再会と新レシピ。
翌日の授業が始まった。
「今日は午前授業だが、昨日と同じようにまた無詠唱の練習をやるぞ」
フィオナ先生がそう言うとルーが手を挙げる。
「先生、その前に話があるんよ」
「ん? どうした?」
「昨日も授業が終わった後、寮の中で休憩しながら無詠唱での魔法の発動が何でこんなにも難しいのか皆で話し合ってたんよ」
「ほぉ、いい心掛けじゃないか」
「そんでな、魔法のイメージが大事なんじゃないかって話になって、ラグナ君にライトの魔法を出しっぱなしにして貰って皆で観察する事になったんです」
「まぁ、無詠唱は確かにイメージが大事ではあるな。間違ってはいないぞ」
「良かった。でもそん時にな、ライトの魔法一個だと皆で観察するには見にくいから冗談でもう一個だしてってラグナ君に言うたんよ。そしたらな、ほいって軽い感じでライトの魔法をもう一個『無詠唱で多重発動』しよったんよ」
ルーが昨日のことを先生にチクっていた。
ジトーっとした目で見てくる先生。
「いや、本当にたまたま出来ちゃったんですよ……」
あの後は何度チャレンジしても失敗ばかりだったし。
「私だって師匠から教わった時はもう少し時間が掛かったのに、お前って奴は……さらに多重発動か。おい、私の指導必要か?」
「必要ですよ! 無詠唱だってあの時たまたま出来ちゃっただけでそのあとは一度も成功してないですよ! それに多重発動なんて魔力制御が更に大変で、維持できる気がしませんもの!」
「当たり前だろ。その歳で多重発動なんてやったやつ初めて見たわ!」
フィオナ先生は若干呆れたような視線で俺のことを見てきたのだった。
こんな感じで今日も無詠唱の訓練が始まった。
そして午前授業が終わった後、昼食を食べて午後からは久々に学園の外へ。
皆からは午後に自主訓練をしないかと誘われたけど、ちょっと用事があると断りを入れた。
そして今ミーシャさんと共に学園の出入り口へ。
「なんか四ヶ月ぶりに外に出られると思うと少しワクワクします」
「私とははぐれないようにして下さいね」
守衛の人に許可証を見せると久々に学園の外へと出ることが出来た。
「ラグナ君!」
学園を出てすぐに声を掛けられたのでそっちを見ると、懐かしい二人が学園の前にいた。
「あっ! お久しぶりです。どうしたんですか? 学園の前で」
学園の前にいたのは王都まで一緒に護衛で来てくれた神殿騎士の二人。
「彼の方よりラグナ君を迎えに行くようにと昨夜指示があったのだ。それで今日は学園から出てくる君を迎えに待っていたんだ」
彼の方?
まさかマリオン様かな……?
「ラグナ様、この方々は?」
あっ、そうか。ミーシャさんは知らないのか。
「このお二方は、僕が王都に来るときに護衛をして下さった神殿騎士の方々です」
この二人の名前って……聞いた記憶ないや。
「初めまして。ヒノ魔法学園でラグナ様専属メイドをしておりますミーシャです」
ミーシャさんがぺこりと頭を下げると二人とも顔を真っ赤にして見とれていた。
そうだよね。
その気持ちわかるよ。
顔を真っ赤にしたままの二人に案内され馬車へと乗り込む。
そして商業ギルドの裏手に馬車が止まると、裏口から商業ギルドにある個室まで案内される。
しばらく座っていると扉がノックされて現れたのは、商業ギルド統括ギルド長のアムルさんとブリットさん。それに見たことがない女性が一人だった。
「久し振りだな。少し背が伸びたんじゃないか?」
「アムルさん、お久しぶりです。もっと大きくなるといいんですけどね。それで今日は皆さんどうしたんですか?」
「今日ラグナ君が神殿に来るという情報がはいってきてね。たまたま王都にいたから会いに来たって訳さ。ミレーヌちゃんは元気かい?」
ブリットさんは相変わらず娘のミレーヌさんが大好きなんだね。
「ミレーヌさんは元気ですよ。皆をまとめるクラスの中心的存在になっていますよ!」
「本当かい!? それはよかった! 屋敷にはミレーヌちゃんもサイもいなくてね……流石の私も寂しい気持ちでいっぱいなのだよ……」
ん?
サイさんもいない?
「サイさんはどうしたんですか?」
「サイは今ナルタ支店にいるんだ。いろいろと次の担当者と引き継ぎをしている最中なんだ。アオバ村とのやり取りも、うちの従業員と入れ替わったりもしないといけないからね。それが全て済んだらサイには王都で私の仕事を手伝ってもらうことになるんだ」
つまりはサイさんはブリットさんの跡取りとして認められたんだ。
正式に跡取りとしての教育が始まっていくのか。
もううちの村には来ないんだと思うと、少し寂しい気持ちがするけど。
まぁ、俺が村にいるときにはサイさんとの関わりなんて全く無かったんだけどね……
「次は私の番でよろしいでしょうか? 使徒様、お初にお目にかかります。商業ギルド神殿ヒノハバラ国統括をしております司教のタチアナです。本日出会うことが出来てとても光栄に思います」
司教ってことはマホッテト司祭よりも上の方って事かな?
でも何でそんなにも偉い人がわざわざ俺の前に?
「タチアナさん、初めまして。よろしくお願いします。僕にそのような言葉遣いは必要ないですよ。それに使徒様ってのもちょっと気が引けるといいますか……」
正確にはマリオン様の使徒って訳じゃないので気が引ける。
なのでふつうの子供と同じようにして下さいとお願いしてみたが、タチアナさんには無理ですとバッサリ切られてしまった。
「そういや学園の一年生は学園内から出れないはずなのによく出てこられたな」
アムルさんが言うように、普通は学園から出ることなんて出来ないのだろう。
「ちょっと商業ギルドに用事が出来たというか何というか……」
「うちにか? どうした?」
うーん皆がいる前だけど、偉い人達だけだからいいのかな。
「新しいレシピを思いついたので登録にと」
俺がそう話すと、ちょっとざわざわする皆。
「そうしたら私達は一度退出した方がいいね」
ブリットさん達が退出しようとしたのだけど引き止める。
「本当に簡単なものですし、こんな事で登録されるのかと疑問がありまして……その前に皆さんに紹介しますね。こちらにいるのは学園での僕専属メイドのミーシャさんです」
「皆様、初めまして。この度、ラグナ様の専属メイドとなりましたミーシャです。まさかこのように有名な方々とラグナ様がお知り合いだとは知らずに驚くばかりです」
綺麗な動作でぺこりと挨拶をするミーシャさん。アムルさんなどはその動きをみてほぅと感心しているようだった。
「ミーシャさんに登録を勧められてここに来たんですけど……アムルさん、紅茶の茶葉と牛乳ってすぐに手に入りますか?」
「紅茶の茶葉と牛乳ならギルド併設の食堂にあると思うぞ? いるか?」
「出来れば用意して欲しいです。ミーシャさん作って貰えますか?」
アムルさんに紅茶の茶葉と牛乳を用意してもらった後はミーシャさんにミルクティーを作ってもらう。
「これがミルクティーです。皆さんどうぞ」
「こ、紅茶に牛乳を入れるのか!?」
この組み合わせにアムルさんが驚いているって事は本当に知られていないのか……
普段飲んでいる紅茶とは違う色、そして香りに驚きながらも恐る恐る口をつけていく。
「これはうまいな」
「ミルクと紅茶がこんなにも合うなんて盲点だったよ」
「甘くて飲みやすいですわ」
手応えは良さげ。
「どうでしょう?」
「登録は出来るだろうが……商売としてはどうだろう……」
ブリットさんの言う通り。
紅茶って家でも飲むからな。
模倣されたとしても自分達で飲む分には使用料を払う必要が無いので、特許に登録したとしてもあまり稼げないとは思う。
「これはうちでレシピ登録とメイドギルドに話を持っていくことにする。もしかしたらメイドギルドがレシピを欲しがるかもしれん。レシピについてはとりあえず非公表にしておくぞ」
アムルさんの言う通りに登録することになった。
書類を書いた後はタチアナさんに連れられて神殿へと向かうことに。
どうやらマリオン様からの神託があって、わざわざ俺に会いに来てくれたらしい。