「それにしてもあまり学生がいませんね」
何人かはふらふらしている姿が見えるけど、あれらは同学年っぽい。
「それは当然でしょう。ラグナ様達一年生以外は皆、授業中ですから」
そっか。
上級生達は俺たちの入学式が終わった後、自分たちの授業が始まったらしい。
買い物に向かう途中で食べ歩きしている生徒を発見。
「……あれは」
ミーシャさんが俺の視線の先に気がつく。
「あぁ、あれですか。あれは最近販売されるようになったグーナパンと呼ばれている料理です。パンに切れ込みを入れて好きな具材を入れて食べられるので、気分によっていろいろ違う味が楽しめると好評なのですよ。しかも手軽に食べられますからね」
マジか……
他人のアイディアをパクッただけの料理なのに……
実際に目にすると物凄くいけない事をしてしまったような罪悪感に襲われる。
「私達メイドの間でも、時間が無いときでも簡単に作れてすぐに食べられるとのことで好評ですよ」
まさか目の前でこんな光景が見られるとは思ってもいなかった。
「ラグナ様もあとで一つ頂きますか?」
「えっと……ミーシャさん……実はですね……あれ開発したの僕なんです」
「えっ……?」
クールなミーシャさんの表情が急に何を言っているんだとでもいうような表情へと変化していた。
「ラグナ様が開発……? ラグナ……グナ……グーナ……グーナパン!?」
ミーシャさんの表情がコロコロ変わっていく様子を、つい眺めてしまった。
すると最終的に厳しい目つきに変わった。
あれ? なんで?
「ラグナ様。このような秘密を簡単に他人に教えるのはよろしくありません。私はメイドとして決して主人の話を広めるつもりなどありませんが……この件はあとでお話し合いしましょう」
「……はい」
怒られた……でも確かにそう言われればそうだよな。
「この件は後で、今は買い物ですね」
「……はい」
こんなところで広まってるとは思ってもいなかったからな。
うっかり話してしまった。
ミーシャさんと二人でぶらぶらと目的地である売店へと向かう。
てっきりメインの売店に向かうものだと思っていたのだが、小さいお店に案内された。
「てっきり学園近くにあった、あの大きい売店に行くと思っていました」
なんでわざわざこっちなんだろう。
「こちらの売店は専門店なので、それぞれの分野に特化しています。その為、品揃えはあちらよりも豊富なのですよ。それにきっとあっちの売店は何も知らない新入生でごった返していると思いますよ?」
そっか。俺達はミーシャさん達が案内してくれてるからこうやって買い物出来るけど、一般の生徒はわからないもんな。
何を買えばいいのか理解しないまま、とりあえず一番大きな売店にいけば全部揃うでしょ。って考えで行動しちゃうのか。
とりあえず、最初は着替えなどを揃えていく。
制服の替えと普段着、寝間着、下着類をミーシャさんに必要な枚数を聞きながら買っていく。
正直なところ、普段の服装については全くわからないのでミーシャさんにコーディネートをお願いした。
下着はトランクスタイプからボクサータイプ、ブリーフタイプまで存在していた。
きちんとゴムのような素材が使われていて驚いた。
「この伸びるやつの素材は何ですか?」
お店の人なら知ってるかな。
まさか、ゴムの木が存在していたりとか。
「これは植物の魔物から採れる素材なんですよ。バンジートレントって名前の魔物だったかな? 枝を振り回して攻撃してくるみたいですが、その時に枝が伸びたり縮んだりするらしいですよ。確か初代勇者様がこの素材に目を付けてエチゴヤの方に頼んで伸縮性のある下着などが作られたと聞いたような覚えがあります」
初代勇者はこれが直ぐにゴムの代用として使えるって目をつけたのか。
ミーシャさんは私にすべてお任せ下さいとパンツの柄まで選ぼうとしていたが、流石にそれは恥ずかしいので自分で選んだ。
後は他のお店で筆記用具を買ったり紅茶の茶葉を買ったり。
細々した物まで次々と買い揃えていった。
途中で剣と盾がクロスした看板のお店を発見する。
「ミーシャさん、あのお店はなんですか?」
「あれは冒険者ギルドの出張所になっております。上級生ともなると休日に冒険者稼業の真似事を行う人もいますので」
まじか。でも一つ疑問が。
「そもそも冒険者って何をするんですか?」
よく異世界転生のアニメでも存在する冒険者ギルドって魔物の討伐が主な仕事だけど……
この世界には魔の森に行かなければ魔物っていないんじゃなかったっけ?
「冒険者ですか? はるか昔、初代勇者様の時代の頃は魔物の討伐が主な仕事でしたが、今現在では素材の収集や、護衛、盗賊の討伐など多岐に渡る仕事があるようです。一応外に出てきたハグレの魔物討伐や動物の狩りの依頼などもあると聞いたことがあります」
今現在の冒険者っていうのは何でも屋って感じなのか。
「そうなんですか。でも仮に学生の身分で冒険者になったとして、いちいち学園から外に出るのは大変ですよね。一般街から職人街まで移動しなきゃいけないですし」
「それは大丈夫ですよ。いちいち移動しなくても学園には専用の門が設置されてますよ? そこを通ればすぐに王都の外に出れますし」
知らなかった。
でも考えてみたらそうか。
外への演習の機会だってあるだろうに。
いちいちぐるっとまわる時間が勿体ないよな。
冒険者ギルドの前をちらっと覗いていると建物に隠れて見えなかったが商業ギルドのマークの建物が裏手に設置されていた。
「商業ギルドもあるんですか」
「はい。冒険者ギルドに卸された素材の買い取りや生徒からの注文を受け付けたりしています。生徒ですと他の街まで武器や防具を買いに行く時間なんてありませんからね。どんな物が欲しいのか商業ギルドに頼んで探してきてもらうんですよ」
へぇ。確かに他の街まで探しに行く時間なんてなさそうだしね。
そうだ。
「ちょっと寄ってもいいですか?」
ミーシャさんが不思議そうな顔をするも、
「わかりました。行きましょう」
と答えてくれたので商業ギルドへと二人で向かうのだった。
「商業ギルドへようこそ。今年入学の生徒さんですね。本日はどのようなご用件でしょうか?」
商業ギルドの会員証を取り出すと受付のお姉さんに提出する。
「すみません。口座にどの程度のお金が振り込まれているのか知りたいのですが」
「わかりました。少々お待ち下さい」
そう言うと俺の会員証を手に取り魔道具の上にかざす。
するとお姉さんが驚いた顔に切り替わる。
「ラグナ様、失礼しました。こちらへどうぞ」
お姉さんが受付から立ち上がり奥へ行くように案内される。
「どうぞこちらへお座り下さい」
案内された場所は個室だった。
「先ほどは大変申し訳ありません」
急に謝ってくる。
「えっと……急にどうかしましたか?」
お姉さんがミーシャさんをチラッと見た。
「私は外で待っていますので……」
そう言うと部屋から出て行った。
「先ほどは使徒様だとは知らずにとんだご無礼を」
使徒様!?
「い、いやいや。そんなこと気にしてませんから!」
名前だけが独り歩きしているようなものだし。
「すみません」
ペコペコとお姉さんが頭を下げてくる。
「本当に大丈夫ですから。そんなに気にしないで下さい。それよりも口座の金額だけ知りたいんですけど」
何でこのお姉さんがその事に気が付いたのか気になるところだけど……頑張って話を逸らしてみる。
「気を使わせてしまい、申し訳ありません。金額ですね。少々お待ち下さい」
個室にも同じように設置されていた魔道具に会員証をかざすとお姉さんがなにやら操作をし始めた。すると魔道具の隣に置いてあるボックスが光り始める。ちょっと焦げ臭い匂いと共にボックスが開いた。その中には羊皮紙が入っていた。
「こちらをどうぞ」
羊皮紙を受け取る。
どうやら焦げ臭い匂いの正体は文字を羊皮紙にプリントするときに焼き付ける魔道具らしい。
つまりプリンターモドキ。
手渡された羊皮紙を確認する。
名前 ラグナ
出身 アオバ村
所属 マリオン様
特許数 一
預金残高 金貨 七
大銀貨 九
銀貨 七
銅貨 六
鉄貨 八
突っ込みたいところが一つあるけど先ずはこの預金残高だよ。
たった数ヶ月で797万680円も稼いだのかよ。
特許制度恐るべし……
いや、サンドイッチ恐るべし……
でも……これ税金ってどうなるんだ?
「すみません。特許で稼いだお金の税金ってどうなるんですか?」
これは確認せねば。
お金を使った後に税金があると詰む。
「税金については振り込まれる前に自動的に差し引かれているためご安心下さい。また特許に関する利益は毎月十日に振り込まれます」
すでに引かれたあとなら良かった。
でも毎月十日に振り込みとかまるで給料みたいだな。
「後は……この所属がマリオン様っていうのは……?」
これが一番おかしい。なんでマリオン様の所属になってるんだよ。
「普通ですと主に商いを行っている街にある商業ギルドの名が所属になるのですが……使徒様の場合は所属がこのような表示になると説明を受けていました……私も初めてその所属を拝見しました。本当に存在するんですね……」
別に俺はマリオン様の使徒って訳じゃないんだけどなぁ……
どちらかと言えばサリオラの使徒になるんじゃないだろうか。
あっ、そうだ。
「特許の申請ってここでも出来ます?」
マリオン様に頼まれてたの忘れてた。
「申し訳ありません。商業ギルドの出張所では神殿が併設されておりませんので登録することが出来ません」
まじか。
確か一年生は街に行けないんだよな。
仕方ない。
確か思い出したらとか強制ではなかったしね。
「わかりました。ありがとうございます」
「本日は預金の引き出しなどいかがしますか?」
別にまだお金は必要ない。
「今日は大丈夫です」
「わかりました。次回以降も商業ギルドにお越しの際は私が担当致しますので、よろしくお願いします」
「……こちらこそよろしくお願いします」
羊皮紙はお姉さんに必要無いと告げたら室内にある暖炉に放り込まれ焼却処分になった。
そして個室から出る。
「ミーシャさん、お待たせしました。では行きましょう」
「わかりました」
商業ギルドのお姉さんにぺこりと挨拶をして買い物の続きへ。
「ミーシャさん、お金って足りますか?」
「お金ですか? まだ大銀貨五枚以上は余っております」
でも洋服とか小物で40万近くは使ったのか。
やっぱり高いのは服だな。
「あと必要な物は何かあります?」
ミーシャさんが少し考えた素振りをする。
「生活に必要な物はだいたい揃いました。後は部屋の家具を追加したいものがあれば、そちらを注文するか……室内設置や持ち歩く為の魔道具を購入するか、魔法書を追加するくらいでしょうか?」
家具はあれ以上必要ないと思うし。
魔道具か……ちょっと気にはなる。
魔法書は値段が怖いなぁ。
「とりあえず魔道具のお店って見たこと無いので、案内をお願いしてもいいですか?」
「畏まりました」
再び二人で歩く。
再び横目でチラッと見てしまう。
ミーシャさんって何歳くらいなんだろう。
しっかりしてるし、物凄く綺麗だし。
魔道具屋にはすぐに到着した。
「新入生さん、いらっしゃい」
優しそうなお爺さんが話し掛けてきた。
「初めまして。田舎から出てきたので魔道具のお店を初めて見たのですが、見て回ってもいいですか?」
「えぇ構いませんよ。今は生活雑貨の魔道具をメインに取り揃えていますので、どうぞゆっくりご覧下さい」
今は?
どういう意味だろう。
まぁいいや、とりあえず目の前にあるこれ。
携帯型のランタンか。
ライトの魔法よりかは明るいけどLEDランタンよりかは暗いな。
うーん俺はいらないかな。
次のコレは何だろう。
棒を握る。
「そちらは着火の魔道具です。スイッチが横についてるので押してみて下さい」
言われた通りにスイッチを押す。
シュボ
棒の先端から小さい炎が出た。
これはライターみたいだな。
でも着火の魔法もガストーチスキルもあるし……。
そっと棚に戻す。
次は大型のコップだ。
「そちらはスイッチを押すと飲料水が生成出来るコップです」
流石に水を出すわけにはいかないので、スイッチは押さなかった。
そういえば水の魔法はまだ使ったことが無いんだよな。
「これっていくらですか?」
「こちらは大銀貨一枚になっております」
まじか。高いな。
「今回はちょっと諦めます」
流石にここで大銀貨一枚使うわけにはいかないからね。
そのあとも何点か気になる商品を手に取ってはお爺さんが丁寧に説明してくれていた。
俺達が店内をでるときに他のクラスの生徒が一人やってきた。
「これ幾ら?」
他のクラスの生徒が失礼な態度でお爺さんに話し掛けた。
「ふむ、黒組ですか。申し訳ないが君に売る品物はこの店に何も無い」
「なっ!?」
生徒だけでなく俺もお爺さんの態度が急変したことに驚いた。
「うちの店は最低でも青組以上の生徒じゃないと、何も売りはしないぞ」
先ほどまでニコニコしていたお爺さんの表情が一変。
厳しい目つきになる。
あまりの豹変に驚いた生徒はそそくさと立ち去っていったのだった。
すると、すぐさま先ほどまでの好々爺に戻る。
「驚かせて申し訳ない。大した実力も無いのに金の力だけで楽をしようとする人間が私は嫌いでしてな」
自分の商品にそれだけプライドを持っているんだろうな。
「僕も、もっと自分を磨いてからまた来ます」
「それがよろしい。特級組だと驕ることなく自身を磨き続けるのがよろしいかと。そうですな、半年後の試験を終えた後も今の地位を保つことが出来たら、また店にいらして下さい。その時には面白い物を見せると約束しますよ」
半年後か。
どんな魔導具を見ることが出来るんだろう? お爺さんのいう面白い物を楽しみに頑張ろう。
「その時を楽しみにしてます。今日はありがとうございました」
礼を伝えて店を後にする。
「なかなか変わった人だね」
「小規模の売店の主はあのような方も少なくありません。この学園では地位も立場も関係ないのです。いくら実家に力があろうと通じません。なんといっても実力が全てですから」
実力主義か。
次は本屋へと向かう。
本屋には入り口が二つあった。
「ミーシャさん、これは?」
「この本屋は入店の時点でクラスのランクによって入り口が異なります。左側が青ランク以下。右側は特級組か銀組のみとなっております」
まさかの入室の時点で区別されるとは。
右側の方の入り口から入店する。
「……いらっしゃいませ」
店に入るとすぐに声を掛けられた。
『こんな小さい子が働いているのか?』
店員さんの年齢は俺と同じくらいに見える。可愛らしい女の子。でもダボダボとしたローブに、いかにも魔法使いの子が被っていそうな三角帽子を被っているので、まるで魔女のような雰囲気だった。
「魔法書を探しているのですが」
「虹の紋章の子の魔法書は奥」
「ありがとうございます」
言われた通り、奥へと進む。
うん……わかっていたさ。安くはないことくらい。こんな値段なんだろうなって。
本はどれもガラスケースに入っていて、立ち読みなんて出来ない。
しかしケースに入っている本からはほのかに魔力を感じる。
魔法書の値段は安くても金貨一枚、中にはミスリル銀貨一枚の値札の本もあった。
高すぎて買えないので、ぷらーっと見て戻ることに。
「……いい本はあった?」
すぐに戻ってきた俺に対して、店員の子が話し掛けてきた。
「どれもこれもすごい値段で……頑張って稼いでからまた来ます」
本当に高かった。高い高いとは聞いていたけど、まさか安くて金貨一枚だとは思わなかったよ。
女の子がジーッと目を見つめてくる。
思わず見つめ返してしまった。
なんか心の奥底を見られているんじゃないだろうかって感じてしまった。
「……君は変わった色をしてる。名前は?」
「ラグナですけど……」
変わった色って何のことだ?
「名前、覚えた。また来て」
「わかりました。お金を貯めてまた来ます」
そうして本屋を後にする。
「なんか不思議な店員さんでしたね」
ミーシャさんが驚くべきことを発言する。
「あの方はエルフですからね」
エルフ……エルフ……エルフ……
「エルフ!?」
エルフって……アニメで何度も目にしたあのエルフの事なのか!?