ひたすら訓練。
ヒノ魔法学園に入学してから二ヶ月が経過した。
俺達、特級組はこの二ヶ月ひたすら自身の魔力操作の基礎練習、帰宅後は魔力循環法の訓練のみを続けていた。
そんな中時折、他のクラスでは
『今日はこんな魔法を教わった!』とか『今日は新しい魔法を発動出来た!』とかわざと俺達に聞こえるように話をする生徒が増えてきた。
更には『特級組の癖に未だにそんな無駄な訓練なんかやってるのかよ』と煽るような陰口も増えた。
だが俺達にはどうすることも出来ない。
フィオナ先生がそう指示してるから。
本当にこの二ヶ月間は、魔力の発動や操作の基礎練習しかやることを許されなかった。
魔法の発動は絶対にやるなと強く止められていた。
ここ数日は授業が終わった後は自然と皆で集まって特級寮の庭に座り込んでは、ひたすら魔力循環法を行うようになっていた。
何故皆で庭で集まって訓練をしているのか。
その理由は簡単。
外に出掛けると他の組から魔法の進捗度をバカにされ絡まれることが増えたから。
最近では買い物に行くことすら困難になり、各自の担当メイドさん達に頼んでいるくらい。
ある意味引きこもり状態だ。
気分転換にと外へと出歩くと、
『特級組のクセに未だに基礎しか教わっていないのかよ』
とよくバカにされたりする。
『特級組じゃなくて実は落ちこぼれ組なんじゃないのか?』
というバカにしたような罵声を受けたりもする。
でも俺達には反抗することすら許されない。
フィオナ先生からは、
『言いたい奴には言わせておけ。シカトだシカト』
と言われているからだ。
しかし、一度だけシャールが我慢出来ずに他のクラスの生徒と揉めてしまった。
結果、せっかく伸びてきていた前髪+頭頂部を再びチリチリにされる刑が翌日執行された。
そんな奴らと絡む暇があるならひたすら訓練していろとありがたいお言葉を先生から頂いた。
「ふぅ、とりあえずこんなもんかな」
今日も皆との自主トレが終了した。
視線を感じるので周りを見渡すとクラスメイト皆から見られていた。
「相変わらず馬鹿げた魔力してるな。もう皆とっくに限界で休んでるぞ」
なんだ。だから皆見てたのか。
「そりゃ、こちとら五歳から訓練してるからね。そう簡単に追い付かれる訳にはいかないよ。でもウィリアムも最初に比べたらかなり訓練時間が伸びたんじゃない?」
最初の頃は俺に対して厳しい態度をとるウィリアムだったが、ここ最近は一緒にいる機会が増えてきた。
「あぁ。それは確かに実感出来るな。僕だけじゃなく皆も魔力量は増えてるんじゃないか? まぁ先生から魔法の発動は禁止されてるから具体的にどの程度増えたのかはわからんが」
俺達は現在、魔法を発動すること自体禁止されている。
許可されているのは魔力の発動と操作だけ。
手に魔力を集めて球にする。
それを反対側にも。
「二ヶ月間ずっと魔力操作とかしてたからこういうのは簡単に出来るようになったんだけどねぇ」
両手以外にも両足の指先に魔力を集めて球を作り出す。
そして頭上にも。
「なんや、ラグナ君はもうそこまで出来るんかいな」
「悔しい。まだそこまで出来ない」
「……両手がやっと」
「私もですわ」
この二ヶ月間。
特級組の皆と放課後に庭で一緒に訓練しているので皆それぞれ打ち解けて仲良くなっていた。
シャールだけは相変わらず、俺のことが気に入らないみたいだけど……
でも最初に比べたら話し掛けてくるようにはなってきていた。
「それにしても、いつになったら魔法を使わせてくれるんだろう?」
「じゃあ試しにラグナが使ってみろよ」
「やだよ、シャール。君みたいにはなりたくないもん」
そう言いながら、チリチリになった髪型を見て思わず笑ってしまう。
「君みたいって言うな!」
「まぁ、シャール君落ち着きなよ。ラグナ君も煽ったら駄目だよ!!」
俺とシャールが言い合いになる前に最近ではテオが止めてくれるようになった。
そんなじゃれ合いをしながらちらっと時計を見ると、そろそろ夕食の時間だ。
「あっ! あと一時間で夕食の時間だ! ご飯の前にシャワー浴びてこなきゃ。セシルちゃん行こう!」
「わかったわ。行きましょう」
最初はオドオドしていたシーヴァさんだったが、今では普通にクラスメイトと話せるようになっていた。
しかも意外なことにシーヴァさんと一番仲がいいのがセシル。
最初は気が強い女の子だなぁって思っていたけど……
どうやらそれは家の教育によるものだったらしい。
なんでも親が軍人らしく厳しい躾だったそうな。
「ウチもさっぱりとしようかな~」
「私も。今日は新しいシャンプーが届きましたの」
「あっ。もしかしてエチゴヤの新作?」
「そうですよ。使ってみます?」
「えぇの? それじゃあ使ってみたい! 楽しみやわぁ」
女性陣はワイワイと騒ぎながら部屋へと戻っていく。
「僕達も戻ってシャワーでも浴びようか」
男性陣も各自の部屋に戻り各自でシャワーを浴びる。
そして次の日。
今日も先生の前で基礎練習。
全員が安定して両手に魔力の球を発生させたまま三十分維持する事が出来るようになっていた。
「おーし、止め!」
何時もならばまだまだ練習が続いているはずなのだが……
突然止められた事に戸惑う俺達。
「皆安定して魔力を維持できるようになったな」
フィオナ先生がニッコリと笑っており、なんだか物凄く機嫌が良く見える。
「まずはこの二ヶ月、地道に地味な訓練でもある基礎練習のみをひたすら叩き込んできたが、周りからの悪評にも耐えてよく我慢したな」
まさか先生に褒められるとは思ってもいなかった。
クラスメイトのみんなも突然の褒め言葉にポカンとしている。
「各自、入学直後の鑑定結果は憶えているか?」
シーヴァが鑑定魔法を使えるので先生はクラスメイトを片っ端から鑑定させていた。
入学初期鑑定結果
ラグナ
※※※※の加護 マリオンの加護 以下不明
シャール
初級風魔法
ウィリアム
初級光魔法
テオ
協力魔法 初級土魔法
ミレーヌ
審問鑑定魔法 初級闇魔法
ルー
協力魔法 初級土魔法
セシル
初級風魔法
ベティー
初級闇魔法 初級召喚魔法
クララ
初級土魔法
シーヴァ
鑑定魔眼 初級光魔法
「とりあえずシーヴァ、自分を鑑定してみろ」
「わ、私からですか?」
「なんだ? 久々過ぎて魔眼の使い方なんて忘れたか?」
「い、いえ。大丈夫だと思いますが……」
そういうとシーヴァは魔眼を発動して自分の手を見つめる。
すると何かに驚いたのか目を見開いていた。
「先生、これは……」
「正直に見えたことを教えてあげな」
「わかりました……シーヴァ 鑑定魔眼 初級光魔法 魔力操作 魔力効率アップ 以上です」
「よし、きた! 思った通りだ! よく頑張ったなシーヴァ! どうだ? 久々に魔眼を使った感想は」
「自分でも驚くほど疲れてません。たぶんこの調子ならクラス全員を鑑定出来ると思います」
その言葉にクラスメイト全員が驚く。
入学当初は頑張っても連続しての鑑定は二人で限界だった。
それ以上は魔力がもたない。
それがたった二ヶ月。
二ヶ月間地道に基礎訓練を毎日続けただけでこんなにも鑑定結果に変化が現れるなど、誰が想像出来ただろうか?
『まじかよ。毎日基礎訓練続けただけでこんなにも変わるのか?』
シーヴァの鑑定結果に驚くラグナ。
「それじゃあシーヴァ、全員鑑定出来そうなら頼むわ。無理だけはするなよ?」
「わかりました。やってみます」
それからシーヴァは次々とクラスメイトを鑑定していく。
現在の鑑定結果は以下の通り。
ラグナ
※※※※の加護 マリオンの加護 ※※※により非表示
シャール
初級風魔法 魔力操作 魔力効率アップ
ウィリアム
初級光魔法 魔力操作 魔力効率アップ
テオ
協力魔法 初級土魔法 魔力操作 魔力効率アップ
ミレーヌ
審問鑑定魔法 初級闇魔法 魔力操作 魔力効率アップ
ルー
協力魔法 初級土魔法 魔力操作 魔力効率アップ
セシル
初級風魔法 魔力操作 魔力効率アップ
ベティー
初級闇魔法 初級召喚魔法 魔力操作 魔力効率アップ
クララ
初級土魔法 魔力操作 魔力効率アップ
シーヴァ
鑑定魔眼 初級光魔法 魔力操作 魔力効率アップ
「よし、よし。ラグナ以外は魔力操作と魔力効率アップを覚えたな。本当によく我慢したな」
フィオナ先生が笑顔で皆を褒めている。
「僕だけがわからない……」
相変わらず俺だけは鑑定結果が加護以外不明のままだった。
でも今回は不明だったのが※※※により非表示っていう表記に変わっていたって事はシーヴァの鑑定の精度が上がったって事なのだろうか?
でも非表示って表記で正直助かった。
スパイス召喚やらなんやらが表示されると困るからね……
それに※※※って三文字でこんな事も出来る存在なんてあの方しかいないだろう。
「よーし、お前ら。全員一列に並べ!」
俺達は先生の指示に従って一列に並ぶ。
目の前にあるのは十個の的。
「このクラスには初級火魔法が使える奴はいなかったよな。ちょうどいい。全員ファイアーボールの詠唱はもちろん覚えているよな?」
ファイアーボールの詠唱は授業で習った。暗記もしてある。
でもなんで突然そんなことをいうのだろうか?
「それじゃあ全員、ファイアーボールを発動させて目の前にある的を狙ってみろ」
「「えっ!?」」
全員が先生の一言に唖然とする。
「さ、流石に今まで成功したことが無い属性の魔法を急に使えと言われましても……」
ミレーヌさんが皆の気持ちを代弁してくれた。
「いいから。私のことを信じて言われた通り発動してみろって」
俺達がさっさと言われたように動かないので、フィリス先生の目が若干据わってきている。
流石にこれ以上逆らうと髪の毛が犠牲になりかねないので皆で慌てて杖を構える。
「「「火の球になりて貫き焼き尽くせ、ファイアーボール」」」
十個の火の玉が杖の先に現れた。
そしてそれぞれが杖を前に向かって振るうと、火の玉は的に向かって飛んでいく。
火の玉は的に着弾。
小さな爆発と共に的が十個全て地面に倒れている。
…………
この異質な光景にあまりにも驚いてしまい思考が停止する。
全員が一発成功って意味がわからん……
「やはりな。師匠は間違っていなかったんだ!」
フィオナ先生は全員が魔法の発動に成功したことでとても喜んでいるようだ。
生徒達も停止していた思考が動き出す。
「せ、成功した……」
「ここまできちんと発動するなんて……」
「今のは協力魔法やない。ウチの力だけで発動出来たんや……」
この二ヶ月間は生徒達にとってはとても辛い日々だった。
下位クラスはどんどん先へと授業が進むのに、自分達だけはずっと基礎練習。
でもフィオナ先生には決して逆らうことが出来ないので、指示に従うしか選択肢は残されていなかった。
辛かった日々が今こうして報われた。
「お前たち本当に、二ヶ月よく耐えたな」
フィオナ先生は一人一人褒めながら頭を撫でていく。
「先生は全員成功する事をわかってたんですか?」
「確定ではなかったがある程度はな。実は、この修行方法は私の師匠が編み出した物なんだ」
「先生の先生ってことですか?」
「あぁ。話せば長くなるけどいいか?」
皆で「はい」と返事をする。
するとフィオナ先生は優しい顔つきで過去を話し始めた。
「師匠はシーヴァと同じ鑑定魔眼持ちでな。元々は軍人で第二師団の隊長の一人だったらしい。年齢を重ねて引退。引退後は経済的に困窮している家庭の子供達に無料で学問を教えたり魔法を教えたりしていたんだ。そして師匠は教師の真似事をしながらあることを発見したんだよ。数ヶ月間ひたすら基礎練習を続けた子供達を鑑定魔眼でチェックすると次々と魔力操作と魔力効率アップのスキルに目覚めたことに。その後、検証を重ねた師匠はこの事を魔法の学会にて公表した。当時はとても騒ぎになったらしいぞ。魔力操作と魔力効率アップを所持していると魔法師としての実力が格段にあがるからな」
「確かに」
「以前とは比べ物にならないくらいスムーズに魔法の発動が出来ましたからなぁ」
「でもこんな方法で覚えられるなんて聞いたことがありませんよ?」
ミレーヌさんがそう質問すると、先生は悲しそうな顔をした。
「当時の魔法師達はその二つのスキルの有用性を知っていたからな。みんなこぞって基礎練習をやったらしいぞ。だがな、それで覚えた人間は一人もいなかった。何故だかわかるか?」
俺自身はそのスキルを獲得したのかはわからないけど、確かに皆は覚えることが出来たし……
何でだろう。
皆も答えがわからず首を振る。
「考えてもみろ。すでに一人前の魔法師として活躍している人間が数ヶ月間も真面目にひたすら基礎練習なんてすると思うか?」
しないな……
先生の問いに皆が納得する。
「絶対にしませんね……」
「お前達だって私が指示しなかったら真剣にやらなかっただろう?」
数人がギクッとした顔をする。
「ろくに訓練しなかった癖にスキルを覚えられなかったと、当時の魔法師達は師匠を激しく糾弾したんだ。師匠の教え子達は反発したんだがな。その意見は握り潰され、そして師匠は魔法師の資格を剥奪された。その後は王都を去り各地を転々としていたんだ。そんな時に出会ったのが私だ。師匠がうちの領に流れ着いた時に出会ったのが私だった。当時の私はこの学園の入学に失敗した落ちこぼれだったんだ」
俺は知らなかったけど現役当時の先生は爆炎の魔法師としていろいろな意味で有名だった。
そんな人がこの学園の入学に失敗していたことを皆は驚いていた。
「私がここまで魔法を使えるようになったのは師匠のおかげだぞ? 師匠と出会えていなかったと思うとゾッとするな。今頃どこかの変態貴族の嫁にと追い出されていたはずだ。私は学園の入学に失敗した時点で家族からはいない子。存在しない子として扱われていたんだ。母屋には近寄ることすら許されず、領地の隅に作られた小さい小屋のような場所に住まわされていた。食材と僅かな小遣いだけが定期的に届く。そんな感じだ。まぁ捨てられなかっただけマシだがな。当時の私は小屋の近くにある森で必死に魔法を練習していた。悔しかったからな。その光景を師匠はずっと見ていたらしい」
思っていたよりも先生は苦労してきたんだな……
「基礎も学も何もない子供が必死に魔法を発動させようとしているのを見ていた師匠はだんだんと我慢出来なくなり、森で練習していた私の前に突然現れると口を出してきたんだ」
『おい。お前に本当の魔法ってのを教えてやる』
「ってな。当時の私は警戒したさ。突然薄汚い格好をした爺さんが現れたんだぞ? 警戒するのは当たり前だろ」
確かに突然知らない人が現れたら警戒はするよな。
「だけど警戒心なんて一瞬で吹き飛んだよ。街のすぐ近くの森だというのに空に向かって放たれた爆炎魔法を目の前で見たときにな。それからずっと師匠と二人で生活しながら、魔法だけでなく軍師に必要な知識や医療に対する知識も授けてくれたんだ。家族も私の家に汚らしい爺さんが住み着いたのは把握していたらしい。まぁその件については何も言ってはこなかったけどな」
入学に失敗すると家族から捨てられるって本当にあるんだな。
「師匠から学び始めて八年。ただでさえ高齢だったからな。ちょっとした風邪をこじらせただけであっさりとお迎えが来ちまった。八十五歳だったから仕方なかったんだろうな。以前から師匠に何かあったら棚を見て欲しいと書いてあったので調べると、鍵と冒険者ギルドのギルドカードと数枚の書類と遺言書が入っていたんだ。遺体については遺言書に記載があるように守護の女神の神殿に頼み処理してもらった。家族にはもう十八歳だし、独り立ちして王都へと行くと伝えたら縁を切れと言われたんで多少の金銭と書類を受け取り王都へと移動。王都の役所で今までの家名を破棄して師匠の遺言書をちょこっと細工して師匠の家名を貰ったんだ。養子に入る形にしてな。だからパスカリーノって家名は本来は師匠の家名なんだ。このことを知っているのは当時から軍にいた一部の人間のみだけど」
俺達はそれからも先生の話を大人しく聞き続けた。
師匠の遺産と屋敷を譲り受けたこと。
王都での生活基盤を整えたあとすぐに軍に入隊したこと。
学園長は当時パスカリーノと名乗る女が軍に入ってきたことに驚いて先生に会いに行ったらしい。
かつての上司であり、入隊したばかりの新兵時代から、ここまで自分を鍛えてくれた恩人のような人に家族が居たなんて聞いたことが無かったから。
その時に師匠からの遺言書を見せて話をしたのがきっかけで知り合ったらしい。
その後は入隊してすぐに第二師団に引き取られて学園長直々に鍛えてもらったとか。
そして入隊して僅か四年で隊長まで上り詰める。
「そのあとは以前話をした通りだ。軍をクビになってここにいる」
本当に先生もなかなか厳しい人生を送って来たんだな。