初めての授業は確認から。

「それじゃー、授業始めるぞー」

なかなか寝付けなかった俺は寝不足のまま初めての授業に参加していた。

それにしても初めての授業は何をやるんだろ。

「まずは教科書を閉じろ。こんなんいらん」

そう言うとフィオナ先生は教科書を室内へと投げ捨てた。

あまりにも意外な行動に驚く一同。

「ん? 魔法の教科書なんかいらんだろ。あんなマニュアル通りの動きしか出来ない人間なんて特級組に必要か?」

確かに先生の言う通りだし、反抗すると後が怖いので先生の指示に従い教科書を仕舞うと演習場へと集まるのだった。

「まずは、お前たちの実力を見せて貰おうか。実際に見てみなきゃ始まらん。まずは……そうだな、一般入試組からにしようか。そのあとは特別入試組の順番で。得意な魔法を私に見せてみろ。あっ、攻撃魔法を使うのならばあの的を目掛けて放てよ」

フィオナ先生が指す先には、試験の時と同様に5mほど先に的が設置されていた。

「まずは一般入試組、手を上げろ」

シャール、ウィリアム、セシルの三人が手を上げる。あの三人は一般入試からこの組に入ったらしい。

「風よ、敵を吹き飛ばす塊となれ! ウィンドボール!」

シャールが風魔法のウィンドボールを発動させる。

弱弱しい風の塊が時間をかけて徐々に集まり球体になっていく。

「い、いけ!」

杖を前に突き出すと風の球が発射された。

しかし……2mほど突き進んだくらいで風の球は消失してしまったのだった。

しかも一回魔法を発動させただけでシャールははぁはぁと苦しげに息切れしており、立っているのも辛そうだった。

次に前へと出たのはウィリアム。

杖を前に出して魔力を丁寧に練りあげていった。

そして静かに詠唱を開始する。

「光よ、我を暗闇から救いたまえ。ライト!」

若干かっこつけながら紡がれた詠唱によって現れたのは、ぽわぁっと弱々しい光だった。

しかしそれはあっという間にさらに弱弱しい点滅へと変化しすぐに消失してしまう。

うーん……はっきり言って微妙だ。

ウィリアムもシャールと同様に発動した後は疲れきっている。

最後はセシル。

セシルは自信満々な様子で杖を前に堂々と掲げ、詠唱を口ずさみ始めた。

「風よ、我を守る壁となれ! ウィンドウォール!」

詠唱が終わると、セシルは堂々としたポーズで杖を前方に向けた。

しかし、力強い声とは裏腹に見た目ほどの迫力は無かった。

弱弱しく渦を巻きながら風は上昇していくと、少し頼りない風の壁ができあがった。

でも一つ疑問がある。

ウィンドウォールってどうなんだろうか?

土の魔法であるアースウォールならば物理的に攻撃から守れるけど、風の魔法であるウィンドウォールって物理的な攻撃から身を守れるんだろうか?

見た目は凄く綺麗だけど。

でもこの三人の中では一番魔法がうまいんじゃないだろうか?

発動も二人に比べたら速いし、発動後も息切れしていない。

「一年生だとこんなもんなのか? まぁいいや。次は特別入試組な。あっ、ラグナは最後で」

皆の視線が一斉に俺に向く。

「……わかりました」

まずはベティとクララとミレーヌさんの三人が入学試験と同じ魔法を披露する事になった。

先生は三人の魔法をただ見てるだけ。

特に褒めたりもしていなかった。

ただ一言、次の奴と言うだけ。

そして男女の双子が一緒に前へと出てきた。

「私たちは二人でもよろしいですか?」

「あぁ、お前達双子はあれか。別にいいぞ」

二人が杖を交差した瞬間、魔力がちょっと揺らいだのを感じることが出来た。

そして二人は全く同じ動作で手に持つ杖をドンと地面に力強く打ちつけた。

「「土よ、暴れ狂う大地となれ! アースクエイク!」」

地面が轟音と共に揺れ動き、的に向かって地割れが広がっていった。二人が同時に発動した魔法はそのまま5m先にある的の根本へと着弾。

バキンという音を立てて的の根本が吹き飛び倒れるのだった。

「ほぅ。さすが協力魔法だな。しかも、的まで届いただけじゃなく倒すとはなかなかやるじゃないか」

双子は息を切らしながらも、

「「はぁはぁ、ありがとう、ございます」」

と返事をするのだった。

それにしても本当に二人とも息ピッタリだった。でも協力魔法? とかいうまた知らない言葉が出てきた。

そして次はシーヴァさんの番か。

そう言えば赤と青の瞳のオッドアイのどっちが魔眼なんだろうか?

「次はお前か。そうだな。まずは私に掛けてみろ」

「わ、わかりました。……ふぅ……では、行きます」

シーヴァが魔力を練ると、左目である赤い瞳が光り輝く。

「……鑑定」

するとフィオナ先生に向けて光が上から下へと向かって発射された。

まるで映画のスキャンをしているシーンのようだった。

「フィ、フィオナ・パスカリーノ 二十八歳 現在彼氏無し 身長165㎝ 体重とスリーサイズは伏せておきます。火魔法の亜種である爆炎魔法を使用可能。以上になります」

まるでゲームキャラのステータスの説明文だ。

「おぉ、久々に鑑定されたな。だが、彼氏無しは余計だぞ? 私に彼氏がいないんじゃない。必要と感じないから作らないだけだ。お前らもそこのところ間違えるなよ?」

「は、はい!」

シーヴァさんは自身もシャールと同様に髪の毛が燃やされるんじゃないかとドキドキしていたが……どうやら何とかそれは回避出来たらしい。

次はミレーヌさんの番と言おうとしたところで、俺と目が合うとニヤリと笑う。

あのニヤリとした表情。絶対に何かをやらかすつもりだろう。

「なぁ、シーヴァ。まだ魔眼使えるか?」

「あと一人くらいなら……」

悪い笑顔になった先生と目が合う。

物凄く嫌な予感が……

「そうかそうか、後一人いけるのか……それじゃあラグナの事を鑑定出来るか?」

シーヴァさんはギョッとした顔をした。

「か、彼ですか……?」

「あぁ、あいつだ」

「えっと……」

「なんだ、出来ないのか?」

先生の機嫌がちょっと悪くなった雰囲気に。

怪しい、たぶんあれ絶対演技だから!

「や、やります……」

シーヴァさんが俺の方を見る。

「か、鑑定」

俺に向かって先ほどと同様に光が飛んできた。

眩しいのかなって思って思わず目を瞑ってしまったが、全く眩しくなかった。

なんだか不思議な感じ。

「ヒィッ!!

シーヴァさんがそう叫び、腰を抜かしたかのように地面へと座り込む。

……まただよ。俺を見たらそのリアクション。

ミレーヌさんを含めて皆が俺を見てくる。

「鑑定結果は私だけに耳打ちしろよ?」

ニヤニヤしながら先生がシーヴァさんへと指示していた。

「えぇっと……」

「どうした? 鑑定できなかったのか?」

「いえ……それが……」

「鑑定出来たんだろ? とりあえずどんなだったか教えてみろ。アレが本当だったのかわくわくするな」

シーヴァさんは覚悟を決めたのか、先生の許へと近づくと耳打ちを始めた。

流石にそうやってコソコソされると地味に傷付く。

……

「っ!? まじかよ! お前すげぇな! 聞いてた以上じゃねぇか。しかも学園長すら掴んでない事だぞ、これは。おい、ラグナ。お前……私と結婚するか?」

「は……はぃ?」

いきなりの求婚に驚いて変な声が出てしまった。

「冗談、冗談だ。流石に歳が離れすぎてるからな」

もしも歳が近かったら冗談じゃなかったのか……?

性格はあれだけど、確かに見た目だけは本当に美人だから少しドキッとしてしまった。

「それにしても、流石の私もこれは流石にビビるな……授業が終わったら学園長の所にいかなきゃいけねぇじゃねぇか。まさかお前が加護二つ持ち……」

「せ、先生!?

シーヴァさんが慌てて止めに入るが……

「あっ……」

ついうっかり口走ってしまったという表情で、加護を二つ持っている事をみんなにバラされてしまった……

クラスメイト達が唖然とした顔で俺を見つめてくる。

ミレーヌさんでさえも驚いている様子だった。

「えっ……えっと……」

こんな空気……どうすりゃいいんだよ!

困惑していると、急に激しい殺意が俺達に向かって飛んできた。

あまりにも激しい殺意にみんなの顔色は真っ青。恐怖でガタガタと震えていた。

「よし……お前らは何も聞いてない。聞こえなかったよな?」

まさかのフィオナ先生による圧力。

特級組の生徒に対してうっかりバラしてしまった事実を無かった事にしようとしていた。

「し、しかし……」

ウィリアムがそれはさすがに無理だろうと反論しようとするが……

「仮にだ……もしもお前らが……この件を誰かに話してみろ。その場合、私はそいつとこの事実を知った奴を確実に殺す。貴族だろうと平民だろうと、たとえ王族だろうと関係ない。全身全霊で命を奪う。わかったな?」

更に濃厚な殺気を当てられた。

皆、真っ青な顔色のまま激しく頷いていた。

「そうか……皆がいい子で助かるよ。まじで私はヤる時はヤる女だからな!! そこのとこよろしく頼むぞ?」

そうして半強制的に何も聞かなかった事になった。

「んじゃ続きいくぞ~。最後はラグナだな」

「……はい」

物凄い空気だけど……何を見せよう。

「そうだ。とりあえず、魔法剣やってみせろよ。他の奴らはあんまり見たことが無いだろ?」

魔法剣という言葉に驚く数人の同級生。

まぁ一緒に入学試験を受けた生徒以外は知らないからな。

でも一つ問題がある。

「え~っと……先生、剣を持って来てないですよ?」

一年生は指定された杖のみと聞いていたので、剣は部屋に置いてきている。

「え~、なんだよそれ。じゃあ杖でやってみろよ。出来ないのか?」

杖で?

「剣の替わりに杖を使うこと自体初めてなんで、どうなるかわかりませんよ? そもそも杖を触ることも初めてですから」

杖を使ったことが無いと聞いて驚く生徒達。

普通は杖を補助に魔法を練習することがこの世界の常識だったから。

念のためにと皆を遠くに引き離した後に

「どうなっても構わん、とりあえず、やれ」

と先生が言うのでやってみる事に。

「はぁぁぁ!」

杖に魔力を通していくと自分でも驚くほどすんなりと魔力が杖へと流れていく。

剣よりも魔力の通りが物凄くいい。

むしろ良すぎる。

剣とは明らかに違う結果、膨大に練った魔力は急には止められない。

慌てたところで止まらない、止められない!

「燃える……燃える!? あちぃ!」

目の前には激しく燃え盛る杖が。


握っていた杖自体に着火してしまい、あっという間に持ち手のところまで広がっていった。

その結果、

「あつっ!?

ドカンという轟音を立てて周囲で観察していたクラスメイトに向かって熱風が降り注ぐ。

「きゃ!?

「うぎゃ!?

俺は発火した杖に動揺し、集中力を切らしてしまった。

その結果、火の魔力が暴発し、何回も地面を転がりながら吹き飛ばされたのだった。

「いてて……杖じゃダメだったのか……」

目をあけると皆からだいぶ離れていた。

「だいぶ吹き飛んだな……」

吹き飛んだ時の痛みはあったけど、幸いな事に特に身体には火傷などをしてなさそうだ。

「大丈夫かー?」

先生の声が遠くで聞こえる。

立ち上がると手を振って無事な事を報告する。

「大丈夫です。ちょっと驚きましたけど」

先生の所に戻ると杖を使って発動した場所から半径2mほどは地面が真っ黒に焦げていた。

「だからあの国の奴らは杖を使わないのか。たぶんあの感じは杖の魔石に反応して魔力が暴走したな。魔力を止められなかっただろ?」

「僕で実験しないで下さいよ……全く魔力が止まらなかったので、流石に驚きました」

目の前には粉々に砕け散った杖の残骸が。

「あっ……」

「私もこうなるとは知らなかったんだ。許せ。杖はあとで私がプレゼントしてやろう」

新しい杖は先生が買ってくれるらしい。

皆の方を向くと何人か暴発の威力に驚いたのか、地面へと尻餅をついていた。

「この程度の熱風で何してんだ、お前ら。戦場なんてこんなもんじゃ済まないぞ?」

冷たくいい放つ先生。

そう言えば……

「先生は大丈夫でしたか? かなり近くで暴発させちゃったんで……」

今更ながら慌てて先生の姿を見るが、砂埃すら一切ついていなかった。

「私か? 魔法障壁張ったから何ともないぞ」

先生が手を前にかざすと、一瞬にしてキラキラとした透明な壁が現れた。

しかも手でノックするとコンコンと音がする。

「自分だけを護るならウォール系よりもこっちの方がすぐに展開出来るし、魔力の密度次第では結構防御力があるんだよ」

本当に知らない魔法がバンバン出てくるな。

「むしろ、あんだけ盛大に吹き飛んだお前がピンピンしてる方が私は驚きだよ。加護の影響か?」

もう遠慮せずに加護の事を聞いてくるな……

さっきは聞かなかった事にしろって言ったばかりなのに。

「……どうなんでしょう? 無くはないと思いますけど」

少し離れていたクラスメイトがこちらへと戻ってきた。

「ラグナ君、怪我ない?」

「うん、大丈夫だよ。ありがとう、ミレーヌさん」

うーん……皆がよそよそしい……

「まぁ当分は魔法剣禁止だな。剣が無きゃどうにもならんだろうし。それに魔法剣に関しては私も専門外だ」

「はい……」

流石に……こんな目に遭った後で、二度と魔法剣を杖で発動させようなんて思わないよ。