽっくりと死んでしまったからだ。

 畜生、勝ち逃げなんてズルいぜ、父さん……。

 当然ながら見習いを卒業したての俺に、鍛冶師としての実績なんかあるわけがない。

 けれど今更どこかの工房に入って徒弟から始める気にはなれなかった。

 だから最初は有り金をはたいて、店主が死んだ鍛冶屋を間借りさせてもらうところから始めた。

 それから一年は……まぁいろいろなことがあった。

 今となってはいい思い出だが、苦い経験も楽しい思い出も、ぎゅっと凝縮した歳月だったように思う。

 世の中というのはなかなか思い通りにはいかないもので、鍛冶屋はいいものを作れば人気者になれるというわけではなかった。

 大口の仕事は巨大資本の鍛冶屋とそこからのれん分けをした屋号持ちに振り分けられ、俺のような小さな鍛冶屋には街で暮らす人達が日々使う金物の整備くらいしか仕事がこなかったのだ。

 腕には自信があったが、コネも実績もない俺ではそれを振るう場所がなかった。

 誰か有名なやつが使ってくれれば話は違うと思うんだが、どちらかと言うと見た目より性能重視な俺の武器は誰からも見向きもされない。

 父さんは誰より優れた鍛冶師だったが、世渡りが下手な人間だった。

 そしてなんとも残念なことに、その部分に関して俺は確実に父さんの血を受け継いでいたのだ。

 技術の向上も望めず、日々汲々きゅうきゅうとする生活。

 誰より優れた鍛冶師になりたいという俺の思いは日に日に募った。

 これじゃあ俺が憧れた鍛冶師になれるのは一体いつの日になるか……そんな焦燥に駆られる日々が終わったのは、とある出会いのおかげだった。

 リアム率いる四人組パーティー、『仮初めの英雄インスタントヒーロー』。

 彼女達とのかいこうは、俺の運命を変えた。

 魔法剣士のリアム、タンクのミラ、ランサーのフェイ、ヒーラーのナージャ。

 今では世界を救った英雄である彼女達も、最初はちっぽけなそこらにいる四人組の女冒険者パーティーだった。

「ここに腕の良くて偏見のない鍛冶師がいると聞いてきたんだけど……もしよければ、僕達の装備を揃えてくれない?」

 最初に声をかけられた時にはビビったもんだ。何せ四人全員が、とんでもない美人揃いだからな。

 彼女達は女だけで組んだパーティーということもあり、男所帯の鍛冶屋から舐められて門前払いを食らい続けていたらしい。そしたら街の外れで細々と商売をしている俺の話を聞きつけ、ここまでやって来たのだという。

 彼女達からしても、ダメ元のつもりだったのだろう。その顔を見れば、俺の返答に期待していないのは明らかだった。

 だから俺は言ってやったのさ。

「いいぜ、作ってやるよ」

 ってな。

 俺は武器を、防具を、魔道具を作る鍛冶師だ。

 そこには性別も種族も、せんも関係ない。

『人のために生きることこそ、鍛冶師の本懐だ』

 父さんが言っていたことは、ずっと俺の心の芯に在った。

 誰かのために役に立つものを作ることこそ、鍛冶師の本懐だ。

 彼女達はまずは武器を一式買っていき、今度は防具を仕立ててほしいと魔物の素材を持ってきた。

 俺は鍛冶師なんだが……と思ったが、だからといって断るのなら彼女達を門前払いした鍛冶師共と同類になるような気がしたから、俺は彼女達の要望に応えてオーダーメイドで防具を仕立ててやった。

 当然ながらきっちり寸法を測る必要もあったが、そこは仕事だからな。

 セクハラにならないよう細心の注意を払いながら、プロとして仕事をさせてもらったよ。

 そんなことを繰り返すうちに、気付けばリアム達は俺の店の上客になっており。

 彼女達の名が売れるにつれて、俺は細かい金物以外の武具を仕立てることができるようになった。

「ラック、もしよければ……私達の、専属鍛冶師になってくれないか?」

「ああ、もちろんだ」

 どうやら彼女達も比較検討のためにいろいろと見て回ったらしいが、結果的に色眼鏡で見たり好色な目で見るようなこともなく、かつ腕が良い俺を選びたいということになったらしい。

 とてもではないが他の武器屋や鍛冶屋では、下着姿など晒せないんだと。

 まぁ無理もないとは思うが、そこをしっかりするのもプロの仕事だろうに。

 とまぁ、そんなわけで俺はリアム達『仮初めの英雄』の専属鍛冶師になったわけだ。

 俺とリアム達は職人と客でしかなかったが、その関係は次第に変わっていくことになる。

 武器と防具というのは最前線で戦い続ける冒険者にとって、何より大切なものだ。

 命の次に大切なそれを預かるパートナーとして、なまなかな仕事などできるわけがない。

 俺は彼女達と共に歩み、己を磨いていった。

『自分のために生きることこそが、鍛冶を何より色づけてくれる』

 父さんの言葉は、やはり何も間違ってはいなかった。

 俺は彼女達を利用するような形で、己の理想の鍛冶師を目指すためにその腕を磨き続けた。

 だがそれはまた彼女達とて同じ。

 俺達はお互いを利用し合う関係であり、お互いの腕を信じ合う仲間であり、そして同時に切磋琢磨し合うライバルでもあった。

 俺が〝技〟を磨けば、彼女達は〝武〟を磨く。

 俺が強力な武具を作り出してみせれば、彼女達はそれを使ってそれを超える武具を作れるだけの素材を揃えてみせる。

 そして二人三脚(正確には五人六脚だが)でハック&スラッシュを続けていくうち……気付けば俺と彼女達の見る景色は今までとは違ったものになっていた。

 彼女達を死なせないよう死ぬ気で頑張り続けたおかげで俺の鍛冶の腕はメキメキと上達し、当時はすぐに魔力切れで大して使うこともできなかったエンチャントも、既に鼻歌交じりに使うことができるようになっていた。

 当初は剣や槍の穂先しか打てなかった俺は、既にあらゆる武器を自作できるようになっていたし、エンチャントが達者になったおかげで今では魔道具だろうがなんだろうが大抵のものはクラフトで作ることができるようになっていた。

 だがリアム達も負けてはいない。彼女達『仮初めの英雄』は世界でも五指に満たないSランク冒険者パーティーへと成長しており、とうとう国から正式に勇者として遇されるようになった。

 ただ彼女達が勇者になろうが、俺と彼女達の関係は何一つ変わらない。

 俺達は変わらぬライバルであり、終生の友でもあった。

 彼女達は王から正式に魔王討伐を命じられ、そのために必要なあるものを探すため古代遺跡へと向かった。

「ラック、これなんだが……直せるかい?」

 そうしてリアムに手渡されたのは、芯から朽ちていてほぼ全壊していると言っても過言ではない、一本の剣だった。

 その剣の名は聖剣クラウソラス――かつて滅ぼされたという超大国の建国王が使っていた、魔をちゅうするための剣だ。

 唯一魔王への攻撃を可能とするという伝承のある、由緒正しき聖剣だった。

 詳細な説明は技術的な話になるので、結果だけ伝えよう。

 俺はその剣を、修復することができた。

 そして直すにあたって必要だったため、古代文明で使われていた魔力文字である神聖文字を扱うことができるようになり、聖剣と同じ技術を流用する形でミラやフェイ、ナージャのための聖武具を作ることもできるようになった。

 彼女達は俺の武具を身に着けて魔王の元へ向かい……そして魔王は無事倒された。

 夜も安心して眠れぬ脅威は過ぎ去り、世界は平和に包まれたわけだ。

 それが悪いことだって話じゃない。

 いやむしろ、平和になったのはいいことだろう。

 ただ俺の胸にやって来たのは……虚しさだった。

 魔王を討伐するために作った聖剣。あれを超える作品を作るには、とてつもないけんさんが必要になるはずだ。

 けれど俺の存在は良くも悪くも有名になってしまった。

 リアム達に頼んでいるおかげで流れの鍛冶師ラックの名を知っている者はほとんどいない。

 だがそれでも最近は、リアム達を経由する形で俺に大量の鍛冶仕事が降ってくるようになった。

 それに……実はここ最近俺の頭を悩ませている、きっきんの問題があった。

 ――既に俺の技術の向上が、頭打ちになってきていたのだ。

 だが聖剣に記された神聖文字を解読し、魔力情報を読み取ることができるようになったことで新たな可能性が開けた。

 今日もまたこいつを研究して、なんとかして文字を圧縮した古代文明ばりの魔道具を作りたいところだ。

「仕事を終えてからじゃないと手を出せないのがしんどいんだよな……いっそのこと今後一切、仕事は断るか」

 たしかに勇者の側で技術を鍛えたから自分の腕には自信があるが、俺はそれでも流れの鍛冶師にすぎない。

 俺より腕のいい鍛冶師なんか探せばいくらでもいる。

 それに魔物の被害は今後減っていくだろうから、わざわざ俺が必死こいて頑張る必要はもうないだろう。

「ふぅ、これでさっさと……来客か」

 オーダーメイドのエンチャントを付与した剣をいくつか作ってから自分の仕事に打ち込もうとしていると、店のドアベルが鳴った。

 俺の店は店自体に高度ないんぺいをかけてあり、そこに鍛冶屋があるとしっかり認識できている人間でなければ見つけることができない。

 誰かと思い店に戻ると、そこには店と同じく隠蔽のかかっているローブを身に纏っている女性の姿があった。

 数日ぶりに見る彼女の姿に、先ほどまで感じていた不満など一瞬で吹っ飛んでいってしまう。

 見るのは数日ぶりのはずなのに、まるで何ヶ月も会っていないかのように感じてしまうのは、彼女がやってのけた功績を前に、少し気後れしているからだろうか。

「久しぶりだね――ラック」

 短く切り揃えた金の髪に、意志の強そうな赤の瞳。

 その凜々しさから王都にファンクラブができていると噂の彼女こそ、魔王を倒しこの世界に平和をもたらした勇者リアムだ。

「おう、巷じゃすっかり偉人扱いだろ。俺も敬語とか使った方がいいか?」

「そんなのやめてよ、ラックはラックのままでいて! 僕の方こそ、来るの遅くなっちゃってごめんね、いろいろと話さなくちゃいけない相手がいてさ……もう疲れちゃったよ」

 リアムは勝手知ったるといった様子で中へ入ると、椅子に座ったままぐでーっと机の上に倒れ込む。

 世の中の彼女を知っている人が見ればきょうがくすると思うが、こいつは案外こんなやつだ。

 がさつだし、ボーイッシュというより男勝りという表現が正しく、女の子らしさというものを母さんの腹の中に忘れてしまったようなやつだ。

 まぁ女の子女の子した子と比べると付き合いやすいから、俺は助かってるんだけどさ。

「いろいろ大変だっただろ……」

「うん、過去形にはできないよねぇ……現在進行形で大変だし、多分一ヶ月後くらいまでは毎日パーティーや巡礼でおおわらわだよ」

 見ればリアムは、最後に見た時より明らかに元気がない。心なしかげっそりしているような気もする。

 慣れていない王族や大貴族達との気疲れするやりとりの毎日で、だいぶ心がすり減っているらしかった。

「勇者ってのも楽じゃないんだな……ほれ」

 店の裏から取ってきたポテトチップスを差し出すと、リアムはフードを脱ぎ捨ててからぽりぽりと食べ始める。

 ちなみにこれは自作だ。誰とも話さず長時間過ごすことも多いため一通りの家事はこなせるんだ。

「他人事だなぁ……本当ならラックも僕らと一緒に来るべきなんだからね?」

「趣味じゃないんだよ、目立つの」

 俺はリアム達に、俺の名前を出すことのないようお願いしている。

 おかげで勇者パーティーの専属鍛冶師にしては、世俗的なしがらみも少ない方だと思う。

 俺は金や地位、名誉といった世間的に必要とされるものをほとんど必要としていない。

 衣食住なんか最低限生きていければいいし、女を作る暇があるならその間に剣の一本でも作っていたい。

 これは俺の持論だが、鍛冶師にとって世の中の柵は基本的には邪魔にしかならない。

 リアム達が有力者達のため断り切れないものを選別し、こちらに回す仕事を最小限にしてくれていることはわかってはいるのだが、俺視点からするとこれでもまだ多い方だ。

 リアム達からの報酬で、あらゆる素材を私費で調達できるようになった今、正直あまり自分の技術研鑽に繋がらないような仕事は受けたくないと思っている。

 彼女達が最高の素材とオーダーを回し続けてくれるから、我慢してきたわけだけど。

 実際のところ、金にはまったく困っていない。というかそもそもの話、かかる経費以外では金に興味がない。

 途中からは、ただ鍛冶仕事をして技術の限界を目指し続けていけば自然と貯まっていったため、最近では自分の金庫にどれくらいの金が入っているか、自分でもほとんど理解していない。

 そういえばかつて古代文明の遺物である聖剣を修復したことで、王家から報酬も出ていたっけ……中身を見ずに袋ごと金庫行きになったため額は知らないが。

「僕らも難儀してるんだよ……腕がいいのにこれだもの」

「お前ほどの剣士に腕がいいと言われると、さすがに照れるな」

「前半の言葉、全然聞き取ってなくない!? 難聴系主人公でももうちょっと音拾うよ!?

 もう……と言うことを聞かない子供を甘やかすお母さんのような顔つきで、彼女は背中に手をかける。

 そしてごとりと机の上に一本の剣を載せた。

 思わずごくりと喉が動き、生唾を飲み込んでしまった。

 鞘に入っていてもわかるこの圧倒的な存在感。

 そしてほとばしる魔力と、隠しきれない禍々まがまがしさ……。

 俺が目を向ければ、リアムはこくりと頷いてみせる。

「そう、これが歴代の魔王が使ってきたという魔剣……けんセフィラだよ」

「ありがとうな、無理を聞いてもらって」

「もう、ホントだよ! これを借りてくるのに、めちゃくちゃ骨を折ったんだからね!」

 聖剣の修復依頼に関して、俺はリアム達から報酬を受け取らなかった。

 その代わりに彼女達に、俺は一つの交換条件を出したのだ。

 それは――歴代の魔王が使ってきたという魔剣、禍剣セフィラを俺にたいしてくれること。

 もし魔王の討伐ができれば彼女達のものになるんだから簡単に借りられるとばかり思っていたが……どうやらこいつが魔王の討伐を証明するものということもあり、持ち出しには相当に難儀したらしい。

 ここ最近の疲れのうちの何割かはこいつを持ち出すためのものと言われれば、俺としても頭を下げることしかできない。

「とりあえずかなりヤバめな呪いが書かれてるみたいだから、気をつけてね」

「ああ、こいつに記されてるのは恐らく聖剣に記されていた神聖文字と同年代のもの……気合いを入れて、楽しませてもらうよ」

「僕はラックの身を案じて言ってるんだけどなぁ……とりあえず僕はそろそろ行くね。この後も予定がぎっしりなんだよ……誰かさんと違ってね!」

「おう、また後でな。この禍剣の分析と研究に区切りがついたら、俺の方から尋ねて行くよ」

「フェイ達もラックに会いたがってたから、そう遠くないうちに来ると思うよ!」

「そうか、それなら楽しみにしておくよ」

 べーっと舌を出しながらかわいらしい嫌みを言って、リアムはそのまま店を出ていった。

 おしゃべりが好きな彼女がこんなにあっさりと引き下がるところを見ると、どうやら相も変わらずかなり忙しいらしい。

 俺にはごめんだな。

「さってと……」

 俺は剣の柄に触れながら、にやりと笑う。

 鏡を見なくてもわかる。

 きっと今の俺の瞳は、おもちゃを与えられた子供のようにキラキラと輝いていることだろう。

 こりゃあしばらくは、徹夜かな。

「――構造分析アナライズ


 リアムが鍛冶屋にやって来てから二ヶ月後。

 一通りの研究と準備を終えた俺は、彼女が与えられた王都の邸宅にやって来ていた。

「ふふん、どうですか勇爵様のお屋敷は! 金にかせて調度品から何から全部一級品で揃えたからね! 自慢じゃないけど、なかなかのものだよ!」

「家を誇るのはいいんだが、そのやり方に品性がなさすぎる……」

 リアムは魔王討伐の功により、貴族に叙されることになった。

 ただ本来なら国王でもできないような難事をやってのけたのだから、授ける爵位はどれにするのがいいだろうという話になり。

 公爵位を授けたいが公爵は王と血縁関係がなくてはならないため、新たに勇爵と呼ばれる唯一にして無二の爵位を与える形でなんとか乗り切ったらしい。

「で……どうだった?」

「ああ、悪くない……いや、実に得がたい経験だった」

 俺は腰に提げている二振りの剣を取り出しながらそう口にする。

「禍剣セフィラは俺が想像していた通り、神聖文字とはまた異なる古代文字によって作られていた。新たな知見が広がるどころの話じゃない。この二つを極めれば、俺は鍛冶師として更なる高みに行けるだろう」

 禍剣セフィラに記されている魔力文字は、神聖文字とは別のものだった。といっても源流が似ているから解読にさほど時間はかからなかった(ちなみに俺は、これを便宜上古代魔族文字と呼ぶことにしている)。

 大変だったのはむしろその後と言っていい。

 神聖文字を真っ直ぐな天使とすれば、この古代魔族文字は一癖も二癖もある悪魔といえた。

 こいつを使って剣を打つと、ちょっとでも文法を間違えたり込める魔力量を間違えたりするだけで爆発したり、炎に包まれたりしてしまう。

 おかげで副産物も手に入ったわけだが……総括すると、なかなかな難物だったといえる。

「……どうして、剣が二本あるの?」

 たしかにそれは当然の疑問だろう。

 ポケットの中に入れたら二つに増えるビスケットでもないんだから、剣がいきなり分裂するはずもない。

「ふふ、それはだな……」

 俺は何日もの間仮眠しか取らず、若干ハイになっている脳みそをフルで回転させ、早口で説明をすることにした。

 神聖文字と古代魔族文字。

 この二つの新たな魔力文字の解読に成功した俺の脳裏に、一つのひらめきが走った。

 聖剣クラウソラスと禍剣セフィラは、間違いなく同格の強さを誇る存在だ。

 そして二つは同年代に生み出されたものと推定され、そのため二つの魔力文字にはいくつもの共通項がある。

 ――で、あれば。

 それら二つの魔力文字を組み合わせれば……二つの剣の特徴を併せ持った、最強の剣が作れるのではないか?

 鍛冶の神髄を突き詰めようとする信徒である俺にとって、その疑問を抱くのは至極当然のことであった。

「そうして紆余曲折の末にできたのが……こいつだ」

 俺は禍剣セフィラの隣にある剣を鞘から抜き出す。

 右半分の刀身が白、そして残る左半分が黒。

 神聖文字と古代魔族文字はとにかく互いに反発する性質を持っており、同じ刃にエンチャントを施そうとしても爆発してしまうだけだった。

 その問題をなんとかするためには、まず剣を作るにあたって必要な魔力情報を一度全て書き起こし、両者の共通項を接合する部分に集め、その上で一度別々に刀身を作ってから交互にエンチャントをかけてかけ合わせることで、なんとか反発する性質をそのまま魔法効果に落とし込むことに成功した。