再会と謝罪と。
「王都の神殿もナルタと同じように商業ギルドの上にあるんですね」
そう話しながら、商業ギルドの階段を上っていく。
「えぇ。基本的にどの国でもこのような作りとなっております。商業ギルドとマリオン様の神殿が離れた場所にあると特許などを申請する際に手間も有りますし、申請書類を外部に持ち出すと盗難の危険もございますから。同じ建物にあれば盗難などの危険はほとんどございませんし」
確かに特許の申請書類を奪われて代わりに提出されたら大変だもんね。
タチアナさんの後に続き神殿へと向かう。
ミーシャさんは神殿内に立ち入ることが出来ない為、申し訳ないけど商業ギルドで待ってもらうことにした。
タチアナさんにどうぞといわれ神殿に入ると、やはり空気が変わったのがわかる。
俺がキョロキョロと周囲を見回していると、若い女性が近寄ってきたのだった。
「タチアナ様、お帰りなさいませ」
「私は商業ギルドに顔を出しただけですよ。そしてこの方が例の……わかりますね?」
若い女性がコクリと頷く。
「初めまして。私はマリオン様の神殿で司祭をしているアルレットと申します。お会い出来て光栄です」
おぅ。
目の前で手を組み拝まれてしまった。
「あ、あの。僕はそんな敬って貰えるような人間ではないので……その、出来れば……」
やめて欲しい……
って言おうとしたら目があってしまった。
そんなウルウルした目で見ないで。
助けを求めてタチアナさんの方を振り向くと……
タチアナさんまでもが目を閉じて小さく祈っていたのだった。
『まじかよ……』
と思わず顔が引きつってしまう。
「拝むのだけやめて頂けると……」
流石に拝まれるのはキツい。
「わかりました……気分を害してしまい申し訳ありません」
深々と謝罪される事になってしまった。
正直、やりにくい……
「あっ、急いでお伝えすることがありました。マリオン様より先ほど神託がありました。手が空き次第ラグナ様には祭壇の間に入ってきて欲しいとの事です」
マリオン様からの久々のお呼びだしか。
なんだろ?
今日のミルクティーの事かな。
二人に案内されて祭壇の間へと到着すると、一人で入室する事に。
以前と同様にマリオン様の像の近くで目を閉じてお祈りする。
すぐに空気がまた変わったのがわかる。
そして目を開くと……
ここは以前と同じマリオン様と謁見した場所だ。
以前は目の前にいる椅子に座っていたが今日は姿が見えない。
あれ?
マリオン様がいないぞ?
部屋の机には特許の申請書類らしき紙が乱雑に置かれている。
辺りを見渡すけどマリオン様の姿が見えない。
「マリオン様?」
まじでいないな。
人のことを呼んでおいて……
「後ろじゃ」
マリオン様ではない声で急に後ろから話し掛けられたので驚いて振り向くと、そこにいたのは久々に会う創造神様と所謂『土下座スタイル』でビシッと頭を地面へとこすりつけている髪の長い女性。
そしてその横には目線をあげてその女性を見ないように、気まずそうにしているサリオラがいた。
「あっ、創造神様。お久しぶりです」
とりあえず土下座スタイルの女性は見なかった事にして創造神様に挨拶する。
「うむ。久々じゃのう。少し大きくなったかな?」
「はい。今年で十歳になるのでこれからもっと成長してくれると嬉しいんですけど……」
「それは大丈夫じゃろ。まだまだこれからじゃよ。それよりもこの世界はどうじゃ? 楽しんでおるか?」
以前なら楽しいって即答出来たんだろうけど……
「学園に入学して友と呼べる人間が出来たのは嬉しいんですけどね……」
「儂も時折見ておったよ。いろいろとあったようじゃのぅ。まぁその原因の一部はそこにいる駄女神が招いた事なんじゃが。本当に済まなかったのぅ」
そう言うと創造神様が頭を下げる。
「いやいや、創造神様が謝ること無いですよ! この世界の貴族が腐ってるのがいけないんですから! ……えっマリオン様が招いた……?」
駄女神?
「ラグナ君、君が学園に入学試験の手続きに行った時にひと悶着あったじゃろ?」
「えぇ……後で貴族の息子達である職員数人が僕だけでなく他の平民の子供達からもお金を巻き上げていたと聞きましたけど……」
「そうじゃな。詳しくは話さぬがその件をこの駄女神が見ておったようでな。自分のお気に入りであるラグナ君を傷つけられたことに腹を立てて神殿を動かしたのじゃ。学園と国に圧力をかける形でな……全く、ラグナ君との正式契約はサリオラだと言うのにこやつは……」
「マリオン様、何してるんですか……」
若干呆れた目で土下座スタイルの女性を見る。
「圧力を掛けた結果、貴族が反発してラグナ君の許に暗殺者を差し向けたんじゃよ」
「あれって最初から僕を狙ってなんですか!?」
たまたま狙われたって聞いてたけど……
「ラグナ君と揉めた男爵の息子から『もしかしたらアイツかも知れない』とラグナ君の特徴である黒目、黒髪の子供という情報を暗殺者は仕入れて探し出し、ラグナ君を襲ったという訳じゃ」
「そうだったのですか……」
「まぁたとえこやつが圧力を掛けなくともお主を大事に思う人々が裏で動いた事実は変わらぬであろうがの。一押ししてしまったのは事実なんじゃ」
「ラグナ君、本当にごめんなさい」
流石に女神の一人であるマリオン様に頭を下げさせたままってのも気まずい。
サリオラだって気まずいだろうし。
「少しは思うこともありますけど……僕のことを思って行動してくれたのも事実なんで、今回は謝罪を受け入れます」
「ありがとう……本当にごめんなさい」
マリオン様が顔をあげて俺を見てくる。
せっかくの美人の顔が涙で台無しだよ。
仕事がバリバリ出来るOLみたいでカッコイイと思ったりもしたけど、実際は残念女神だったのか。
「あれはラグナ君によく見られようとしてただけじゃ。本来はいつも何かをやらかす残念な娘なんじゃよ」
「あぅ……」
商業の女神なのに抜けてるって大丈夫なのかな……
「それは大丈夫じゃ。優秀な部下がついておるでな。とりあえず、ラグナ君には何かお詫びをせねばいかんのぅ」
その一言を聞いてビクッとするマリオン様。
「ラグナ君は何か希望でもあるかぃ? 加護でも金銭でも武器や防具でも道具でも……こやつに準備させるからのぅ」
金銭は特に困ってないし……
武器や防具って目立ちそうだし……
加護もすでに貰っているし……
「まだ使ったことは無いですが、マリオン様からはすでに水中でも呼吸出来る加護は貰っていますし……」
うーん……
あまり無理に強請るのも気が引ける。
どうしよう……
少し考えて浮かんだのがこれ。
マリオン様にちなんでこれにしよう。
「マリオン様って海の女神様ですよね? ならば水属性ってことで、飲み水が何時でも作れる魔道具とかって作れます?」
ウォーターの魔法って魔力の効率悪いらしいし、長期摂取するとお腹を壊すって聞いたからな。
飲料水が作れたら便利だし。
キャンプの時も飲み水をいちいち用意するのは大変だった。
とりあえずキャンプでは絶対にやってはいけないこと。
それは川の水をそのまま飲む事。
よくメディアのイメージでそのまま川の水を手で
更に動物などの糞尿やら上流での汚染の可能性なども考えると、本当に危険なんだ。
創造神様が俺からのまさかの提案にポカンと驚いていた。
「なんじゃ、そんなんで良いのか? もっと強請っても良いのじゃよ?」
「あまりにも強力なものを貰っても目立つだけですし……」
ただでさえ目立ってるからこれ以上目立つのも……
「ラグナ君がそれで良いならいいが……」
「飲み水に困らないって結構大事だと思うので、これでお願いします」
こら! マリオン様も本当にいいの? って目をするんじゃない!
マリオン様の為にも確実に必要な道具であり、簡単そうなものにしたんだから。
「そんなもの気にしなくてもいいのにのぅ」
しまった。考えが筒抜けだったんだ!
「それでいいのでお願いします」
「そ、それじゃあ作りますね」
マリオン様が両手を掲げて俺にはわからない言語で何かを唱え始める。
青く光り輝くマリオン様。
そして両手を掲げた先には水が渦を巻きながら発光している。
今目の前で見ている光景は、本当に神秘的。
まさに女神様。
その姿を見て思わず、綺麗だと思ってしまった。
渦を巻いていた水が徐々に形を変えて変化していく。
そしてマリオン様に纏っていた魔力とは明らかに違う力が、その水へと集まっていく。
徐々に形が形成されて現れたのはキャンプの時に使うようなウォータージャグだった。
きちんと使いやすいようにコックまでついている。
「えっと……」
流石にこの形には驚いた。
「ラグナ君の記憶を以前見たときに、このような形の道具があったので再現しました。いかがでしょう?」
いかがでしょうと言われましても……
「嬉しいのですが……まさか、またこの目で見られるとは思ってなかったので驚いています」
「それでは使い方を説明しますね。まぁ知っていると思いますがコックを捻ると飲料水が出てきます。流石に何の制限も無しに水が永遠に出続けると問題があるので制限はありますけど」
「制限? 問題?」
水が出続けると問題ってなんだ?
「不謹慎ですが、例えばラグナ君がこの神器で水を出している最中に魔物に襲われて亡くなるとします。知能が低い魔物ならばそのまま立ち去るでしょう。そうするとコックが開いている限りずっと水が出てくるんですよ? それが長い年月発見されずずっと出続けたらどうなります?」
「場所によっては川や池が出来るかもしれませんね……」
「もしくはそれ以上の事態が……っとなるのは困るので制限は付けてあります。そうは言っても魔力をこの神器に込めるだけですけどね。ちなみにラグナ君の魔力以外は使えないようになっていますから」
さっきは聞き間違いかと思ってたけど気のせいじゃなかった。
確かに今『神器』って言ったよね!?
「それは仕方ないじゃないですか。女神だって一応は神なのですから。自らが作り出した道具は神器になってしまいます」
確かにそう言われてしまうと何も言えない……
「どうぞ、お受け取り下さい」
マリオン様からウォータージャグ型の神器を受け取る。
「魔力を込める際は神器のどこかを触っていれば大丈夫です。特に指定はありません」
ウォータージャグの取っ手を握り魔力を流してみる。
ファイアーボールの半分にも満たない魔力で止まった。
「今の魔力でだいたい100ℓくらい水が出ますよ」
ウォータージャグの形状にはなっているけど容量はとんでもない量だった。
しかも重さは全く変わらないまま。
「あ、ありがとうございます。大切にします」
マリオン様には素直にお礼を伝える。
これで何が起きても魔力さえあれば水は確実に確保出来る。
普通にありがたい。
水に困らなければ将来好きな場所でキャンプが出来るし!
ウォータージャグを収納スキルでしまう。
収納で思い出した。そう言えば収納の中に母さんが作った大量の料理が入っているんだよな。
「ほぅ。母の味という奴かのぅ」
パッとみると創造神様、マリオン様は心なしか目がキラキラしてる。
サリオラにいたってはゴクリと唾を飲んだ音も……
「も、もし母の手料理で良ければ食事でもいかがですか?」
創造神様が手を振ると一瞬にして円卓と椅子が現れた。
ちょっと創造神様の手際の良さに驚いたけど、次々と料理を収納から取り出して並べていく。
「それじゃあ頂くとするかのぅ」
普通に箸を使って食事をする創造神様とマリオン様。
サリオラは箸が使いにくそうだったので、フォークを出してあげた。
「ありがとう」
まさか神様&女神様と食事をする展開になるとは。
マリオン様とサリオラは食事を口にする度にニッコニコ。
創造神様も『ふむ』とか『ほぅ』とか呟きながら楽しそうに食事を進めている。
円卓に出した料理があっという間に無くなっていく。
マリオン様とサリオラが寂しそうな目をするので追加で取り出していく。
「地上の料理を食べるなんて久々じゃのぅ」
「私もですよ」
「私は初めて」
「神様達は普段の食事はどうしてるんですか?」
普通に食事をするんだろうか。
「儂らは食事など不要じゃからな。普段はあまり食事を取ることなど無いのぅ。たまーに、料理神が作ったものを食べるくらいか」
「本当に久々に地上の料理を食べたわ。ヒノが生きていた時はたまに食べる事が出来たんだけどね」
ヒノ? つまり初代勇者様?
「これ、駄女神」
「あっ。ごめんなさい」
サリオラが少し暗い顔をする。
どうしたんだろう。
「大丈夫。なんでもないから」
まぁ無理に聞かなくてもいいか。
「駄女神がやらかしたのに結局最後には食事までご馳走になってしもうたのぅ。儂からもお礼をせねばいかんな」
そう言うと創造神様が俺の頭に触れた。
すると右目に暖かい何かが流れ込んできたのを感じた。
「鑑定の神眼をプレゼントじゃ。まぁ、まだ身体が出来ておらぬからのぅ。使えるようになるのはまだ先になってしまうがな。使いこなせるようになれば魔眼よりも詳しく鑑定出来るようになるんじゃよ」
「ありがとうございます! それにしても身体が成長しないと使えないのは何故なのですか?」
「神眼は魔眼以上に目や脳に負荷を掛けるのじゃ。身体が出来ていないうちに無理に使おうとすれば、目が耐えきれなくて破裂するか、脳が処理しきれずにダメージを負ってしまい廃人コースになってしまうぞ」
それを聞いて試してみたいと思っていた気持ちが一気に失せていった。
でもまさかあの有名な鑑定のスキルがいつか使えるようになるってわかっただけでも本当にテンションがあがる。
これさえ使えるようになれば、山菜やキノコも安全に料理出来るようになる。
キノコかぁ……
『アヒージョが食べたい』
家族とキャンプに行ったときあの世界の父さんがよく作ってくれたキャンプ飯の存在をふと思い出していると、
「私だって頑張って神器作ったのに!」
駄女神と呼ばれていたマリオン様がほっぺたを膨らませてイジケていた。
「子供か!!」
はっ!
女神様に突っ込んでしまった。
「お主がそもそもラグナ君に迷惑を掛けたんじゃからな!」
マリオン様は再び創造神様に叱られると、しゅんと大人しくなった。
見なかったことにしよう。
「それにしても久々にサリオラと会えて嬉しかったよ」
「私も。それに地上のご飯美味しかった。ありがとう」
喜んでもらえたみたいで良かった。
「まだ地上に呼べなくてごめんね」
「仕方ないよ。わかってるから大丈夫」
「そろそろいいかのぅ?」
「あっ、はい。大丈夫です」
「それじゃあ地上に戻すことにするが良いか?」
あっ!
だいぶ時間が過ぎた気がする。
前みたいに騒がれたらどうしよう。
「大丈夫じゃよ。地上では五分も時が経過しておらんから」
マリオン様の時とは違うのか。
「私じゃ、時間を遅くするなんて無理だもん」
流石、創造神様。
「いろいろとありがとうございました」
「こちらこそ、駄女神が迷惑をかけてすまんかったのぅ。では元気に過ごすんじゃよ」
「はい。頑張ります」
眩しい光に包まれて浮遊感を感じた後、ずっしりとした重力を感じた。
目を開けると祭壇の間に戻ってきていたのだった。