ムートちゃんいわく、【魔力暴走】により、私が【宝玉(神)】ごと消えてしまう恐れだけではなく、なにか不測の事態が起こっているようだ。

 私が【魔力操作】を覚え、【魔力暴走】を起こさないようにすることは第一の対処方法。さらに、体の成長を待ちつつ、ムートちゃんの三つの秘宝でサポートをする。

 そして、ムートちゃんはその『もしも』のために、力をめるために眠りに入るのだという。

 もし『もしも』がなかった場合は、ムートちゃんとお別れになるのかもしれない。ムートちゃんは【世界礎の黒竜ブラックバハムートドラゴン】だ。そもそもこうして出会い、話をし、ともに旅をしたことが奇跡だった。

 ムートちゃんの代わりに案内役に手を挙げたのがカリガノちゃんだ。

「【変転の砂漠】はカリガノの暮らしていた村のすぐそばなノ! ニワトリのこともよーく知ってるノ!」

「にわとり?」

「【毒鶏コカトリス】のことなノ! 巨大で毒を持ち、周りに瘴気しょうきをまとっているけど、まあニワトリなノ!」

「余のけんぞくをニワトリ呼ばわりとは……。【水蛇ナーガ】より強いかもしれんぞ!」

「ふぁぁあ!」

 ムートちゃんの言葉に声が漏れる。

 コカトリスといえば、ニワトリとトカゲを足した姿。そして、だいたいは毒を持っている。

 ゲーム内の【変転の砂漠】にはトカゲのモンスターはいたが、【毒鶏コカトリス】はいなかった。【変転の砂漠】は入る度に地形が変わるのだが、ボスがいるダンジョンというよりは、村から村への通過地点としての場所だった。

 街から街へ転移できるようになれば、砂漠地帯のモンスターの素材が欲しいとき以外には通らないマップだったなぁ。

 まさか、そこにボス級のモンスターがいるなんて……!

「カリガノなら役に立てるノ! カリガノはとっても耳がいいし、鼻も利くノ! レニちゃは獣人のイメージアップ大作戦のメンバーなノ! だからカリガノは助けるノ!」

 そう言って、カリガノちゃんは素早く土下座から立ち上がると、ぎゅうと私を抱きしめた。

 サミューちゃんが手を伸ばしたように見えたが、それよりもカリガノちゃんが速い。

 カリガノちゃんほっぺを私のほおにすりすりと当てる。くすぐったくて、思わず笑ってしまった。

「くっ、離れて……離れっ……力が強すぎる……!」

「獣人の力にエルフがかなうわけないノ~♪」

「うぐっ、くぅっ!!

「レニちゃ、カリガノの耳、触ってみてほしいノ。ふわふわなノ!」

 サミューちゃんは必死に力を入れているようだが、カリガノちゃんはビクともしない。すごい。これが獣人の力……!

 魅力的なふわふわの耳を揺らされ、私はこくこくとうなずいた。

「れに、さわってもいい?」

「もちろんなノ!」

「さみゅーちゃん、だいじょうぶ」

「くっ……はい、わかりました」

 サミューちゃんは私の言葉を聞き、カリガノちゃんから手を離す。

 そして、私はそっとカリガノちゃんの耳に手を伸ばした。やわらかな毛が密に生えていて、てのひらにふわふわと触れる。すごい。気持ちがいい……!

「ふわぁ……」

 カリガノちゃんの耳はとても手触りがいい。カリガノちゃんが痛くないように慎重に触らせてもらったが、いい体験だった。

 満足して手を離せば、カリガノちゃんは頬を赤くしているが、にこにこと笑顔だ。

「カリガノはレニちゃの事情はまだわからないし、レニちゃがカリガノに言えることだけで説明してくれればいいノ。カリガノはお役に立つノ! ニワトリはすごく臭いから、どこにいてもすぐにわかるノ。レニちゃをちゃんと案内するから任せてなノ!」

「まったく信用できませんが」

 サミューちゃんがそう言いながら、眉間のしわを指でむ。深い深いしわが刻まれている。

 しかし、そもそもカリガノちゃんがいるところでこの話をしたということは、サミューちゃんもムートちゃんも、それなりにカリガノちゃんを信用しているのではないだろうか。

 ……会話を聞いただけではなにもわからないだろうと思ったのかもしれないが。

 じっと目の前にいるカリガノちゃんを見つめる。

 ピンク色の髪に同色の目。今は頬もピンク色だ。悪意は……ないと思う。ただ……。

「かりがのちゃん、れにと、いっしょでいいの?」

 問題はそこである。

 これまで一緒に旅をしてきたのは、サミューちゃん、キャリエスちゃん、ピオちゃん、ムートちゃん。サミューちゃんは私の守護者であり、父と母から私のことを頼まれている保護者でもある。

 そして、キャリエスちゃんはドラゴンに襲われているところを助けたのが始まりであり、事件解決のために一緒に旅をする必然性があった。

 ムートちゃんも【世界礎の黒竜ブラックバハムートドラゴン】として、世界が滅亡しないよう、私の見張り兼見守り兼案内役としていてくれたのだ。

 が、カリガノちゃんには私と一緒にいる理由がない。

「このままちがうところ、いってもいいよ?」

「カリガノじゃ役に立たないノ?」

「そうじゃなくて……」

 カリガノちゃんのピンク色の目がうるうると揺れる。

 私はそれを見て、目をさまよわせた。

「かりがのちゃんに、いいことがない」

「ふぇ?」

「……れに、しっぱいするから」

 失敗したくて失敗する人はいない。でも、やってしまう。そして、私は失敗をよくしてしまう人間だ。

 サミューちゃんはそんな私だとわかったうえで、いつも笑顔を向けてくれた。だから、私は一緒にいて安心できる。

 でも、カリガノちゃんにはまだ、そんな風な安心感は持てない。

『困らせないで』

 転生前に母にたくさんかけられた言葉。

 同じ班になった同級生も、私がまごついているのを見て、めんどくさそうな目をしていた。

 このピンク色のまんまるのかわいい目がそんな風になるのがこわい。だって、カリガノちゃんには私と一緒にいるメリットがないのだ。だから……。

「それなら、なんにも問題ないノ!」

 目をらした私の注目を引くように、カリガノちゃんは明るい声を出した。

「カリガノはレニちゃの役に立ちたいって言ったノ。それはカリガノが自分で決めた自分の意志なノ! 一緒にいることがいいことなノ!」

「……そうかな?」

「そうなノ! それに、今カリガノが言ったのは、レニちゃの言葉なノ」

「わたしの?」

 カリガノちゃんの話にぱちぱちと目をしばたたく。

 私の言葉……?

「レニちゃ、カリガノが大失敗したこと、なんにも問題ないって言ってくれたノ! カリガノ、それがとってもとっても安心できたノ」

 カリガノちゃんはそう言うと、ニパッと笑った。

「カリガノ、レニちゃが失敗しても大丈夫なノ。だって、カリガノも失敗するから!」

「……そうかな」

「そうなノ!」

 カリガノちゃんが元気に言い切るから、そういう気がしてくる。

 思わず笑えば、カリガノちゃんは、ぎゅっと私を抱きしめて、頬を寄せた。

「カリガノはレニちゃの役に立つノ! 任せてなノ!」

「うん」

 ふわふわな耳がぴょこぴょこと揺れる。温かさと柔らかに思わず頷けば、うしろからぐぬぬぬぬとうめき声が聞こえた。

「くっ、あざとい……レニ様の不安を毛皮でいやすなど……。こうして見ると毛皮の色もあざとい……。離れて……、離れてください!」

 サミューちゃんが引き離しにかかる。カリガノちゃんは今度は簡単に私から離れると、にこにこと笑った。

「レニちゃはカリガノに案内役を任せてくれたノ! カリガノがんばるノ!」

「ぐっ……レニ様、大丈夫ですか? さきほど不安があったようですが……」

 サミューちゃんはそう言うと、私の手を取り、目を和らげた。

「レニ様が気にすることはなにもありません。そもそも、このウサギ獣人はレニ様を襲い、勘違いだったと謝罪しました。そして、欲深い者たちに利用され、村が窮地に陥ったのをレニ様が救った。ウサギ獣人が役立つかはわかりませんが、レニ様はただ、あごでこき使えばいいのです」

 ふんっと鼻を鳴らしたあと、言葉を続ける。

「レニ様と私の二人でも、【変転の砂漠】までは問題なく到着すると思います。が、地形が変わる広大な砂漠で【毒鶏コカトリス】を見つけるのは時間がかかる可能性はたしかにあります。……それならば、いないよりはマシかもしれません」

「うん」

「レニ様のお心のままに」

「れには……、うん。……かりがのちゃんにおねがいする」

 カリガノちゃんを見上げれば、カリガノちゃんはぱぁっと顔を輝かせた。

「任せてなノ! カリガノのお役立ち具合をたくさん見せるノ!」

 サミューちゃんはその笑顔にすごく嫌な顔をしながら、ビシッと指差した。

「レニ様のお体への接触は最小限に。近づかない、触らない、毛皮で誘惑しない。せいぜいレニ様のためにしっかり働いてください」

「レニちゃ、カリガノ、がんばるノ!」

 カリガノちゃんはそう言うと、サミューちゃんの脇をかいくぐり、私をぎゅっと抱きしめる。

 サミューちゃんはそれを止めようと必死だ。

「全然聞いてないではないですか! 今、今まさにそれを注意していますが!?

「レニちゃ~♪」

「あ、また、この……っくっ」

 サミューちゃんがカリガノちゃんを引きがそうとがんばっている。

 ムートちゃんはそれを見て、うむうむと頷いた。

「獣人は能力が高い。余も安心じゃ」

「むーとちゃん、ありがとう」

「ん? まだ礼は早いぞ! なにも起こらず幼いエルフの体が安定したときにはまた会いに来る。そのときにな」

「うん」

 そうして、ムートちゃんと別れ、新しくカリガノちゃんと旅をすることになった。

 というわけで。

「しゅっぱつ!」

 いざ、【変転の砂漠】へ!


        


 翌朝、村人に挨拶をして出発した。

 私とサミューちゃん、新たに加わったカリガノちゃんと跳びながら移動していく。

 私は【猫の手グローブ】を装着しており、徒歩でのゆっくり旅ではなく、急ぎ旅だ。

 カリガノちゃんはさすが獣人。アイテムを装備した私、【魔力操作】をしたサミューちゃんのスピードに問題なく合わせてくれた。

 途中の街や村で宿泊をしながら五日。ついに私の目の前に──

「ふわぁ……!

 ──【変転の砂漠】!

 砂、砂、砂……! 全部砂! 目に見えるすべてが赤茶色のさらさらの砂……!

 近づくごとに、空気の乾燥は感じていたが、木が生え、地面は固かった。でも、今、私の見ている景色はすべてが細かい粒子の砂でできている。

 転生前に映像で見たことがある砂漠との違いはその色だろうか。黄土色のような砂をよく見たが、ここはかなり赤みが強い。

「あ、ここ、さかいめ?」

 そして、思ったよりもはっきりと境目がわかった。

 イメージではだんだんと砂漠になっていくのかなぁ? と思っていたが、ここは突然、砂地になっている。

 私がそれを気にしていると、サミューちゃんも興味深そうに頷いた。

「【変転の砂漠】は私も初めて来ましたが、こんなにはっきりと境目がわかるのですね」

「そうなノ! 砂漠は【毒鶏コカトリス】の歩いた跡なノ!」

「こかとりすの?」

 カリガノちゃんの言葉に、はてと首をかしげる。

 カリガノちゃんは「うん」と頷くと、話を続けた。

「ニワトリが瘴気をまとっているのは伝えたノ。その瘴気は触れると草木を枯らしてしまうノ。ここは乾燥した土地だから、一度、草木が無くなると砂漠になっちゃうノ。一か所にいればいいのに、ニワトリがウロウロするから砂漠が広がっちゃうノ」

「そうなんだ」

「過去にこの境目までニワトリの瘴気が来たってことなノ。ニワトリが去れば、草木もまたゆっくりと戻っていくノ。カリガノの村もときどき植樹して砂漠が広がらないようにはしてるノ!」

 カリガノちゃんの話に、なるほどと頷く。

 【毒鶏コカトリス】の毒の瘴気はかなり強力なようだ。ムートちゃんが言っていただけはある。

「ニワトリの毒の匂いで居場所はわかるノ。でも、それだけなノ……」

「瘴気は生物にとって毒。それをまとっている【毒鶏コカトリス】には、一定以上は近づけない、と」

 カリガノちゃんとサミューちゃんが、なにかを考えるように砂漠の奥を見つめる。

 カリガノちゃんはすでに【毒鶏コカトリス】の居場所がわかっているのだろう。だが、近づけなければ倒すこともできない。

 【水蛇ナーガ】と同じように、体内に秘宝を持っているとすると、【猫の爪】で遠くから吹き飛ばすというわけにもいかないのだ。

 ムートちゃんの言う通り、たしかに難敵である。

 が──

「れに、こかとりすにちかづける」

「ふぇ!?

 私が自信満々に言うと、カリガノちゃんが驚いたように声をあげた。

「でも、危ないノ! 瘴気を吸ったら、生き物は倒れてしまうノ。すぐに毒消しをしないといけないノ!」

「うん。でも、れに、どくにならないから」

「そうなノ!?

 私の言葉にカリガノちゃんがぱちぱちと目を瞬く。

 すると、サミューちゃんは「なるほど」と頷いた。

「レニ様には特別なアイテムがあるからですね」

「あのね、むーとちゃんがくれた」

「ドラゴンがですか?」

「うん。これ」

 サミューちゃんの言う通り、私が【毒鶏コカトリス】の瘴気にひるまない理由は『特別なアイテム』があるからだ。

 そして、そのアイテムとは──

げきりんですか?」

 ──【世界礎の黒竜ブラックバハムートドラゴンの逆鱗】。

 ポケットから取り出した、てのひら大のそれ。光を反射し、黒くきらきらと光っている。

 そのアイテムのステータスを見てみると、こんな効果がついていた。


・全状態異常無効

・常時体力回復

・魔力異常感知


 かなりのチートなアクセサリーアイテム!

「これ、じょうたいいじょう、ならない」

「そ、そんなすごい効果のアイテムがあるノ!? じゃあこれを持ったレニちゃはニワトリの瘴気は効かないノ!?

「うん」

 【毒鶏コカトリス】のことを知っていたムートちゃんがくれた逆鱗。この【全状態異常無効】の効果が役に立つはずだ。

 きっと私が【毒鶏コカトリス】に対処できるようにくれたのだろう。だれかに肩入れしないなんて言っていたけど、ムートちゃんはいつも優しいと思う。

「それならばレニ様は【毒鶏コカトリス】に近づいても大丈夫かもしれません。腐っても【世界礎の黒竜ブラックバハムートドラゴン】のうろこですし……。すこしだけ瘴気に触れ、問題ないようであれば、【毒鶏コカトリス】に接近すればいいですね」

「うん」

「レニちゃはすごいノ! ……あ、でもそれだと、カリガノはレニちゃを助けられないノ。なにかあったときのために、一緒にいたかったノ」

「そうですね。レニ様であればお一人でも【毒鶏コカトリス】を倒すことはできるのでしょうが、できればそばでその勇姿を目に焼きつけたい……!」

 そう。この方法だと、私しか【毒鶏コカトリス】に近づけない。だが──

「いいほうほう、ある」

 二人を安心させるように、しっかりと頷く。

 私は一つ思いついたのだ。

 【毒鶏コカトリス】の瘴気を無効にするのが【状態異常無効】だとするならば、使える方法があるのだ。ふふっと笑う。

「れににおまかせあれ!」

 ということで。

 【変転の砂漠】に入り、カリガノちゃんの案内で【毒鶏コカトリス】へ向かっていく。

 が、すぐに問題が起きて……。

「レニ様! 砂嵐です!」

「ふわぁ……! かぜ、つよいね」

「わ、忘れてたノ……! 砂漠はすぐ砂嵐が来るノ!」

「忘れてたじゃないでしょう!? なんのための案内なのですか!」

「ごめんなさいなノ、ごめんなさいなノー!」

 赤茶色の砂が強風により吹き上げられていく。

 砂漠を抜ける風は猛烈で、私の体は吹き飛ばされそうだ。

 サミューちゃんはそんな私の体を抱き上げ、抱え込むようにして、必死に風から守ってくれている。カリガノちゃんは「ひゃー!」と言いながら、困ったように飛び跳ねていた。

 このまま砂嵐に巻き込まれてしまうと、さすがに苦しくなりそうだ。

「あいてむぼっくす」

 現れた表示から、お目当てのものを探す。それは

「──てんと!」

 ──テント(特上)!

 私の言葉と同時に、砂漠にボンッとテントが立つ。

 何本かの木の支柱がえんすい形に組まれ、そこに白い布地がかけられている。いわゆるティピーと呼ばれる形のテントだ。

「ふぇええ!?

「こ、これは……レニ様ですか!?

 強風に吹かれながら、二人の驚いた声が響く。

 私はサミューちゃんの肩をとんとんとたたき、テントへと促す。

「てんと、とばされない」

「は、はい!」

「かりがのちゃんもなかに」

「わかったなノ!」

 私の言葉を受けて、二人が急いでテントへと入っていく。

 テントの中はそんなに広くはないけれど、三人なら足を伸ばせて眠れるぐらいの面積はあった。

 とりあえず、三人で中央付近に座る。

 強風が吹きつけている音はするが、天幕が揺れることや、支柱が倒れることは一切なかった。

「さすがレニ様のアイテム……。あの強風でもびくともしないなんて……」

「なんでなノ? 不思議なノ。もし、カリガノが急いで木と布で同じ形のテントを作ってもすぐに飛ばされちゃうノ!」

 二人の言葉にふふっと笑う。

 アイテムの中にも格がある。やはり(特上)は違うのだ。

「すなあらし、おおいの?」

「あ、そうなノ。カリガノ、うっかりしてたノ。【変転の砂漠】はこうやってすぐに砂嵐が起こるノ。でも、すぐに収まるノ」

 なるほど。どうやら長い時間ではないらしい。

「たしかに。もう風はやんでいますね」

 外の音を聞いていたサミューちゃんがそうつぶやいて、立ち上がった。そして、テントから外をのぞく。

「どうやら砂嵐は消えたようです。レニ様、こちらへ」

「うん」

 サミューちゃんと手をつなぎ、外へと出る。

 すると、景色は一変していた。

「ふわぁ……。あっちにあった、さきゅう、なくなってる……」

 テントに入る前まで、遠くに二つの砂丘が見えていたのだ。が、それがきれいになくなっている。代わりに……。

「レニ様、あちらに砂丘が三つできているようです」

「ふわぁ……」

 サミューちゃんの言葉に右側へと目を向ければ、なかったはずの砂丘が三つになっている!

「これが……まっぷがかわるりゆう……」

 ゲーム内で起こっていたことに、胸がドキドキと高鳴ってくる。

 すごい! そうだったんだ……!

 ゲームではマップを出入りする度に地形が変わっていた【変転の砂漠】。実際にどうしてそれが起こるのかが知りたかった。

 自分の目で見たくて。

 自分の耳で聴いて、自分の手で触って、空気を感じて。

 そして今、砂嵐が去ったあとの世界は日を浴びてキラキラと光っていて……。

「きれい……」

 マップが変わるのは、砂漠を吹き抜けていく強風のせい。

 一面の赤茶色の砂が、強風で飛ばされると、砂丘一つぐらいなら簡単に場所を変えてしまうのだ。

「砂嵐も厄介ですが、こんなに簡単に地形が変わってしまっては、迷ってしまいますね……」

「そうなノ。カリガノは獣人だから、砂嵐で地形が変わっても、風の匂いでだいたいの方向はわかるノ。でも、普通の人間はすぐに迷子になるノ。何人も行方不明なノ」

 カリガノちゃんもテントから出てきて、辺りを見ている。

 たしかに、そもそもこの砂漠には目印にできるようなものがない。

 どこを見ても赤茶色の砂しかなく、砂丘の場所や形を目印に移動していると、それが砂嵐で飛ばされてしまえば、簡単に迷子になってしまうだろう。

「かりがのちゃん、まだ、こかとりすのばしょ、わかる?」

「わかるノ! 砂嵐だと風は混ざって難しくなるけど、やり過ごせれば、また匂いを追えるノ!」

「うん。じゃあ、しゅっぱつしよう」

 そうして、また砂漠を進んでいく。

 ある程度、離れるとテントは自然に消えた。それを見てまたカリガノちゃんが「ええ!?」と驚いた悲鳴をあげていたが。

 【テント(特上)】は消耗品だから仕方がない。

 カリガノちゃんの案内で【毒鶏コカトリス】へ近づいていく。途中で何度か砂嵐にあったので、それはテントでしのいだ。


 そして──

「ここからなノ! レニちゃ、気をつけてなノ。その空気が濁っているところから瘴気なノ!」

「うん。ちょっとさわってみる」

「ゆっくり、慎重に」

「うん」

 ──赤茶色の砂漠に、突然、紫と緑を混ぜ合わせたような濁った空気が出現した。

 どうやらそれは半径百メートルぐらいを覆っており、その中心に【毒鶏コカトリス】がいるようだ。

 サミューちゃんとカリガノちゃんの言葉を受け、その濁った空気にすこしだけ、猫の手の爪を当てる。

「……なんともない」

「さすがレニちゃなの……! 普通の人間ならそれだけで、気持ち悪くなって倒れちゃうノ!」

「かなり濃度の高い瘴気です」

 二人の声を聴きながら、すこしずつ瘴気の中に体を進めていく。

 そして、全身を濁った空気へ入れても、私の体はなんともない!

「だいじょうぶ」

 空気が濁っているから、二人の姿はかすんでいる。でも、声は聞こえるはずなので、大きな声を出せば、すぐに二人から声が返ってきた。

「レニ様! くれぐれもお気をつけてください!」

「レニちゃ! 瘴気がなくなったら、すぐに行くノ!」

「うん。いってくるね」

 二人には、もし【毒鶏コカトリス】の瘴気に当たりそうになったら逃げるように伝えてある。

 なので、まずは瘴気をなくすところから。

 方法は──ある。あとは、下準備だ!

「つるはし!」

 ──砂漠に穴を掘ります!

 瘴気の中に入った私は、【つるはし(特上)】を持ち、中心部へと向かっていった。【隠者のローブ】のフードをかぶっているため、気配が察知されることもないだろう。

 瘴気は濁っていて、先は見通せない。

 中心部に近づきすぎて、気づかれては困るので、そこそこのところで足をとめ、穴掘りを開始する。

 カリガノちゃんの話では、【毒鶏コカトリス】は一戸建ての家と同じぐらいのサイズらしい。

 その大きな体がしっかり埋まるぐらいが目標だ。つるはしを砂に刺すと、ポコンポコンと真四角に削れていく。普通なら、砂漠の砂をいくら掘っても、またすぐに埋まるのだろうが、さすが【つるはし(特上)】。しっかりと掘れていく上に、崩れることもない。

 ちょうちょうのシュルテムの屋敷に向かうときも、こうして地下道を掘ったなぁと懐かしく思い出す。

「ふかさ、よし。おおきさ、よし」

 穴の底から空を見上げて、指差し確認。

 これならば、【毒鶏コカトリス】の体はすっかり収まるだろう。

 というわけで、ピョンと穴から跳び出し、今度こそ瘴気の中心に向かう。瘴気のせいで視界は悪い。が、それはだんだんと姿を現し──

「ふわぁあ……! これが……こかとりす……」

 ──紫色の羽毛と真っ赤なトサカ。うしろ脚のあたりから緑の鱗へと変わり、長い尾が伸びている。

 大きさは体高十メートルぐらいだろうか。なんといか、恐竜がいたらこんな感じなんだろうなと思う。

 今は眠っているようで、脚を折り畳み、地面の上にうずくまっている。

 私は【毒鶏コカトリス】のそばまで歩み寄ると、そこでぱっとフードを脱いだ。

「こかとりす」

 私の言葉にハッとしたように【毒鶏コカトリス】が目を開ける。赤い目は私を見つけるとギラッと光った。そして、素早く立ち上がると私に向かって、うしろ脚の鋭いかぎづめを伸ばす。なるほど、キックだね。

「あたらないよ」

 私はそれをピョンとうしろに跳んでかわす。【毒鶏コカトリス】はまさか私がけるとは思っていなかったようで、一瞬、目を大きく開く。そして、羽毛を逆立たせて頭を低く下げた。

 【毒鶏コカトリス】のうしろ脚を見れば、ぐっと砂を踏みしめているようだ。これは……。

「とっしん」

 【毒鶏コカトリス】の動きがわかっていた私は、大きく右へ跳んだ。【毒鶏コカトリス】は元の私がいた位置へまっすぐと走ると、グサッと鋭いくちばしを突き刺した。突進とついばみを組み合わせている感じかな。

 小回りが利くタイプではないようで、私の【飛翔ジャンプ】にはついてこられないようだ。

 そして、この攻撃であれば、私の思惑が活きるはず!

「どこみてるの? こっちだよ」

 【水蛇ナーガ】でわかったことだけど、魔物の中には人間の言葉を理解しているものがいる。キャリエスちゃんを襲ったアースドラゴンもガイラルの言葉をわかっていたようだし。

 なので、それと同じぐらい強いと思われる【毒鶏コカトリス】も私の言葉がわかるはずだ。

 つまり、こうして挑発すれば……。

『グゥェッ!

 赤い目が、さらに強くギラギラと光った。

 うん、怒っている。いきなり現れた私に眠りを邪魔され、こんなことを言われれば、それは怒るよね。

 【毒鶏コカトリス】はまた頭を低くし、うしろ脚に力を入れた。今度はザッザッとうしろ脚で砂をかき、より力強く突進できるように、力を溜めているようだ。

 じっと私を見据え、狙いを定めている。そして──

『グェェエエ!!

 ほうこうとともに、私へ向かって突進。

 力を溜めていただけあって、一度目よりもスピードが速い。そしてそれだけでなく、体から一気に瘴気が吹き上がった。

 きっと、瘴気で体が動けなくなった敵を、突進で吹き飛ばしていくのが【毒鶏コカトリス】の戦闘スタイルなのだろう。

 だが、私には瘴気は効かない。さらに、突進もまっすぐに向かってくるだけならば、私は跳んで躱せばいいのだ。

 いつだって避けることができる。

 だからこそ、私は【毒鶏コカトリス】の突進が当たるぎりぎりまでその場で待った。

 ──当たる。

 【毒鶏コカトリス】はそう思ったのだろう。瘴気により動けなくなった私はそのまま的となる、と。

 赤い目が勝利を前に笑みの形に細まった。だが、甘い!

「じゃんぷ!」

 私は【毒鶏コカトリス】を十分にひきつけたあと、うしろへ跳んだ。

 すると──

『クェ?』

 ──勢いづいた【毒鶏コカトリス】は、ぽかんとした顔をして、穴の中へ落ちていった。

「ここ!」

 【毒鶏コカトリス】が落ちたのは、もちろん、私が掘った穴。私はふちのぎりぎりに立ち、【毒鶏コカトリス】を誘っていたのだ。

 反対側の淵へと跳び移った形になった私は、そのまま【毒鶏コカトリス】を指差す。穴に落ちただけでは【毒鶏コカトリス】は脱出できてしまう。なので……!

「すな! すな、すな、すなすな、すな!」

 ちょうど【毒鶏コカトリス】の首のあたりを目掛けて、アイテムボックスからどんどんと砂を出していく。すると、四角く切り取られた砂が【毒鶏コカトリス】の頭と、首から下を分けるような形でパパパパパッと置かれていった。

 まさか砂漠の真ん中に穴があり、しかもそこに落ちるなんて思っていなかった【毒鶏コカトリス】はぼうぜんとしている。

 自分の首まわりが窮屈になってきたところで、ハッと気づいたようだった。だがもう遅い!

『グェ……! グエエエェエエ!!

 【毒鶏コカトリス】は穴から脱出しようと、その大きな翼をはためかせようとしたようだ。しかし、すでに首から下は砂に埋まってしまっている。

 なんとか脱出しようとした【毒鶏コカトリス】は咆哮をあげ、頭をぐいぐいと動かす。きっと埋まっている首から下も羽ばたいたり、蹴ったりと暴れているはず。しかし……。

『クェ……。クゥ……』

 暴れても無意味。むしろ、あり地獄のようなそこは、暴れれば暴れるほど、より砂に埋まってしまうのだ。それを察したようで【毒鶏コカトリス】は咆哮をやめ、しょんぼりと首を垂れた。

「ほかく、よし!」

 完璧……! 完璧な捕獲大作戦だった……!

 我ながらうまくいったことに、思わず「ふわぁあ!」と声が出る。

 やはり大型モンスターの捕獲は、わなを作り、めて捕まえるのが王道!

 瘴気をまとい、周囲にき散らす【毒鶏コカトリス】は普通に戦っていたら、瘴気の被害が多くなってしまう。そこで、こうやって罠に嵌めて、動きを止めることにしたのだ。

 ゲーム内でも大型モンスターを倒すのに、罠を作ることがあった。【建築】を駆使して、その魔物専用の罠を作る情報がネットに流れていたなぁ。

 なんにしろ、これで【毒鶏コカトリス】は動けず、逃げることもできない。

 そして、まだ、私には秘策がある!

 このままでは、サミューちゃんとカリガノちゃんはここに来ることはできない。瘴気が濃すぎるのだ。

「しょうき、なくす」

 【毒鶏コカトリス】を捕まえたら、あとはこの瘴気を消す。瘴気を消せば、サミューちゃんやカリガノちゃんも近づくことができるだろう。

 その方法は──

「かいふくやく、しゃわー!」

 ──【回復薬(神)】を【毒鶏コカトリス】の体にふりかける!

 【回復薬(神)】はすべての状態異常を治療してくれる。そして、状態異常無効の逆鱗を持つ私に、【毒鶏コカトリス】の瘴気は効かなかった。

 つまり、瘴気とは状態異常であり、それを体から放っている【毒鶏コカトリス】自身に【回復薬(神)】を使えば、瘴気が消えるのではないかと考えたのだ。

 【毒鶏コカトリス】は体が大きいから一本では足りない。なのでどんどん振りかけていった。そうすると、きらきらきら。世界が輝いていく。

 瘴気が光の粒へと変わっていった。

 そして、【毒鶏コカトリス】自身も輝き始める。紫色の羽毛は変化して──


「す、すごいノ! 瘴気がなくなったノ……! それにニワトリがすっごくキラキラしているノ……!」

「さすがレニ様です。強い効能の回復薬をお持ちだと知ってはいましたが、それをこのように使うことができるなんて……。機転がすばらしいのはもちろんのこと、それを可能にしてしまう実行力」

「そんな回復薬があるのがすごいノ! しかもニワトリに振りかけることができるぐらい大量にあるノ! レニちゃはすごすぎるノ……!」

 ──真っ白な羽毛。血色のいいトサカ。くりっとしたかわいい目。

 【回復薬(神)】を振りかけられたことによって、ステータスの【瘴気】がなくなってしまったであろう【毒鶏コカトリス】は、体を砂に埋められたまま、『コケ?』と首を傾げた。

 うん。これはもう、見た目、大きなニワトリ。

 瘴気がなくなった瞬間、すぐに来てくれたサミューちゃんとカリガノちゃんがその姿を見て、驚いたように目を見開く。

 私はふふっと笑った。

「あとは、ひほうだね」

 捕まえて、瘴気は消した。

 【回復薬(神)】の効き目がどれだけもつかはわからないし、いずれ【毒鶏コカトリス】はまた瘴気を出すかもしれないが、今はこれで秘宝を手に入れられるはずだ。

「【水蛇ナーガ】のときは、体内にありました。同じと考えるならば、【毒鶏コカトリス】も体内に秘宝があるのでしょう」

「はなしたら、だしてくれるかな?」

 【水蛇ナーガ】はムートちゃんが指示したら、自分から吐き出してくれた。

 ので、それを期待し、話しかけてみる。

「こかとりす、ひほう、だして?」

『……コケッ!』

 私の言葉に、【毒鶏コカトリス】はフンッ! という感じで顔を背けた。首まで砂に埋まっているのに強気である。

 瞬間、隣からビリビリビリッと殺気が……。

「射殺しましょう」

 サミューちゃんは端的にそう言うと、弓を構え、矢をつがえた。

 もちろん、みどりいろの目がキラッと光っている。魔力込みの矢だ。

「レニ様のお願いを断るなど、万死に値します。世界に存在している矢という矢を、すべて撃ち込みましょう」

 いけない。【毒鶏コカトリス】がハリセンボンになってしまう。

「さみゅーちゃん、まって」

 慌てて、膝に抱きつけば、サミューちゃんは白目になり、力を失った。よし。

「レニちゃ、ニワトリからなにか欲しいノ?」

「れに、あいてむがほしい。こかとりすのたいないにあるとおもう」

「ニワトリが体に隠し持っているアイテムがあって、それを取り出せばいいノ? レニちゃ、ニワトリを生かしたままでそれが欲しいノ?」

「うん」

「それならカリガノに任せてなノ! カリガノ、村ではよくニワトリを解体したノ! 体は大きくても構造は同じだと思うノ。ニワトリは消化を助けるために胃のあたりに岩をみ込んで溜めるところがあるノ。そこにあると思うノ!」

 カリガノちゃんの言葉に「なるほど」と頷く。

 たぶん、それは砂肝とか砂ずりって呼ばれている部位のことだよね。たしかにそこにありそうだ。

「レニちゃ、砂を部分的に取り除くことできたり……するノ?」

「できる」

 カリガノちゃんの言葉に自信満々に頷く。すると、カリガノちゃんは「ふぇぇ」と声をあげた。

「す、すごいノ……。言ってみただけだったのに、本当にできるなんてすごいノ! じゃあ、ちょうど首の下、胸のあたりの砂をなくしてほしいノ!」

「わかった」

 カリガノちゃんの指示通りに、そこを【つるはし(特上)】で掘る。あまり大きく掘ると【毒鶏コカトリス】が逃げ出せてしまうため慎重に。

 そして、うまく空間ができると、カリガノちゃんはそこへと降りた。そして──

「砂肝はここなノ!」

 ──ローリングソバット……!

 くるんと横に回転しながら、思いっきり足底で【毒鶏コカトリス】の首と胸の境目あたりを蹴り飛ばした。

 バコォッ! という大きな音。衝撃は強かったようで、蹴られた場所は大きくへこんでいる。

 ……すごい。強い。身体能力が高い……。

 ピンクの髪にまんまるの同色の目。ふわふわの長い耳を持つカリガノちゃんから、こんなすごい技が出るとは……。

 蹴られた【毒鶏コカトリス】は、うぐっと息を止めている。けれど、耐えきれなかったようで……。

『オェエエエエッ』

 空に向かって、盛大に吐く。

 ……うん。ここはモザイク処理が必要な感じ。

「レニ様っ」

 なにかの気配を察したのか、白目から戻ったサミューちゃんが私を抱き上げ、その場から飛ぶ。

 すると、ちょうどそこにボタボタボタッと【毒鶏コカトリス】の吐いたものが落下した。

「ウサギ獣人! なにをしているのです!? レニ様が今、非常に危険でしたが!?

「ご、ごめんなさいなノ~! まさかそっちに向かって吐くなんて思わなかったノ! レニちゃ大丈夫なノ!?

「だいじょうぶ」

 穴からピョンと出てきたカリガノちゃんの焦り顔に、頷いて返す。

 サミューちゃんは私を地面に下ろすと、【毒鶏コカトリス】が吐いたものへと近づいていった。そして、二本の矢を器用に使い、なにかをつかみ上げた。

「レニ様、ありました! これが秘宝だと思われます! レニ様の回復薬の効果のためか瘴気はありませんが……」

 サミューちゃんが言葉を濁す。すると、カリガノちゃんが「はいはーい!」と手を挙げた。

「それならカリガノがお役に立てるノ! あっちから水の匂いがするノ。きっとオアシスがあるノ」

「それならば、そこで洗いましょう」

「うん。こかとりす、だすね」

 砂に埋まったままの【毒鶏コカトリス】を見つめる。

 すでに目に光はなく、うつろだ。戦意をなくしているため、砂をとっても問題ないだろう。

 【つるはし(特上)】で砂をポコポコ削っていく。ある程度までいくと、【毒鶏コカトリス】はバサァと羽ばたき、そのまま地上へと跳び上がった。そして、そのままドドドドドッと砂煙を立てて走り去っていく。

「ばいばい」

 【毒鶏コカトリス】は一刻も早く離れたいようで、一度も振り向かずに去っていた。


 その背中を見送ったあと、カリガノちゃんの案内でオアシスへ向かう。サミューちゃんは湧き出ていた泉でジャブジャブと秘宝を洗った。

 そして……。

「レニ様、こちらです」

「きれい……」

 サミューちゃんに渡されたのは、虹色に輝くまがたまだった。

 大きさはみかんぐらい。不思議な材質でできたそれは、光の当たる角度で色を変える。

 アイテムボックスを確認すれば、そこにはこう表示されていた。


・【毒鶏コカトリスの勾玉】

・【世界礎の黒竜ブラックバハムートドラゴン】の秘宝の一つ。【世界礎の黒竜ブラックバハムートドラゴン】が眠りに落ちるとき、世界の危機を救うために創り出された。

・常時:全属性攻撃+%、環境変化耐性+

・使用時:呪文により任意の相手に、属性の弱点を付与する


「ふわああ……!」

 こ、これは属性チートアクセサリー……! 属性攻撃がすごく強くなるため、ボス戦などで非常に役立つアイテムだ。

 だが、ボスというのは強くなればなるほど、属性攻撃が効かなくなってくる。属性の弱点がなくなることが多い。結局は無属性が強かったり、属性に左右されない武器の使い勝手がよくなったりするのだ。

 しかし、このアクセサリーは相手に属性の弱点が付与できてしまうようだ……。相手に弱点を付与し、そこを属性攻撃+%で攻撃をする。まさにチート!

「レニ様、どうですか? お体のほうは……」

 アイテムの効果で喜んでいると、サミューちゃんが心配そうに私を見つめてくる。

 そう。秘宝は私が【魔力暴走】を起こしにくくするために、探していたのだ。

 ムートちゃんの言う通りなら、これを装備すれば、私が成長するまでの間、助けになってくれるのだと思うが……。

「あ、からだ、かるい!」

 【水蛇ナーガの短剣】を装備したときと同じように、これまでより体が軽くなったのを感じた。

 【猫耳グローブ】と【はねうさぎのブーツ】を外し、その場でぴょんと跳ねてみる。

 うん! やっぱり体が軽い!

 たぶん、『環境変化耐性』が上がったのがよかったのだろう。

「さみゅーちゃん、みて! れに、まえより、たかくとべる!」

「はい! これはもう、空を駆けています!」

「カリガノも一緒に跳ぶノ!」

 私がぴょんぴょんしていると、カリガノちゃんも隣でピョンピョンと跳ねる。

 カリガノちゃんのほうが全然高く跳べているけど、サミューちゃんは私を見て、すごく喜んでくれた。

「じゃあ、つぎでさいご!」

 ──三つ目の秘宝を手に入れます!


        


 ついに、ムートちゃんの秘宝も最後の一つになった。

 ムートちゃんが残してくれた情報によると、最後は【透写の森】にあるらしい。

 どんな敵が最後の秘宝を持っているのか、それは教えてくれなかった。でも、私には心当たりがあって……。

「たぶん、どっぺるげんがーがいる」

 木々が光を浴びて、きらきらと光る。でも、それは普通の緑色じゃない。木の幹も葉もクリスタルみたいに輝いている。すごくきれいだ。

 【変転の砂漠】を離れ、西へ進むこと四日。私たちは【透写の森】へとたどり着いていた。

 カリガノちゃんも一緒である。砂漠の案内は終わったけれど、ともに行くということでここまで来てくれた。……サミューちゃんは何度も追い払っていたけれど。

 宝石みたいに光る森に入る前に、私たちは話し合っていた。

「なるほど。【影法師ドッペルゲンガー】ですね。聞いたことはあります」

「カリガノも知っているノ! この森にんでいて、入ってきた人を迷わせるって聞いたことがあるノ。攻撃したり、敵対したりするわけじゃなく、ただ悪戯いたずらしているんだってカリガノの村の長老は言っていたノ!」

 カリガノちゃんの言葉に「ふむ」と考える。

 【水蛇ナーガ】や【毒鶏コカトリス】と違い、【影法師ドッペルゲンガー】はゲーム内にいる魔物だった。

 【透写の森】を抜けた先に【水晶の城】があり、ストーリー進行上、進む必要がある。【透写の森】のボスとしていたのが【影法師ドッペルゲンガー】だ。

 敵として現れる【影法師ドッペルゲンガー】はこちらの姿を写し、能力もまったく同じとなる。レベルを上げれば倒せるというものではなく、レベルを上げれば、上げるほど【影法師ドッペルゲンガー】も強くなるのだ。

「どっぺるげんがー、こっちのまね、してくる」

「真似、ですか?」

「うん。すがたがいっしょになる。ちからも」

「ええ!? 悪戯ってそういうことなノ? カリガノが二人になるノ? カリガノが二人になったら、どっちのカリガノが勝つかわからないノ!」

 カリガノちゃんが「困ったノ!」と言いながら、むーんと考え込む。

 そう。同じ能力の相手にどうやって勝つのか。それが問題なのだ。

「どっぺるげんがーにあえたら、まず、はなしをする」

「そうですね。こちらの話を聞くかはわかりませんが、秘宝を出すように言って、魔物自身に差し出させるのが一番です」

「【影法師ドッペルゲンガー】はすぐに敵対する魔物じゃないノ。話せばわかってくれるかもしれないノ」

「でも、もし、だめだったら……、たおす」

 【水蛇ナーガ】も【毒鶏コカトリス】も、戦いのあと、勝ってからアイテムを手に入れた。

 やっぱり、ボスが持つアイテムは、ボスを倒して手に入れたい!

 だが、どうやって倒すのか。

「あいてむ、いっぱいつかう」

 ──大量のアイテム使用による、物資制圧!

「レニ様のアイテム……! それはたしかに【影法師ドッペルゲンガー】には真似できず、非常に強力です……!」

「レニちゃのアイテム! テントもつるはしも回復薬もすごかったノ。【影法師ドッペルゲンガー】は姿と能力は真似できるけど、持ち物までは、真似できないノ!」

 私の言葉に、サミューちゃんとカリガノちゃんが、興奮したように頬を朱に染める。私はそれにふふっと笑った。

 ……二人とも信じてくれている。

 【影法師ドッペルゲンガー】が出てきて、それぞれの姿、能力を真似してきたとしても。話して秘宝を出してもらうことがうまくいかなかったとしても。

 ──私たちなら絶対に勝てる!

「だれのすがたになっても、だいじょうぶ。れに、あいてむつかう」

「はい! それならば私も大丈夫です! もしレニ様の姿になっても、私は絶対に間違えません」

「カリガノは鼻がいいから、匂いでわかると思うノ!」

 みんなで視線を合わせて、「よし!」と頷き合う。

 しかし、サミューちゃんはカリガノちゃんと視線が合いそうになると、ふいっと逸らした。

「ウサギ獣人が二人になったら、どちらも倒せば問題ありませんね」

「なんでなノ!? ちゃんと見分けてなノ!」

 サミューちゃんの言葉にカリガノちゃんが頬を膨らませる。

 そうして、【透写の森】に三人で入った。奥へ奥へと進んでいく。

 きらきらと光る木々にウキウキと心が弾み、これから出会う【影法師ドッペルゲンガー】にもワクワクする。

「たのしいね」

 ムートちゃんの助言を受け、【魔力暴走】を抑えるために始まった、宝探し。

 ゲームで見たかった景色を実際に五感で確かめることができた。

 ……よかったなって本当に思う。

 父と母と暮らして。サミューちゃんと一緒に旅に出て。キャリエスちゃんとピオちゃんに出会って。エルフの森で女王のハサノちゃんに会って。ムートちゃんとカリガノちゃんと旅をできて。

 胸の中にはほわほわと温かさが漂って、気づけば笑顔になってしまう。

 だから……。

 だから、私はきっと、油断をしていたんだと思う。

「レニちゃ! 待ってなノ! なにかいるノ!」

「レニ様、こちらへ!」

 カリガノちゃんがクンクンと鼻を利かせ、森の奥を示す。

 サミューちゃんは警戒して、私を背に隠した。

「ん? もやもやが動いてるノ?」

「これが【影法師ドッペルゲンガー】でしょうか」

 サミューちゃんの背中越しに森の奥を見つめる。

 そこにはちょうど大人一人分ぐらいのなにかがあるようで、不自然に景色がゆがんで、揺れている。透明のなにかがそこにいるような、そんな感じだ。

 すると、歪みがピタッと止まり、光が輝いた。

 まぶしくて目を細めると、歪みが急速に揺れる。そして、ぎゅっと縮んだ。

 【影法師ドッペルゲンガー】が私たち三人のだれかを写し取ったのだろう。透明の歪みだったものはパチンとはじけると、そこから人影が現れる。

 その姿は──

「これは……?」

「ん? だれなノ?」

 サミューちゃんとカリガノちゃんが不思議そうにその人影を見つめる。

 でも、もう、私は二人の様子を気にすることができなくて……。

「あ、れは……」

 声が……震える。心臓がドクドクドクといやな音を立てて、鼓動が速くなっていく。違う、まって……いや、でも、あれは……。

「わ……たし……」

 理解した瞬間、首を絞められたみたいにグウッと喉が締まった。

 現れた人影が……私、だったから。

 日本に住んでいた引きこもり女子高生。黒い髪に黒い目。上下のスウェットはいつも着ていた部屋着だ。

 不安そうに背を丸め、おどおどと視線を泳がせていた。

 そう。あれが私だ。じゃあ、今、ここにいる私は? ……私は?

「レ──」

「──ニちゃ───

 耳鳴りが、する。

 胸が、痛い。

 目の前が……暗い。

 黒い渦がぐるぐる回って、私を呑み込んでいく。