エチゴヤ商店へ。
エチゴヤの宿を出発してから五分位で馬車が停止した。
「皆様、エチゴヤ商店に到着しました」
馬車に乗って移動だったのでもっと離れているものだとばかり思っていたけど……
エチゴヤ商店とエチゴヤの宿はそこまで距離が離れていなかったらしい。
では何故いちいち馬車に乗って移動したんだろうと不思議に思いながら馬車から降りると、エチゴヤ商店の店員らしき方々が綺麗に並んでいた。
「アオバ村の方々、エチゴヤ商店へようこそ。この度は若様を救って頂き本当にありがとうございました」
宿と同じように息をピッタリ合わせて店員らしき人達が頭を下げてくる。
その様子に店の前を歩いていた通行人やエチゴヤ商店の周囲にあるお店の人達までもがなんだなんだとこの光景をのぞきに来た。
まさかエチゴヤ商店でも従業員から頭を下げて感謝を伝えられると思っていなかった俺たちは、周囲からの視線もあってガチガチに緊張してしまった。
「皆様、それではどうぞこちらへ。ブリット様とサイ様が奥でお待ちです」
店員に案内されお店の中の通路をガチガチに緊張しながら歩き、従業員専用の扉の先へと進んでいく。
従業員専用の通路を店員の後ろに続いて進むと執務室と書かれた部屋の前へ。
コンコン。
「誰だ?」
「アオバ村の方々が到着しました」
店員がそう声を掛けると執務室の扉が開き、部屋の中からブリットさんが笑顔で飛び出してきた。
「おぉ、よくいらっしゃいました」
ブリットさんは部屋から出てくると村長さんにそう声をかけ握手するのだった。
「代表、そのような所で話をせずに皆様をお部屋の中へ」
サイさんが苦笑いしながら部屋に入るように促すと、
「私としたことが。皆様どうぞ中へ。ちょっと散らかっていて申し訳ありませんが」
部屋に入って目につくのは大量の書類。
ブリットさんとサイさんの机の上は見るのも嫌になるほど大量の書類に埋め尽くされていた。
「す、凄い量ですな……」
村長さんはあまりにも山積みになっている書類の多さに少し引いている様子。
どうぞこちらにお座りくださいとサイさんに促されたので椅子に座って話すことに。
「ゆっくり休めましたかな?」
「昨日は貴重な経験をさせていただき本当に感謝いたします。辺境の村にいては決して体験出来ぬことを経験させてもらったのじゃ。本当に素晴らしい一夜でしたのぅ」
村長さんと共に皆で頭を下げて感謝を伝える。
「喜んでいただけたようで本当によかった。こちらこそ息子を助けていただき、本当にありがとうございます。息子に話を改めて聞くと、本当に血の気が引く思いでした。アオバ村の方々が助けてくれなければうちの息子は確実に死んでいたでしょう」
「いえ、儂らがもう少し早く対応していれば、ご子息を危険な目に遭わせることも無かったのですじゃ。それに貴方が駆けつけて下さらねば、儂らの命がどうなっていたか……こちらこそ本当に助けていただき感謝いたします」
「たまたま三日前にこちらの支店に用があったのですよ。そのおかげですぐに情報が入ってきて動くことが出来ました。もしもこっちに来ていなければと考えると……あの領主の事です。最悪サイ共々行方不明という扱いにされていたかもしれませんな! まぁ、冗談ですがね!」
はっはっはと笑うブリットさんだったが……
確かに万が一ブリットさんが駆けつけていなければと考えると……
皆の顔色が真っ青になっていくのも仕方がない事だと思う。
コンコン
「誰だ?」
「私です。お茶をお持ちしました。入ってもよろしいでしょうか?」
「おぉー、我が愛しのミレーヌちゃんじゃないか。入っておいで」
「失礼いたしますわ」
ガチャリという音と共に扉が開かれ部屋の中へと現れたのは、可愛らしいフリフリの服を着た女の子。
ガラガラと音を立ててカートを押しながらお茶とお茶請けを運んで来た。
「アオバ村の皆様、ようこそいらっしゃいました。あらためまして、ブリットの娘のミレーヌです。この度は兄を助けて頂き本当にありがとうございました」
ミレーヌさんがお礼を伝えた後、サイさんが立ち上がる。
「アオバ村の皆様には改めて本当に感謝いたします。そしてラグナ君、幼い君をこんな辛いことに巻き込んでしまい本当に申し訳なかった」
サイさんはやっぱり気にしていたらしい。
「サイさんのせいじゃないですよ! あれは事故みたいなものです。それにサイさんにはいろいろ気を遣っていただき、僕の方こそ助かりました。あと、昨日の宿での料理は本当に美味しかったです!」
あれは本当にサイさんが悪い訳じゃない。
むしろ悪いのはすべてあの領主と領軍だから。
「喜んでくれたみたいで良かったよ」
少し暗い表情だったサイさんがホッとした表情に。
「ごほん、それで……これは何かあったのですかな? もしや、エチゴヤの方々ともなるとこの量の書類は当然と……?」
村長さんの疑問は当然。本当に部屋の中が書類だらけ。
流石に書類の内容を覗いたりはしないけど。
それに、紙ってこの世界だと貴重なんじゃなかったっけ?
「いやぁ、息子に話を聞けば聞くほど腹がたってしまってな。あの領主へと仕返しすることにしたのですよ。その為の下準備ですな」
ブリットさんが物凄い笑顔だ。
「とりあえず昨日の話し合いが終了した後に、商業ギルドへ今回のことを全て伝えたのですよ。更に商業ギルド経由で既にこの件は王宮へもね。あの領主がきちんと報告するなんて思っていませんのでな」
そして笑顔のサイさん。
「今回の事件はエチゴヤ商会全体への攻撃なのでしょうか? と商業ギルド経由で父が王宮に伝えてしまったものだから何も知らない向こうは大混乱。この国の宰相閣下から直接ウチに連絡が来ましたよ」
国の宰相閣下から連絡……
宰相って物凄く偉い人だよね?
それに……普通に考えれば、ただの商会が王宮に連絡できる訳ない。
エチゴヤ商会ってやっぱりあの伝説の商会だけあって影響力は多大なんだ。
「それで此度のことはどうなるので?」
「ナルタ辺境伯、いや元辺境伯か……は商業ギルド経由で王宮より呼び出しの連絡があったみたいで、早朝に慌てて王都へと向けて出発して行ったよ」
「それは、それは……」
流石の村長さんも顔が引きつってる。
「この事態を重く見た王宮は辺境伯の爵位を剥奪。辺境伯領は一時的に王宮の預かりとなるらしいよ?」
爵位の剥奪ってそんな簡単に出来るものなのか?
普通に考えたら、貴族達の反発も凄いだろうに。
「ラグナ君、何か言いたそうだね?」
皆の視線が俺に……
「えっと……爵位の剥奪ってそんなに簡単に出来るんですか? 他の貴族様が同じような目に遭うんじゃないかと警戒して、反発しそうですが」
うん?
皆の顔が驚いてる?
「驚いた。君はその歳でそこまで頭が回るのかね。もしやアオバ村ではそのような教育を?」
えっ? 変なことを言ってしまったのだろうか?
村長さん達も何故驚いた顔をしてるんだ?
「いやいや……うちの村では恥ずかしながらそのような教育は全く行われてないのぅ。この子だけは本当に特別なのですじゃ」
「流石は俺の息子」
「えっと……」
「それはそれは……将来が期待出来る人材ですな。それじゃあ君の疑問に答えるとしようか。知っていると思うが、この国で圧倒的人気なのが初代勇者様だ。この国の建国の父。初代ヒノハバラ国王でもあるしな。そして子孫の自分で言うのもあれなのだが……二番目に人気なのが初代エチゴヤ商会の代表なのだよ。現国王もそれなりに人気はあるけどね。そこから考えると、国内で二番目に人気のあるエチゴヤ商会の子孫に対して行った今回の暴挙について、市民の皆はどう思うかな?」
市民の人気者、つまりアイドル的な感じか。
それが領主の息子に殺されかけた。
その時点で市民の恨みを買うだろうし、その後のあの対応も考えると……
「最悪暴動ですか……?」
「そうだね、市民達の反発は凄まじいことになると思うよ。他領の貴族も住民の反発を恐れて今回の件に関しては完全に傍観だろうね。下手に庇って巻き込まれたくないだろうし」
「そうならないように今回王宮は重い処分を下すことになったんだ。じゃなきゃ爵位の剥奪なんて行われないよ」
はっはっはと笑うブリットさん。
エチゴヤ商会の看板って凄まじいんだな。
「それで、この領地は今後どうなるのでしょう?」
村長さんからしたら当然の疑問だよね。
俺達の村もナルタ辺境伯領の一部なんだし。
「一応まだ予定なのだが、私と縁がある辺境伯領のお隣の領地の運営をしていた伯爵がこの領地に収まる予定なのだよ」
伯爵から辺境伯って
しかもお隣の領主って。
「そして現伯爵領を元辺境伯家が引き継ぐことになっているんだ」
「つまりは領地替えですか」
「そうです。今回僕らに対して仕出かしたことは確かに重罪ですけど、だからと言って辺境伯家だった人間達をいきなり平民になどは出来ないんですよ。なので苦肉の策として元辺境伯の一族は伯爵となり、隣の領地の領主になる事に決まったんだ」
サイさんが悪い顔をしてる。
「ナルタの隣の領である伯爵領はナルタ辺境伯のせいで長年困った事になっているんだよ」
「困っている?」
「ぶっちゃけると辺境伯が伯爵に嫌がらせをしていてね、食料は満足に入ってこない。入ってきても関税のせいで、値段が高い。更に魔物の素材も関税によって吊り上げられてる」
「つまりはいじめっ子といじめられっ子。その立場が逆転?」
「まぁ伯爵は元領地に住む領民のために、いじめるようなことはしないだろうね。するとしたら、あの元辺境伯の一族に絞ってだと思うよ」
「でもそれって危なくないですか?」
「危ないとは何故かな?」
「だって……伯爵領の住民の皆は辺境伯のせいで苦しんでいるんですよね? その長年苦しめてきた元凶の人間が自分達の領主になるんですよ?」
それこそ暴動になるよ。
自分たちを散々苦しめてきた存在が自分たちの領主に……
素直に住民が言う事を聞くわけがない。
「難しい舵取りになるだろうね。流石に元辺境伯様も次は無いって理解しているだろうから必死に領地の運営をすることになると思うけど。万が一市民の暴動なんて起きたら……ね?」
つまり次にまた何かやらかしたら……貴族の地位を完全に剥奪されて処分されるってことか。
「それにしても、ラグナ君は本当に賢いな。本当に村で育ってる子供とは思えないよ」
「「「確かに」」」
何故そこで父さん達も同意するんだよ。
「そうだ。ラグナ君で思い出した。レシピの件を話し合おうじゃないか」
レシピかぁ。まさかあんなもので登録されるなんてね……
むしろあんな誰でも思いつきそうなことすら広まっていなかった事にびっくりだよ。
「その件に関してはおまかせします。僕としてはまさかあんな事でこんなに
「本当にいいのかい? では、我が商会や系列の店舗でラグナ君が提案した料理のレシピを使用した場合、売り上げの一割を君に。他の店舗からは二割を君に支払う契約でいこうと思うけど、どうかな?」
罪悪感が半端ないよ……
ただ単にパンに具材を挟んで一緒に食べるだけなのに……
「本当におまかせします! よくわからないですもん……」
「そうか、それでこの料理の名前はどうするんだい?」
本来ならサンドウィッチなんだろうけど、これって確かサンドウィッチ伯爵って人の名前から取って付けられた名前だと言われているって前世で見た気がする。
だからと言ってサンドパンってしたいけどサンドって別に挟むって意味じゃなかったんだよな。
海外でホットサンドが食べたいからって英語で普通にホットサンドって頼んでも向こうからしたら熱い砂をくれ? ここは砂場じゃねーよ! ってなるって読んで爆笑したよ。
それにサンドウィッチとかサンドパンだと、もしも転移者とか転生者がこの世界にいた場合……
俺が転生者とバレる可能性があるし。
出来れば隠しておきたい。
「名前……何も思いつきませんね……」
サイさんとブリットさんも考えてくれている。
「通常だと開発者の名前をいれるんだがな」
「ラグナパンって登録するのが一番簡単だけど、どうだろう? 名前も売れるよ?」
流石にそれは恥ずかしい。
「自分の名前のままっていうのは恥ずかしいので、出来れば遠慮したいです」
「それならばこれなんてどうでしょう? グーナパンと」
突然、お茶を運んで来てくれたミレーヌさんが話に加わってきた。
「グーナパンか。一応ラグナ君の名前の一部も入っているしな。どうだろう? 私もいいと思うよ?」
グーナパンかぁ。
確かにこれならバレないだろうけど、気恥ずかしい部分はあるな。
まぁ仕方ない。
「グーナパンで登録お願いします」
「おぉ、それならば良かった。ではサイはミレーヌとラグナ君を連れて商業ギルドで登録してきて貰えるか?」
「わかりました。それじゃあ行こうかラグナ君」
「今からですか? えっ、あっ、はい」
ちょっと不自然に感じるけど父さん達と別れて商業ギルドに向かうことになった。
今度は裏口から出て馬車に乗り商業ギルドへ。
なんで一々馬車で移動するんだろう。
「なんで馬車に乗って移動するんだろうって顔に出てるよ」
あらま。
「すみません。でも気になっちゃって」
「まぁこれは単純に僕達の身を守る為でもあり、皆を守る為でもあるかな」
「それはいったい……」
「父さんも含めてだけど、エチゴヤ一族は見習いを卒業した後、あまり表に出てこないようにしてるんだ。それは何故か分かるかな?」
「顔が広まるとエチゴヤの資産を狙う悪党や妬んでいる人物。それに近い犯罪に巻き込まれるからですか?」
「正解。本当によく頭が回るね。過去に事件があったんだよ。初代エチゴヤ商会の孫にあたる人でね、一応三代目の商会長になる予定だった人が店内で殺される事件があったんだ」
暗殺かな。
「しかも、殺された原因が他の商会からの妬みでね」
「妬みですか……」
「勇者様のお陰で稼げただけだろうってね。お前さえ殺してしまえばあとは年寄りを消して終わりとでも思ったみたい」
「その後はどうなったんですか?」
「当時はまだ勇者様も初代エチゴヤ商会長もご存命でね。孫のように可愛がっていた子が暗殺された事に勇者様が激しくお怒りになられたらしく、犯行を行った商会の人間を捕らえるようにすぐに人を回したんだ。もちろん、初代エチゴヤ商会長もすぐに動いたらしい」
「では犯人たちは直ぐに捕まったと?」
「いや、捕まえることが出来なかったんだ」
捕まえることが出来なかった?
「それは、どうしてでしょう?」
「それはね。既にこの世からその商会の人間達が居なくなってたからさ」
「えっ?」
「三代目になる予定だった人を殺した犯人がね、店内で買い物をしていた市民達に捕まったのさ。そしてそのまま店先まで引っ張り出されて、市民達からかなり激しく尋問されたらしんだ。あまりにも激しい拷問だったので、耐えられなかった犯人がどこの商会がやったと白状したらしい。怒り狂った市民達は、武器を手に取りその商会を襲撃。そして商会の家族がまだ建物にいることが判明したので、店内にいる一般市民を退去させたあとにそのまま建物ごと魔法で破壊しつくしてしまった事件があったんだ」
「過激すぎる……」
「当時はまだ魔王と戦争をしていた時の戦場経験者が大量にいてね。魔法を使える人間が今よりもずっと多かったんだ」
完全なる私刑ってやつか。
サイさんとミレーヌさんといろいろ話をしていると馬車が止まった。
「商業ギルドに着いたみたいだね。行こうか」
馬車を降りると、目の前には三階建てくらいの立派な建物が。
「さぁ入ろうか」
ギルドの扉を開き、中に入る。
キョロキョロと見渡すと、室内の奥の方に受付? のようなものがある。
ギルドに入って右側は大量の書類と掲示物、それにテーブルと椅子が設置されていて、商人らしき人達が何かの書類を読んだりしている。
左側は飲み物や軽食を売っている売店になっているみたいだ。
サイさんに連れられて受付の列に並ぶ。
すぐに列は捌かれて受付のお姉さんの所へ。
「商業ギルドへようこそ。本日はどのような御用件でしょうか?」
「昨日申請した特許の契約と、この子の商業ギルドの登録をお願いしたい」
「特許の契約ですか?」
サイさんは懐からカード? を取り出してお姉さんにチラッと見せる。
「し、失礼しました。こちらへどうぞ」
お姉さんは目を見開いたあと、一度深呼吸をしてからこちらへと案内してくれた。
「サイさん、今のは?」
「あぁ、今のは僕達のことを示す身分証みたいなものさ。
お姉さんに連れられて会議室のような部屋に案内された。
「しばらくお待ち下さい。すぐに担当の者を手配します」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
凄いなぁ、サイさんが物凄く頼もしい。
「ん? どうしたんだい?」
「いや、サイさんが物凄く頼もしくてカッコいいなぁって」
サイさんは笑顔になると頭をポンポンしてきた。
「ここに来るまでに、散々情けない姿を見せちゃったからね、自分の仕事の時くらいはカッコ良く見せないと」
ブリットさんにどこか似た笑顔で笑うサイさん。
「お兄さまはそんなに情けない姿を見せたのですか?」
うーん、あれは情けない姿かなぁ。結構励ましてくれたと思うし、時折ニヤッと笑っていたからかなり黒い姿ならいっぱい見た気がするけど。
「情けない姿はいっぱい見せたさ」
コンコン。
「失礼します」
扉が開いて入って来たのはめちゃめちゃダンディーなオジサマ。
「ようこそ、商業ギルドへ」
「っ!? あっ、あなたが何故こちらへ?」
サイさんが物凄く驚いてる。
「なに、君のお父上と話があってたまたま私もナルタに来ていたのだよ」
「そうだったのですか。お久しぶりです」
「まだまだだなぁ。一人前の商人が動揺してどうするんだね。お父上に笑われてしまうぞ?」
「すみません」
「
ニカッと笑いながら手を出されたので握手する。
「アオバ村のラグナです。初めまして、アムル様」
まさか商業ギルドで一番偉い人と話をするなんて。しかも握手まで。
「おじさま、お久しぶりです」
「おぉ、ミレーヌちゃんも大きくなったね~! ますます可愛くなって!」
「ありがとうございます♪ それにまだまだ成長しますわ」
「うむ、きちんと食べて学んで大きくなるんだよ」
まるで自分の娘かのように統括ギルド長はミレーヌさんを可愛がった。
「それで、ギルド長であるあなたが何故この部屋へ? まさか顔見せの為だけに?」
確かに。なんでわざわざそんな偉い人が足を運んで来たんだろ?
統括ギルド長ともなれば、手続きが終わった後に僕たちを呼び出せばいいだけだろうに。
「なに、特許の申請が昨夜あってな。女神様に献上したところ、異例の早さで許可が出たのだよ」
驚くサイさんのリアクションに俺は驚いてしまう。
「えっ? そうなのですか?」
「あぁ、更にな……近いうちにとある黒髪の少年が青年と少女と共に商業ギルドへと申請にやってくる。到着次第、神殿内へと連れてくるようにと神託までセットでな」
神託!?
青年と少女……
サイさんとミレーヌさん……
黒髪は……俺なのか!?
「えっ、神託ですか!? め、女神様がラグナ君を呼んでいると?」
どういうことだ?
おもむろにネックレスをさわる。
『サリオラいる?』
『……』
あれ……? 返事がない。
「女神様からのご神託など私が就任してから初めてだからな。商業ギルドは昨夜から大パニックだよ。神官ですら慌てふためくばかり」
あれ? 何度呼びかけてもサリオラに繋がらない……
「君は何か身に覚えはあるかい?」
急に話を振られてドキッとはしたものの、動揺を悟られないようにゆっくりとネックレスから手を放す。
「い、いえ。商業の女神様がマリオン様だったことを知ったのは昨日でして。宿の支配人さんからそれを教えてもらいました」
「そう言えばそんな報告も来てたね。話をよく聞いてよく学ぶいい子だと」
「い、いやそんな事は……」
そんな風に褒められるとなんかムズムズする。
「まぁ商業の女神様がマリオン様だったことを昨日知ったくらいだ。人違いだったか?」
アムルさんが腕を組みながら悩んでいる。
違う女神様の娘となら知り合いなんだけどね。
マリオン様には会ったことも無いし。
コンコン。
再びドアがノックされる。
若い男の人が部屋に入って来るなり、チラッと俺を見てきた気がする。
俺、何かしたかな。
「失礼します。神官共が神託の少年が来ただろうと詰め掛け、少年を神殿まで連れてくるようにと向こうで騒いでいますが……如何しましょう?」
ギルド長はこちらをチラッと見た後、はぁとため息を吐く。
「彼奴らめ。バカみたいに騒ぎやがって……もしかしたら人違いの可能性もあるが……ラグナ君、すまないが神殿に行ってもらえるかね?」
これは面倒な予感しかしないけど、拒否は出来そうにないよね。
「わかりました。神殿に伺います」
「それじゃあ、契約の手続きはこっちで進めておくよ。さっき話をした通りの契約でいいんだね?」
「はい、全てお任せします」
「わかったよ。それじゃあ気をつけてね? 神官達には特にね」
神官達?
思っているよりも商業ギルドと神官達はあまり仲が良くないのかな。
「それじゃあラグナ君の案内頼んだ」
「わかりました。それじゃあ行きましょうか」
先ほど部屋に入ってきた男の人に神殿まで案内して貰うことになった。