皆と仲良く。
あれからほぼ毎日教室で無詠唱での魔法の練習を行っていた。
まずは詠唱短縮から。
「まずは最初の『光よ』の部分だけを頭の中で詠唱。残りは声に出して詠唱して魔法が発動するように練習だな」
これがなかなか難しい。
最初の一ヶ月の間はライトの魔法が教室のあちこちで暴発。
そのたびに目がチカチカしていた。
オマケにずっと教室内で魔法の詠唱をしているので、帰る頃には魔力がスッカラカン。
ゾンビのようにフラフラとしながら寮まで帰ることもしばしば。
入学してしばらくは上級生の先輩達から特級組の面汚しと呼ばれたり、同級生から絡まれたりもしていたが、最近ではほとんど絡まれることも無くなった。
まぁ授業でも訓練所には全く行かなくなり、ひたすら教室で練習の日々を送っていた。
訓練所に姿を現さない俺達に対して、もう諦めたんだろうという声や担任があれだからなとフィオナ先生をバカにするような発言も目立った。
そんな日々を過ごしながら俺達はひたすら訓練を重ねていく。
徐々に詠唱を削っていき、練習開始から二ヶ月。
ようやく詠唱短縮、つまり魔法名を唱えるだけで魔法が発動するようになってきた。
「ようやく形になってきたな。成功率はだいたい七割ってところか」
完璧とはいえないが生徒により多少上下はあるものの、全員がある程度まで出来るように成長する事が出来た。
しかし問題もある。
「まだ歩きながらの発動が出来ないんですけどね」
そう、成功率七割っていうのは棒立ちで詠唱した場合。
歩きながら詠唱短縮で魔法を発動させるというのがさらに難しい。
以前のように魔法を詠唱してもいいなら、動きながらでも走りながらでも発動させることは出来るようになってきていた。
「まぁそれは仕方ないだろう。そんなに簡単に出来るもんでもないからな。どうせ試験は棒立ちのままなんだ。とりあえずはこのままでいいだろう。そろそろ無詠唱の訓練に進むぞ」
そして試験まで残り二ヶ月。
詠唱短縮から無詠唱への訓練に移行した。
「最初は頭の中で詠唱して魔法を発動出来るように練習だ。最終的には一瞬で魔法をイメージして発動出来れば完璧だな」
それからまた訓練の日々が始まる。
ライトって言葉を言わないだけでここまで難易度があがるなんて……
「眩しいっ!」
「キャッ!」
「うわっ!」
再び暴発による眩しい日々が始まったのだった。
「今日も疲れたなぁ」
今日も授業が終わった後はすぐに寮に戻る。
「誰かさん以外はずっと限界まで魔力使ってるからな」
「せやねぇ。あれだけ授業で魔力使ってるのに寮に帰っても魔力循環法やる魔力が余ってるのはラグナ君だけやもんなぁ」
最近は皆で庭に集まって魔力循環法をやる魔力すら余ってないほどギリギリまで使い切っていた。
ただ一人の人物を除いて。
皆が庭で魔力循環法をやっているラグナを寮の窓越しに見つめていた。
「最近またあいつ魔力量増えてるだろ」
「あんなんに追い付けるかよ。もはやばけもんだろ」
「それは言い過ぎですよ、シャール君。それに私達だって魔力量はかなり増えてるじゃないですか」
「そりゃまぁ……そうですけど……」
相変わらずシャールはミレーヌに対して弱かった。
テオはピリッとした空気を読んで話をすり替える。
「そ、それにしてもなんでライトって言葉を言う、言わないってことだけでこんなにも難しいんだろうね?」
たかが言葉を言う言わないで難易度がここまで跳ね上がるとは想像していなかった。
「言葉に出すと頭の中でイメージし易いからじゃないか?」
「せやね。言うと言わないでイメージの濃さは違うと思うわ」
「……なら魔法をずっと見てその形をきちんと正確に覚えたらイメージしやすいかも?」
「確かに。やってみる価値はあるね」
「でも、長時間魔法維持する魔力なんて、私達にはもう無いよ?」
「いや、一人いるじゃん。外で魔力循環法やるほど魔力が有り余ってる魔力バカが」
室内で休憩している全員が改めて窓の外を見ると一人の少年が視界に入ってきた。
俺は最近、授業が終わった後は寮の庭で一人ぼっちで魔力循環法をやっている。
授業でガンガン魔力を消費してるからクラスの皆が参加するほど魔力が残ってないのは仕方ないとは思うけどちょっと寂しい。
自分自身でも思うけど、最近また魔力量が物凄く増えてる気がする。
ギリギリまで使い切るのがかなり厳しくなってきた。
「ラグナ君~」
名前を呼ばれたので振り向くと俺を呼んだのはミレーヌさんだった。
「どうかしたの?」
「ラグナ君に協力してもらいたいことがあるんですけどいいですか?」
「大丈夫だよ。何をすればいい?」
「それは寮の中で説明しますわ」
ミレーヌさんに連れられて向かった場所は寮の中にある休憩所だった。
「皆さん、お待たせしました。ラグナ君が来て下さいましたわ」
皆が椅子に座って寛いでいた。
「ミレーヌさんに呼ばれてきたけど、どうしたの?」
「ラグナ、まだ魔力量に余裕はあるか?」
ウィリアムが質問してくる。
まだまだ半分くらいは余ってる気がするな。
「まだ余裕だけど。それがどうかした?」
「なら良かったわ。ラグナ君にお願いがあるんやけど……ベティーが」
ベティーが俺にお願い?
珍しいな。
「俺にお願いって?」
ベティーの表情を見ると驚いているのか、目を見開いていた。
「……ルーに嵌められた。でも言い出したのは私だから仕方ない」
一瞬ベティーがルーを睨むとルーは舌を出して笑っていた。
嵌められたとは一体……
「ラグナ君、ライトの魔法を発動したらそのまま維持して欲しい」
「ライトの魔法を? まぁ、いいけど……急にどうしたの?」
何か思い付いたのだろうか?
「無詠唱の魔法は今までとは比べものにならないくらいイメージが大事な気がする。だからライトの魔法をよく見て観察して目に焼き付けておきたい。でも、私達だと長時間維持できるほどの魔力はもう残ってない。だから魔力に余裕があるラグナ君には魔法を維持して私達の前で発動しておいて欲しいの」
イメージを焼き付けるか。
確かにそういわれてみたら、それはとても大事な気がしてきた。
「いいよ。僕も自分で観察してみるよ」
皆が俺を中心に半円に椅子を置いて座る。
「それじゃあ行くよ。『ライト』」
ライトの魔法が発動して目の前に光の玉が現れる。
じっと皆で光の玉を見つめる。
「悔しいがやはりラグナが一番安定して魔法が発動してるな。見ているとよくわかる。僕が発動した時に比べて光の揺らぎが少ない」
「せやな。悔しいけど、自分との差がよう分かるわ」
皆が俺の魔法をじっと見てる。
「ちょっと皆近くない?」
「だってよく観察するには近寄るしかないからね」
「むー、よく見えない。こっちにも出してよ、ラグナ君」
「そっちにも? いいよ、ほれ」
二つ目のライトの魔法を皆の目の前に出した。
…………
目の前には二つ目の光の玉が浮かんでいた。
はっ……?
「「あー!!」」
「えっと……無詠唱で出来ちゃったみたい?」
「出来ちゃったじゃないわ! しかも二つ同時に発動しとるんよ!」
皆が騒いでいるけど一番驚いてるのは俺だから。
「冗談でこっちにも出してよって言っただけなのに。なんでほれなんて軽い感じで二個目を発動出来てるの!」
はいよって感じで返事をしながら魔力を込めたら無詠唱でもう一個ライトの魔法が発動してしまった……
「ラグナ、しかもお前、魔法の多重発動してるんだぞ?」
知ってる。起動した直後から魔力の制御が大変。
話をするのも正直キツいくらい。
すぐに魔法を止める。
「あぁ、びっくりした。無意識にやっちゃったけど、まさかこんな事になるなんて思わなかった」
本当にびっくりして、今になって心臓がドキドキしてる。
出来た嬉しさよりも驚きの方が勝っている。
「何がびっくりしたや。驚いたのはウチらや! 何簡単に出来てんねん! しかも多重発動まで! ぶっ壊れも大概にしーや!」
「多重発動だって本当にたまたま出来ちゃったんだよ! しかも発動してから初めて気がついたけど、多重発動は本当にヤバい。魔力制御が全然うまくいかない。気を抜くとすぐに暴発しそうになったし、魔力の消費量も桁違いに多い」
「……ラグナ君、無詠唱はどうやったの?」
「どうやったって言われても……もう一個って言われたから返事をしながらほいって魔力を流したら出ちゃっただけで……」
自分でも何で出来たのかよくわからない。
皆にもう一回やってみてと言われたのでチャレンジしてみたけど普通に暴発した。
「「目がぁぁぁぁぁ!!」」
目を押さえながら転がり回るルーとシャール。
その後もチャレンジするけど暴発の連続。
「何でさっきは出来たんだ……」
「本当にたまたま出来たんかいな」
何でさっきは出来たのに今度はうまく行かないんだ。
「……私がライトの魔法を出すからもう一度チャレンジしてみて」
「ベティー、魔力は大丈夫なの?」
一回くらいならとこくりと頷く。
「……ライト」
ベティーがライトの魔法を発動させた。
俺はそれを見ながら魔力を流してもう一個隣にライトと意識する。
するとすぐに変化が現れた。
ベティーが発動したライトの隣に俺が発動させたライトが現れた。
「出来た……」
ベティーはすぐに魔法を止める。
「やっぱり無詠唱はイメージが大事なのかもしれない……」
「ですわね。その可能性が大きい気がします」
「明日、先生に聞いてみましょ!」
今日は解散となり皆それぞれの部屋に散っていく。
俺はどうしようかな。
まだまだ魔力に余裕があるし……
椅子に座ったまま悩んでいると、ミーシャさんがいつの間にか隣に来ており、紅茶を入れてくれた。
どうぞと言われたのでカップを手に取り香りを楽しむ。
「物凄くいい香り。新しいのが手に入ったの?」
「新しく入荷した新作らしいですよ。どうでしょうか?」
一口飲む。
「これ美味しい。苦味が少し控えめですっきりして飲みやすいよ。ありがとう。あっ、そうだ。ミーシャさん、牛乳ってあったっけ?」
牛乳があればあれが作れる。
「牛乳ですか? 冷やした状態のものなら確かありましたけど……」
この茶葉なら合いそうだ。
「牛乳を人肌くらいに温めてもらえますか?」
ミーシャさんにお願いして牛乳を温めてもらう。
「お待たせしました」
「そうしたら何時もよりちょっと濃いめで紅茶を入れて下さい」
そして何時もより濃いめで紅茶を入れてもらう。
カップの半分より上くらいで止めて砂糖を溶かした後に人肌くらいの温度の牛乳を注ぐ。
「紅茶に牛乳を……」
ミーシャさんの目が驚き見開いている様子。
俺はカップを手に持つと香りを楽しむ。
牛乳の甘くいい香りが広がっていく。
一口飲む。
『懐かしいなぁ。甘くて飲みやすいミルクティーだ。キャンプでいつかやろうと思って作り方勉強しておいて良かった。これならロイヤルミルクティーも作れそう』
視線を感じたので振り向くとミーシャさんが驚いた表情でじっと俺を見つめていた。
「ミーシャさんも飲んでみます?」
ついつい今口をつけたばかりのカップを手渡してしまった。
でもミーシャさんはそんな事を気にすることなくそのまま口をつけてミルクティーを一口飲んだ。
あっ……間接……
意識してしまったので急激に顔が赤面する。
ミーシャさんはごくごくと紅茶を飲み干した。
「ラグナ様、これは……」
ヤバい気がつかれたかな。
怒られる前に謝ろう。
「ミーシャさん、ごめん! つい僕が口をつけたカップを渡しちゃって!」
「い、いえ……それは私も気がつかなく……」
あれ? ミーシャさん、気がついてなかったの?
「わ、私は気にしてませんので大丈夫です」
ほのかにミーシャさんも顔が赤くなってる気がする。
「そ、それよりも……このような紅茶の楽しみ方があるなんて私は知りませんでした」
えっ……?
ミルクティーって無いの!?
「そ、そうなんですか?」
「メイドギルドでは教わりませんでしたし、長年メイドとして働いてきましたが、このような楽しみ方は初めてです」
まさかミルクティーも広まってないのか!?
初代勇者って本当にあの世界の知識を中途半端に広めたり広めなかったり……
国王になったんだから技術開発すれば良かったのに!
「そ、そうだったんですか。楽しんで貰えたようで何よりです」
「こちらはラグナ様が考案なされたのですか? レシピ登録などされているのでしょうか?」
考案というか前世の世界であったと言うか……
それにレシピ?
「い、いや。まだ登録なんてしてませんよ」
ミーシャさんがずぃっと顔を近づけてくる。
「でしたらこちらは確実に登録した方がよろしいと思います。これは絶対に流行ります」
すっと顔が離れていく。
「そうかな……でも、僕は一年生だから学園を出れないよ?」
「私にお任せ下さい」
笑顔に迫力があるな。
「そ、それならミーシャさんに任せます」
そう言うとテキパキと後片付けをして失礼しますと立ち去って行った。
また一人ポツンとしてしまったので部屋に戻り魔力循環法を夕食の時間まで取り組んだ。
夕食の時間にはミーシャさんは寮に戻っていた。
そして寝る前の時間にミーシャさんが部屋に入ってきた。
「ラグナ様、明日は半日授業ですが午後に予定などはありますでしょうか?」
「いや、特に予定は無いけど……」
「では明日の昼食後に王都の商業ギルドへと向かいませんか? 特例として外出許可の申請が通りましたので」
特例?
「あの、特例とは?」
「コレットさんに相談したところ、学園長まで話を通して頂きまして。ラグナ様の場合は特例として外出を認められました。神殿からもラグナ様が外出許可を求めた場合は許可して欲しいと事前に通達が来ていたようです」
そうして明日は午前中授業を受けた後午後から商業ギルドへと行くことが決まった。
ちょっと話したいこともあるしマリオン様に会えるといいんだけど。