新たなスキルと急襲、夜は突然に。
魔法学園の受験手続きのゴタゴタから数日間は精神的に凹んでいたのだが、頭を空っぽにして身体を動かしたり、ミレーヌさんが気を使って励ましてくれたお陰で、何とか気にせずに勉強に励めるようになってきた。
しかし、気のせいでなければいいのだが……
あの受験手続きのゴタゴタ以来、ブリットさんやサイさんの姿を見かける事がほとんど無くなり、かなり忙しそうにしているのは少し気になるところ。
「今日はここまでにしよう」
読んでいた書物を閉じる。
今読んでいたのはこの国の魔法書。
光魔法の詠唱が載っていた。
「光よ、我を暗闇から救いたまえ。ライト!」
手のひらに光の球が現れて周囲がほんの少し明るく照らされた。
「でもこれならLEDランタンの方が明るかったよなぁ」
このライトという魔法は本当に自分の周囲を少し明るくする程度の光しか発生しない。
「これじゃあミニランタン以下の明るさだよ。そういや店で見た大型のLEDランタンは本当に明るかったよなぁ。むしろ直視したら目がやられるんじゃないかって明るさだったっけ」
『LEDランタンスキルを使用しますか?』
久々に聞こえた声に身体がビクッとなる。
「まじかよ……本当に突然だよな。LEDランタン! うわっ、まぶしっ!」
自分の目の前に光り輝く物体が現れた。
思わず直視してしまい、一瞬目の前が真っ白になってしまうほどだった。
「うー、まじで目がシバシバする。これは本当に眩しいな。でもライトの魔法よりも直線的に照らしてくれるから夜出歩く際はこっちの方が便利かも?」
目を細めて目の前で光っている物体を眺める。
「強弱で切り替え出来ないかな」
そう考えてみると極端に明るさが切り替わる。
「弱に出来たってことかな」
光が弱くなったことにより頭上で光っていた物体のシルエットが判明する。
「ランタン自体が召喚されたって訳じゃないのか。魔法のライトの光がランタンの形状になって宙に浮いていると。それじゃあこれならばフラッシュモードなんてのも出来るかな?」
俺がそう考えるとランタン状の光が激しく強弱に光り輝く。
「これはダメだ! 目がやばすぎる!」
すぐに弱と念じる。
チカチカとはげしく発光していた光を直視してしまったせいで、涙が止まらない。
「あぁ、眩しかった……目潰しには使えそうだけど……あと狩りの時にも使えそうだな」
改めてちょうどいい光量で発光しているランタン状の光を観察する。
「これは備長炭やスパイスのスキルと違ってLEDランタンのように光るだけか。流石に現物は手に入らないと……つまりガストーチスキルと同じで似たような現象を魔法で再現出来るだけ。スパイスと備長炭は現物が手に入るのにな。何が違うんだろう」
両者の違いは何なのだろうか……
「さっぱりわからん……でもこれで確定だな。俺のスキルはキャンプに関係したものを召喚したり似たような現象を起こしたり出来るのか」
つまりは向こうの世界では殆ど出来なかった、ソロキャンプもスキルで再現出来るようになるかもしれないって訳だ!
でも……こっちの世界では前世と違ってもっとワイルドな夜営を普通にしてるんだけどな……
場所によっては魔物もいるし……
魔物がいるこの世界でソロキャンプだーってはしゃいだら、すぐに魔物に襲われて殺されるんじゃないだろうか。
「召喚出来れば便利な物もあるけど……物体が召喚出来るのか、魔法で再現なのかで変わるよなぁ」
その後、いろいろとキャンプ用品を想像してみるものの何も起こらなかった。
「もういいや。夜も遅いしもう寝よう」
そして俺はぐっすりと眠る。
悪意ある存在が徐々に迫っていることも知らずに……
『起きて、ラグナ!!』
急に頭の中にサリオラの大声が響き、あまりにも大きな声だったのでびっくりしつつ目が覚める。
『な、何!? どうしたの!?』
目を開くが部屋の中は真っ暗。
窓からは星の光が見えていた。
『今すぐ起きなさい!!! 襲撃が来るわよ! もう近くまで来てるんだから!』
『え? サリオラ? 襲撃? えっ? この屋敷に?』
やっと事態を飲み込めたラグナは慌ててベッドから飛び降りる。
そして周囲を観察する。
襲撃の定番と言えば屋根裏からだけど……
『違う! そっちじゃない! 窓! 窓から来るわ!』
窓?
『もう来る!』
窓に目を向けた時には既に星明かりによって人のシルエットが見えていた。
ガシャーン!
盛大に窓が破壊され、全身黒ずくめの人間が部屋の中に侵入してきた。
「何故起きている? 寝ていると思っていたんだがな。まぁいい。死ね!」
部屋に侵入してきた黒ずくめの人間がナイフを片手に振りかざしてきたのだった。
「くっ! いきなり!」
かろうじて横に跳び、ギリギリのところでナイフを避けることが出来た。
『なんでこいつは部屋が暗くてもこんなに動けるんだよ!』
「ほぅ……これを避けるか。だがマグレだろう! これならどうだ!」
次々とナイフを繰り出してくるが……俺はここ最近の濃密な訓練のお陰で落ち着きを取り戻すと、自身の優れた身体能力を活かし、しなやかな動きで攻撃を回避していた。
襲撃犯の狡猾な動きにも一切惑わされず攻撃を捌く為、ナイフが空を切る音だけが響いていた。
『父さん達に比べたら動きが遅いんだけどな! でも捌くだけで精一杯だ! 反撃する暇が無い!』
繰り出されるナイフを避け続け、傍にあった椅子を襲撃犯に向けて全力で蹴り飛ばす。
「くっ! 子供がここまで出来るとは!! 動きを封じよ。バインド!」
襲撃者が突然魔法の詠唱をすると、俺の足下が一瞬輝き地面から黒い紐が現れた。
「な、なんだこれ!」
足下に突然現れた黒い紐に驚き避けようと飛び上がるものの、片足をその紐に拘束されて俺は地面へと転んでしまう。
「いたっ!」
「手間をかけさせやがって! 死ねぇ!」
星の灯りしかない暗闇の中、襲撃者はナイフを片手に俺に向かって走り出してくる。
『ヤバい! 殺される! っ! 一か八かだぁ!』
襲撃者があと数歩で俺の心臓をナイフで貫けるという距離まで近づいたその時。
突然世界が真っ白になるのだった。
そしてすぐに襲撃者は自身の身体に異変がやってくるのを感じる。
「ぐあっ! 目が! 目が焼ける!」