そこまで考えてなかった……

夕食前である午後六時前までには寮に戻ることが出来た。

手土産の方はミーシャさんに任せた。

「ラグナ君、お帰りなさい」

「みんな、ただいま」

「寮にはいなかったみたいやけどどこいってたん? まさか、誰かとデートだったとか!?

ルーがニシシと笑いながらいきなりぶっ込んできた。

皆まだ十歳だろうに。この世界の子供って前の世界の子供よりもマセている気がする。

ルーがそんな事を言うものだから、女性陣がワクワクした目でこちらを見てくる。

まぁ、そういう話題は気になる年頃ではあるんだろうが……

すると一瞬殺気を感じて、思わず背筋がピンとなってしまう。

殺気を感じた方向に振り向くと、にこやかに笑うミレーヌさんがいた。

「べ、別にデートとかしてた訳じゃないよ! それにルーは僕がそんなにモテるとでも思っているの?」

ミレーヌさんからの無言の笑顔に、思わず挙動不審になってしまった。

そしてルーは俺の質問に対して、何故か『うーん』と悩み始めた。

「ラグナ君って、見た目は悪くないと思うんや……まぁウチらはいろいろ知ってしまったからこう思えるけど、他のクラスの貴族の子達からしたらどう映るかやろな。突如として現れた謎の平民の男の子。しかも一学年次席。うん。普通に考えたらハメて蹴り落とすのにピッタリな人間やな」

何それ怖い。

「普通に分析するなよ。ヘコむから。それに最後の分析はあまりにも不穏だろうが」

ハメて蹴り落とすのにピッタリな人間って……

まぁ、確かに平民だから否定は出来ないけど……

そんなことを話しながらしばらくして食事が運ばれてきたので、皆で揃って食事にする。

うん、やっぱりこの寮のご飯は美味しい。

気がついたら食事は皆で集まって食べるのが習慣になっていた。

食後は皆に紅茶が配られて普段はそれで終わりだったのだが、今日は違う。

今日は紅茶プラス各自にドライフルーツが載った小皿が配られてた。

「本日のドライフルーツはラグナ様より皆様への贈り物になっております」

ミーシャさんがクラスの皆にそう説明するのだった。

皆の顔が一斉にこっちをむく。

特に女性陣の機嫌が物凄く爆上がりしていた。

「実はちょっと訳ありで……今日は学園の外に行ってたんだ。皆と一緒に訓練も出来なかったし、僕だけ外に出たのも悪いなぁって思ったから、皆へのプレゼントで買ってきたんだ。数日間はデザートで食べられる量は買ってきてあると思うよ」

するとミーシャさんを先頭にメイドの皆も一斉に並んで現れた。

「本日は私共にまで贈り物を購入していただき、本当にありがとうございます」

「「ありがとうございます」」

メイドさん達全員がビシッとした動作で声を揃えて感謝を伝えてきた。

「皆さんには普段からお世話になっているのでそのお礼も兼ねてです」

「ラグナ君、ありがとう」

「ありがとな!」

「……ありがとう」

珍しくシャールまで若干照れながら感謝を伝えてきた。

シャールって実はツンなデレの人か?

その後はみんなそれぞれドライフルーツを楽しんでいく。

「あまーい!」

「おいしー!」

「ねぇ、ラグナ君。もしかしてこれって味のフルーツファームってお店でなくて?」

なんかセシルさんに久々に話しかけられた気がする。

未だに彼女にはちょっと壁を感じているんだよな。

「お店の名前……ミーシャさん、なんだっけ?」

「味のフルーツファーム王都本店です」

ミーシャさんがどうやら知っていたみたいだ。

それを聞いて驚くみんな(一人を除く)。

意味がわからず、ポカンとしてるのはシーヴァだけ。

そして俺が言った言葉に気が付いた彼女は、目のハイライトが消え失せる。

「ねぇ、ラグナ君? まさかとは思うんだけど……また……また……彼女と二人でお出かけしたのですか?」

ミレーヌさんの視線はミーシャさんへ……

「ど、どうしてもミーシャさんの協力が必要だったんだよ。どうしても外せない用事で……」

背中が急に汗ばんでくる。

何故こうもミレーヌさんに恐怖を感じるのだろうか?

「外せない用事とは?」

「それは……」

何て答えればいいんだよ!

返答に困っていると、

「商業ギルド神殿絡みと言えばあとはわかりますよね?」

ミーシャさんが助け舟を出してきた。

「むぅ……ですが、あなたが一緒に行く必要は……」

「私はラグナ様の専属メイドですので」

そう言ってにっこりと笑うミーシャさん。

「おい、どうにかしろよ、これ」

ウィリアムがそう小さな声で言ってくるが……

……いや無理だろ、これは。

するとこの空気を変えるべく、心配そうにセシルさんが尋ねてきた。

「味のフルーツファームって言ったら一流のお店じゃないの。あなたって平民よね? お金は大丈夫だったの?」

確かにいかにも高そうなお店だったし、実際高かった。

「お金は大丈夫だよ。ちゃんと僕が払ったから」

ミーシャさんも俺がちゃんと自分で払ったと頷いている。

あのドライフルーツのお店って貴族の皆が知ってるランクのお店なんだ。

「高かったやろ、ウチかてなんとかお心遣い貯めて、更に弟からも巻き上げてやっと買えたくらいや」

テオはルーに巻き上げられていたのか……

可哀想に……

「……私の領地には支店が無かったから、王都に両親が出掛けた時くらいじゃないとめったに食べられなかった」

「うちも同じく。男爵の娘がおねだりして、気軽に買って貰えるような金額のものでもないしね」

やっぱり貴族の子供からしても高いのかな?

むしろクララの家は男爵なのね。

初めて知った情報かも。

そのあとは皆で紅茶を楽しみながらドライフルーツを食べる。

セシルさんやミレーヌさんはドライフルーツをカップに入れた後、紅茶を入れてもらって蓋をしていた。

数分後に蓋をあけると、こっちにまで香りが飛んできた。

あまりにもいい匂いだったので、残りのクラスメイトも同じようにドライフルーツティーにして楽しんでいた。

「あぁ、美味かった。そういや今日はこれでいくら使ったんだ?」

シャールが珍しく話し掛けてきた。

「今日は自分のも含めてトータル五瓶買って大銀貨三枚に銀貨八枚だったかな?」

ドライフルーツがこんなに高いなんて知らなかったよ。

最後の一口を食べようとしていたシーヴァが、金額を聞いてそのまま固まってしまった。

「もしかして学園から支給されたお金を使って買って来てくれたのか?」

あぁ、そう言えばお金が支給されてるんだっけ?

忘れてた。

「違うよ。そのお金には一切手をつけてないから大丈夫」

「ラグナはもしかしてどこかの商家の子供だったのか?」

「いや? 辺境にある小さい村の出身だよ」

「普通に考えても村出身の子供が払うなんて無理な金額だろ。どこにそんなお金があるんだ?」

あっ。

そこまで考えてなかった……

さて、どう言い訳しようか……

俺がお金を持っている理由……

素直に特許で稼いでいるって伝えられたら一番楽なんだけど……

ミーシャさんからは釘を刺されてるし……

俺がなんて説明しようか困っていると、ミレーヌさんがハッとした表情をする。そして、

「あっ、もしかしてあの時のお金ですか?」

ミレーヌさんが突然そんなことを言い始めた。

「えっと……」

あの時ってどの時のお金だ!?

俺が困惑していると、どこか納得したような表情をしたミレーヌさん。

「確かにあの時に得たお金であれば言いにくいですよね……」

「なんや、ミレーヌさんは知っとるんか?」

「知ってはいますが、これは平民である私達の立場からすると、かなり言いにくい事なので……」

ミレーヌさんは一人納得してるけど何のこと!?

言いにくいっていったい何の事なんだ!?

「ミレーヌさんが言いにくいということは貴族がらみって事か。ミレーヌさんが知っているって事はエチゴヤ絡みか? ん? そう言えば去年の秋ぐらいだったかな……どこかのアホ領主が盛大にやらかしてエチゴヤを怒らせたと父様が言っていた気が……」

気がつけばウィリアムによる推理が始まっていた。

「ウィリアム君は知っていらしたのですね。えぇ、あの時に私のお兄様と共に事件に巻き込まれたのがラグナ君なのですよ」

やっとミレーヌさんが言っている事が理解出来た。

ナルタ辺境伯の私兵に冤罪を掛けられた話の事か。

「って事は、巻き込まれた村人達の中に子供が含まれていたって話があったけど、それがラグナだったのか」

俺はまだ何も話をしていないのにどんどん勝手に話が進んでいく。

ミレーヌさんとウィリアムの二人以外は意味がわかっていないらしい。

「ラグナ君はその事件の時に賠償金として支払われた資金の一部をお父様から渡されていたのですね」

それでいいか。

お金は賠償金って事にしておこう。

実は特許でお金が入ってきているとは言えないし。

俺はうん。と返事をしたのだった。

こうしてお金の件についてはなんとかミレーヌさんのお陰で誤魔化すことが出来た。

すると視線を感じたので、そちらを見るとミレーヌさんとバッチリ目が合う。

そしてウィンクをしてきたのだった。

『つまりミレーヌさんはわざとあの時の賠償金って方向に話を振ってくれたのか』

俺は感謝を込めてニコッと笑いかけるのだった。

その後、皆からは改めて『ありがとう、美味しかった』と感謝をされたのだった。

そんなこんなで楽しい日々を過ごし、学校や寮での訓練漬けに耐えること二ヶ月。

いよいよ入学後初となるクラス入れ替え試験がスタートするのだった。