そしてミレーヌさんがゆっくりと手をあげて指を指す。
「それは……?」
指を指すその先にあるのは、がっちりとミーシャさんと手を握っている俺の手。
「い、いや。違うからね」
慌てて手を離す。
「入学早々メイドさんと手を繋いで……やはり……デートしてたんですかね?」
もう一度言おう。
まじで怖い。
ミレーヌさんの知りたくなかった一面を知ってしまった気がする。
今まで見たことの無い雰囲気のミレーヌさんに追い詰められる俺。
「ち、違うよ。あいつ! あいつのせいなんだよ! ナルタ元辺境伯の息子が急に絡んできて、しかもミーシャさんを寄越せって怒鳴ってきたんだ」
そう伝えると殺気は収まり、ポカンとした顔になるミレーヌさん。
「入学早々揉め事になるのは嫌だったからさ! ミーシャさんの手を慌てて引っ張って逃げてきただけだから! 本当だよ! ねぇ、ミーシャさん」
必死になって弁明する俺。
なんでミレーヌさんに対してこんなにも必死に弁明しているんだろう。
ミーシャさんも事実ですとフォローしてくれた。
「では……手を繋いでいたのは緊急事態だったからと?」
コクコクと頷く。
「それなら良かったですわ」
いつものミレーヌさんの笑顔に戻った……
ふぅ、助かった。
「でも逃げた時のことであいつに難癖つけられそうだよな。あいつ面倒そうな性格してるし。平民、平民って怒鳴ってくるし」
また絡んできそうだな。
むしろこの寮まで文句を言いに来るんじゃないだろうか。
「ご安心下さい。すぐに警備部に報告してまいります」
「警備部? なんですか、それ?」
「学園内の治安を維持する部署になります。学園で働く私たちメイドは外出時などに何かと狙われることが多いので、緊急時には周囲の状況を録画出来る魔道具を常に装着しております」
ミーシャさんの頭に装着してあるカチューシャを指さす。
あれが魔道具になってるのか。
「狙われたりするのですか……?」
まぁ確かにメイドさん達はみんや綺麗だからわからなくもないけど。
「それが~、結構あるんですよ~」
ミレーヌさんのお付きのメイドさんが語り始めた。
「たま〜に~自分の立場を勘違いして~、メイドをイヤらしい目的で手を出そうとしたり~」
話し方が独特だな、この人。
「えっ? 大人じゃなくて、学園の生徒がですか?」
「はい~。やっぱり年頃の男の子となると~、狼さんが多いみたいで〜」
ミレーヌさんが急に自分を抱き締めながらそーっと俺から離れる。
「ミ、ミレーヌさん! 俺はそんなんじゃないから!」
「本当ですか……? それならいいですけど……」
まさかミレーヌさんに疑われるとは思わなかった。
ミレーヌさんはテトテトとこちらへと戻ってきた。
「やっぱり~私達も逃げるために抵抗するわけで~」
そりゃ抵抗するよな。
「その時に~襲ってきた男の子を~反撃して~ボコボコにしても~問題にならないように~魔道具を持っているんです~」
ボコボコって。
メイドさんを襲って、ボコボコに反撃されるマセガキが多いって事かな。
「相手が貴族の子供の場合、怪我を負った場合に親を巻き込んで問題にして騒ぐ子供が一定数いるのです。ですので証拠を確保するために、その
「そうだったんですか……それでも、関係ないと騒ぐ親もいるんじゃないですか?」
「その時は~、証拠として録画した映像を~、学園内で公開放送しちゃうからいいんですよ~! み~んなからその不逞な行動をしていたシーンを見られるんですから~。そのあとその人物がどのような目で見られ、そしてどうなるかは言わなくてもわかりますよね~?」
完全なる公開処刑って事か。特に女性陣からは軽蔑した目で見られて避けられそうだな。
さらにそんな事を仕出かしたら、いろんな貴族にその情報が伝わっていきそう。
でも……それは不逞な行動から身を守ることが出来ることが前提。
身を守れなければ……悲しい結末が待っている。
「失礼かもしれませんんが、ミーシャさんもそちらのメイドさんも、とても戦えるようには見えないのですが」
「そうですか~? でも~我々は~メイドギルドから~体術と~魔法を仕込まれていますから~」
メイドギルド!?
「そんなギルドあるんですか!?」
「ありますよ~。王家に仕えたり~、このような学園で働くメイドは~、いろいろなことをこなせなきゃいけないので~」
つまり護衛も兼ねてるってことかな。
「やっぱり知らないことばっかりだ」
「まぁ、ラグナ君は仕方ないですよ。こんな事なんて、村にいたときには関わりが無いでしょうし……」
ってことはミレーヌさんは知ってるのか。
「魔法の勉強もそうだけど、一般常識やこの世界のことを学ばないといけないな~」
辺境に住んでた分、知らないことが多すぎる。
とりあえずなんとかミレーヌさんからの誤解は解けたので、部屋へと戻る。
その後、ミーシャさんは警備部へと向かっていった。
精神的にどっと疲れたので息抜きも兼ねて部屋でのんびりしようと扉を開くと、俺は衝撃的な光景に固まってしまう。
「う、嘘だろ!?」
さきほど買い物で購入した品物が、すでに部屋に届いていたのだった。
ミーシャさんからは購入した商品は部屋へと届けて貰えると聞いていたけど、まさかもう届いているとは思ってもいなかった。
まだ買ってからそんなに時間は経過していないのに。
前世の世界の宅配速度も十分早かったけど、これは異次元の速さだな。
そんな事に驚きつつ、届いた荷物はすぐに整理して片付けは完了。
そして椅子に座りようやくひと息つくことが出来た。
改めて部屋を見渡すが……本当に広い。
こんなにも広い部屋に一人でポツンと座っているのも寂しく感じる。
『これだけ広いなら部屋キャンとかやっても楽しいだろうなぁ』
部屋の中にテントを広げて、椅子とテーブルを設置。
後はカセットコンロで料理をしてのんびり楽しむ。
部屋の広さ的には出来ないことはないけど。
部屋キャンプを楽しめるだけの道具がないや。
でもキャンプ飯くらいならキッチンがあるから作れそうだよなぁ。
コンロっぽい魔道具を見ているとつい前世にあったキャンプグッズの事を考えてしまう。
『火が使えるならメスティンやら……』
メスティン。そう考えた瞬間頭の中で声が響く。
『メスティンを召喚しますか?』
「う、嘘!? しょ、召喚!」
すると目の前に現れたのは……
「懐かしき銀色のメスティンじゃないか……」
これはキャンプ飯でも作れって事なのか!?
「もしかして……」
とある料理グッズの妄想を始める。
すると、
『スキレット及びホットサンドメーカーを召喚しますか?』
「マジでか!?」
定番の料理グッズが目の前に現れたのだった……
「これさえあればあんな料理やこんな料理も……」
そんな妄想をしながら時計を確認すると、夕食まであと二時間。
流石に今から買い物に出て料理をする訳にもいかない。
夕食の時間が近いからここはグッと我慢。
胸元にあるペンダントを握り、彼女に話し掛ける事にした。
『サリオラ~』
『……何よ』
あれ?
なんかご機嫌ナナメだ。
『どしたの? なんかあったの?』
『たまたま下界を覗いたら、私の契約者ともあろう人間が美人のメイドに鼻の下を伸ばしてデレデレしてるところを見てしまったのよ』
『……別にデレデレしてた訳じゃないよ』
『二人でベンチに座って食べ物を美味しそうに食べておきながら? あれはどう見てもメイドさんとのデートに見えたのだけど? しかも!! その後に手を繋いで走ったりして!! あれは手を繋ぐ必要なんてあったのかしら?』
全部見られたのか……。
『あれは、少しお腹が空いたから出店で買ったパンを二人で食べただけだよ。それにあの後手を繋いで走ったのは緊急事態だったからだよ! 見てたでしょ!?』
『……まだ私なんて下界に一度も行ったことないのに』
サリオラと契約したことにより月に一度だけ下界に降臨出来るようにはなっているけど、未だに一度もこっちの世界へと呼ぶことが出来なかった。
村にいるときは実家暮らしだから当然呼べないし、実家から離れた後はエチゴヤにお世話になっていたので呼ぶタイミングが本当に無かった。
『それは本当にごめん。呼べるタイミングがなかなか無くて……』
一人暮らしならまだしも、誰かにお世話になっている状態ではどう考えても呼べなかった。
もし呼んだとしてもサリオラの存在をどう説明したらいいのか……
『……まぁ仕方ないとは思っているわよ。でもね、たまたま元気にしてるかなって心配しながら覗いたら、楽しそうにメイドとデートしている風景を見せつけられるこっちの気持ちにもなって欲しいわね』
もしかして、サリオラは嫉妬してる?
でもこんなことを聞いたら怒られそうだから、やめておこう。
『学園の休日なら呼べるタイミングもあるだろうから、もうしばらく待ってて』
『嫉妬なんてしてませーん! まぁ、気長に待つわよ。今まで呼べなかったのは仕方ないって私もわかってるし……でも下界に降りられたら私にも出店の料理を食べさせること。それでちゃらにしてあげるわ』
……しまった。サリオラには俺の心の声が駄々洩れだった。
その後は機嫌が徐々に回復していったサリオラと一通り会話を楽しんだ後、用があるとのことで会話は終了したのだった。
ふぅ、なんかいろいろありすぎたから久々にかなり甘くしたコーヒーが飲みたい気分。
前世で唯一飲むことが出来たコーヒー。あの特徴ある黄色い背景にこげ茶色の文字で書かれた商品。一部地域限定で売られていたコーヒー。その名もマ〇カン。
手に入れるのは大変だったけど、あれだけは飲むことが出来た。
そんなことを考えていると、
『コーヒーセットを召喚しますか?』
えっ!?
まじかよ!!
「コーヒーセット召喚!」
すると手のひらに突然現れたのはスティックコーヒーにスティックシュガーとポーションタイプのミルクだった。
「まぁコーヒー豆が出ても焙煎のやり方なんて知らないし。仮に焙煎が出来たとしても、コーヒー豆の挽き方も知らないし淹れ方もわからない。それならば、こっちの方が手軽だからよかったよ」
キッチンでお湯を沸かして早速コーヒーを味わう。
「流石にブラックじゃ飲めないだろうし。前の世界の時もコーヒーは苦手だったから。砂糖とミルクは入れてみよう」
砂糖とミルクを入れた後に顔を近づけてみると、コーヒーのいい香りが鼻を刺激する。
「匂いだけはいい匂いなんだけどね」
それでは一口。
「うげっ。……苦い」