最後に塩で味を調えて……
ドンドン!!
ドンドン!!
完成直前で部屋のドアを激しく叩く音が。
仕方ないので、火を止めてドアを開けると、
「な、何で皆揃って俺の部屋に!?」
何故かクラスの仲間が全員勢揃いしていた。
しかもみんな少し怒っているような表情。
「ラグナ君のバカ!!」
「き、急になんだよ!?」
扉を開けるなりルーに罵倒されたのは何故だと驚いていると、
「こんな美味そうな匂いを庭で訓練してる俺達に向けて放ったのはわざとか!」
「そうだぞ! 匂いが風に乗ってここまで届いて、魔法の練習なんて出来るわけが無いだろ! 集中出来ねぇよ!」
ウィリアムとシャールもお怒りの様子。
「それでラグナくん。何を作っているのです?」
ミレーヌさんは料理自体に興味があるらしい。
「ちょっと作ってみたい料理があったから自分で料理してる最中なんだ」
「「はっ??」」
貴族組が驚いて固まっている。
「いや、ちょっとした料理くらい作れるだろ?」
「いやいやいや。料理ってのは高度な技術が必要なんだぞ? 専属の人間以外が作れる訳が無いだろ!」
「それは貴族様の料理だろ? 俺達平民は料理人を雇うことなんてしないからな。料理は自分達で作ってるぞ」
「そんな馬鹿な……いや、しかし……」
驚くウィリアムを余所にグゥっと可愛らしくお腹が鳴った音がした。
皆の視線は音を立てた主の方へ。
「……ルー?」
「し、仕方ないやん! それよりもうちらにも食べさせてくれるんやろな?」
「えー……まじで?」
「当たり前やん! ここまで美味そうな匂いを漂わせておいて食べさせへんとか、それは無いやろ!」
本当なら多めに作っていつでも出来立てを一人で楽しむ予定だったのに……
「……しょうがないなぁ。じゃあ誰か人数分のお皿と、もしあれば黒パンでいいから貰ってきてよ」
こういう時の視線は決まってシャールに集中する。
「なっ!? 俺に取りに行けと言うのか!?」
「別に取って来なくてもいいよ? その代わりシャールの分は無しね!」
「何でそうなるんだ!!」
こんなやり取りをしていると決まって、
「私が行ってきますよ……?」
と名乗り出るシーヴァ。
「いいの、いいの。学園では貴族だろうと関係ないんやから! シャールに行かせれば十分やし」
「くっ、俺の分は多めだからな!」
「はいはい。わかったからよろしく~」
と見送るとテオがそっとシャールの手伝いに向かったのが見えた。
本当にテオは気が利いてるよな。
「……なんや? うちの事をジーっと見て」
「ううん、何でもないよ」
双子でこんなにもはっきりと個性が違うのは珍しいんじゃないだろうか?
そういえば全員が座る分の椅子と机が足りないと気が付いた時には、すでにミレーヌさんがメイドさんに頼んで人数分の椅子と食卓の準備をしていた。
シーヴァはミレーヌさんと共に準備を手伝っていた。
「お待たせ~、ほらシャールお皿配って!」
「ふんっ」
と言いながらも綺麗にお皿を並べていくシャール。
それぞれのお皿にキャンプ飯でお手軽に作れると定番のアヒージョをよそっていく。
本来ならバゲットが欲しかったけど無いものはしょうがないので、手軽に手に入る黒パンで代用。
黒パンを輪切りに切って準備は完了。
「それじゃあ食べようか」
「「今日の食事に感謝を」」
そしてみんなからのいただきます! 号令と共に食べ始める。
アヒージョを一口。
唐辛子によって少しピリッとした刺激と共に、ニンニクのパンチが効いた香りとベーコン、キノコの香りが口の中で広がる。
うん、美味い!
懐かしい味に感動していると、
「うっめぇぇ!!」
「ほんまに美味すぎるんやけど!」
一口食べるなりシャールとルーの貴族コンビが叫んでいた。
他のみんなも最初は初めて見る料理だったので恐る恐る口に含んでいたが、途中からは皿に手を伸ばすペースが早くなっていった。
「ちなみに黒パンはこうしてっと」
輪切りにした黒パンにアヒージョの油を吸わせてから一口。
黒パン特有のちょっとした酸味は感じるけど、ニンニク成分を含んだオリーブオイルの旨味が襲ってくる。
ああ、美味しい。
クラスメイトの皆もニコニコしながらアヒージョを食べている。
「それにしてもこの料理はどこの料理かしら? 今までこんな料理を食べた事が無いわ」
セシルからの返答に困る突っ込みに、そういえばそうだという空気になってしまう。
ごめん、父さん、母さん。名前を使わせてもらいます。
「どこの料理かは知らないんだよね。うちって両親が元々冒険者でさ。たぶんどこかで食べた料理を再現したんじゃないかな?」
「なるほど……それで知らない料理なのか。もしかしたら他国の料理なのかも知れないな」
「まぁうちとしては美味しいから何でもええけどね!」
ルーはそう言って食事を再開する。
多めに作ったとはいえ、所詮スキレットで作った量だったのであっという間に無くなってしまった。
みんなまだ物足りなさそうな顔をしているが……
「もう無いからね? もっとって言われても作る材料は無いし!」
本当は収納に仕舞ってあるけど、みんなの前で取り出す訳にもいかないし。
と心の中で呟く。
「そもそも本当なら俺一人で楽しむ予定だったんだから、仕方ないじゃん!」
「それもそうやねぇ……とりあえず、ご馳走さん! ほんまに美味かったわぁ」
ルーが両手を合わせてご馳走さまと言う。
「まさか侯爵家である俺の舌を納得させる料理を食べられるとは思っていなかったぞ。美味かった」
珍しくウィリアムが素直に褒めたので驚いた表情をしてしまう。
「な、なんだその顔は! 美味い料理にはそれに相応しい感謝を述べるのが当然だろう!」
と顔を真っ赤にしていた。
「……そうだね。とっても美味しかったよ!」
「ふふ、とても美味しかったですよ?」
「本当に美味しかった……ありがと」
どうやら皆満足したようだ。
「あれ? シャールは料理について何も言ってくれないんだ?」
ギクッとしたリアクションを取るシャール。
「……う、美味かった」
シャールはそう言うと走って部屋から出ていくのだった。
本当にツンデレさんだなぁ。
「それじゃ、また次の機会に期待しとるからねぇ」
というとルーやクラスメイトの皆は部屋を出ていくのだった。
「ニンニクの匂いは失敗だったかな? まさか皆が押しかけてくるとは思わなかった」
でもみんなの美味しかったという言葉が聞けてどこか満足した自分がいるのだった。
「次は何を作ろうかなぁ。まだメスティンを使ってないし。本当なら二品目にアウトドアスパイスを使ったレシピの中でこの世界でも再現出来そうな料理でも作ろうかと思ってたけど、今回みたいな事があるかもって考えるとそう簡単には使えそうにないよなぁ。メスティンで再現出来そうな料理か……揚げ物ならいけるかな?」
そんな事を考えながら休日をのんびりと過ごすラグナなのであった。