
目が覚めたら、そこは宝石みたいな木がきらきら輝く場所だった。
どうやら【透写の森】に戻ってきたらしい。
「かえってきた」
ぱちりと目を開け、むくりと起きる。
すると、だれかにぎゅうぎゅうと抱きつかれた。
「レニちゃ~! よかったノ! よかったノ!!」
「かりがのちゃん」
心配してくれていたようで、抱きつく力がちょっと強い。
落ち着いてもらうよう、とんとんと背を
「れに、どうなってた?」
「レニちゃ、【
カリガノちゃんの言葉に、うんと
聞いている限り、なんだかすごいことが起こったのは間違いない。
私は【
「れに、まりょくぼうそう、なっちゃったね……」
そうならないようにって修行をして、秘宝を集めていたのに……。
自分の失敗にしょんぼりと肩を落とす。
すると、よく知っている声がした。
『……ごめんなさい』
はっとしてそちらを向く。
そこにいたのは──
『ごめんなさい。私、そんなに驚くなんて思わなくて……、ごめんなさい』
黒い髪に黒い目。上下スウェットの「日本での私の姿」がこちらを心配そうに
日本での私の姿を鏡に映せば、まさにこんな風だろう。
これは【
そんな姿を見ていると、すっと言葉が出た。
「だいじょうぶ」
そんなに怖がらなくても、きっと大丈夫なのだ。
失敗する自分、嫌われる自分、いらいらさせる自分、迷惑がられる自分。そんな自分が悲しくて、そうじゃない私になりたかった。
「れに、しっぱいした。しっぱいしないようにっておもっても、しっぱいする」
……この世界に転生して。レベルカンストして、アイテムを持ち越して。父と母にたくさんの愛を与えてもらって、サミューちゃんにいっぱいの優しさを分けてもらった。
旅で出会った人もみんな、たくさんのものを私に見せてくれて。
でも、私は失敗をする。
なんと、今回は世界を滅亡させるところだった。
「れに、かんぺきじゃない」
日本での私の姿をした【
私は立ち上がるとそっと近づいていった。
「……みんな、かんぺきじゃない」
【
高校一年生の私は、今の私より背が高い。私はその腰のあたりをぎゅうと抱きしめた。
「──だいじょうぶ」
そのままの私で。できるだけの私で。
私自身が、私を許せたら……きっと、それだけで。
『ん。いい答えだね』
その声はもう、日本での私の声じゃなかった。
ゆらりと私の姿がブレて、そのまま透明の
「きえちゃった」
抱きしめていた手を元に戻し、辺りを見回す。
もうどこにも透明の歪みはない。その代わりに地面になにかが置かれていた。
「てかがみ?」
「きっと、それが【
カリガノちゃんがわぁ! と歓声をあげる。
そして──
「レニ様っ!」
「おい、待て、待てと言うに……! まったく!」
空から二つの声が降ってくる。
二つの人影。そのうち、一つがこちらに向かって落ちてくる。
どうやら空中を羽ばたいていたムートちゃんから、サミューちゃんが飛び降りたようだ。
サミューちゃんは【魔力操作】をしたようで、そのまま地面にシュタッと着地した。そして、私の姿を見つけ、ほっと安心したように息を吐く。
金色の髪が風に揺れ、
目が合うと、私は気づいたら、走り出していて……。
「さみゅーちゃん!」
そして、そのまま地面を蹴る。えいっと跳び上がれば、サミューちゃんの胸の中だ。
「れ、レニ様っ?」
サミューちゃんの焦ったような声。そんなときでもサミューちゃんは私をしっかりと抱きとめてくれた。
一度、その存在を確かめるように、強く抱きつく。
そして、今度は力を抜いて、じっとそのきれいな碧色の目を見つめた。
サミューちゃんは状況把握が追いついていないようで、驚いた表情のまま
私は、その頬にちゅっと口づけをした。
「ひにゃっ!?」
瞬間、サミューちゃんから鳴き声みたいな音が漏れたけど、気にせず、目を見つめる。
この気持ちを、伝えたいから。
「さみゅーちゃん、だいすき」
ちゃんと伝わってる? 私の気持ち。
ちゃんと届いてるかな?

「さみゅーちゃん、だいすき」
一回じゃ伝わらなかったかもしれないから、もう一度伝える。
今度は鳴き声みたいな音は漏れてこないし、きっと伝わっているはず。……はず。あれ?
「……さみゅーちゃん?」
「立ったまま気を失っているノ!! しかも口がにやけてるノ……! 怖いノ!!」
「さすが幼いエルフじゃの。息の根を止めようとしたんじゃな」
「……してない」
サミューちゃんは立ったまま、白目の幸せそうな顔で失神していた。

サミューちゃんが正気を取り戻したのち、私はみんなに前世のことや、この世界のことについて説明した。
ゲームの世界って部分にはみんな首を
サミューちゃんもムートちゃんもカリガノちゃんも。私の話を真剣に聞いてくれ、私がこの世界で生まれ、一緒にいるのなら、それでいいと言ってくれた。
そして、四人で【
ムートちゃんの秘宝三つを所持し、【魔力操作】も手に入れ、前世を克服した私に、もはや死角はない!
リワンダー全体を包み込むように浄化すれば、死霊系モンスターはすべて消えていった。
宝玉の力で肉体を失ってからもそこに存在していた生き物たちが
「じょうか、よし」
人の手が入らないまま、長年
だが、
魔物が消えた今、人の手が入れば、復興していけるだろう。
「さすが幼いエルフじゃのう……。この規模の浄化をして顔色一つ変えんとは。力があり余っておるな」
「レニ様、お体の調子はどうですか?」
「うん、だいじょうぶ。いつもといっしょ」
ガイラル領都を浄化したとき、私は【魔力暴走】状態になってしまった。
だが、体のだるさも、眠気も、発熱も感じない。うん。確実に強くなっている。
「レニちゃー! 見てなノ! なにか光るものが飛んできてるノ!」
カリガノちゃんが言う通り、指差した方向になにかが見えた。
うん。すごく輝いている。そして、この光は──
「宝玉ではないか!!」
ムートちゃんが声をあげる。
そういえば、リワンダーが死霊系モンスターのダンジョンになってしまったのは、不死を求めた王様が、宝玉に願ったからだった。
もしかしたら、あれは宝玉だろうか。私がリワンダーを浄化したことで、リワンダーでの役割を終え、自由になったのかもしれない。
その宝玉がふわふわと飛び、こちらへと向かってくる。……こちらというか、私へ、と。
「まさか! 幼いエルフは二つ目の宝玉も手に入れようというのか!? ちょっとそれは戦力過多ではないか!?」
ムートちゃんはそう言うと、私のもとへと飛んできた宝玉をつかもうとした。が、宝玉はそれを
ムートちゃんは何度かそれを繰り返し……諦めた。
「もうよい、わかった……好きにせい」
ムートちゃんにそう声をかけられた宝玉が私の目の前でふよふよと漂う。
私が持っている宝玉と形が違い、クリスマスツリーのてっぺんについていそうだ。
宝玉は一瞬そこで大きく輝いた。まぶしくて目を閉じる。
光が消えたあと、目を開ければ、もうそこに宝玉はなくて──
「おぬしの体に入っていったわ。……宝玉を二つも手に入れるなど、前代未聞すぎるぞ」
「さすがレニ様です……!」
「レニちゃ、すごいノ!」
とくに体に変化はない。が、二つ目の宝玉も一つ目と同様、私のそばにいてくれるのだろう。一緒に旅をする、と。きっとそういうことなのだろう。
「りわんだー、このままでいい?」
浄化をしたはいいが、この場所はこのままでいいのだろうか。
これまではダンジョンだったから、どの国も領土としていなかったが、もう魔物がいないのであれば、だれかが管理したほうがいい気がする。
なので、そう言うと、サミューちゃんが
「ここの浄化が終われば、ランギルオーザ国へ報告することになっています」
「らんぎるおーざ。きゃりえすちゃんのくにだね」
「はい。ですので、このままランギルオーザ国王へと会いにいくのがいいのではないかと思います」
「うん。きゃりえすちゃんとぴおちゃんに、あいたい」
サミューちゃんの言葉に頷く。
リワンダーの浄化の報告のついでに、キャリエスちゃんやピオちゃんに会えたら、とてもうれしい。
そこで、二人にもいろいろ話ができればいいな、と思う。
「ぱぱとままにも、はなしたい」
私が変だとわかった上で、いつもそのままの私に愛を注いでくれた。
旅に出てから、サミューちゃんを通じて報告はしているが、やっぱり直接会って話がしたい。
エルフの森でハサノちゃんに会ったこと、エルフのみんなも元気だったこと。私の前世のことやこの世界のこと。
自分のこどもに前世があることを、一般的な父と母がどう思うかはわからないが、二人ならば、きっと笑って受け止めてくれる気がする。
「そうですね。ランギルオーザ国の王都で浄化の報告をしたのち、一度、レニ様のお母様に会いに行くのもいいですね」
「うん」
そして──
「また、たびにでよう」
「はい!」
私はこの世界を目いっぱい楽しむ。
まだまだ見ていない景色がたくさんある。それを五感でたしかめるのだ。
「世界はまだ不思議でいっぱいじゃぞ」
ムートちゃんがニシシッと笑う。
「うん」と頷けば、心がワクワクと弾んだ。
「強い敵もおるぞ。……嫌な人間や困ったことにも遭遇するじゃろうな」
「うん」
「それなら大丈夫なノ! カリガノも一緒に行くの!」
「ウサギ獣人がいても、まったく安心できませんが」
「ひどいノ!」
そう。きっと楽しいことだけではない。
難しいことや、苦しいこともあるだろう。でも……。
「だいじょうぶ」
──最強四歳児なので!
「れににおまかせあれ!」