練習前にお勉強。

「今日から無詠唱での魔法の発動の練習をするぞ~」

魔法の練習と言われても……今現在いる部屋は教室。

「せ、先生? 教室では生徒の魔法の発動は禁止なのでは……」

ミレーヌさんが今日も俺達の代弁をしてくれた。

「あれは火事などの事故が起きたら困るからだろう? それなら大丈夫だ。今日からお前たちが練習するのはライトの魔法だからな。ライトなら暴発しても、眩しいって感じるくらいだ。爆発しなきゃいいだろ」

確かに教室が破損したりはしないんだろうけど……

ルールでは教室内での魔法の発動は禁止されてるから微妙なところじゃないか。

「まずは各自でライトの魔法を発動してみろ」

フィオナ先生がいいと言うのだから俺達は覚悟を決める。

詠唱するとライトを発動させる。

多少明るさに上下があるが、全員がポワッとした光を発動させることが出来た。

「よし。次は少し声量を下げて、ぼそぼそっと話す感じで詠唱してみな」

声を小さくしながらみんな詠唱していく。

「あれ?」

「うまくいかない」

「私もだ」

たかが声を小さくしただけで、うまく魔法を発動することが出来なかった。

俺は魔法の発動自体は出来たけど、いつもよりも暗い光の玉が浮かんでいた。

「発動出来たのは一人だけか。まぁ、おまえの場合は若干魔力のごり押しっぽいけどな。それじゃあ問題だ。なんで発動出来なかったか、わかる奴いるか?」

声を小さくしただけでうまく発動しない理由……

なんでだ?

「適当でも何でもいい。とりあえず答えてみろ。クララ、言ってみな?」

クララが先生に指名される。

「こ、声の音量で魔力が上下するとか……?」

「そう思ったのか? それならクララ、いつもより大きな声で詠唱してみるがいい」

「えっ? ここでですか……?」

「なんだ、恥ずかしいのか?」

「流石にちょっと教室で大声で叫ぶのは……」

「大丈夫だって。ウチのクラス以外は朝から外で訓練場の使用申請が出されていたから居ないはずだ」

「わかりました……それならばやります」

クララは圧力に観念したのか、ふぅとため息を吐く。

そして「いきます」と言うと、大声で詠唱を始めた。

「光よ! 我を! 暗闇から救いたまえ! ライト!」

大声というよりも叫びだな。

そして魔法が発動する。

「あ、あれ?」

発動した光の玉は見るからに小さく、明るさも低い。

更に明滅しており、とても不安定な状態で魔法が発動したのだった。

「クララ、なんでこうなったのか、わかるか?」

クララは首を振る。

「わかりません……本当になんでだろ。さっきはちゃんと発動出来たのに……」

皆も理由がわからなく首を傾げている。

「それじゃあ、なんでクララが発動に失敗したか説明しよう。それは魔法発動前の意識の違いだ」

「「意識の違い?」」

「あぁ、魔法を発動する際の意識の違いがこの結果に現れたんだ」

意識の違い……

「最初普通に詠唱した時は何を考えながら詠唱した? ラグナ、答えてみろ」

何を考えながら?

「ライトの魔法が発動したときに出る光の玉を想像しながらですけど」

うんうんと先生が頷いている。

……正解かな?

「皆も多少は違いがあるだろうが、ライトの魔法が発動した時の状態を想像しながら詠唱しただろう?」

生徒達が頷く。

「ならば、さっきのぼそぼそした声で詠唱した時はどうだった?」

まずは小さい声で……

「あぁ、そうか。最初に何時もより小さい声でって意識してから魔法を詠唱してた」

「確かに僕もそうだ」

「私も。小さい声でってことばかり考えてた」

「つまりだ。ライトの魔法の前に小さい声でってイメージが先行してた訳だ。さっきクララが叫んだライトも同じだ。大声を出すことにばかり意識が向いてしまったから、不安定な状態で発動した。まぁ普通は発動する事すらしないんだよ。お前たちの場合は魔力操作の能力を獲得したからな。そのスキルがサポートしてくれたから何とか不安定な状態でも発動する事が出来たんだ」

「ってことはつまり……魔法の発動は意識が大事ってことですか?」

フィオナ先生がニコッと笑ったので、どうやら正解だったらしい。

「あぁそうだ。つまりこれが無詠唱へと繋がっていくんだ。詠唱っていうのは、いわば魔法のイメージを言葉にして思考のサポートをしているような物なんだ。口に出して言えば意識しやすいだろう? 例えばライトの魔法はこうだ。『光よ』、最初のこの言葉で魔法の属性のイメージが出来る。そして次の『我を暗闇から救いたまえ』、この詠唱で暗闇を照らす光の玉を想像出来るだろう? ようは今現在暗闇の中にいるから周囲を照らす照明が欲しいって希望を魔力によって具現化させるんだ」

つまり、魔法発動時のイメージが一番大事ってことか。

「まずはライトの魔法の詠唱についてだが、『光よ、我を暗闇から救いたまえ』までを頭の中だけで思い浮かべながら詠唱して、最後の詠唱であるライトの部分だけを口に出して魔法の発動が出来るように訓練だな。これが詠唱短縮って奴だ。見てろ。『ライト』」

先生がライトとだけ詠唱すると光の玉が浮かび上がる。

「今のが詠唱短縮だ。これならば無詠唱に比べてになるが、若干魔法の威力があがり魔力の消費量も通常の一・二倍程度で済む。戦場などで使われるのは主にこっちが多いな」

戦場では遠距離からの攻撃には詠唱を行い魔法を発動させる。

しかし奇襲や騎士達の間をすり抜けてきた敵を迎撃するにはいちいち詠唱していたら発動が間に合わない。

そこで開発されたのが詠唱短縮。

最後のトリガーである魔法名のみを読み上げるだけで魔法が発動する。

「詠唱短縮にも欠点はある。何かわかるか?」

何だろう。

接近されてから反撃するために生まれた魔法に欠点?

ミレーヌさんと目があったけど首を振っている。

うーん。

魔法名のみを詠唱……

あぁ、そうか!

「魔法名を詠唱しちゃうから、相手にどんな魔法を使われるのかバレちゃうのか!」

「そうだ。それが欠点。目の前の魔法師がファイアーボールなんて唱えたら、騎士であれば対処など容易い。わざわざ丁寧に今から使う魔法を教えてくれるんだからな」

今からファイアーボール使いますよーって敵に教えていたら意味ないよな。

だからこその無詠唱なのか。

「そこでさらに戦闘に特化した技術が無詠唱なんだ。無詠唱ならば、たとえ敵に接近されたとしても、相手に向けて反撃する事を気が付かれることなく魔法が発動出来る。まぁ仮に倒せなかったとしてもそれ以上接近出来ないように牽制くらいにはなるからな。戦場ではこれが出来るか出来ないかで生死が変わってくる。撤退戦でもない限り、無理して接近してきた騎士を一人で倒す必要なんて無いんだ。時間を稼げれば稼げるだけ味方が助けにきてくれる可能性もあがるんだからな。しかし苦労して無詠唱で魔法を発動出来るようになっても、消費魔力は多いし威力は下がっているので、現状は無詠唱を覚えない魔法師がかなり多いんだ。詠唱短縮で充分だってな。自分の引き出しが多ければ多いほど生き残れる確率は上がるっていうのに」

威力が低いから覚えないって魔法師が多いのか。

引き出しが多ければ多いほど生き残れる確率があがるっていうのには納得だよ。

「ちなみに無詠唱で発動した魔法を使って騎士を倒す方法も無いわけではない」

無詠唱だと威力が減衰するから、騎士達には嫌がらせ程度にしかならない……

それをどうやって威力を上げるんだろうか?

「ファイアーボール」

先生が詠唱短縮で詠唱した魔法名はファイアーボール。

しかし、発動した魔法を見て俺達は驚いた。

「なんで??

目の前に現れたのは火の玉ではなく光の玉。

つまり、ライトの魔法だった。

「これが接近してきた騎士を倒せるかもしれない方法って訳だ。口では他の魔法名を唱えて詠唱短縮でその魔法を発動すると思い込ませて、実際には無詠唱で違う魔法を発動する。一回っきりの騙し技って奴だ。接近されているのに、詠唱短縮をした時点で魔法師としては二流だと敵に勘違いさせて油断させる。そして違う魔法を放つとこれが面白いように決まるんだ」

確かに初見でそれをやられたら騙されるだろうね。

「そういえば、先生は戦場で敵に接近されたことがあるんですか?」

「そんなん数え切れないくらい多いぞ。私が軍にいたときの肩書きを知っているのもいるだろう?」

先生の肩書き……

確か……

第二魔法師団特攻隊長……

「魔法師なのに特攻……よく考えてみたらこの名前は魔法師としては変ですよね。魔法師なのに特攻って……」

基本的に魔法師は後方から魔法をぶっ放して騎士を援護するのがメインのはず……

特攻ってことは自ら前線に突き進んでいるってこと?

「私がいた部隊名が何故特攻部隊だったのかというと、騎士団の騎馬隊と共に魔法師も馬に乗りこんで一緒に突っ込んでいくからだな」

魔法師が馬に乗って突っ込んでいく……?

「先生が隊長になってから兵の損耗率が下がったと伺ったことがあるんですが……特攻部隊。つまり敵に向かって突っ込んで行く役目があるのにもかかわらず、損耗率が下がるって変ですよね?」

「なんでそう思うんだ?」

「だって前線ですよ? 敵に接近するってことは、それだけリスクが高くなるのに何故損耗率が下がるんですか?」

矛盾してる。

普通なら接近してるんだから死ぬ確率だって増えるはず。

それが損耗率が下がるなんて意味がわからない。

「そんなん簡単だ。騎士と共に敵に接近している分、魔法の射程に入るんだぞ? まだ魔法は届かないと油断している敵を狙うには充分だろ。馬に乗りながら部隊全員で範囲魔法をぶっ放すとたまらないぞ。魔法はまだ来ないから、これから敵に突っ込むぞって意気込んでいる奴らの鼻っ柱をぶん殴れるんだからな。相手の出鼻をへし折ってからうちの騎士が突撃する。それが私のいた部隊の役目だった」

魔法師がわざわざ馬に乗って接近してくるなんて考えつかないよな。

前線の出鼻をへし折った後は魔法が届かないと奥で油断している部隊に対して、魔法をぶっ放した後に後方へと帰還するらしい。

敵に嫌がらせをして敵陣を荒らすだけ荒らしたら後方へと立ち去るなんて嫌がらせ感が半端ないな。