怖い一面と貢ぎ物。
あの不思議な空間からこちらへと戻って来て立ち上がると、祭壇の間の扉がノックされた。
「どうぞ」
「「失礼します」」
扉が開くとタチアナさんとアルレットさんが部屋に入室してきた。
そして何かに気がついたのか早足で祭壇の前まで進むと、すぐにしゃがみ込んで一心不乱に祈り始める。
「えっと……どうしたのですか……?」
声を掛けても返事が無い。
ちょっと怖い……
ずっと何かの祝詞を二人で唱えてる。
その後何人かが連続して部屋に入ってきては跪いて祝詞を唱えていた。
俺はその光景が少し怖くなり、そっと入口付近に移動。
しばらくの間祝詞を唱えていたのだが、急に立ち上がるとこちらを振り向く二人。
しかも何故か号泣していた……
「えっと……何かありましたか……?」
「ひっく……もうしわけ……ひっく……ありません……」
いったい何が起きているのか……
暫くしてタチアナさんが息を整えると説明してくれた。
「このお部屋全体が、これまで経験したことのないほど濃密で神聖な気に包まれておりましたので……日頃の感謝を捧げておりました」
そっか……
今日は創造神様に送って貰ったから何時も以上に神聖な気を感じる事が出来たのだろうか?
「そ、そうでしたか……」
次々とこの部屋に集まる神殿の職員の方々。
涙を流しなが感謝の祈りを捧げている姿を見ると、少し顔が引きつってしまった。
この光景をみて思い出すのはナルタにいたマホッテト司祭。
彼はマリオン様に送って貰った後も平気な顔をしていた気がするんだが……
「この祭壇の間にて何があったのかについては、決してお聞きすることは御座いませんのでご安心下さい」
うん。
それがいいと思う。
あなた達が信仰している女神様が土下座をして謝ってきたなんて言えない。
更に創造神様に駄女神扱いされて怒られてたなんて言えないよ。
「そうして頂けると助かります」
本当に言えないから。
それから商業ギルドへと戻る。
「お待たせしました」
「おぅ、思っていたよりも早かったな」
そっか。
あんまりこっちの世界の時間は進んでなかったんだっけ。
「それよりも、ちょっと疲れた顔だね。どうかしたのかい?」
「まぁ、いろいろと……」
今、俺の真後ろにタチアナさんがいる状態で神殿の皆の行動に恐怖を感じたなんて言えるわけが無い。
とりあえず引きつった笑顔で誤魔化す。
その後の話し合いにより、やはりミルクティーの扱いについてはメイドギルドの返答待ちとなった。
金銭的に困窮しているなら特別に前借りの形でいくらか手渡すと言われたけど、そこまで困ってないから断りを入れた。
「それじゃあ、今日はありがとうございました」
「あぁ、学園頑張れよ。何か決まったら学園内の商業ギルド経由で連絡入れるからよ」
「わかりました。よろしくお願いします」
「ラグナ君、頑張ってね。後、ミレーヌちゃんのこともよろしくね。手紙ぐらいくれても良いんだよって伝えておいて」
やっぱりブリットさんはミレーヌさんと会えないのがだいぶ堪えているんだね。
「わかりました。ミレーヌさんにお伝えしておきます。それじゃあ、皆さん体調にはお気をつけて。ミーシャさんお待たせしました」
ミーシャさんはふわりとお辞儀をすると扉をあけてくれた。
本当にいちいち動きが綺麗なんだよな。
一瞬だけど、何気ない動作にも見とれてしまう。
商業ギルドを後にしたミーシャさんと俺はこれからの予定を話し合う。
「ミーシャさん、これからどうしようか?」
「時間を考えると動けるのは二時間ほどですね」
二時間か……
うーん。
ぶらりするには微妙な時間だよなぁ。
「買い物をするにも微妙だし……ミーシャさんはこの辺で手土産になるお菓子屋さんって知ってますか?」
「お菓子屋さんですか……? 知ってはいますが……どなたかに贈り物ですか?」
流石に俺だけ特例で外出してるしね。
みんなにバレた時が怖いからそれを防ぐ意味でも貢ぎ物を準備せねば。
「クラスメイト全員分と寮で働いてくれてるメイドさん全員分と日持ちするお菓子があるなら自分で食べる用のお菓子を買おうかなって思うんだけど……」
それを伝えるとミーシャさんに驚いた顔をされる。
「クラスメイトだけでなく私共の分までもですか? お心遣いは嬉しいのですが……菓子となると……高いですよ?」
たかがお菓子だよ? って内心舐めたままミーシャさんに先導されてついていく。
案内されたお店は高級そうな店構えのドライフルーツのお店だった。
『クッキーとか砂糖を使ったお菓子とかは無いのか? もしかして砂糖が貴重とか……?』
まぁ摘まめるしドライフルーツなら日持ちするからいいだろうとぷらーっと商品を眺めていく。
どれも瓶詰めされていた。
そして値段をみて驚愕する。
『ミカンって普通に書いてあるドライフルーツが一瓶銀貨五枚ってビールジョッキ位の瓶の容量で5万か……ってたけぇな!』
最初はみんなにそれぞれ各一瓶買えばいいかとも思ったけどそれだと値段がヤバいな……
「ラグナ様、私共の分はお気持ちだけで結構ですので……」
「あっ、その前にお金を下ろしてこなきゃ」
手持ちが無いの忘れてた。
「ラグナ様は既にギルドカードをお持ちなので大丈夫です。このような高級店では魔道具が設置されており、精算時に魔道具へカードをかざすだけで自動的に口座から資金が移動され支払いが完了しますので」
まさかの電子マネーモドキによる支払いが可能になっていた。
お支払はタッチするだけとか微妙に凄いな。
これも絶対に勇者の仕業だな。
とりあえずクラスメイトみんなで摘まんで貰えるようにドライフルーツ三種類とメイドさん達には一瓶だけ購入、後は自分用にもう一瓶のトータル五瓶のドライフルーツを購入した。
自分用にはプルーン。
残りはミーシャさんにお任せした。
トータルのお支払は大銀貨三枚に銀貨八枚。
ドライフルーツに38万もの大金をつぎ込んでしまった。
どうやら最初に見たミカンが一番安かったらしい。
一番高いのは俺が買ったプルーンの大銀貨一枚。
ミーシャさんは遠慮したのか自分達用にミカンを選んでいた。
本当に良いのかと何回も聞かれたけど、今カードにある分だけでも大変な額のお金が入ってるし……
いつもお世話になってるから感謝の気持ちだと押し付けた。
「まだ時間って大丈夫ですかね?」
ミーシャさんにそう尋ねると、あと三十分位ならと言われたのでとあるお店に案内してもらった。
「いらっしゃい! おや、魔法学園の生徒さんがこんなお店にどうしたんだい?」
「どのような品が売っているのか知りたくて来ました! 僕の村にはこのようなお店が無かったので……それに部屋にはキッチンもあるので時間がある時は自分でも料理をしたくて」
「そうかい、あんまり大きな店じゃないけど、ゆっくり見ていきな!」
俺が今いるお店は野菜を専門に扱うお店。
つまりいわゆる八百屋さん。
この世界にはどんな野菜があるのか知りたくて覗きにきたのだった。
のんびり野菜を見ていくと……
「……」
俺が呆然としてしまったことに気がついたミーシャさんが、
「どうかしましたか?」
と話し掛けてきたので何とか再起動して、何でもないですと答えるのが精一杯だった。
仕方がないじゃないか……
何で当たり前のように、トマトやらキュウリやらジャガイモが並んでいるんだよ……
しかも名前まで一緒。
呆然としながらも商品を見て回ると茄子やらピーマンやら枝豆やら……
ご都合主義もいいところじゃないか……?
「いい野菜に目を付けたね! そこにある野菜達は全部あの有名な初代勇者様が広めた野菜達さ!」
思わず心の中で勇者ぁぁぁぁぁぁ!! と魂のシャウトをしてしまったほど。
勇者に言いたいことはただ一つ。
『ここまで広めておきながら、何で米がねぇんだよ!』
手ぶらで帰るのもあれなので、とりあえず何かの料理に使えそうな野菜は片っ端から購入。
まさか学生がこんなにも買ってくれるとは思っていなかった店主の女性はホクホクの笑顔でそろそろ傷んできそうな野菜をサービスとしてプレゼントしてくれるのだった。
「またいつでもおいで! サービスするからさ!」
「ありがとうございます。また学園から出る機会があったら伺いますね!」
と返事をして店を後にするのだった。
本当ならこの後は肉を買ったりしたかったのだが、時間切れで終了。
ミーシャさん曰く、事前に何が欲しいのか言ってくれれば授業を受けている間に用意しておきますとの事だったので甘える事にした。
買い物を終えた俺達は門限に間に合うようにやや早足で学園へと戻るのだった。